Movie Review 2009
◇Movie Index
ベンジャミン・バトン 数奇な人生('08アメリカ)-Feb 6.2009ヨイ★
[STORY]
1918年、ニューオーリンズ。ある資産家の家に赤ん坊が生まれるが、その老人のような容貌に父親はショックを受け、赤ん坊を養護施設に置き去りにしてしまう。施設を営む黒人夫婦に拾われた赤ん坊はベンジャミンと名付けられる。最初は車椅子だったベンジャミン(ブラッド・ピット)は、成長するにつれて立って歩けるようになり、シワも消え、髪も増え、どんどん若返っていく。そんなある日、ベンジャミンは6歳の少女デイジーと出会う。
監督デヴィッド・フィンチャー(『ゾディアック』
−◇−◇−◇−
原作は『グレート・ギャツビー』の著者で知られるF・スコット・フィッツジェラルドの短編小説。
第81回アカデミー賞で13部門にノミネートし、美術賞、メイクアップ賞、視覚効果賞の3部門を受賞した。

『フォレスト・ガンプ 一期一会』に似た映画だな、と見終わって感じたんだけど、脚本が両作ともエリック・ロスだから似てて当然だった。アカデミー賞ふたたび!という目論見が本人にあったかどうか分かりませんが、審査するほうにはそれが透けて見えてしまったようで見事に受賞を逃しました(苦笑)私は『ガンプ』より感動したんだけどねー。残念でした。

似てるとはいっても『ガンプ』のような大げさな演出はほとんどなく、ベンジャミンはフォレストよりももっと特殊な境遇にあるにもかかわらず、騒がれたりしないし、自ら騒動を巻き起こすこともなく、自分が若返っていくことを受け入れてひっそりと生きていくのが大きな違いだ(フォレストも本人は騒動を起こす気などなくマイペースなんだけど)
各エピソードもほぼ一定のリズムで進んでいく。物語の冒頭で大きな時計が登場するんだけど、この時計のリズムを意識したのかなと思った。早すぎず、遅すぎず、この流れが非常に心地よくて長い映画なのに長さを感じさせない。逆に言うと、流れるように物語が進んでしまうので、ベンジャミンについては強く印象に残るシーンがない。いつのまにか彼の人生が終わってしまった、と感じる人が多いと思う。

『ガンプ』もそうだったけど、裏の主役は主人公の恋人なのだ。『ガンプ』のジェニーはアメリカの負の部分を一身に引き受けたような人生だったが、本作のデイジーも、彼女の人生だけ抜き出してみれば、誰にでも起きうる人生を辿っていく。そしてこの2作で大きく違うのは、女性の、いや母性の強さだ。デイジーの愛、そしてベンジャミンを育てたクイニー(タラジ・P・ヘンソン)の愛情の深さといったら!ラストのほうでクイニーが回想シーンで登場したところで涙がぶわーっと溢れてしまった。
それに比べると父親は腹が据わってない(苦笑)ベンジャミンの父トーマス(ジェイソン・フレミング)も逃げたし、ベンジャミン自身も逃げた。見た目がどんなでも生まれた子を愛するべきだし、生まれた子はどんな親でも親として受け入れるだろうに。ただ、この父子が互いを受け入れたのはよかった。2人で朝日が昇るのを見るシーンで、これで初めて本当に親子になれたんだと感じた。
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そして、私たちは愛に帰る('07ドイツ=トルコ)-Feb 6.2009ヨイ★
[STORY]
ドイツ、ブレーメン。トルコ出身のアリ(トゥンジェル・クルティズ)は、同じトルコ出身の娼婦イェテル(ヌルセル・キョセ)を愛人として家に連れてくる。大学教授の息子ネジャット(バーキ・ダヴラク)はそんな父を軽蔑するが、イェテルからトルコで暮らす大学生の娘アイテン(ヌルギュル・イェシルチャイ)の話を聞き、彼女には好感を持つようになる。
同じ頃、トルコで政治活動をしていたアイテンはドイツに不法入国して母の行方を捜し始める。だが、お金が底をつき、ドイツ人学生のロッテ(パトリシア・ジオクロースカ)に助けられる。だが、ロッテの母スザンヌ(ハンナ・シグラ)は快く思わず、2人と口論になる。
監督&脚本ファティ・アキン(『愛より強く』)
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本作はアキン監督の三部作のうち『愛より強く』に続く第二作なのだそう(見終わってからそれを知ったので、後で未見の『愛より〜』を見るつもり)
2007年第60回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、脚本賞を受賞した。

ドイツのブレーメンとハンブルグ、トルコのイスタンブールを舞台に、3組の親子の関係を描いた作品で、それぞれの話が独立したオムニバス構成なのかと思っていたら、登場人物たちが少しずつ関わりを持つようになっていくという話だった。国家が抱える問題や紛争を扱っているところや、ストーリー構成が『ビフォア・ザ・レイン』に似てるかもしれない(映画の雰囲気は全然違うけど)『ビフォア〜』が大好きな映画なので、この映画もやっぱり私の好みだった。
ちょっと偶然が重なりすぎてない?と感じたところもあったけど、ドイツで暮らすトルコ人同士が知り合いになるのも、トルコにやってきたドイツ人がドイツ語を話せる人を頼りにするのも、どちらもあることだ。そこでこんな出来事が起きてもおかしくないだろう、と思うようになった。それに多少強引でも、そこで描かれている内容に真実味があれば気にならなくなるものだ。

私がこの映画を見ていて一番驚いたのは(ちょっとネタバレ)最後のネジャットと父親の再会を描かなかったところ。(ここまで)並みの映画なら、そこを見せて感動を呼び起こそうとするだろう。泣いて下さい、感動して下さい、って感じで(邦画なんか特にね)うるさいぐらいに見せようとする。でもそれをしなかったことで、かえって親子の絆の重要性を強烈に印象付けた。会いたいと思った時にすぐ会えるわけじゃない、だから顔を合わせている時には親を大事にしなさい、ってあのエンドクレジット中ずっと、言われているような気がした。

余談だけど、ドイツの駅に真っ赤な鳥居があって「なぜ?!」と気になり検索してみたところ、2006年当時、ブレーメン駅の近くにある海外博物館のアジアンウィークを宣伝するための看板だったらしい。でも終わってからもオブジェとして定着してしまっているそう。確かにあの鳥居のおかげで映画の中でも同じ駅だって分かった。あの鳥居が、トルコとドイツを区画する結界か、もしくは2つの国を結ぶ門のような存在という意図は・・・ま、多分ないだろうが(笑)私はあの鳥居が映ったのも偶然じゃない。それぞれの親子を結びつける象徴だったのだと、勝手に思っている(笑)
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マンマ・ミーア!('08イギリス=アメリカ)-Feb 1.2009
[STORY]
ギリシャのカロカイリ島でホテルを営むドナ(メリル・ストリープ)の娘ソフィ(アマンダ・セイフライド)は、恋人スカイとの結婚式を前にある計画を立てていた。それは父親と結婚式のヴァージン・ロードを歩くこと。父親が誰かを知らないソフィは母の昔の日記を読み、父親候補の3人の男性を探し出し、ドナに内緒で結婚式の招待状を送った。そして結婚式前日、3人が島にやってくる。
監督フィリダ・ロイド(舞台版の演出家で映画は長編初監督)
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ABBAのヒット曲で構成された1999年に初演されたミュージカルの映画化。製作・脚本・音楽にABBAのビョルン・ウルヴァースとベニー・アンダーソンが参加。トム・ハンクスとリタ・ウィルソン夫妻も製作に携わっている。

ドラマの主題歌になっていた頃に出た『S.O.S.ベスト・オブ・アバ』を買って聞きまくっていたものの、最近全く聞かなくなり忘れた曲などもあって、予習しないまま映画見ちゃっていいかなーと思いつつも、暇がなくてぶっつけ本番で臨むことになってしまった。案の定、最初にあのイントロを聞いた時に『Gimme! Gimme! Gimme!』じゃなくてマドンナの『Hung Up』を思い浮かべてしまった。ABBAのみなさんごめんなさい。

ミュージカルを見たことがなく、映画でほぼ初めて内容を知ったんだけど、ストーリーはそれほど面白くない。曲やノリを楽しむもので、これは生で見たらすごい楽しいだろうなぁという感じ。映画も勢いとノリを大切にしたようで、映像として見るとちょっと雑だなという印象。人がごちゃごちゃしてて見たい人がちゃんと見れなかったり、長くて飽きたり。これが映画だということをもうちょっと意識して見せてほしかったな。

それにしてもストリープが怖かった。特に鼻の頭を赤くして泣いたシーンではゾワゾワッとしてしまった。歌はけっこう上手いけど・・・なんか、そこまでがんばらなくてもいいのに・・・って引いてしまった。ソフィの親にしては少々歳を取りすぎてるし、ドナの友人役(ジュリー・ウォルターズとクリスティーン・バランスキー)も同じくらいの年齢の女優を持ってこなきゃいけなくなったせいで、3人並ぶとかなりキツイ絵面。男性3人(ピアース・ブロスナン、コリン・ファース、ステラン・スカルスガルド)と並ぶとさらに釣り合いが取れてなくてキツイ。エンディングはバツゲームかと・・・。でも男性3人のABBAファッションはすっごい良かった。この違いはなんだ?!やっぱり自分が女だから同性への目が厳しくなっちゃうのかな。
歌が上手いかどうかはともかく、ミシェル・ファイファーやキム・ベイシンガーあたりの、歳を取ってもセクシーかつチャーミングでスリムな女優さんたちなら、内容にももっとワクワクできただろう。

映画を見終わって家に帰ってから、またABBAのCDを引っ張り出してきて聞いてみた。映画のほうがちょっとテンポが速くて音にも厚みがあるかな。でもやっぱりオリジナルが一番。『Dancing Queen』はやっぱり名曲。バラードじゃないのに聞いてると涙が出てくる。映画でもこの歌を聞いた時はやっぱりちょっとウルッときたな。映画で一番良かった歌はエンドクレジットでセイフライドが歌う『Thank You for the Music』だった。声も歌い方もいい!この歌だけはオリジナルより・・・ちょっと上かも。
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チェ 39歳 別れの手紙('08アメリカ=フランス=スペイン)-Jan 31.2009
[STORY]
1965年。エルネスト・“チェ”・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は姿を消した。キューバの指導者となったカストロは、国民に向けゲバラの“別れの手紙”を公表した。それによるとゲバラはキューバでの地位と市民権を放棄し、自分を必要とする場所に身を投じるというものだった。
1年後の1966年。ゲバラは家族に別れを告げ、変装してボリビアに入国する。ボリビアはバリエントス大統領(ヨアキム・デ・アルメイダ)による独裁政権下にあり、農民たちは苦しんでいた。ゲバラはゲリラ部隊と共に行動を始めるが、理解を得られず窮地に立たされる。
監督&脚本スティーブン・ソダーバーグ(『チェ 29歳の革命』
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第61回カンヌ国際映画祭で公式上映され、デル・トロが男優賞を受賞。二部作の後編で、こちらにはマット・デイモンがドイツ人神父役で1シーンだけ出演している。

前作では革命前と革命後を描いていたが、本作は多少話が前後することはあるもののボリビアに入国してから銃殺されるまでを描いている。もうこれ以上ないくらい淡々と。これだけゲリラ戦を退屈に作れるっていうのも大したもんよ(褒めてるんだかけなしてるんだか)
ぐぐっと引き込まれるのは、チェが変装してボリビアへ渡り、ボリビア共産党のモンヘ(ルー・ダイアモンド・フィリップス)の支持を得られなかったあたりまで。あとの残りの時間はただゲリラ軍がやられていくのを見ていくだけ。これ見ちゃうと、キューバ革命は奇跡だったんじゃないかと思ってしまう。と同時に、これってアメリカ人の戦略にまんまと嵌まってる?とも思った。「キューバみたいなことはもう2度とないぞ!お前らゲバラを崇拝してんじゃないぞ!」って言われてるような・・・そこまでは穿ち過ぎだろうか。

チェはボリビアに渡る前にコンゴで革命を起こそうとしたが失敗し、一度キューバに戻っている。さらにコンゴへ行く前は、キューバ政府内で孤立していたそうだ。彼の理想はあまりに高すぎて、悪く言えば融通がきかない性質だったために、周りとうまくやっていくことができなかったのだろう。それがコンゴやボリビアでの失敗にも繋がったのではないだろうか。キューバではフィデル・カストロがトップにいて(しかも彼はキューバ人だった)チェはナンバー2だったからうまくいった。コンゴやボリビアでも中心となるコンゴ人やボリビア人がいて、ゲバラが補佐に回ればひょっとしたら・・・今更たらればの話をしてもしょうがないんだけど。

さすがにチェがボリビア軍に包囲されて銃殺されるまでのシーンは息が詰まったが、殺されるシーンで視点が変わる演出はどうなのかな。それ以前にも同じ演出があったならまだいいけど、いきなりあそこでとは・・・。それまではチェと一緒に従軍しているようなカメラだったのに。ここだけは納得できない。でもエンドクレジットに音楽をつけず、無音のままクレジットが流れていく様子は、まるで彼に黙祷を捧げているように感じて、これは良かったと思う。

これで青年期(『モーターサイクル・ダイアリーズ』)と革命時から亡くなるまでを見ることができた。あとは大学卒業後からメキシコに移住するまでとか(日本公開されてないだけであるのかな?)あとは日本に来た時の話を誰か作ってくれないかなぁ(笑)これを作れるのは日本人だと思います。
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レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで('08アメリカ)-Jan 25.2009
[STORY]
1950年代のアメリカ、ニューヨーク郊外。フランク(レオナルド・ディカプリオ)とエイプリル(ケイト・ウィンスレット)の夫婦はレボリューショナリー・ロードと呼ばれる郊外の住宅地で、2人の子供とともに暮らしていた。端から見れば幸せそうな一家だったが、エイプリルは今の生活に不満で、フランクに家族でパリに移住しようと持ちかける。
監督サム・メンデス(『アメリカン・ビューティー』
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原作はリチャード・イェーツの小説『家族の終わりに』
第81回アカデミー賞で助演男優賞(マイケル・シャノン)、美術賞、衣装デザイン賞がノミネートした。

本作も『アメリカン・ビューティー』と同じくある一家の崩壊を描いた作品だ。『アメリカン』はイタさが笑えたけど、本作はなんというか・・・イタイことはイタイけど最後は怖くて、まるでホラー映画だった。あそこまで怖く見せる必要ってあったのかな?あの怖さに目を奪われてしまって、あの夫婦は結局どっちもどっちなはずなのに、エイプリルの激しい気性のせいでこうなった、彼女ほうが悪かったみたいに見えてしまった。監督が自分の嫁すごいでしょ!って言いたいのは分かるんだけど(笑)

確かにウィンスレットは熱演してたけど、そんな彼女と共演したレオさんは勢いだけになっちゃって、あの空回り具合が役柄に合っていたとも言えるけど、技量の差が出てしまったと思う。『タイタニック』でも感じたけど、この2人はそんなに相性がいいとは思えないのよね。キャシー・ベイツまで出演させたところが狙いすぎだし。せめてフランク役はもう少し余裕を持って演技ができる人が良かったんじゃないかな。

上に書いたように役者の演技と演出面においてちょっと引っかかる箇所はあったものの、全体的にはスキがないっつーかムダがないっつーか、きっちり作ってあるので気を抜く暇がない。ラストシーンも「上手いなぁ〜」と感心したんだけど、後で確認したら原作の通りだったのね。
それでも小説で書いてあること以上の表現が加えられていて、ギヴィングス(リチャード・イーストン)の表情といい、やはり上手いと言いたい。フランクとエイプリルには共感しずらくとも、ギヴィングスには思いっきり共感してしまう男性陣は多いのではないだろうか。
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