Movie Review 2009
◇Movie Index
エレジー('08アメリカ)-Jan 24.2009
[STORY]
初老の大学教授のデヴィッド・ケペシュ(ベン・キングズレー)は、1度結婚に失敗してからは自由に恋愛を楽しむようになっていた。だがある時、30歳も年下の学生コンスエラ(ペネロペ・クルス)に夢中になってしまう。彼の親友ジョージ(デニス・ホッパー)は別れろと忠告するが、デヴィッドは彼女の過去の男が気になったり、他の若い男と会っているのではないかと疑ったりと嫉妬の感情に振り回されていく。
監督イザベル・コイシェ(『死ぬまでにしたい10のこと』
−◇−◇−◇−
原作はフィリップ・ロスの『ダイング・アニマル』フィリップ・ロスは読んだことがないんだけど、『乳房になった男』や『欲望学教授』もケペシュ教授が主人公らしい。ちなみにロスの『ヒューマン・ステイン』という作品も2003年に映画化(邦題は『白いカラス』)されている。
第58回ベルリン国際映画祭に出品した。

映像が美しいのと主演がキングズレーなせいか、予告では文学的な雰囲気が出ていたけれど、実際は途中まで渡辺淳一原作映画に近かった(笑)ケペシュは遊びのつもりで若い女性を口説いたはずなのに、いつのまにか本気になって若い女の子に入れあげ、若い男に嫉妬丸出しでブザマな醜態を晒しちゃう。そのくせ自分は他の愛人に言い訳しまくりのズルイ奴。普段はしたり顔で高尚なことを語るが、頭の中はエロでいっぱい(笑)という。だが、コンスエラの若さと美貌に触れるたびにケペシュは自分の“老い”を意識せざるを得なくなり、その恐怖が増すたびに文学的な作品らしくなっていく。

中身は昔と全く変わらないのに、肉体はどんどん衰えていく。そこから目を逸らそうとしても、親友ジョージや愛人キャロライン(パトリシア・クラークソン)の衰えた姿を見て、ますます追いつめられていく。やがてケペシュは他人の目を気にしてコンスエラを避けるようになってしまう。
キャロラインがケペシュを誘惑するように服を脱ぐシーンがあるんだけど、いくらセクシーに見せようとしてもコンスエラの張りのある美しい体には敵わない。観客もすでにコンスエラを見てしまっているので、それが残酷なものにしか映らないのだ。女性の観客は特にいたたまれない気持ちになるだろう。全く嫌な演出をするもんだ・・・(一応褒めてます)

1998年のフランス映画『倦怠』も本作と似たようなシチュエーションだった。若い女の子に夢中になって自制がきかなくなった中年男がみっともなく右往左往し、女の子はそんな男の気持ちなど気にも留めず、あっけらかんとしている。そこがめちゃくちゃ面白かったわけだが(鬼)本作は女性が誠実なので男が救われている。病に冒された女性を男性が支えているように見えるんだけど、実は男のほうが支えてもらっている。つらい病気と闘いつつ、男性に寛容な女性の美しさが強調されている。そんなところが女性監督らしいなと思った。
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ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー('08アメリカ)-Jan 18.2009
[STORY]
遥か昔、強欲な人間を倒すためにゴールデン・アーミーという最強の戦士たちが造られた。だが、そのあまりのパワーに妖精の王バロルは後悔し、人間と停戦協定を結んだ。ゴールデン・アーミーに命令を下せる王冠を3つに分け、1つを人間に、そして2つを王が手にした。しかし息子のヌアダ王子(ルーク・ゴス)は密かにゴールデン・アーミーの復活を誓い、現代のニューヨークでオークションに出された王冠の一部を強奪してしまう。
この事件をFBIの超常現象捜査防衛局エージェントのヘルボーイ(ロン・パールマン)と、彼の恋人で同じくエージェントのリズ(セルマ・ブレア)らが捜査するが・・・。
監督&脚本ギレルモ・デル・トロ(『パンズ・ラビリンス』
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2004年に公開された『ヘルボーイ』の続編。元々はマイク・ミニョーラ原作のアメコミ。魔界から召還された悪魔の赤ん坊が人間に育てられ、FBIの超常現象捜査局のエージェントとなり、魔物たちと戦うというストーリー。
私は1作目を劇場で見るのを逃してしまったのでDVDで見た。映像やキャラクターは凝ってて面白いし、教授とヘルボーイへの親子の絆や、ヘルボーイのリズへの愛など、泣いちゃったところもあった。けど、ちょっとテンポが悪くて見てて疲れるなという感想。

本作は原作から離れ、オリジナルストーリーらしいが、前作よりさらに凝った映像でストーリー展開も早く、なかなか見応えがあった。キャラクターの説明をいちいちしなくていいからっていうのもあるかも。今回は人間のために戦っているのに罵倒されるヘルボーイが切なかったり、エイブが恋をするところでホロリとさせられるが(「Can't Smile Without You」がこんなにいい歌だったとは・・・)前作ほど湿っぽくないのが個人的にはちょっと物足りない感じ。

人を襲う虫、ドロドロネチョネチョ、金属がカシャーンカシャーンと組み合わさっていくCG、妙に腕や指の長いクリーチャーなど『ヘルボーイ』以外でのデル・トロ作品でも見たようなものがいっぱいで、好みなのは分かるけどちょっとワンパターンになってきたな、と。違ったデザインも見てみたい。そういえば『もののけ姫』みたいなシーンがあり、この映画も人間の環境破壊がテーマの1つになっていた。私がたままたそういう映画を選んでいるだけかもしれないけど、環境問題を取り上げる映画がやたら目につくなぁ。

前作ではナチスの殺し屋クロエネンがやたらかっこよかったが、本作ではやっぱりヌアダ王子ですね〜萌え。剣を構える姿がサマになっているから、てっきりアクション系俳優が演じているのかと思ったら、元ミュージシャンだったとは。スタントを使ったのか、それとも元々素養のある人なのか。敵役が魅力的だとやっぱり物語が面白くなるね。彼の双子の妹ヌアラ王女(アンナ・ウォルトン)も見た目はコワイけどとても可憐で、彼女を演じた素顔のウォルトンを見てかえってがっかりしたほど(笑)ごめん失礼で。

ラストを見て「あー、これで終わりか」と思っていたら、パート3もあるようで。そうなると今度は・・・えー!一体どうなっちゃうわけー。いや、あのでっかい手で不器用にお世話するヘルボーイって(想像してみる)いや、見たいな、それは(笑)
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ザ・ムーン('08イギリス=アメリカ)-Jan 17.2009
[EXPLANATION]
1960年代は冷戦時代でアメリカとソ連は宇宙開発事業を競い合っていた。そんな中、アメリカは月面着陸を目指す“アポロ計画”を立ち上げた。そして1969年、アポロ11号が人類史上初めて月に降り立った。以来、アポロ17号まで12人の宇宙飛行士が月面に立った。その“アポロ計画”の全貌を、宇宙飛行士たちのインタビューとNASAの秘蔵映像で綴ったドキュメンタリー。
監督デヴィッド・シントン(BBCテレビのドキュメンタリー監督などを経て本作でドキュメンタリー映画初監督)
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この映画の映像は、NASAが液体窒素で冷却保存していたものをデジタルリマスターしたものだそうで、現在に至るまでもオリジナルが持ち出されたのはほんの数回だけだという。

月から見た地球の姿は、つい最近公開された「かぐや」の映像と比べると劣ってしまうが、これはこれでノスタルジックというか、私はこの頃まだ生まれてなかったけどとても懐かしい感じがした。また、ロケットが噴射する映像や、ロケットの第1段、第2段と切り離され落下していく映像は、当時としてはよく撮れているなーと感心。

映像の間には元飛行士たちのインタビューが挿入されるんだけど、彼らが当時のことを誇らしく、そしてまるで昨日のことのように目を輝かせて話すのが印象的だ。アポロ11号のアームストロング船長はインタビュー登場せず、当時の映像だけだったので、あれ?お亡くなりになってたっけ?と思ってしまったんだけど、単に本作に出演してないだけでした(失礼致しました)でも、監督もインタビューで言っているけれど、彼がインタビューに出演しなかったのは正解だったと思う。過去の映像と他の元飛行士たちが語る彼の姿でじゅうぶんだ。現在の彼が出て喋ったら、そこばかり印象に残ってしまったに違いない。

面白いと思ったのは、アポロ11号の搭乗員だったバズ・オルドリンと、マイク・コリンズのインタビューだった。オルドリンは何と月の地を踏む前に“あること”をしたと告白(爆笑モノ)これは奥様も知らなかったらしい。そして浦沢直樹の漫画『20世紀少年』で「月の周りを回っていただけのコリンズ大佐がかわいそうだ」というセリフがあったけれど、本作ではコリンズ本人が そんな同情論をバッサリ。月でも地球でもない宇宙空間を、たった1人で漂うのをむしろ楽しんだそうだ。もしかしたら本当はどこか悔しい思いがあるのかもしれないが、勝手に同情されたり“宇宙で最も孤独な男”と言われ続けたのはいい迷惑だっただろう。この映画ではっきり言えてよかったんじゃないかな。

それから本当に月に行ってないんじゃないかという陰謀論に対しても、元飛行士たちが真っ向から否定している。後で調べたところによると、オルドリンは陰謀論を唱える男から暴行を受けたこともあるそうだ。血の滲むような努力で飛行士になり、選ばれようと必死に訓練を受け、宇宙では常に危険と隣り合わせの任務を行った彼らからしたら、月に行ってないだろうと言われたらそれは侮辱に他ならないだろう。否定する彼らの口調や表情見て「こりゃ相当ムカついてるな」と分かり思わず笑ってしまった。
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ミーアキャット('08イギリス)-Jan 12.2009
[EXPLANATION]
アフリカ・カラハリ砂漠で暮らすマングース科の動物で、直立して見張りをしたり日光浴する姿が愛らしいミーアキャット。その生態を、1つの家族を通して描くドキュメンタリー。
生まれて間もないミーアキャットの“コロ”。兄からエサの取り方を教わり、天敵のゴマバラワシから身を守り、徐々に大人へと成長していく――。
監督ジェームズ・ハニーボーン(長編ドキュメンタリー初監督)
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ナレーションを担当したポール・ニューマンの最後の仕事、というわけで本当は字幕版で見たかったんだけど、都合のつく時間がなく吹替版を見ることになってしまった。吹替版のナレーションは三谷幸喜。脚本家だが役者として出演したこともあり、発声もよく喋りにクセがなくて、映像の邪魔にならなくて良かったと思う。

ミーアキャットといえば尻尾を支えにして後足で直立する姿が印象的だが、あの姿は何度見ても飽きない。数頭が固まってあのポーズをしている場面では、後ろのミーアキャットが前で直立しているミーアキャットの両肩にひょいと手を乗せたので思わず身悶えしてしまった。仕草がちょっと人間ぽくて可愛いのだ。口角が上がってて普通にしてても笑ってるような顔してるのもいるし。でもマングース科に属しているというのは初めて知った。ヘビにも果敢に挑みかけるし、サソリがエサなのだから侮ってはいけない。

それとあの群れが1つの大きな家族であるということも初めて知った。そして兄弟やおじ・おば達が子供たちの面倒を見るということも。そうやって子供たちは大きくなり、弟や妹たちに同じように教えていくわけね。ただ1つ気になったんだけど、群れの中では1組しか繁殖活動をしないらしいんだけど、そのオスとメスが活動できなくなったり死んだりしたら、次の世代の同じ巣のオスとメスがするということ?その1組はどうやって決まるの?そのあたりはまだ解明されてないのかもしれないけど、気になってしょうがなかった。

群れの1匹に注目して物語を進めていくという見せ方については、ちょっと疑問が残った。自分がひねくれているのかもしれないけど、本当に最初から最後まで同じ1匹だったのかなぁ?なんて思ってしまった。1年録り続けて、たまたま群れからはぐれてしまった1匹がいたのでそれに後から名前をつけ、最初から追いかけていたように見せたんじゃ・・・とか、大人になると邪推しちゃうわね(笑)それと巣の中の映像や、ヘビとワシの両方から狙われる場面はどこまで本当なんだろう?CG使ってない?などと思ったり。あまりにも出来すぎだからつい・・・。ホント嫌な大人ですいません。
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チェ 28歳の革命('08アメリカ=フランス=スペイン)-Jan 11.2009
[STORY]
1955年メキシコ。アルゼンチン人のエルネスト・“チェ”・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、キューバから亡命中の反体制派リーダー、フィデル・カストロ(デミアン・ビチル)らとともにバティスタ独裁政権打倒を目指し、1956年、ボートでキューバに上陸する。だが上陸直後に政府軍の攻撃を受け、生き残ったのはゲバラ、フィデル、フィデルの弟ラウル(ロドリゴ・サントロ )などわずかだった。その後、軍を立て直し、ゲバラは軍医として従事するとともに新兵を教育し、フィデルから司令官に任命されるようになる。
監督&脚本スティーブン・ソダーバーグ(『オーシャンズ13』
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第61回カンヌ国際映画祭で公式上映され、デル・トロが男優賞を受賞した。
上映時間が4時間30分になったため二部作となり、続編『チェ 39歳 別れの手紙』ではボリビアでも革命を起こすべくキューバを去り、処刑されるまでを描いている。

映画はチェが1955年にキューバに渡ることを決意したところから1958年末、サンタ・クララを制圧してこれからハバナへ向かうというところまでが主に描かれている。途中、モノクロで1964年にジャーナリストのリサ・ハワード(ジュリア・オーモンド)からインタビューを受けるシーンや、国連総会でキューバ主席として演説するシーンが挿入されている。

見る前はゲリラ戦の映像がキツそう・・・と覚悟してたんだけど、戦闘シーンはほとんどハラハラしたり手に汗握ったりしないものだった。列車がドーンと倒れるシーンなんかも あるんだけど、ちょっと遠いところから撮ってるみたいで迫力は感じない。アクション・エンターテインメントみたいになるのを避け、わざとそうしたのかもしれないが。

また、チェを殊更英雄視して描いてはいない。サンタ・クララからキューバへ向かうところで映画は終わり、キューバ革命が成立するところは描かれない。喘息持ちということもあり、ゼーゼーしながら山道を登るシーンがかなり強調されている。そしてチェよりもフィデルのほうが、出番は少ないけれどやっぱりカリスマ性があるなぁと感じさせる。顔がというか表情は本物そっくりだし(笑)声も他の人よりちょっと高めだからなーんか目立つのね。歯切れのいい喋りでスパッと決断して命令を下す。無謀に見えても結果的に正しい判断だから皆がついていくわけだ。

チェのほうは、正直言っちゃうとデル・トロは本物にあまり似てなくて、某お笑い芸人も言ってたけど、古谷一行に似てると思う時のほうが多いくらい(笑)有名なポートレイトのような眼の力強さがもう少しあったらよかったのにな・・・。ただ、農民たちを大事にし、仲間であっても不正を許さないところなど、誠実で志の高さが伺えるところはしっかり強調されていた。ラストシーンは潔癖すぎて、これでは仲間や部下たちは離れていってしまうかも――と想像させる象徴的なシーンだった。彼の今後を知っているからこそ、そう感じたのかもしれないが。

この映画だけではまだ良かったか悪かったかは分からない。『別れ〜』を見て、全体の感想を書きたい。
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