Movie Review 2003
◇Movie Index

人生は、時々晴れ('02イギリス=フランス)-Jul 12.2003
[STORY]
タクシー運転手フィル(ティモシー・スポール)は、スーパーで働く妻ペニーと2人の子供とともにサウス・ロンドンの集合住宅に住んでいる。生活は苦しく、タクシーの無線機のレンタル代もきちんと払えないほどだ。また息子のローリーが仕事もせず毎日だらだらしているせいか、家族の会話もなくギクシャクしている。そんなある時、ローリーが心臓発作で倒れてしまう・・・。
監督&脚本マイク・リー(『秘密と嘘』)
−◇−◇−◇−
2002年カンヌ国際映画祭コンペティション部門上映作品。2003年ロンドン批評家協会賞英国映画賞受賞。

1996年の『秘密と嘘』と同じく、きちんと脚本を作らずにキャストたちとリハーサルやディスカッションを重ねながら物語を作り上げている。『秘密』も見たけど、本作のほうが遥かに出来がいいと私は思ったね。もうビックリした。『秘密』では会話がなかなか前に進まないのにハラハラしちゃって、映画そのものに集中できなかったけど、本作では脚本がないことなんて全く気にならなかった。というか、この家族が最初から存在してたんじゃないかって思うほどだった。いや、少なくともレイチェルとローリーは本当の姉弟みたいに似てた・・・って言ったら失礼ですかね。

集合住宅に暮らすフィルたち家族を中心に、フィルの同僚ロンの家族(妻はアル中で娘が無職)、ペニーの友人モーリーンの家族(娘と2人暮らしだが、娘の彼が暴力男)たちが描かれていく。もうね、どの家族もヒドイもんです。大人たちは人生に疲れていて、家族やこれからの生活のことをきちんと考える余裕がなく、若い子たちは“fuck off!”しかセリフを与えられてないんじゃないかっていうくらい大人たちに罵声を浴びせ続ける(でも演じている若い子たちっていうのが王立演劇学校で学んだ役者なんだからイギリスってえのは凄いのう)

そんな中で、私が面白いと思ったのはフィルの娘レイチェルの存在ね。彼女はちょうど大人と若者の中間にいて、家族や周りの人々のことを冷静に見つめている。余計な口をきかず(不器用で、感情をうまく表現できないこともあるだろうが)相当頭いいと思う。特にラストの彼女は素晴らしい。
(ここからネタバレ)フィルとペニーとローリーが笑っている中、彼女だけがちょっと浮かない顔なのは、今は晴れ間が少し見えているけど、また曇ったり嵐になることを予測しているのではないだろうか。ローリーは治らない病気になったことで一生働かないだろう。そして我侭し放題。母は息子をますます溺愛し、父は何も言えずに甘やかす。結局、家族みんなが疲れ果ててしまうんじゃないかってね。ちょっと飛躍しすぎたかな。あのラストを見てもちっとも希望が見えなかった私はヒネてるのかも。(ここまで)とにかく彼女のおかげでこの映画が引き締まった。

それとペニーというキャラクターもめちゃくちゃリアル。彼女は自分が家族の空気を悪くしてることに気づいていない。「私がこんなに頑張ってるのに、夫も子供も分かってくれない!」って1人深刻な顔をしている。そんで無意識に夫を傷つけたりしてるのね。こういう奥さん、実際にいっぱいいると思う。 ちゃんと創り上げてるんだなぁ。

以前は、イギリスの低所得者を描いた映画を見ても他人事だったけど、今は現在の日本の構図と似てて他人事とは思えなくなってきてる。でもイギリスの集合住宅って日本の公団なんかよりずっと広いじゃないの。部屋の中に階段があって、上の階にも部屋があるじゃん。これでも狭いほうなんですかね。日本のアパートを一度見せてやりたいわ(誰に?)
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マトリックス リローデッド('03アメリカ)-Jul 5.2003オススメ★
[STORY]
こちらへ。
監督&脚本ラリー&アンディ・ウォシャウスキー(『マトリックス』)
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見てきました2回目。今度は吹替版で。あ、その前に1作目を(TV放映で)見て、 『アニマトリックス』も見て、別の映画を見にシネコンに行った時にパンフも買った(笑)最初に見た時はただもう先の見えないストーリーを理解できず、映像を見るだけで精一杯だったけど、今回は楽な気分で見られた。「一体いつまでやるの?」って呆れ&飽き気味で見てたネオと100人スミスの戦いもすごく楽しくて、変わった動きをするスミスがいないか隅のほうまでチェックしたりして。字幕を読まなきゃっていうプレッシャーからも解放され、ようやく映画そのものを楽しめたんだと思う。

吹替の声もメインの役者は全く違和感なかったけど、キーメイカーの声はもうちょっとオジサンぽい人のほうが良かったな。若すぎた。それとドレッドツインズの会話が、字幕では
  「なんかムカついてきた」
  「オレもだ」
だったのが、吹替では
  「腹が立ってきた」
  「そうだな」
になってたのがダメ。この2人の会話が本作で一番笑えたところだったのに、ちょっとセリフが違うだけでこんなにも普通になっちゃうなんて。不満はそれくらいだな。
ちなみに『レボリューションズ』の予告も吹替だった。ナレーションは預言者の声だった(字幕の時は分からなかった)

見終わって、つらつらと次回作について考えてたんだけど(ここからネタバレ)普通に考えれば、ネオは現在のザイオンを救うという革命をもたらしてジ・エンド、だろう。でもひょっとしたらあのザイオンもマトリックスなのかも、って思えてきた。ザイオンを見て、こりゃ嘘くさい世界だなーって単純に思ったからなんだけど。それに評議員の人たちも『スターウォーズ』のジェダイみたいで嘘くさい(←なんの根拠もないじゃないか)もう1つさらに本当の現実世界があったら面白いのに、って願望でもあるんだけど。でも夢オチだけはカンベンして。(ここまで)

次回作で、革命を起こすのはネオだけじゃなく、スミスも起こすんじゃないかな。モーフィアスやトリニティだって、ひょっとしたら今までの人間とは違うのかも。レボリューション“ズ”なのが非常に気になっている。1年待たずに見られるのはすごく嬉しいことだけど、早く見たい。
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チャーリーズ・エンジェル フルスロットル('03アメリカ)-Jun 29.2003
[STORY]
アメリカ政府の機密情報にアクセスするための指輪を持った要人が、モンゴルのテロリストたちに誘拐された。ナタリー(キャメロン・ディアス)、ディラン(ドリュー・バリモア)、アレックス(ルーシー・リュー)の3人のエンジェルたちは救出を命じられ、見事に要人を救い出した。しかし指輪は奪われてしまっており、この指輪と対になっているもう1つの指輪も奪われてしまっていた。エンジェルたちは再び指輪を取り戻す任務につく。
監督マックジー(『チャーリーズ・エンジェル』
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いきなりだけど、1作目のほうが好きだったな・・・。

アクションや3人の息がぴったりで前作を上回る出来だと思うのだが、なんかねー、気に入らないのよ。思えば最初から躓いちゃってたな。予告で何度も見た、エンジェルたちが車ごと落下するシーン。あれが本編でも出てくるんだけど、予告では3人だけだったのが、本編では要人役のロバート・パトリックも一緒なのね。そのせいなのかカメラアングルが予告と違ってる上にすっごく見づらい。パトリックはいらないから(おい)予告のアングルで見たかった!

それから今回は元エンジェルのマディソン(演じるは肉体改造後のデミ・ムーア)がせっかく敵役で出てるのに、チャーリーの出番が前作よりもないっていうのが気になった。何よりも彼の反応が知りたかった。自分が信頼していたエンジェルが変わってしまったこと、どう思ったのかなって。それとラストのプレミアシーンにでも、ちょこっとでいいから登場してほしかった。私は前作のラストはチャーリーの、エンジェルたちへの愛が感じられて好きだったのよ。

マディソンに関係して過去の(TV版の)エンジェルが出てくるのはいいけど、引退話は物語として見れず「パート3でエンジェルのキャストが変更になってもそれは引退ってことだから」って今から説明されてるみたいでこれも嫌だった。私は3人が演じるエンジェルが好きだから。2人が辞めるんじゃないかって不安になるディラン(ドリューは本作の製作にも携わっている)を見て、本当は笑うところなんだろうけど、笑えなかったっす、私は。ビル・マーレーの降板も、映画見るまでは「ふーん」って感じだったけど、実際に見てみたらすっごい悲しかった。2代目もいまいちだったから余計に。

ここまで書いて気が付いたんだけど、前作の可愛らしさが好きだったのに、本作は大きくなりすぎて遠くに行ってしまったような寂しさを感じたのかもしれない。パート3もできたら見るけどさ、でもこれ以上メンバー変わったらマジ許さん!
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トーク・トゥー・ハー('02スペイン)-Jun 28.2003オススメ★
[STORY]
女闘牛士リディア(ロサリオ・フローレス)が競技中に事故に遭い、昏睡状態に陥った。恋人のマルコ(ダリオ・グランディネッティ)は何もできずにただ悲しみに暮れていた。そんな時、病院で昏睡中の患者アリシア(レオノール・ワトリング)を4年間も世話している看護士のベニグノ(ハビエル・カラマ)と出会う。ベニグノは眠っているアリシアに語りかけ、マルコにリディアにも同じようにするべきだと諭すが・・・。
監督&脚本ペドロ・アルモドバル(『オール・アバウト・マイ・マザー』
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第60回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、第75回アカデミー賞脚本賞を受賞。

私のアルモドバル作品鑑賞3本目。今までこの監督の良さがいまいち分からなかったけど(『ライブ・フレッシュ』はちょっと面白かったけど『オール〜』はどこがいいのかサッパリ)この映画を見て、やっと分かった。見た直後よりも、少し時間が経ってからジワジワくる映画。はっきり言って最悪!気持ち悪い!変態!って思う部分もあったけど(女性は特にそう思うのではないかな)それでも私はこの作品をトータルに見て「良かった」と言える。

相手と話ができなくても、ただ眠っているだけでも相手を愛せるベニグノと、相手が眠っているだけでは愛することができないマルコ。ベニグノからは愛するということが結局は一方的な行為であることを気付かせてくれるし、マルコからは愛するということは相手と確かめ合うことで成立するものだと示してくれている。どちらも間違いではないと思う。そもそも2人が相手と出会った時のシチュエーションが違うからね。人と人の出会いに全く同じシチュエーションというのはありえない。ということは、愛し方も千差万別であり、どれが正しいかなんて答えがないってことだ。今更何言ってんだ、と言われそうだけど、この映画を見て改めてしみじみ考えました。

ただ劇中に挿入されるアルモドバルのオリジナルサイレント映画はあからさま過ぎて引いたな。もうちょっと違ったストーリーでもテーマを語れたでしょうに。このサイレント映画単体として見れば面白かったので文句はないけどね(パス・ベガ嬢が出てたし)それよりもピナ・バウシュの舞台、カエターノ・ヴェローゾの歌のほうがよっぽどもこの映画のテーマをしっかり伝えていたと思う。どちらもとにかく素晴らしいのだ。これだけでも見る価値がある。
それから『リディアとマルコ』だの『3ヶ月後』などとサブタイトルが出るのが非常にうざかったのだが、最後の最後でやられた!こういうことだったのね。この続きが見たいじゃないか。是非やってくれ。

というかはっきり言ってマルコをもっと見たい。キング・オブ・セクシーハゲの称号をグランディネッティに与えます(いらんだろ)静謐な佇まいと甘い顔立ちがいい。鼻の下と、顎のラインがセクシー。最初は普通のオッサンに見えたんだけど、映画が終わる頃にはすっかり釘付けになってしまった。
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誰がバンビを殺したの?('02フランス)-Jun 22.2003─フランス映画祭横浜2003
[STORY]
看護学生のイザベル(ソフィー・カントン)は病院での研修中にめまいを起こして倒れ、近くにいた外科医のフィリップ(ローラン・リュカ)に助けられる。その日からフィリップのことが気になり、彼の行動を見つめていくうちに、彼が女性患者の失踪事件に関与しているのではないかと疑問を抱くようになる。
監督&脚本ジル・マルシャン(初監督作)
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フランス映画祭横浜2003上映作品。2003年度のカンヌ国際映画祭では特別招待作品として上映された。日本での公開は未定。

監督が『ハリー、見知らぬ友人』の脚本家の初監督作品ということと、タイトルに惹かれてチケットを買った。バンビというのはイザベルのこと。劇中でフィリップが、倒れて足腰の立たなくなった彼女をからかってバンビと呼んだところからきている。映画を見れば分かるけど、ソフィー・カントンはまさにバンビというあだ名にピッタリな可愛らしさなのだ。そんな彼女が危険な目に遭うたびにタイトルがちらついてハラハラしてしまう、とてもいいタイトルだと思った。(ちょっとネタバレ)まぁ実際には彼女は殺されないわけだが、バンビと呼んだ人間が死んだことでバンビもいなくなる、という意味になっているそうだ。こういうヒネリがあるのもいいね。(ここまで)

優秀な外科医が実は夜な夜な女性患者に麻酔をかけてイタズラしていた。それに気がついたのは看護学生ただ1人。周りの人は誰も気が付いておらず、かえって彼女のほうが気が違ったのではないかと思われてしまう──。粗筋だけ見ればサスペンスとしてはありきたりだけど、独特の雰囲気とテンポ(フレンチサスペンスらしいっていうのかな)で新鮮だった。病院そのものは全然おどろおどろしくなく、むしろ清潔すぎるのが良かった。怖いのはフィリップという人間だけで、病院が怖いわけではないのだから。それとフィリップがイザベルに出すの心理テストシーンが一番面白かった。この手のテストは昔よくやったけど、こんな風に映画で使うなんて上手いな。これがその後のシーンの伏線にもなっていて、ラストにまでうまく繋げていた。やはり脚本はうまい。

ただ初監督のせいか、カットできるシーンも全部入れてしまった、という感じで126分は長すぎ。フィリップがイタズラしてるってことは最初から(観客には)分かっているのだから、モタモタした展開だと飽きてしまうのね。あと15分は削っても大丈夫だったと思う。でもレイトでもいいから日本で公開して欲しいなぁ。
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