Movie Review 2004
◇Movie Index

午後の五時('03イラン=フランス)-Jul 14.2004
[STORY]
タリバン政権崩壊後のアフガニスタン。ノクレ(アゲレ・レザイ)は、信心深い父親と兄嫁、そして兄嫁の幼い息子と一緒に暮らしている。女であることから学校に通うことを禁じられているノクレは内緒で学校に通い、将来アフガニスタンの大統領になり戦争をなくしたいと夢見る。しかし運転手の兄は行方不明で、父は住む場所を次々と変えていくので落ち着くことができない。
監督&脚本サミラ・マフマルバフ(『りんご』
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脚本にはサミラの父で映画監督のモフセン・マフマルバフも携わっている(モフセンは『カンダハール』でアフガニスタンを描いている)本作は第56回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した。

主人公を演じたレザイは撮影時サミラと同じ22歳の教師で、3人の子供を育てながらパキスタンへ行って行方不明となった夫を待っているという。映画出演には随分躊躇したようだが(これについてはサミラの妹ハナが監督した『ハナのアフガンノート』で描かれているらしいが、レイトショーなので劇場で見れないのが残念)本作でもタリバン政権時の規律がまだ残っており、女性は常に顔をブルカで覆わなくてはならず、学校に通うことすらままならない。しかし映画でノクレはブルカを脱ぎ、大統領になりたいと思い、他人の男性の自転車の後ろに乗ったりと、希望あふれるシーンをたくさん描いた。特にフランスの兵士と会話するシーンは笑いながらも感動してしまった。

だがしかし!後半で厳しい現実を見せつける。タイトルになっている『午後の五時』とはスペインの詩人ガルシア・ロルカの『イグナシオ・サンチェス・メヒーアスを悼む歌』の中の「角突と死」という詩から取られているのだが、午後の五時(ちょうど日が沈む頃の時間)に死んだ闘牛士について詠っているものだ。それをノクレが読むのだが「午後の五時 のこるは死 死だけだった」という詩の通り、彼女たちもまた死に近づいていく。希望を描くシーンでの真っ青な空とは対照的に、徐々に変わっていく空の色。そして消えゆく命。見終わった後にガックリしてしばらく立てなかったが、忘れられない作品になった。静かなラストなのにここまで強烈な映画はなかなかない。

『りんご』を見た時には正直「?」と思う箇所が多かったが、本作では立派にメッセージ性があり、力強い作品に仕上がっていて驚いた。あと本人も少女っぽかったのにすっかり大人の女の顔になってますね。私よりもずっと大人っす。
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ハリー・ポッターとアズカバンの囚人('04アメリカ)-Jul 3.2004
[STORY]
魔法学校の3年生になるハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)は相変わらずダーズリー家の人々にいじめられていた。耐え切れなくなったハリーは家を飛び出すが、アズカバン刑務所に収容されている凶悪犯のシリウス・ブラック(ゲイリー・オールドマン)が脱走し、ハリーを狙っているという情報が入り、魔法省に保護される。新学期になりハリーたちは学校へ向かう汽車に乗るが、ディメンターと呼ばれるアズカバンの看守たちが汽車を取り囲み、ハリーは恐怖のあまり失神してしまう。
監督アルフォンソ・キュアロン(『天国の口、終りの楽園。』
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シリーズ3作目は今まで監督だったクリス・コロンバスが製作担当となり、キュアロンが担当することになった(4作目はイギリス出身『フォー・ウェディング』のマイク・ニューウェルが担当)また、ダンブルドア役が亡くなったリチャード・ハリスからマイケル・ガンボンに変わった。

前2作が原作もアレだし映画もアレだったので、もう3作目からは見なくていいやーと思ってたんだけど、デヴィッド・シューリスが出るならば見ないわけにはいかないと急いで原作本を買って読み、映画も見てきました。・・・ルーピン先生がステキ過ぎました。しかもオールドマン、アラン・リックマンと一緒に出てきた時には小躍りしそうになった。大人キャラは相変わらず豪華なんだなぁ。

しかし、やっぱり話はあんまり面白くないし、今回は特に端折りすぎて原作を読んでない人には分からない部分が多かったんじゃないだろうか。特にシリウスとスネイプの関係とか、地図の名前のところとか、『もののけ姫』みたいなシーン(笑)とか。2時間半を越えても別に構わなかったと思うんだけどな。脚本化するにあたってのアレンジもそううまくいってるとは思わなかった。唯一いいと思ったのは(ネタバレ)ファイアーボルトが届くエピソードが、物語の最後になったところ。原作では物語の途中で送られるものだが、映画では試合がまるまるカットになったので最後に持ってきたのだろうが、うまくいっている。バックビークの羽もついていてとても良かった。(ここまで)

演出についても、ハーマイオニーがハリーとロンに隠している秘密についての描写もなんか下手くそだなぁと思ったし、上記のオールドマン、シューリス、リックマン揃い踏みのシーンも緊張感がなく、うまく纏めきれずに時間切れで次のシーンに行ってしまったという感じ。そしてラストのハリー、あれは何ですか。劇場からかなり失笑が漏れていた。可哀相だよダニエル君。まるで某缶コーヒーのCMの※倉さん張りのブサイクさ。ラストカットがあれではガックリきますな。コロンバス演出のほうが子供っぽいところがあるけど、やっぱり上手かったんだなーと思った。

さすがにもう4作目は・・・と思うんだけど、またご贔屓な役者が出てきたら見てしまうかもしんない。この商売上手!(笑)
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テッセラクト('03タイ=イギリス=日本)-Jul 3.2004
[STORY]
タイ、バンコクにある古いホテルにイギリス人のショーン(ジョナサン・リース・マイヤーズ)はドラッグの取引相手であるマフィアを待っている。下の階ではマフィアが持っているドラッグを取り返そうと殺し屋の女が潜んでいる。息子を亡くした心理学者のローザ(サスキア・リーヴス)は、バンコクの子供たちをリサーチするためにホテルにやってくる。そしてホテルで働く少年ウィットは、宿泊客たちの部屋に入っては金目の物を盗んでいた。まだお互いのことすら知らない彼らが、1つの結末へと向かっていく――。
監督&脚本オキサイド・パン(『RAIN』
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原作は『ザ・ビーチ』の原作者でもあるアレックス・ガーランドの『四次元立方体(THE TESSERACT)』。製作にはガーランドの翻訳小説を出版している日本の出版社が担当している。

ショーン、ウィット、ローザ、マフィアたちの行動を、時間軸をバラバラにして見せていく(三次元に時間軸を足した四次元の世界ということ)手法で、冒頭の雰囲気が『レクイエム・フォー・ドリーム』のようだったり、『マトリックス』ぽかったり(笑)と、かなり期待させるものがあったんだけども、最終的には普通の映画に仕上がっちゃってました。

時間軸をバラバラに見せていくのが最後まで続くと思っていたら、ストーリーが1つに纏まっていくうちにそれをやらなくなってしまった。だから普通の映画になっちゃったんだと思う。これが最後の最後で、実はこうだった、と時間軸をオチに使ったようなシーンでもあれば面白かっただろうにな。まぁ軽いオチのようなもの(女殺し屋が双子だった)もあったけど、あれでは満足できんよ。
ドラッグをめぐって人々が右往左往するところや、登場人物たちがみな右頬をケガするところはなかなか面白かったが。

でも映画で1番良かったのはウィットを演じた、イギリス人とタイ人のハーフのアレクサンダー・レンデル君でしょう。貧しい育ちという役柄にしてはハングリーさが感じられなかったけど、視線がブレない、目のきれいな子だった。悪いことをしても最後には許してしまいそうな・・・ローザの気持ちがよく分かりました。あ、別にショタコンではありませんよ、念のため(笑)
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いつか会える('04フランス)-Jun 19.2004─フランス映画祭横浜2004
[STORY]
1975年春、19歳の美大生(イジルド・ル・ベスコ)は偶然出会った男(オアッシーニ・エンバレク)に恋をする。しかしある時、彼は銀行強盗を働き、彼女に助けを求めてきた。彼女は男と共犯者、共犯者の恋人とともにスペイン、モロッコ、ギリシャへと逃亡する。
監督&脚本ブノワ・ジャコ(『トスカ』)
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フランス映画祭横浜2004上映作品。2004年カンヌ国際映画祭“ある視点”部門出品作品で、フランス本国では夏に公開。日本での公開は決まっていない。

手持ちのデジタルカメラを使ったモノクロ映像で、ヌーヴェルバーグと呼ばれた映画の雰囲気が出ているように見えた(あ、私あんまりこの時代の映画見てないですけどね)屋内や人物の映像と比べて、街の雰囲気を映した映像が荒っぽかったのは、70年代当時の本物の映像を使ったりしたんだろうか?

ストーリーや展開もモノクロとよく合ってたけど、主人公のイジルド・ル・ベスコとオアッシーニ・エンバレクもまた、モノクロによく合った人を選んだなあと感心した。薄い髪の色といい薄幸そうな顔立ちの彼女と、まぶたや頬に影ができるほどキリッとした顔立ちの男が並んだ構図は、カラーでは表現できなかっただろう。他の出演者にはない雰囲気を2人は持っていたと思う。

けどストーリーはねえ・・・。ヌーヴェルバーグの作品だと破天荒な行為もすでにそれは“オシャレ”として定着しているものだから魅力的に見えてしまうけれど、本作の場合はいくら時代が70年代と言われても、やっぱり現代の映画として見てしまうから主人公たちの行為に呆れてしまった。途中何度かうんざりしてしまい、早く終わらないかなーなんて思っちゃった。短い映画なのにね。好きな人は好きだろう。
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クレールの刺繍('04フランス)-Jun 18.2004─フランス映画祭横浜2004
[STORY]
スーパーで働く17歳のクレール(ローラ・ネマルク)は望まない妊娠をしてしまった。育てることはできないため「匿名出産」を選択し、出産したら里子に出すことを決意する。そして刺繍職人であり、1人息子を亡くしたばかりのメリキアン夫人(アリアンヌ・アスカリッド)のもとで働きはじめる。
監督&脚本エレオノール・フォーシェ(長編初監督)
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フランス映画祭横浜2004上映作品。2004年カンヌ映画祭国際批評家週間グランプリ受賞。日本での公開も決定した。

自分が妊娠したことを受け入れられなかった17歳の少女が、出産することを決め、そして母性本能が目覚めていく様子を丁寧に追っていく女性らしい作品。
ネマルクは美人とはいえないけど魅力的な表情を見せる。次第に膨らんでいく自分のおなかを見て不安にさいなまれる様子や、自分の刺繍を見てフワッと笑う顔に引き込まれる。それを逃さないようにと、まるで彼女専用にカメラがあったのでは?と思ったほど(笑)
また、美しい刺繍も光をあてて映したり(正直ウサギの刺繍は微妙・・・)クレールが着ている服のグリーンも彼女の赤毛によく似合っていて、映像には相当力を入れたなーというのが感じ取れた。これなら次回作以降も期待が持てる。

でも映像だけでなく脚本でももっと気を配ってほしかったな。ちょっと足りないなぁと思う部分もいくつかあった。例えばメリキアン夫人が息子の死を乗り越えるところ、それからそんな夫人を見てクレールが自分のおなかの子のことを考えたりするシーンなんかがあれば良かったんだけど、それらがないので唐突に見えたし、置いていかれたような感じがした。結果はある程度予想できるものだから、やっぱり過程が大事だよね・・・。もっと上手くクレールに気持ちを乗せることができたら、いい作品だなぁと思えたと思う。

どーでもいいけど、メリキアン夫人の息子の親友がどーしても平井堅に見えてしょうがなかった。奥目くん。
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