デルマー・デイヴスは、これといったスタイルを持たず、その欠点を題材の新しさでカヴァーし、毎回スタイルを変えていきながら映画を撮り続けた作家である。たしかに、突出した作家ではなかったが、世代的に、また作風からいっても、フォードやドワンなどの作家と、アルドリッチやアンソニー・マンなどの作家とをつなぐ位置にいるといってもよく、いま少し注目されてもいい存在かもしれない。デイヴスの才能は、とりわけ西部劇で遺憾なく発揮された。インディアンを肯定的に描いた『折れた矢』(50)、主人公をアンソニー・マンの映画の登場人物のように曖昧に描いた『縛り首の木』(59)など忘れがたいが、このジャンルでの彼の最高傑作はなんといっても、『決断の3時10分』であろう。
原作はあのエルモア・レナード(『ジャッキー・ブラウン』)。悪名高い強盗団のボスを捕まえた町の人たちが、彼を護送して3時10分発ユマ行きの列車に乗せるまでをサスペンスフルに描く。その危険な任務をほとんどただひとりで引き受ける主人公を演じるのが、『シェーン』のヴァン・ヘフリンだ。強盗団に恐れをなしてみんな家に引きこもってしまったため、ゴーストタウンと化してしまった町の殺伐とした感じがたまらない。『真昼の決闘』を思わせる設定だが、ジンネマン作品のように明快なヒロイズムをわかりやすく歌い上げることもなく、人によっては地味な作品に思うかもしれない。『真昼の決闘』と決定的に違うのは、主人公が保安官ではなく、ごく平凡な町の人間だということだ。彼が任務を引き受けるのも、ヒロイックな気持ちからではなく、家族を養う金を手に入れるため、という非常に現実的な理由からにすぎない。
映画の焦点は、主人公と強盗団のボス(グレン・フォード)のあいだの心理的駆け引きにあり、映画の冒頭で銃声が一発響いてからは、最後のしょぼい撃ち合いにいたるまで、ほとんど一発の弾も発射されることなく物語は進んでいく。強盗団のボスを演じるグレン・フォードの繊細な演技が、この心理劇を非常に説得力あるものにしている。最初は金のために仕事を引き受けたが次第に使命感に目覚めてゆくヴァン・ヘフリンに、言葉や態度であからさまに示しはしないが、次第に友情というか男気のようなものを感じていく様を、グレン・フォードは見事に演じきっている。自分にはかなうはずのない幸福な夫婦のイメージが、彼に最後の決断をさせたのかもしれない。
クライマックスにおけるグレン・フォードの一瞬の裏切り。敵と味方であるはずのふたりが顔を見合わせて笑う瞬間に空から落ちてくる大粒の雨。泣かせる。
『決断の3時10分』3:10
to Yuma
1957年/35mm/アメリカ/モノクロ/92分
監督:デルマー・デイヴス
脚本:ハルステッド・ウェルズ(原作:エルモア・レナード)、撮影:チャールズ・ロートン・ジュニア
出演:グレン・フォード、ヴァン・ヘフリン、フェリシア・ファー、レオラ・ダナ、ロバート・エンハート、ヘンリー・ジョーンズ
画質: | 非常に良い |
字幕・音声: | 英語・フランス語、その他多数 |
特典映像: | オリジナル劇場予告編 |
その他: | ヴィスタサイズで収録されているが、オリジナルはスタンダードサイズらしい。日本公開時は上下を切ったかたちで上映された模様 |
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