Movie Review 2012
◇Movie Index

最強のふたり('11フランス)-Sep 1.2012イイ★
[STORY]
事故で首から下が麻痺してしまった大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)の介護人募集の面接に場違いな男が現れた。前科持ちの黒人青年ドリス(オマール・シー)だった。彼は失業手当をもらうため、いきなり「不採用にしてくれ!」とフィリップに言い放つ。障害者だからといって哀れんだりしないドリスにドリスに興味を持ったフィリップは彼を採用してしまう。ドリスは仕事が雑で毎日がトラブル続きだったが、本音で接する彼にフィリップも心を開くようになる。
監督&脚本エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ(『Tellement proches』)
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本作は実在の人物、フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴと介護人アブデル(映画では黒人だが実在はアルジェリア移民)を取り上げたドキュメンタリー番組をトレダノとナカシュが見て感銘を受けたことから映画化された。 映画のラストのフィリップとアブデルも出演している。
第37回セザール賞では作品賞や監督賞は『アーティスト』に譲ったものの、主演男優賞はジャン・デュジャルダンを抑えて見事オマール・シーが受賞した。第24回東京国際映画祭でもグランプリと最優秀男優賞(クリュゼとシーのW受賞)を受賞した。

この年は『アーティスト』といい本作といい、いい意味でフランス映画ぽくない作品だった。フランス人の考えてること分からん!みたいな展開がなく、ストレートで分かりやすく笑えて泣けて最後はスッとする映画。特に本作は障害を持つ人を扱ってはいるが、同情させようとか感動させようとかそういうあざといところはなく、あくまでも境遇の違う2人の男の友情物語を描いている。予告を見ただけでだいたい内容は分かってしまったが、でも冒頭のシーンにはちょっと戸惑った。2人が出会うところから描いていくのかと思ったら違ったからね。この2人は一体何をしようとしてるんだろう?って全然分からなかった。そのシーンから時間が遡り、2人が出会うシーンが始まる。そして冒頭にやったシーンに繋がっていく。最初に見た時と後から見た時では、同じシーンでも違って見えてくる。

と、いうのも(ここからネタバレ)この冒頭のシーンの2人は既に雇い主と介護人という関係じゃなくて、ただの友達なんだよね。私は最初に見た時は雇い主にトラブルがあって介護人が車を走らせていると思ってた。でも後からもう既にドリスがフィリップの下で働いてないと分かるわけ。おそらく助手のイヴォンヌ(アンヌ・ル・ニ)が、ドリスに連絡を取って「フィリップを助けてあげて!」なんて言ったんだろう。それを聞いたドリスは駆けつけてフィリップを落ち着かせ、生きる希望まで与えてしまった。もう賃金が貰えるわけじゃない。損得関係なく、ただ彼のためにそうしたのだ。(ここまで)泣かせるよなぁ。まじドリスいいヤツ!最初は恐かったけど、誰に対しても臆することなくフレンドリーで、人の恋路を纏め上げちゃうところもやり手!最初に登場した時はつっけんどんなおばちゃんって感じだったイヴォンヌが、ドリスと一緒に仕事をするうちに茶目っ気ある可愛い人になっていくのもよかった。

実在の介護人はアルジェリア人で黒人じゃない。黒人のほうが対比が分かりやすいからじゃないかという意見もあるようだが、私は監督たちは人種を変えてでもオマール・シーに介護人の役をやらせたかったんじゃないかなと思った。過去の監督の作品4作にも出演しているので絶大な信頼を得ているように見えたし、シーが元から持っているキャラクターがドリスという役にかなり投影されているというか脚本を書く際に当て書きしてそうだなぁと、ひしひしと感じた。これからも彼はこの監督たちに起用されていくんだろうな。
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プロメテウス('12アメリカ)-Aug 26.2012
[STORY]
2089年。考古学者のエリザベス(ノオミ・ラパス)らは、世界各地の古代遺跡から共通する壁画を発見する。それは人類の起源の謎の答えとなる惑星の存在だった。巨大企業ウェイランド社によって惑星を調査するチームが編成され、宇宙船プロメテウス号でエリザベスたちは惑星を目指す。そして2093年、ついに目的の惑星に到着。さっそくエリザベスたちはアンドロイドのデイヴィッド(マイケル・ファスベンダー)らと惑星にそびえる建造物の調査を始めるのだが・・・。
監督リドリー・スコット(『キングダム・オブ・ヘブン』
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当初は『エイリアン4』から続く5作目として製作予定だったらしいが変更となり、1作目の前日譚として企画された。しかし結局は『エイリアン』シリーズとは違う物語ということになったようだ。でもウェイランド社もアンドロイドも出てくるし、エイリアンが誕生するきっかけがこの映画で明らかになっている。

過去のシリーズは全部見てるけど1から4まですべて違う監督なせいか、作品の雰囲気というかカラーが定まらない映画だなと常々思っていた。でも本作は一番好きなパート1の監督が再び監督するということで楽しみにしていた――のだが、何で登場人物のほとんどがアホ、っていう映画になっちゃったのかなー。脚本化がアホなのか?B級ホラーみたいにわざわざ死亡フラグ立ててその通りに死んでいく奴らばっかり。今までのエイリアンシリーズでもそういうのあったけど、なんか本作のは全体的に子どもっぽい感じがしちゃって。自分が歳取ったのかなぁ。

とはいえ、まぁ伝えたいことはだいたい理解した。つまりは人類の起源なんてものを追究しちゃいけないってこと。キリスト教の訓えだわね。神から与えられし命を延命するなどしてはいけない、遺伝子を操るようなことはしてはいけない。アンドロイドの存在も神への冒涜。そのアンドロイドのデイヴィッドはエイリアン誕生のアシストまでしている。数々の神への冒涜からあの邪悪な生き物を誕生させ、人類の敵になってしまったと。

ここでエイリアンが生まれた経緯を整理しておく。(ここからネタバレ)宇宙人のDNAから作られたタコ生物の細胞がホロウェイ(ローガン・マーシャル=グリーン)の身体に入り、エリザベスは彼との子、タコハーフを生む。そのタコハーフと宇宙人の間に生まれたのがエイリアンってことよね。書いてて気がついたんだけど、なんか近親相姦を繰り返したみたいに思える。とするとこれも神への冒涜になるのかな。デイヴィッドはとんでもないことをしでかしたものだ。(ここまで)

本作もまたシリーズ化しそうなラストで、確かに続きが気になる。作られたら見てしまうだろう。そして文句を言うと(笑)これもまた監督が次々と変わる作品になりそうだ。
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ダークナイト ライジング('12アメリカ)-Aug 18.2012
[STORY]
悪に染まってしまったハービー・デントの罪を被り、バットマンことブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)は屋敷に引きこもった。それから8年後、デントの死によって制定された「デント法」によってゴッサムシティには平穏な日々が訪れていた。ゴードン市警本部長(ゲイリー・オールドマン)は真実を告白しようとするが、バットマンと街のために躊躇していた。そんな時、ベイン(トム・ハーディ)率いるテロリストたちが街に現れ、制圧してしまう。
監督&脚本クリストファー・ノーラン(『インセプション』
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『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』に続くシリーズ3作目にして完結編。

『ダークナイト』のすごい緊張感と比べると、どうしても間が抜けていると感じてしまった。165分も時間を掛けてどれだけ密度の濃い内容なのかと期待していたら、途中ダレることダレること。ブルースがベインによって監獄に落とされてからがやたらと長い。何でこんなまどろっこしいことするんだろう、殺しちゃったほうが早いのにベインてバカ?と、身も蓋もないことを思っちゃった(苦笑)一度は敵にやられるも、再び身体を鍛えたヒーローが復活するなんてヒーロー映画のお約束中のお約束。普通なら胸が熱くなる展開だ。でも全然それにワクワクできなかったんだよね。何でだろうって考えたけど、ブルースが暗すぎてこっちが盛り上がれなかったせいかなと。

なのでブルースが復活してからはこちらも盛り上がれたし、その後の展開には「やっぱりこのシリーズ面白いわ!」って思えた。パート1で登場したラーズ・アル・グール(リーアム・ニーソン)の秘密も明かされるし、キャット・ウーマンことセリーナ(アン・ハサウェイ)のツンデレっぷりが可愛く、何気に3作とも出演してちゃっかりおいしいポジションにいるスケアクロウ(キリアン・マーフィ)もツボ(笑)暴徒と化した民衆と戦うことを決意した警官たちの姿には感動したし、ブルースの執事アルフレッド(マイケル・ケイン)の願いにも涙。さらにバットマンを慕うジョン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の活躍と、最後の心憎い演出に痺れまくり。そうきたか〜!と最後の最後でニヤニヤ。と、いろんな感情を喚起させる展開だった。

というわけで、前半と後半での温度差がすごくて、中盤まではもうちょっと削ってもよかったんじゃないかなぁと思ったけど、最後まで見ちゃうと前半のどのシーンもやっぱり重要か、と納得しちゃって、なんか悔しい(笑)終わって劇場出て、これでもうシリーズが終わりかと思うと妙に寂しく感じたし。まだまだノーランでシリーズが見たいという希望もあるけど、どの映画とは言わないが(笑)「まだ続けるの〜?」とウンザリするよりはずっといいしノーランにはバットマンじゃない映画も撮ってほしいので、これで完結で良かったのだと思うことにした。
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桐島、部活やめるってよ('12日本)-Aug 14.2012
[STORY]
ある金曜の放課後、学校内に衝撃が走った。成績優秀でバレーボール部のキャプテンである桐島が部活を辞めたというのだ。桐島の親友・菊池(東出昌大)も、桐島の彼女・梨紗(山本美月)さえも知らされておらず、しかも現在誰も桐島と連絡が取れず大騒ぎになる。そして普段は桐島たちと全く関わりのない映画部の前田(神木隆之介)たちも騒動に巻き込まれる。
監督&脚本・吉田大八(『パーマネント野ばら』)
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原作は朝井リョウの同名小説(本作で第22回小説すばる新人賞を受賞)
一応、クレジットは一番上だしポスターなどでも1人だけ写ってはいるものの、前田は主役の1人という感じ。同じ時間に起きた出来事を、前田、菊池、バドミントン部の東原(橋本愛)、吹奏楽部の沢島(大後寿々花)の視点からそれぞれ描く場面もある。

学校にはスクールカースト、スクールヒエラルキーなるものが存在する。アメリカの映画やドラマでよくアメフトの男子とチアリーディングの女子が最上位で、そこからピラミッドのように序列が決まっていて、デブやオタクがひどいイジメを受けるというアレだ。TVドラマ『Glee』なんて典型的。日本でもアメリカほど明確ではないが、やっぱり序列はある。私が通っていた中学ではヤンキーとギャルが最上位だった。当時すげー荒れてたし。高校は受験を経て入学してくるのでヤンキーはおらず、成績もほぼ同じくらいということもあり、男女ともに見た目が割と重視されてたかな。カッコよかったり可愛かったり、それに加えてリーダーシップが取れたりコミュニケーション能力が高ければ最強だった。中学では弱い子やブサイクな子がいじめられたが、高校ではいじめみたいなあからさまなことをすることはなかったけど、近寄らなかったり空気扱いしたりと、よく言えば大人な対応をしていたように思う。

なんかそんなことを思い出しながら見てしまった。今から20年くらい前ですけどね(笑)映画に登場する学生たちを見て基本はそんなに変わってないなぁと思った。「ああ、いたいたこんな子」って。そんな中で前田が一番リアルから遠いキャラクターだったかな。映画部の部長ならもうちょっとキモくないと(笑)菊池の彼女・沙奈(松岡茉優)みたいな子も私の周りにはいなかったけど、登場人物の中で一番面白いキャラクターだなと思った。これいといって取り柄もなく勉強もたぶんそんなにできない。でもメイクやお洒落に力を入れて、綺麗な女子と仲良くなったりモテる男子と付き合うことで自分のランクを上げてみせて、オタクな子たちを見下すことでさらに自分を上げることももちろん忘れない。いわゆる男子に好かれて女子に嫌われるタイプね。自分の近くにいたらすっごいイヤ(笑)でも見てる分には面白かった。

桐島をめぐる騒動については、チラシに書いてあるような“日本映画史に残る、圧巻のグランドフィナーレへ!!!!!”は、ぶっちゃけ誇大広告(笑)だし、あそこで桐島らしき人物を出したのは良くなかった。ほんの少しでも出すべきじゃなかったと私は思っている。あと、昔は携帯で連絡を取り合うなんてなかったから、今よりもっとバタバタしたり誤解やすれ違いが多くて、話が複雑になっただろうなぁと漠然と感じた。でも、くすぶった気持ちを演奏で昇華させた沢島の姿や、最後の菊池の後姿の見せ方は上手いと思った。特にこの2人が印象に残った。
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ローマ法王の休日('11イタリア)-Aug 4.2012
[STORY]
ローマ法王が死去し、システィーナ礼拝堂には各国の枢機卿が集まり次の法王を決める選挙“コンクラーヴェ”が始まった。何度目かの投票でようやくメルヴィル(ミシェル・ピコリ)に決まるが、民衆の前でスピーチを行う直前になってパニックを起こしてしまう。そこで一番有名なセラピスト(ナンニ・モレッティ)が呼ばれるが解決しない。次にメルヴィルの素性を知らないセラピストに診察してもらうため外に連れ出すが、メルヴィルは軽微の隙を突いて街へと逃げ出してしまう。
監督&脚本ナンニ・モレッティ(『息子の部屋』
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現在、カトリック教会では“教皇”が正式な表記らしいが、映画のタイトルで“法王”なので、感想はすべて“法王”で統一させてもらいます(一般の日本人にとってはやっぱり“法王”のほうがしっくりくるね)

そのタイトル、原題では『Habemus Papam』で、直訳すると『法王決定』ただそれだけ。それを『ローマ法王の休日』だなんて『ローマの休日』を連想させるロマンチックなタイトルをつけたもんだから、騙された人は続出しているだろう。しかも予告もコミカルなところを抜き出していて、面白そうなコメディに見える。しかし本編はそんな可愛らしいもんじゃなかったし、最後はアン王女みたいに「これからはまた王女として生きていくわ」みたいな結末でもない。一言でいえば、聖職者の救われない話、だった。

突如、法王に選ばれてしまったメルヴィルは、自分には荷が重いと逃げ出してしまう。街に出て、一般の人々と触れ合い、かつて役者に憧れていたことを思い出したりと、ひと時を楽しむ。しかし法王の件を持ち出されると萎んでしまう。悪いけど、とても今まで枢機卿として生きてきた人とは思えない。そりゃ選ばれたら怖気づいたり、覚悟を決めるのに時間も必要だろう。でもそこまで拒否するって、じゃあ今まで何してきたの?って問い詰めたくなる。今までの彼のことは描かれていないし、現在の心境も見えてこないし、見てるこっちは戸惑うしかない。そしてついには、映画そのものもメルヴィルと同じく投げ出して終わってしまった。もうビックリ。あの時の、劇場内の唖然とした空気は凄まじかったな〜(笑)
モレッティのインタビューを読むと、選ばれた法王が信者たちの前に出て来られない、ってところから始まったそうで、結末まではその時点で決まってなかったんだろうなぁ。いや、最初からこの通りだったとしても、もうちょっと撮り方を何とかしてほしかった。『息子の部屋』はすごく良かったのに、これにはホントにガッカリでした。

と、メタメタに書きましたが、よかったのは枢機卿のおじいちゃんたちがみんな可愛らしかったのと、スイス人衛兵がイケメン揃いってところくらいですかね(笑)
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