Movie Review 2012
◇Movie Index

夜のとばりの物語('10フランス)-Jun 30.2012ダイスキ★
[STORY]
映画館の映写技師が、少年(声:逢笠恵祐)と少女(声:坂本真綾)とともに6つの物語を作っていく――。
ある国の王が所有する愛馬メロンギ(声:西島秀俊)は言葉を話せる世にも珍しい馬だった。そのメロンギの世話をする若者は決して嘘をつかないと言われており、その話を聞いた隣国の国王は驚き、領土の半分を賭けて若者が嘘をつくよう策略を練る。そして自分の娘を若者の元に送り込むのだが・・・――『嘘をつかなかった若者』
監督&脚本ミッシェル・オスロ(『アズールとアスマール』
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1999年のアニメ『プリンス&プリンセス』の続編、というかシリーズ2作目と言ったほうがいい作品。形式は同じだが本作は3Dになっている。人物や背景が重なった部分もただ黒い重なりではなく奥行があるため見やすくなった。これは3Dで見るのが正しい作品だなと思った。

ストーリーは正統派からちょっとハズした軽妙な作品、そしてモヤッとするものまでさまざま。単純に面白くてイイ!と思ったのは『ティ・ジャンと瓜ふたつ姫』ド派手な背景は見ているだけでこちらもリゾート地に来たようないい気分になり、軽快に歩くティ・ジャンも真っ黒なのに色鮮やかな服を着ているよう見える不思議。旅先でティ・ジャンは地元民から危険な目に遭った時の対処法を教えてもらったにも関わらず、それを無視して自分が思った通りの行動を取っていく。でもその行動が のちに幸運をもたらす。オチまで完璧な作品だった。ティ・ジャンは間違いなくイケメン!顔が影になってるから分からないけど(笑) 私がミッシェル・オスロのアニメで一番好きなところが凝縮された作品だった。

逆にモヤッとしたのは『嘘をつかなかった若者』だ。物語が始まる前に、演じる女の子が「やりたくない!」とゴネてたけど、始まってみて分かったわ。これは確かにどんなに頑張ってもヒドイ女だわ。最後のセリフで誠実さを出そうとしてたけど、逆に偉そうに聞こえてしまったかな。悪い女で通してしまうと「愛」がなくなってしまうし。うーん、随分難しい作品にチャレンジしたと思う。チベットじゃなくてモンゴルだけど、馬が出てくるのと理不尽さが『スーホの白い馬』を思い出した。

このシリーズはまた今後もゆっくりでいいので(このままだと10年に1本の割合か?)続けていってほしいな。その頃はまた3D以上の技術の映像が見られるかもしれない。
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ブラック・ブレッド('10スペイン=フランス)-Jun 24.2012
[STORY]
1940年代スペイン・カタルーニャ地方。ある日、11歳の少年アンドレウ(フランセスク・クルメ)は森の中で、崖から転落した男とその息子を発見する。瀕死の息子はアンドレウに「ピトルリウア」という謎の言葉を告げて息絶える。警察は殺人事件と断定し、死んだ男と左翼運動に関わっていたアンドレウの父親ファリオル(ルジェ・カザマジョ)が犯人ではないかと疑う。ファリオルは捕まる前に逃亡し、アンドレウは祖母の家に身を寄せることになるが・・・。
監督&脚本アウグスティ・ビリャロンガ(『月の子ども』)
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スペインのアカデミー賞といわれるゴヤ賞の2011年度の作品賞を受賞し、第84回アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表に選ばれた作品。

監督のビリャロンガはスペインのデヴィッド・リンチと呼ばれる監督だそうで、不条理ミステリなんかを撮ってる人らしい。けど本作においては結末が有耶無耶になるような作品ではなくはっきりしていて、大人の視点から描いてくれたら何ら難しい話ではない。それを1人の少年の目を通して描かれているので入ってくる情報も断片的になり、観客には謎として映る。別にそれがアンフェアだとは思わないし、その描き方そのものが面白いと思った。

『パンズ・ラビリンス』もスペイン内戦後で本作とほぼ同じくらいの時代で、同じく1人の少女の目を通した世界が描かれていた。この時代は親が子どもに愛情を注ぐ余裕がない状況で、子どもは子どもなりに親の顔色を伺いながら生きるしかなかったのかもしれない。だから不安や恐怖を親に告げることもできずに想像力だけが肥大していき、牧羊神やピトルリウアといった怪物を生み出し、彼らの不安をいっそう増幅させていっても無理はない。

ただ、本作は『パンズ・ラビリンス』と比べるとピトルリウアの存在がうまく活かされてないと思ったし、従妹のヌリア(マリナ・コマス)や修道院で暮らす不思議な青年の存在も中途半端になっていると感じた。物語を複雑に見せるためだけに出されたというか。まぁすべてが謎の答えに繋がるのもウソ臭いけどね。でも不思議なことにアンドレウが事件の真相を知ってからは、ピトルリウアもヌリアも青年も出てこなくなってしまう。全てを知ったアンドレウには、もう彼らなど取るに足らない存在になったということか。黒いパンしか食べられない境遇を切り捨て、白いパンを食べる人間になると決意した彼の顔は、最初に見た時よりひどく大人びて見えた。
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スノーホワイト('12アメリカ)-Jun 17.2012
[STORY]
幼い頃に母を亡くした王女スノーホワイト(クリステン・スチュワート)は、継母となったラヴェンナ(シャーリーズ・セロン)によって父を殺され、自身も城の塔で幽閉生活を強いられる。
7年後。ラヴェンナはいつものように魔法の鏡に「世界一美しいのは誰?」と問いかけるが、成長したスノーホワイトが美しいという答えが返ってくる。だが、スノーホワイトの心臓を手に入れれば美しさと力を得ることができるという。ラヴェンナはスノーホワイトを殺そうとするが、スノーホワイトは城から逃げ出しラヴェンナの力が届かない黒い森へ。ラヴェンナは森に詳しいハンターのエリック(クリス・ヘムズワース)を脅し、スノーホワイトを捕らえるよう命令する。
監督ルパート・サンダーズ(初監督作)
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原作は言わずと知れたグリム童話の『白雪姫』
過去に何度もアニメ、ドラマ、そして映画化されていて、私が見た一番最近の作品で、1997年の映画『スノーホワイト』がある。他の作品もそうみたいだけど、主役は白雪姫じゃなくて継母なんだよね。まぁ演技力を見せ付けるにはうってつけのキャラクターだと思う。根っからの悪女じゃなくて、理由があって鏡に頼るようになるという設定があるから同情する女性観客も多いだろうし。白雪姫も王子を待ってるだけじゃない。魔女と直接対決するのもお約束。相手役だってポッと出の男じゃなくて、リンゴをかじる前から出会っていて、最初はお互い反目していて次第に惹かれ合うってやつ。ホラー要素があったりアクションシーンもあり。オリジナルから現代的にアレンジしました!といってもそのアレンジのパターンがほぼ一緒なのが何だかねぇ。
これから公開される『白雪姫と鏡の女王』のほうが変わったところがありそうなので、そちらに期待してみるか。

これだけでストーリーをだいたい語っちゃったわけだが(笑)はっきりした違いというか、面白いなぁと思ったところを書いてみる。ラヴェンナを演じたセロンは本当に美しくて、他人の美貌を羨む必要ナッシング!そのせいか、スノーホワイトに対しては嫉妬ではなく彼女の心臓を食べるともっとパワーがつくよ〜という鏡の精さんの助言に従い、命を狙うようになる。
そのスノーホワイトだが、基本無表情で可愛げはない。97年版のモニカ・キーナは丸い顔が愛らしかったが、こっちはアゴ尖ってんだもんなぁ。『トワイライト』シリーズでのベラと演技変わらんし。ただ、本作のスノーホワイトは不思議な力を持っていて森の妖精や動物たちが彼女を導いてあげたりする(『もののけ姫』のシシ神さま?!みたいなシーンもあり)という役なので、あんまり明るい性格なのも違和感あるけど、何しろ魅力がない。物語を引っ張っていく牽引力がないというべきか。

牽引力がないのは王子に代わる男どもも同じ。2人登場するのだが、1人は貴族の息子で戦力はそこそこだけど存在感弱め。もう1人は強いけどバツイチで猟師。物語の流れは猟師になってるけど、ワタシ的には決め手に欠ける!と思っちゃう。それを察してか(いや、察してるわけじゃないだろうが)誰かとくっつかないまま物語は終了。そんでもって続編をやるんですと!ラヴィニアが復活するのか新たな敵が出現するのか・・・もう新しい男も出しちゃえば?(笑)
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星の旅人たち('10アメリカ=スペイン)-Jun 16.2012
[STORY]
カリフォルニアで眼科医をしているトム(マーティン・シーン)の元に、息子ダニエル(エミリオ・エステヴェス)の訃報が届く。彼はスペインにある聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の旅の途中で亡くなったという。トムはダニエルの遺品と遺灰を受け取るために現地へ向かい、すぐに帰国するつもりだったが、息子がなぜ巡礼の旅に出たのか知りたくなり、息子の代わりに旅を続けることを決意する。
監督&脚本エミリオ・エステヴェス(『ボビー』)
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エミリオ・エステヴェスは本作で製作から脚本、監督、出演までこなしている。出演は父マーティンのほか、妹レネ・エステヴェスも出演している。
映画の原題は『THE WAY』だが、邦題はブラジルの小説家パウロ・コエーリョの巡礼道を歩いた体験記『星の巡礼』からきているようだ(映画の中でもこの体験記のことが出てくる)

サンディアゴ・デ・コンポステーラの巡礼道を歩く映画ということで見てみた。『サン・ジャックへの道』を見てから私はこの場所の虜で(でも行って歩いて見たいとは思わないんだけど)TVで特集していれば見るし、世界遺産のDVDでもこれだけ買ったりしている。本作も見ながら「あー今ここまで歩いてきたのね」なんて、実際は行ったこともない場所を懐かしく感じながら(笑)見た。

エミリオ・エスヴェスとマーティン・シーン親子が劇中でも親子を演じてるんだけど、昔はこの2人ってそんなに似てると思わなかったんだよね。弟チャーリー・シーンは親父に似てると思ってたけど。でもエミリオが歳取って太ったせいか2人が並んでいるのを見て、似てきたなぁとしみじみ。しかし息子は親父に無茶させるよなぁ(苦笑)実際に歩いた距離は短いかもしれないけど、山道は歩かせるわ走らせるわ川に流されるシーンは撮るわ、撮影時はまだ70前だったかもしれないけど(2012年で72歳)何だかハラハラさせられるシーンが多かった(笑)父親だから大丈夫と、あえてやらせたのかもしれないけどね。

映画は死んだ息子に代わって父親が巡礼道を歩き、途中途中で息子の遺灰を撒いていく。また、ちょっとクセのある国籍もバラバラの男や女と出会い、いつのまにか彼らと仲良くなって一緒に旅をするようになるという王道のロードムービーだ。同じ場所で撮っていても『サン・ジャックへの道』とはだいぶ違う。でも旅の途中で豪華なホテルに宿泊するシーンがあったり、大聖堂からその先の大西洋まで歩くところが『サン・ジャックへの道』と同じだったのが逆に驚いた。これは映画に限らず多くの巡礼者が辿るルートなのかも?と興味深かった。豪華ホテルのシーンは本作のほうが上手く使えていたと思う。でも大西洋のシーンはもうちょっと天気がよければよかったのになぁ。白い空に白い波で全体的に画面が白っぽくなってしまったのが残念。

映画としては本作のほうがいい話なんだけど、最初に見て「うわー!」ってなった『サン・ジャックへの道』のほうが印象が強烈で忘れられない。見た順番が逆になってたらどうだろう?と想像してみたんだけど、そしたら巡礼道に興味を持つことはなかったような気がする。本作も景色にもう少し気を配ってくれたらまた違ったかもしれない。
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ジェーン・エア('11イギリス=アメリカ)-Jun 2.2012イイ★
[STORY]
幼い頃に両親を亡くし、引き取られた先で従兄弟にいじめられ、寄宿学校でも教師たちから虐げられてきたジェーン・エア(ミア・ワシコウスカ)。それでも努力を重ね晴れて学校を卒業し、ロチェスター家での家庭教師の職を得る。屋敷の主人であるロチェスター(マイケル・ファスベンダー)は彼女に厳しい言葉を投げつけるが、それに対して毅然と応えるジェーン。いつしか2人は惹かれあい結婚の約束をするが・・・。
監督キャリー・ジョージ・フクナガ(『闇の列車、光の旅』)
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原作はシャーロット・ブロンテの1847年に発表された同名小説。過去に3度映画化、2度ドラマ化されている。
私は1996年のシャルロット・ゲンズブールがジェーン、ウィリアム・ハートがロチェスターを演じたバージョンは見ている。当時は主演よりも幼少時代のジェーンをアンナ・パキン(『ピアノ・レッスン』でアカデミー助演女優賞受賞後)が演じたことで話題になった作品だ。その時は特に感動はしなかったんだよね。でも本作は何故かボロ泣きでした(笑)

見終わってふと考えてみたんだけど、ジェーンとロチェスター2人とも若いっていうのが一番の理由かもしれない。ジェーンは初々しくて、じっと堪える様子がいじらしいし、黙っていても顔につい表れちゃうところが感情移入しやすくて、恥ずかしがったり嫉妬したりするシーンでいちいちキュンとしてしまった。ロチェスターも、ウィリアム・ハートは中年の男らしい鷹揚と構えた雰囲気だったが(後ろ暗いところがあるくせに何で余裕ぶっこきまくってんの?って思ってた(笑))ファスベンダー演じるロチェスターは若いせいか情熱的だ。秘密を抱えて苦悩し、ジェーンを失いたくないとジリジリ焦っている姿にこれまたキュンキュンさせられる。ファスベンダーは私が一番最初に見た映画ではホントにイヤな奴で印象が悪かったんだけど(フランソワ・オゾンの『エンジェル』)どんどん印象が良くなっていて、今では私の彼が出ている映画なら見る!という俳優の1人になっている。

そんで実はこのあともう1回映画館でこの映画を見ちゃったわけだが(今回は間を置かずに行ったので感想は分けません)2回目は前回よりも冷静になって見れて、一度も泣くことはなかった。1回目の時は何だったのかなぁ(笑)
まぁ今回は冷静に見た分、映像全体に目を配ることができた。風景を美しく撮っていて、特に光と影の使い方がよかった。フクナガ監督の前作『闇の列車、光の旅』は、内容があんまり見たいと思わなかったのでパスしたんだけど、予告を何度か見ていて、そのときも光と影の使い方がいいなぁと思ってたんだ。ジェーンが一人佇む場面ですっと影が差すんだけど、嬉しい時の淡い影、悲しい時の暗い影、その色にまでこだわりがあるように見えて、繊細な人なのかなと思った。この監督も今後見ていきたい1人になった。
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