Movie Review 2007
◇Movie Index

アズールとアスマール('06フランス)-Jul 28.2007ヨイ★
[STORY]
アラビア人の乳母ジェナヌ(声:玉井碧)に育てられたフランス人のアズール(声:浅野雅博)とジェヌナの息子アスマール(声:森岡弘一郎)は兄弟のように育った。しかしアズールの父は遊んでばかりの息子に怒り、アズールを家庭教師の家に預け、ジェナヌとアスマールを家から追い出してしまう。やがて大人になったアズールは、ジェヌナから聞かされていた“ジンの妖精”を救い出すため海を渡る。だがこの地ではアズールの青い目は不吉とされ、人々が逃げて行ってしまう。そこでアズールは盲目のふりをし、物乞いのクラプー(声:香川照之)の助けを借りながら“ジンの妖精”の手がかりを探しはじめる。
監督&脚本ミッシェル・オスロ(『キリクと魔女』
−◇−◇−◇−
ミッシェル・オスロが初めて3DCGを用いたというアニメーション。日本語版の演出は高畑勲。

やっぱりこの監督のアニメは最高!といっても日本では3作しか上映されてないけど、でもその3作すべてが素晴らしい作品だ。本作も基本的にはオーソドックスなおとぎ話だけど、冒険シーンはハラハラドキドキさせることなくサクサクと進行する。けれど美しい背景と個性的な登場人物のせいで飽きることはない。終盤では問題が起きるが、観客が子供とか大人とか関係なく一緒になって「どうしたらいいんだろう」と考えさせられるのもいい。そして私が一番いいと思うのは、最後は主人公がパートナーを得てハッピーエンドという王道中の王道で終わってくれるところ。やっぱりおとぎ話は安心感を得たいわけよ(笑)途中を外しても最後は外さないでほしいのだ。

昼間はすべて吹替版で夜しか字幕版の上映がなかったので仕方なく吹替を見たんだけど、吹替で良かったかもしれないと思った。元のフランス語部分だけが日本語に吹替されていて、アラビア語は元のまま(字幕版でもアラビア語には字幕が出ないようだ)なんだけど、日本語との声の違和感がほとんどなく、自然に耳に入ってくる。アズールは顔にぴったりの美声だし、シャムスサバ姫(声:岩崎響)も8歳の子とは思えないほど上手い。香川照之は言われないと分からないほど違う声だ。高畑氏は製作するアニメはアレだけど(おいおい)声優選びや演出は上手いなぁ(逆に宮崎氏は声優が・・・つーかあれは鈴木のせいか)

新作はまた数年後だと思うけど、早く見たい。昔の短編も見たい。とにかくすべて見たくなってしまった。
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インランド・エンパイア('06アメリカ=ポーランド=フランス)-Jul 21.2007
[STORY]
裕福な夫と豪邸に暮らす女優のニッキー(ローラ・ダーン)は新作映画『暗い明日の空の上で』の主演に抜擢され大喜び。しかし監督のスチュワート(ジェレミー・アイアンズ)から、この映画がお蔵入りとなったポーランド映画『47』のリメイクで、撮影中に主演の2人が殺されたいわくつきの作品だと知らされる。撮影に入り、ニッキーは映画のストーリーと共演者のデヴォン(ジャスティン・セロー)と不倫するようになり、次第に映画と現実の区別がつかんくなっていく。
監督&脚本デヴィッド・リンチ(『マルホランド・ドライブ』
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第60回全米批評家協会賞の実験的作品賞を受賞。

『マルホ〜』は2回も劇場で見たほど好きな映画だったけど、これは1回でもつらかった。途中で眠くなってしまうは、混乱するは、帰りたくなるは、Tシャツはべらぼうに高いはで(笑)もうカンベンして下さい!と言いたくなった。今回は手持ちカメラが多用されたり、リンチのWebサイトで発表された短編が挿入されたりしているということで、映像にムラがあって余計に疲れてしまったようだ。

また、女優ニッキーのパートに『暗い明日の空の上で』のパート、未完だった『47』のパートとポーランド人女性がテレビを見ながら泣くパート、そしてナオミ・ワッツとローラ・ハリングがウサギの着ぐるみを着てホームドラマを演じるパートの5つの物語がかわるがわる出てくる。つい『マルホ〜』を引き合いに出してしまうのだが、あの作品も分からない部分はたくさんあった。でも分かる部分もたくさんあったので、その分かる部分を取っ掛かりにして、分からない部分について想像したり考えたりして楽しむことができた。でも本作の場合はその取っ掛かりすら作ることができずに、ただ見てるだけになってしまったのだ。それが正しい見方なのかもしれないが、私にはそれだけじゃダメみたい。

それに個人的にローラ・ダーンがあんまり好きじゃないせいもあるかも。まず顔が苦手で(ごめん)ただ今回はその彼女の、メイクによってガラリと変わる顔を生かした作品ではあったかな。ホラー映画よりもずっと怖い顔をしたシーンだけは今でも忘れられない。でも最後にローラ・ハリングが出てきたのを見て、やっぱり彼女をもっと見たい!と思いました(笑)相変わらずセクシーでステキだった。あと裕木奈江もちょい役ではあったけど、たどたどしい英語で一生懸命に話をする姿に、こっちも夢中になって聞いてしまった。彼女のキャラクターもリンチ映画にハマるものなのね。驚き!
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魔笛('06イギリス)-Jul 16.2007
[STORY]
第一次世界大戦前夜のヨーロッパ。兵士タミーノ(ジョセフ・カイザー)は毒ガスで気を失っていたところを3人の看護婦に助けられる。彼女たちは夜の女王(リューボフ・ペトロヴァ)に仕えていて、暗黒卿ザラストロ(ルネ・パーペ)に誘拐された女王の娘パミーナ(エイミー・カーソン)を、彼に助け出して欲しいと依頼する。パミーナの写真に一目惚れしたタミーノは、女王から贈られた魔法の笛を持ち、小鳥を愛する兵士パパゲーノ(ベン・デイヴィス)と共にパミーナの救出に向かう。
監督&脚本ケネス・ブラナー(『恋の骨折り損』)
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モーツァルトのオペラ「魔笛」を大胆にアレンジした作品で、モーツァルト生誕250年に合わせて製作された。舞台を古代エジプトから第一次世界大戦前夜のヨーロッパに設定し、言語もドイツ語から英語に訳している。共同脚本に『オスカー・ワイルド』の俳優スティーブン・フライ。

第一次大戦を舞台にしたということで、どういうアレンジがされているのか楽しみにしていた。予告での戦闘機が飛び交うシーンや、花畑が広がる大地の真ん中に作られた塹壕、CGをふんだんに使った面白い映像の数々に、壮大な音楽と鳥肌が立つような歌声――。けれど実際に見てみて、アレンジがうまくいっている部分ももちろんあったけど、全体的には第一次大戦じゃなくても・・・という微妙な感じでした。だって「夜の女王」のままなんだもん。第一次大戦でなぜ「夜の女王」なのよ。実際に戦ってる国の女王にしたら差し障りがあるんだろうけどさ。あとは戦争中なのにパミーナを救い出す旅に出ちゃっていいの?とか(そんなこと言ったら子供たちが空を飛んでるますが?とかキリがないけど)これなら設定を第一次大戦になんてしなきゃ良かったのに。

で、いちいち気にしててもしょうがないと思ったので「これは魔笛の曲を使ったプロモーションビデオみたいなもんだ」と思うことにした。そしたらすべて解決!(笑)PVだから何でもアリ。ストーリーより歌を楽しめばいいのだ。
とはいえ、悪だと思っていたザラストロに実際会ってみたら・・・という見る角度によって善悪が逆転するというところが面白い。これがあるから設定を戦争中にしたんだろうなぁ。それは分かる気がする。また、ザラストロと夜の女王、そしてパミーナとの関係をはっきりではないが匂わせるところも興味深かった。

ところでザラストロの軍の犠牲者の墓碑銘に日本人の名前が数多く書かれていたんだけど、この名前はどっから持ってきたんでしょうか。「山本道夫」とかやたらリアルな名前があったんですけど(笑)
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街のあかり('06フィンランド)-Jul 14.2007ヨイ★
[STORY]
フィンランド、ヘルシンキ。警備会社に勤めるコイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)は、夜勤のあと1人で酒を飲みソーセージ屋に立ち寄って店主のアイラ(マリア・ヘイスカネン)と少し話して家に帰るという孤独な毎日を送っている。そんな彼の前にミルヤ(マリア・ヤンヴェンヘルミ)という女が現れ声を掛ける。コイスティネンは彼女と何度かデートするが、ミルヤの目的はコイスティネンから宝石店の鍵を奪うことだった。強盗の濡れ衣を着せられたコイスティネンはミルヤのことを話さず、彼だけが逮捕されてしまう。
監督&脚本アキ・カウリスマキ(『過去のない男』
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『浮き雲』、『過去のない男』に続く敗者三部作の最終章。第59回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。

最終章にして凄まじいまでの負けっぷり(笑)主人公の一途さというか頑なさが一番強いとも言うかな。今までの主人公よりずっと若いせいかもしれない。これでもかと逆境を与えてもまだ這い上がる力があるぞって見てて分かるから。だから余計に試練を与えたのかも。これがカティ・オウティネンやマルック・ベルトラだったら死んじゃってるかもしれん(おい)

一途といえばアイラの一途さに私は切なくなった。最初はただの脇役なのかと気にしてなかったが、コイスティネンのデート話を聞いて急に店を閉めると言い出したところで初めて彼女の想いを知り、そこから目が離せなくなった。コイスティネンが逮捕されれば心配して裁判に駆けつけ、獄中へは手紙を書き、出所後は会いに行く。それでもコイスティネンに相手にされない。彼女もまた負けっぱなしなのだ。そりゃミルヤに比べたら地味だし美人とは言えないし年は・・・どっこいどっこいか(笑)そんなアイラがだんだん可愛く見えてくるのが不思議だった。

綺麗な光にばかり目を取られて、近くの“あかり”に気付かなかった、いや気が付いていたが目を背けていたコイスティネンが、どん底まで落ち暗闇の中でようやく“あかり”に目を向け、その暖かさに触れてみたところで自然と涙がこぼれた。しかし直後にエンドクレジットとはもったいない。もう少し先を見せてよ!と久々に思った映画だった。

そういえばカティ・オウティネンがチョイ役で出てるのだが、スーパーのレジ係というだけで名前がなかった・・・。三部作の最後でどんなイのつく名前かと楽しみにしてたのになぁ。
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傷だらけの男たち('06香港)-Jul 7.2007
[STORY]
2003年の香港。クリスマスの夜、刑事のポン(金城武)が仕事を終えて帰宅すると、恋人が自殺を図っていた――。
3年後、ポンは刑事を辞め私立探偵になっていたが、恋人の死から立ち直れず酒に溺れる日々を送っていた。一方、ポンの上司だったヘイ(トニー・レオン)は金持ちの娘スクツァン(シュー・ジンレイ)と結婚し、幸せに暮らしていた。しかし彼女の父チャウが強盗に殺されてしまう。事件は強盗同士の諍いによって犯人がみな死亡し解決したかにみえたが、不可解な点も多かった。スクツァンはポンに事件を調べて欲しいと依頼する。
監督アンドリュー・ラウ、アラン・マック(『インファナル・アフェア』シリーズ)
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『インファナル・アフェア』シリーズのスタッフが再びトニー・レオンを主演に映画を撮りたい――しかし今回は悪役で、というところから始まった作品。既にハリウッドでのリメイクが決定しており、レオナルド・ディカプリオが主演を務める。

まずタイトルを変えたほうがいい。『飲んだくれの人たち』ってね。最初から最後まで男女問わず酒飲みまくり。自分が飲むのはいいけど人が飲んで酔っ払うのを見るのはイライラしますな(おいおい)しかも酔ってるのは登場人物ばかりでなく製作してるほうも?と思わせるような、あまり緊張感のない演出をしていたかと思えば、時々正気に戻ったかのように唐突に事件の裏側を描いてみたり。見てるこっちはこの何の説明もないいきなりの映像に「これは一体何のシーン?!」とびっくりし混乱してしまう。後になって、このシーンの意味を理解できる作りにはなっているけれど、かなり不親切だ。

さらに顔をはっきり映さなかったり観客に分からせようという演出をしていないので「あの時のアイツがコイツだったのか」という驚きを上映中でなく、見終わってネットを彷徨った時に知ることになる。名前もチョイだのチャウだの紛らわしくて漢字で書いてくれって思ったり(字幕だからしょうがないんだけど)2度3度見ればさらにいろんなことが分かるのだろうが、私にはそこまで惹きつけられる映画でなかったのでもういいや、という感じです。ハリウッドリメイクのほうがおそらくもう少し親切に作るだろうな。『インファナル』と『ディパーテッド』なら『インファナル』のほうが断然いいが、本作はひょっとしたらリメイクのほうが面白く仕上がるかもしれない。

『インファナル』のパート1ではトニー・レオンが最高に魅力的だったが、今回は髪型のせいか普通のオッサンになっちゃって、役柄は魅力的だが色気が足りず、やはり見た目も大事なんだと改めて思いました(笑)そのかわり金城君が良かった。酔った演技はあまり上手いと思えなかったが、切ない表情がもう・・・。そして『インファナル』シリーズでは女性が添え物という感じだったが、本作は全てを知ってもそれでもなお愛するスクツァンと、フォン(スー・チー)の屈託のない可愛らしさが印象に残った。
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