Movie Review 2003
◇Movie Index

ハート・オブ・ザ・シー('03日本)-Aug 19.2003
[STORY]
田中典子(須藤理彩)は7年勤めた広告代理店を辞め、故郷の千葉・和田町へと帰ってきた。亡くなった両親の代わりに典子を育ててくれた順次(マイク真木)の店を手伝いながら、典子はのんびりとした時間を過ごしていく。そんなある時、幼馴染の洋介(黄田川将也)は、ビーチクリーンコンサートに杉山清貴を招こうと計画を立て、典子も手伝うことになり・・・。
監督・錦織良成(『白い船』)
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本作は「デジタルdeみんなのムービープロジェクト」参加作品で、撮影から上映までフルデジタルの映画は日本初だそう。映画館のないホールなどでも上映できるそうだ。こういうプロジェクトっていいよね。

友達Mちゃんの知り合いが関わってる映画ということで、Mちゃんと見てきた。どういう映画なのか予備知識ゼロだったし、正直全然期待してなかったんだけど、偉そうで申し訳ないが思ったよりも悪くはなかった。

物語が動き出す前の、和田町に暮らす人々の日常と風景を描写していくシーンは良かった。昼間は綺麗な海のそばでのんびりと過ごし、夜はBarで飲んだくれる(←ここ重要)最高じゃないっすか!マリンスポーツに全く興味のない自分でも和田町で暮らしてみたいなぁと思わせる、和田町の町おこし映画とするならば上出来だ。

しかし若くして亡くなったプロボディボーダーの四方田富士子氏と、彼女の友人だった杉山清貴が物語に絡んでくると、途端にちぐはぐな印象を受ける。幼馴染の真智子が四方田氏に憧れてボディボーダーに一生懸命だという設定はいい。でも典子が杉山清貴のファンだったとか、順次が彼と知り合いだったとかいう設定は、物語の途中でいきなりポンと出てくるので、まるで取って付けたかのようで空々しく感じてしまった。エンドクレジットに四方田氏の映像や声を入れたのにも違和感あり。これじゃ典子が追いやられちゃってるよ。
典子が最初はボディボーダーにも杉山にも興味がなかったのに、町の人々がビーチクリーン企画に奔走をするのを見て、自分も両者に興味持つようになるという設定のほうが良かったのに。その時に、四方田氏の映像を典子が見て感激するっていうことにして、観客にも彼女の映像を見せてくれたほうが、より理解できると思うのだ。いくら言葉だけで彼女が凄かったと言われても、やっぱり分からないもの。きちんと整理すればいい話になっただろうになぁ。

ところで杉山清貴のことをKTって言うんすか?映画を見てて、それが一番の衝撃だった(笑)
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HERO('02香港=中国)-Aug 16.2003
[STORY]
紀元前200年の泰国。泰王のいる王宮に無名(ジェット・リー)と名乗る1人の男が、泰王を狙う3人の暗殺者、長空(ドニー・イェン)、飛雪(マギー・チャン)、残剣(トニー・レオン)の武器を持って現れた。彼は3人を殺したという。普段、泰王は百歩以内に誰も近づけぬようにしていたが、無名に対しては特別に三十歩まで近寄って拝謁することを許した。そして3人を殺した経緯を聞き出した。
監督&脚本チャン・イーモウ(『至福のとき』
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第75回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート(受賞したのは『名もなきアフリカの地で』
アクション監督に『少林サッカー』のチン・シウトン、撮影監督に『花様年華』のクリストファー・ドイル、音楽は『グリーン・デスティニー』のタン・ドゥン、衣装をワダ・エミが担当している。

と、これだけ素材を揃えておいて、できた映画がこれか・・・と思うと脱力するな。ここからちょっとネタバレになるけど、無名が泰王に暗殺者たちを殺してきた経緯を語るのだが、泰王が無名の説明の矛盾点を突き、次々と真実が明らかになっていくというお話。回想シーンがワイヤーアクション満載になっており、嘘のシーンでは衣装が赤、真実では白、と衣装の色を替え、砂漠や湖で戦いを繰り広げる。この設定は面白いと思う。

でもビジュアル的には枯葉が舞いすぎで綺麗じゃなかったり、アクションは同じ場所でくるくると回ってるだけなので、緊張感がまるでなく、ちっとも興奮しない。回想シーン2つも見ればもうおなかいっぱい。DVDで見てたら残りのアクション部分をすべて早送りにしてたぞ。でも嘘から真実に近づくにつれて、アクションに重さが加わり、派手さがなくなり地に足がついていってるように見えたのは面白いと思った。だけど見た目的にはどんどん地味になっていってるので、退屈と感じてしまう部分のほうが大きかった。それなら逆に血生臭さを出すべきだったのでは?

そんなわけで中盤ですっかりダレていたので、そのあとにいいシーンやいいセリフがあっても心にまで届かず。徐々に盛り上げてくれていたら、泰王と無名の、それぞれの決意のシーンで泣いてたかもしれないのに。ドラマ的には一番の見せ場はあそこでしょう。タイトルがHEROである意味を観客が理解する重要なシーンなのになぁ。だからこの映画そのものがぼやけて見えてしまったんだと思う。

湖での、無名と残剣の“意識の中の戦い”シーンはアクションシーンの中では一番印象に残った。残剣が飛雪を愛しく思ってることも伝わったし、何よりも湖そのものが美しくて見惚れた(湖面が鏡のようになるのが1日に2時間ほどで、撮影は20日も掛かったそうだ。その熱意は素晴らしい)
ただ“意識の中の戦い”というのは如何様なものであるか?の描写が欲しかった。あれでは他の戦いとどこが違うのか分かりにくいと思う。てゆーか“意識の中の戦い”がどんなものなのか誰か私に教えてくれませんかね?(おい)
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名もなきアフリカの地で('01ドイツ)-Aug 16.2003
[STORY]
第二次大戦下のドイツ。ユダヤ人のイエッテル(ユリアーネ・ケラー)と娘のレギーナ(レア・クルカ)は、ナチスの迫害から逃れるためにアフリカのケニアへ旅立つ。夫のヴァルター(メラーブ・ニニッゼ)は先にケニアへ渡っており、農場で働いていた。イエッテルはアフリカでの暮らしになじめず、ドイツへ帰りたいとヴァルターに訴えるが、ナチスによる迫害は日を追うごとにひどくなっており、とても帰れる状況ではなくなっていた。そんな中、レギーナはアフリカ人の料理人オウアと仲良くなり、言葉を覚えたり、子供たちと一緒に遊ぶようになる。
監督&脚本カロリーヌ・リンク(『ビヨンド・サイレンス』
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第75回アカデミー賞外国語映画賞受賞。

第二次大戦中のユダヤ人迫害映画を見る時はつい気張ってしまうのだけれど、この映画では直接迫害されるシーンがなく、別天地へ移った家族の心の葛藤や成長を中心に描かれているので、穏やかに見ることができた。はずなんだけど、本国では『戦場のピアニスト』のような状態になっているのに「帰りたい」って言ってるイエッテルにちょっとムカっときたり(笑)夫婦の言い争いに腹を立ててみたりと、やっぱり穏やかじゃなかったかも(笑)

とにかくこの夫婦がねえ・・・。お嬢様だったイエッテルがアフリカでの暮らしについていけないというエピソードはいい。そして夫から、イエッテルのアフリカ人に対する冷たさは、本国でナチスがやってることと同じだと指摘され、そこから次第に変わっていくところもいい。アフリカ人たちの死生観を理解し、風習を学ぶ。こうして彼女は大きく成長していくのだ。でも夫も含め、男への接し方は問題あり。夫の友人ジェスキントやイギリス兵をたぶらかすなよ〜。ひどいよひどいよ(笑)しかし1人の女として正直に、心の動きを丁寧に描いてるからね。納得できなくもない。

その分、割を食っちゃってるのが夫ヴァルターかもしれない。女性の監督だからか、女性に比べて男性の描写が大雑把なのだ。だからヴァルターが最初は農場での生活に満足しているように見えたのに、いきなりこの仕事が嫌だと軍隊に入ったり、やっぱり弁護士の仕事がしたいとか、その時々で考えがコロコロ変わる人に見えてしまった。イエッテルも勝手なところはあったけど、気持ちの変化として見てとれたから。ヴァルターのはただの身勝手。まぁ一番可哀相だったのはジェスキントだったかもしれない。いい嫁さんもらって幸せになって欲しいよ・・・。

夫婦はダメだったけど、娘のレギーナが素直で聡明で可愛いかったのが救いだった。途中で成長して別の子に変わるんだけど『ビヨンド・サイレンス』のララの時のように、役者が変わっても違和感がなく、ガッカリすることもなく、2人が似てて安心しちゃった。そしてアフリカの人々の大らかさと笑顔にも救われた。ラストシーンの女性のセリフも良かったなぁ。

一家は最後にドイツへ帰っていくのだけれど、帰ってからアフリカでの暮らしが大変幸せだったことに気づくのだろう。そこがちょっと見たかった気がする。っていうか、あの夫婦は大丈夫かね?・・・離婚したりしてね。
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パンチドランク・ラブ('02アメリカ)-Aug 14.2003
[STORY]
バリー・イーガン(アダム・サンドラー)は実業家として忙しい毎日を送りながら、大量のプリンを買い込んでマイレージを貯め込むことにいそしんでいる。普段は心優しいが、幼い頃から7人の姉にからかわれ続けてきたせいで、一旦キレると暴れ出し、自分をうまくコントロールできない。その悩みをテレフォンクラブの女性相手に打ち明けようとするが、逆に強請られてしまう。そんな時、彼の前にリナ(エミリー・ワトソン)という女性が現れ、彼女と恋に落ちるが・・・。
監督&脚本ポール・トーマス・アンダーソン(『マグノリア』
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第55回カンヌ国際映画祭最優秀監督賞受賞。

上映時間が前作の約半分。でも95分中約82分(←適当)は、不快を感じる映画だ。バリーという男の痛々しさを前面に据えて、愛情を持って描くでもなく、冷静に見つめるわけでもなく、非常に嫌らしい視点で描いている。でもまぁ不快な映画は基本的には嫌いじゃないので(笑)彼がとことん痛めつけられるを見守ろうと思ったのだが、気が付けば中途半端にハッピーエンド。だーめーじゃーん(笑)

最悪な結果ばかりを予想したくなるような雰囲気をずっと漂わせてたのに、何ですかこれは。私がせっかく、プリンで貯めたマイルが無効になったりとか、あのオルガンがいきなり爆発して会社が潰れるとか、リナがバリーに近づいたのは特別な事情があったからとか、フィリップ・シーモア・ホフマン演じるトランベルからとんでもない報復を受けるとか、最後はバリーが精神を病んで入院する・・・って予想したのに!(笑)

リナが彼に興味を持ったのは、お姉さんたちのせいで彼が情緒不安定な男になってしまったことに気が付いたからだろう。彼とのデートでそれが分かったのはいい。でもそこから先、彼と付き合いたいと思うようになったのかは、もう少しきちんと描くべきだったんじゃないかな。初デートの後がちょっと唐突すぎて、上のように実はリナが何か企んでんのかと勘ぐりっぱなしだった。単にリナがダメ男好きなだけだったのかねえ?というか、あそこで電話を掛けてきたのはちょっと気味が悪かった。結局、お似合いカップルってことなんでしょうか(なら、まぁいいか)

ポスターなどでも使われている、2人がキスしてる影の向こうにビーチが見えるシーン。私もあそこで写真を撮ったことがあるので、ここが出てきた時はすっごい嬉しかった。綺麗なんだよねー。でも2人の後ろにエキストラ入れ過ぎ!わざとらしすぎて嬉しさもここで一気に冷めた。

うーん、P・T・アンダーソン作品を見るのは3本目だけど(1作目は見てない)だんだん面白くなくなってきてるかな。とにかく狙いすぎが鼻につく。言われるほど才能はないと思う。次はマニアや批評家が喜ぶようなネタを捨てて、ストレートに勝負してみてはどうだろうか。
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キリクと魔女('98フランス)-Aug 14.2003オススメ★
[STORY]
アフリカのとある村。この村は魔女カラバ(日本語吹替版の声:浅野温子)によって苦しめられていた。そんなある時、村では自分から母親のお腹から出て、自分で名前を付けた男の子が誕生した。名前はキリク(日本語吹替版の声:神木隆之介)。キリクは村が瀕している理由を聞き、疑問を投げかけた。
「どうして魔女のカラバは意地悪なの?」
その疑問に答えられるのはお山に住んでいる賢者だけ。キリクは賢者に会うために、たった1人で山へ向かう。
監督&脚本ミッシェル・オスロ(長編アニメーションは初)
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『千と千尋の神隠し』などでおなじみのスタジオジブリ第1回洋画アニメーション提携作品(でも配給はアルバトロスフィルム(笑))で、高畑勲が日本語版の翻訳と演出を手がけた。

実はこの日の本命は、この映画の後に見た『パンチドランク・ラブ』で、こっちはついでだったんだけど、いや、素晴らしかった。見て良かった。個人的にこの夏いちばんの映画。高畑にはいつも騙されてるので(笑)全然期待してなかったせいもあるだろうけどね。

ストーリーは突飛なんだけど、日本の昔話に近いかな。桃太郎とか一寸法師みたいな感じ。でも勧善懲悪の物語ではない。いろんな見方ができる。大人と子供の線引きっていうのをあまりしたくはないんだけど、子供から見ればキリクってすごい!強い!と、キリク中心に見て面白いと感じるだろう。でも大人が見ると、カラバや村の人々に目が行ってしまうはず。魔女は最初から魔女ではなく、きっかけがあれば誰でも魔女になってしまうのだということ。そして村人たちの言葉や行動は、群衆の心理を的確に突いている。物事をしっかりと自分の目で確かめて判断するのではなく、ちょっとした情報に流されやすく、他人にすぐ同意してしまうところ。自分たちとは違うキリクに対して畏れ、排除しようとするところ。それらがきちんと表現できていて感心してしまった。

もちろんキリクが勇敢で頭がよく、可愛らしいところも見逃してはいない。完全無欠のヒーローではないところがまたいいのだ。あまりにも彼が凄い働きをするので、つい彼が生まれたばかりだということを忘れてしまうのだが、時折、ふと弱さを見せるのね。その見せ方のタイミングが素晴らしい。思わず私もキリクを抱きしめたくなるほどだ。

アニメそのものに関しては、背景は美しく、動物の動きは滑らかなのに、人間の描き方はかなり大雑把で歩き方など違和感がある。これはわざとなんだろうか。それと、カラバに仕える小鬼たちのキャラクターがロボットみたいで(アフリカの彫刻をモチーフにしているらしい)これにも最初は違和感があったんだけど、見慣れてくるとこれ以外に考えられないほどハマって見えて、それが不思議だったなぁ。

昼間だったので吹替版だったんだけど、主演2人がピッタリだった。神木君ってやっぱりスゴイわ。それからキリクの母親の声を担当した人は誰だったんだろう。とてもいい声で聞き惚れてしまうほど。でもフランス語版の声も気になるので、DVDが出たら両方また見なくちゃ。
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