Movie Review 2011
◇Movie Index

マネーボール('11アメリカ)-Nov 12.2011
[STORY]
2001年。オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、来年度に向けての補強資金をオーナーに求めるが、ニューヨーク・ヤンキースなどのチームと違い、資金力のないアスレチックスには予算を増やすことはできなかった。そんな時、トレード交渉のためにクリーブランド・インディアンズのオフィスを訪れたビーンは、ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)というスタッフと出会う。彼は統計取り選手を客観的に評価していた。そんな彼の理論に興味を抱いたビーンは、彼をアシスタントとして引き抜き、低予算でチームを作ろうとする。
監督ベネット・ミラー(『カポーティ』
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原作はマイケル・ルイスのノンフィクション『マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男』で、アスレチックスのゼネラル・マネージャーであるビリー・ビーンが、野球を統計学的見地から客観的に分析して選手の評価や戦略を考える手法を用いてチームを作り上げる様子が描かれている。
ちょっと立ち読みしたけどノンフィクションというよりビジネス本ですごく読みにくかった(笑)映画ではアシスタントはピーター・ブランドという名前だったが、原作(というか実際は)ポール・デポデスタという人物で、本名を使っている人物とそうでない人物がいるのは、本人の了承を得られたか得られてないかの違いなのかな?

日本でメジャーリーグのニュースが出る時はたいてい日本人選手が活躍したかどうかで、ヒットを打ったとか0点に抑えたとかそういうのばかり。外国人選手の話題はほぼなく、珍プレーをした時くらいしか映らない。リーグの順位はおろか、その試合がどちらのチームが勝ったのかすら報道しないこともある。本気でメジャーが好きな人は自分で調べろってこと。
私は野球は嫌いじゃないけどメジャーは興味ないし(イチローの安打数くらいか)上に書いたような報道の知識くらいしかないんだけど、そんな私でもアスレチックスが20連勝したニュースは知っていた。でもGMがこんな取り組みをしていたなんて知らなかったわ。

この映画が公開された頃、ちょうど日本のプロ野球でもオーナーとGMとのゴタゴタがあって、やっぱりプロ野球界って特殊なんだなぁと感じていたけど、映画を見てアメリカもあんまり変わらないんだなと思った。もっと客観的でビジネスに徹してるのかと思ったけど、老齢のスカウトたちなんて長年の勘を頼りに博打みたいに選手を取ってる。ビーンのやったことはごく普通の企業なら当たり前の経営戦略なのに、球団経営となると異端児扱いで批判されまくり。いかに独特な世界か分かる。

なんか野球界の話ばかりで全然映画の内容に触れてないんだけど(笑)ではここから。あの原作を映画にするのにおそらくさらに調査を重ねただろう。脚色は『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンだから得意かも?ピットが出ている映画にしては恐ろしく地味で、良作なんだけど地味。あくまでも主役はビリー・ビーンなので、チームの勝利などをあまり大げさにするとチームが主役になってしまう。それを避けるためにできるだけ抑えて演出したのだろうが、いまいち盛り上がりに欠ける映画になってしまった。アスレチックスの戦績も微妙だしね。彼がオファーを断ったレッドソックスのほうが優勝しちゃうし(笑)

ピットは相変わらず映画の中で食べるシーンが多い。そんなに撮影以外で食べるヒマないのかね(笑)
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ステキな金縛り('11日本)-Nov 10.2011
[STORY]
弁護士の宝生エミ(深津絵里)は失敗続きで担当弁護士を外されてばかり。上司の速水(阿部寛)はこれが最後だ!と妻殺しで逮捕された矢部五郎(KAN)の弁護をエミに任せる。矢部は「旅館で落武者の幽霊にのし掛かられて金縛りにあっていた」とアリバイを主張。無実を証明するためエミがその旅館に調査に行くと、彼女もまた金縛りに遭ってしまう。エミは落武者が本当にいたと大喜び。その幽霊・更科六兵衛(西田敏行)をそのまま連れて帰り、裁判の証人として出廷させようとする。
脚本と監督・三谷幸喜(『ザ・マジックアワー』
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三谷幸喜監督の5作目であり、三谷幸喜生誕50周年記念作品?と今年は5に縁のある年なんだそう。11月5日には『ステキな隠し撮り〜完全無欠のコンシェルジュ〜』 という、本作の出演者がホテルの従業員や客に扮したオリジナルドラマが放映された。
また、『ザ・マジックアワー』の売れない役者・村田大樹(佐藤浩市)が本作でも“まだ売れない役者”として出演している。

今までの作品は舞台でもできそうな作品だったが、本作は会話は相変わらずの三谷節炸裂だったものの、幽霊が登場したり消えたりで、ちょっと映画らしい作品になっていたのではないかな。ただ、内容は2時間20分もかけてやるにはお粗末で、少なくともあと15分は削ってよかったんじゃないかな。笑えるところはもちろんたっぷりあったけど、脚本力で笑えたというよりは役者の力、特に西田敏行と中井貴一の上手さに随分助けられてると感じた。

妻殺しの犯人として逮捕された男がアリバイを主張し、それを証明できるのが幽霊しかいないという突拍子もない設定。法廷はアリバイ証明が焦点となるはずが、いつの間にか幽霊が存在するかしないかの証明に変わっていってしまう。ここは面白かった。被告がそれに気づいてボヤくところも笑える(笑)
実は、観客は最初から犯人が分かっている。映画の冒頭で見せられてしまうからだ。三谷がかつてTVドラマで脚本を書いていた『古畑任三郎』もこのパターンなので、この映画でもそれを彷彿とさせる展開に持っていくのかな?と期待したのだが・・・!あー、そうきたか。正直ガッカリ。というか、これは反則技じゃね?これなら今後どんな裁判もラクチンじゃん。こういうやり方でしか収拾がつけられなかったのかね。

ハートウォーミングなラストや、エミのその後を見せていくエンドクレジットはよかったけど、不満はかなり残る映画となった。
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マーガレットと素敵な何か('09フランス=ベルギー)-Nov 3.2011
[STORY]
キャリアウーマンのマーガレット(ソフィー・マルソー)は忙しい仕事に振り回されながらも、同僚の恋人マルコム(マートン・ソーカス)からもプロポーズされ、充実した日々を送っていた。だが彼女の40歳の誕生日に、突然公証人を名乗る老人メリニャック(ミシェル・デュショーソワ)が現れ、彼女に1通の手紙を差し出す。それは7歳の自分が未来の自分に宛てた手紙だった。貧しい少女時代を思い出したくないマーガレットはその手紙に激しく動揺するが、その後も何度も手紙が届き、嫌でも過去を思い出すこととなる。
監督&脚本ヤン・サミュエル(『世界でいちばん不運で幸せな私』
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監督の前作『世界で〜』が酷すぎて激怒した私だったが、またしても可愛らしい予告映像に惹かれて酷い作品かもしれないけど・・・と思いつつも見てしまった。結果言うとこれはよかった。マーガレットの最後の手紙を見て思わず泣いちゃったもん。まさかこの映画で泣かされるとは思わなかった。

まずソフィ・マルソーが可愛くて憎めない。フランス女ってーーー!っていう行動を取る時もあるんだけど、何故か彼女が演じるとあまりムカつかない。ヒステリックに泣き喚いても大胆な行動を取ってもドン引きすることもない。コミカルな演技が上手いのはもちろん、何をやっても嫌味にならないのは天性の才能か。彼女が日本で大人気になった理由が改めてよく分かったわ。それと恋人もフランス人じゃなくてイギリス人(しかも子どもっぽくなく分別のあるジェントルマンだ!)なので、ケンカになってもフランス人特有の長く不毛な言い争いに発展しないところもよかったんだろう。

仕事をバリバリこなすマーガレットの元に、7歳の自分から手紙が届く。確かに私も昔の自分の昔の文集や手紙を見ると恥ずかしさのあまり「うーーーわーーー!」ってなってその場でゴロゴロとのたうち回りたくなるけど、マーガレットはそういう恥ずかしさで動揺しているのではなく、とにかく嫌!という態度。何でここまで取り乱すのか?フランス女だから?(←ヒドイ)と疑問が沸くのだが、その理由は手紙が届くたびに明らかになり、彼女の人生が変わっていく。

このマーガレットの手紙がすごく凝っていて、雑誌の切り抜きが貼り付けてあったり、おもちゃが入っていたり、想いがいっぱい詰まってるのがよく分かる。もっとよく見せて!と思ってしまったし、マーガレットが破いてしまうのも止めたくなったほど。そういえばこの手紙も映画の小道具になんだよね。そんなこと全く思わなかったわ。7歳のマーガレットを演じたジュリエット・シャペイ自身が描いたところもあったのかな。

幼馴染フィリベール(ジョナサン・ザッカイ)との再会シーンは「それだけ?」って拍子抜けしたし(そこから2人が恋愛に発展したらマルコムが気の毒と思いつつも、ちょっとワクワクしたのは秘密だ(笑))他にもところどころ分かりにくい箇所はあったが、最後までしっかり纏められていて清々しい気持ちになれた映画だった。そういえばマーガレットの女ボス(エマニュエル・グリュンボルド)がすごい存在感で迫力があったんだけど、あれ監督の奥さんだったのね。前の映画にも出演していたらしいけど覚えてないや・・・。
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ミッション:8ミニッツ('11アメリカ)-Oct 29.2011
[STORY]
アフガニスタンの戦闘に加わっていたはずの米軍のヘリコプターパイロットのコルター・スティーブンス大尉(ジェイク・ギレンホール)は、ふと目覚めるとシカゴ行きの列車に乗っていた。目の前には見知らぬ女性(ミシェル・モナハン)がいて彼に親しげに話しかけてくる。戸惑いながら列車内を彷徨っているとほどなく列車内で大爆発が起きる。再び意識を取り戻すと彼は軍の研究施設におり、グッドウィン(ヴェラ・ファーミガ)という女性がモニター越しに彼に話しかけていた。彼女の説明によると、彼が体験したのは乗客全員が死亡した列車爆破事件が起こる8分前で、次のテロを防ぐために死亡した乗客の意識に入り込み、犯人を特定するというミッションだという。コルターは何度もその8分前の世界へ送られてしまう。
監督ダンカン・ジョーンズ(『月に囚われた男』
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原作はなく、ベン・リプリーによるオリジナル脚本。本作での主人公とオペレーターのやりとりが『月に囚われた男』を彷彿とさせるものだったので、てっきりダンカン・ジョーンズが脚本を手がけた作品かと思っていたらそうではなく、監督が最後に決まったという流れらしい。まずリプリーがプロデューサーのマーク・ゴードンに脚本を持ち込み、主演をギレンホールに決め、ギレンホールがジョーンズを推薦したのだそう。そういう決め方もあるんだね。
それとあの2階建ての電車は実在のものではなくセットなんだとか。シカゴにこんなおしゃれな電車が走ってるんだ、いいなぁなんて思ってたのに。ついでに車窓から見える風景も合成で、撮影時の列車外の風景はグリーン・スクリーンだったんだって。言われてみれば確かにこのほうが効率的だよね。同じことを何度も繰り返す話だから、天候の変化がある実際の電車で何度も同じシーンを撮影することなんて不可能だから。でも全然合成だなんて感じなかったわ。今は何でもできちゃうんだなぁ。

時間を遡って同じことを何度も繰り返してしまう話は数多くあり、映画にしても小説にしてもどれも質が高くて面白い作品が多い。本作も他の作品に違わず面白かった。設定も凝っていて、繰り返しはプログラムによるもので意図的に行われており厳密にはタイムスリップではないこと、コルター本人がその渦中にいるのではなく、既に死んでしまった男性の意識にシンクロさせて入っていること、繰り返すのは電車が爆破されるまでの8分間であること、など特殊な状況となっている。なぜこんなことが行われているかは徐々に明らかになっていくのだが、列車が爆破された謎と平行して、このミッションが行われることになった理由やコルターが選ばれることになった経緯も1つの謎として提示され、観客を引っ張っていく。

上にも書いたように、コルターと彼に指示をするグッドウィンのやりとりが『月に囚われた男』の主人公と人工知能とのやりとりを思い出させるものだった。冷静に指示だけを送っていたグッドウィンが必死に懇願するコルターにほだされ、ついには彼の個人的な要求に協力してしまうところが特に『月に囚われた男』とそっくり。そして彼の知りたい謎が解かれ、明らかになった真実もまた同じくらい切なかった。何でダンカン・ジョーンズが起用されたのかこれを見てよく分かったわ。

ただ、最後に畳み掛けるように真実が明らかになるところはゴチャゴチャして分かりにくかった。「やられたー!」みたいな驚きじゃなくて「え?どういうこと?」という驚きで、理解しようと今のシーンをもう一度思い出そうとしているうちに映画が終わってしまう。騙された上に逃げられたような気分。あとでじっくり考えてみたけどまだ(ここからネタバレ)プログラムだから過去は変えられないはずなのに変わってしまう(ここまで)ってところだけは納得できないや。原題が『Source Code(ソース・コード)』なんだけど(ネタバレ)ソースの書き換えができてしまうすごいプログラムができてしまった!(ここまで)っていう意味なのかな。それでもモヤモヤは消えませんが。あ、邦題は原題とは全く違うけど、これはこれで分かりやすくて嫌いじゃない。

それ以外は面白かった。『月に囚われた男』の感想で、次回作が楽しみと書いたけどこんなに面白い作品をすぐに見られるとは思わなかった。これは今後も良作が期待できるなぁ。
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猿の惑星:創世記(ジェネシス)('11アメリカ)-Oct 10.2011
[STORY]
サンフランシスコの製薬会社で研究員として働く神経科学者のウィル(ジェームズ・フランコ)は、父親チャールズ(ジョン・リスゴー)の認知症を治そうと新薬を開発し、実験台としてある雌猿に投与していた。だがある時、その雌猿が凶暴化して実験は打ち切られてしまう。しかし実は雌猿は子どもを産んでいたことが分かり、ウィルはその子をこっそり自宅に持ち帰り、シーザーと名付けて育て始める。シーザーは驚異的な知能を持つ猿に成長するが、ある日、隣人とトラブルを起こしてしまい、類人猿保護施設に送られてしまう。
監督ルパート・ワイアット(『The Escapist』 )
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1968年の『猿の惑星』や2001年のリメイク『猿の惑星 PLANET OF THE APES』に至るまでの過程が描かれるオリジナルストーリー。 猿は特殊メイクではなく、WETAのデジタルCGI技術が使われている。シーザーを演じたのは『キング・コング』でも猿を演じ、今や“モーション・キャプチャー俳優”とまで言われるアンディ・サーキス。

『猿の惑星』といえば衝撃的なラストが有名だが、あれ見て唖然としちゃってるうちに映画が終わるので、そういえば今まで「何でそうなったの?」と考えたこともなかった。あれがオチだから納得しちゃうという。この映画はそこをちゃんと考えて辻褄が合うよう、真面目に作ったものである。「別にそういうのいらないし、あれはああいうものじゃん」という人は見なくていい映画だ。私も当初は「無粋だ」と思って見る気がなかったんだけど、意外とよくできてるというので見てみることにした。

ああ、だから猿が・・・だから人間が・・・と、いちいちなるほどと思わせるストーリーで、なかなかよくできているなぁと思ったし、シーザーの優しさと男らしさ、リーダーシップを取れる頭の良さには惚れ惚れする。けど、必要以上に猿を優秀に、対する人間を愚かに描きすぎているのが鼻につく。そこまで人間もヒドくはないと思うんだけどね・・・。保護施設で働くマルフォイ、じゃなかった(笑)ドッジ(トム・フェルトン)が動物たちを虐待するんだけど、取ってつけたような小物な悪役で、せっかくマルフォイが終わったのにまたこんな役をどうして?と思ってしまった。なんか残念だわ。
でも彼よりもずっとムカつくのは主役のウィルだ。この大騒動のすべての元凶は彼の身勝手さから。でも自分がやったことが原因だなんてこれっぽっちも思わずにヒーローづら。なに勝手に感動のシーンを作ってんだよ!(笑)全部お前のせいじゃないかー。ウィルの家の隣に住んでる人なんて完全にとばっちりだよね。エンドクレジット後のシーンではさらに悲惨なことになってるし、ホントかわいそうだった。

これが新シリーズの第1弾だそうだけど、この続きをまだやるの?もう原因が分かったからこれ以上はもういいんだけどなぁ(まぁ作られても見なきゃいいだけですが)けどネタを無理やりヒネり出す製作者たちのパワーには感服しますわ。次はどんな名作の続きを生み出すのやら。
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