Movie Review 2005
◇Movie Index

エレニの旅('04ギリシャ=フランス=イタリア=ドイツ)-May 2.2005
[STORY]
1919年ギリシャ、テサロニキ湾岸にロシアから逃げてきたギリシャ人たちがやってきて村を作った。村の長スピロス一家は孤児のエレニを家族同然に育てるが、息子のアレクシスとエレニが恋仲となり、エレニは妊娠してしまう。エレニは双子を出産するが里子に出され、スピロスの妻ダナエはこのことを夫に話さず亡くなった。数年後、スピロスはエレニ(アレクサンドラ・アイディニ)を後妻に迎えようとするが、結婚式当日にエレニはアレクシス(ニコス・プルサニディス)とともに村から逃げ出す。
監督&脚本テオ・アンゲロプロス(『永遠と一日』)
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20世紀を描く“トリロジア”の第1作で、1919年から1949年までのギリシャが舞台。第2作では1949年から1972年、第3作では2000年のニューヨークまでを描くそうだ(9.11まではやらないのかな)

アンゲロプロス作品は本作が初めて。今までも見たいと思いつつも上映時間の長さと、内容が難しそうで頭の悪い自分に理解できるのか?という不安でずっと躊躇していた。でも3部作の1作目だし、女性が主人公だからとっつきやすそうだし、何よりCGを一切使わずに撮影したという水没する村を見てみたかったのだ。

この水没する村の撮影方法を知って驚いた。ケルキニ湖という人工の湖は冬の3ヶ月間は水がないそうで、そこに村を作り(100軒以上!)役者やスタッフがそこで生活した上で撮影したんだそう。そして春になって水が溜まるのを待ち、あの水没した村を撮ったのだという。しかも2年かけて。今の映画はCGで何でもできちゃうけど(私はCGたっぷりの映画でも作品に合っていればいくらでもOKだが)この映画に関しては、CGが使われていたら独特の美しさや寂寥感が損なわれてしまっただろう。けど、あの葬儀のシーンは本当に実写なんだろうか?と疑ってしまうような映像だったな。圧巻でした。

内容については最初はかなり戸惑いました。難民たちがテサロニキ湾にやってきたシーンで、どこからともなく声がしてそれにスピロスが応えるシーンでまず唖然。前衛映画を見に来ちゃったのかと(笑)さらに次のシーンではもうエレニが出産した後で、その次のシーンではエレニとアレクシスがスピロスから逃げるところで、この省略の仕方は一体何なのだ?と。さらに俯瞰で捉えた映像が多く、登場人物たちのアップが少ないので、彼らが何を考えているのか理解できない。見てるこちらはどこに気持ちを持っていったらいいのか分からず、ただ呆然とエレニとアレクシスの成り行きを見守るしかなかった。
その後、2人が楽団たちの世話になるあたりから省略が少なくなり、表情を見せる映像になっていったので、2人が逃げるまではわざと感情移入させないよう計算した上での演出だったんだろうなぁ。

案の定、エレニは好きになれなかった。泣いてばかりだしアレクシスにくっついているだけ。生活するシーンを見せないせいか、彼女は夫や子供にために必死に働いたりしたんだろうか・・・なんて、そんなことばかり気になっちゃって。今思うと、苦労してる彼女に感情移入したかったんだろうなぁ(それってどうなのよ?って感じですね)でも、エレニがうなされるシーンを見て初めて彼女の苦しさを見せ付けられた。彼女は最後まで地に足をつけることができず、川のように流され続けたのね。ここで感極まって思わず泣いてしまった(それもどうなのよ?って感じですね)自分の単純さに今更ながら呆れました(とほほ)
第2作も第3作もつらそうだけど必ず見ます。最後は希望が持てるようなストーリーだといいな。
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ウィスキー('04ウルグアイ=アルゼンチン=ドイツ=スペイン)-May 1.2005ヨイ★
[STORY]
ハコボ(アンドレス・パソス)は父から譲り受けた小さな靴下工場を営んでいる。工場には朝一番で来て最後まで彼の仕事を手伝うマルタ(ミレージャ・パスクアル)という中年女性がいるが、2人は仕事以外で話をすることはほとんどなかった。しかしある時、ハコボの弟エルマン(ホルヘ・ボラーニ)がブラジルから訪ねてくることになり、ハコボはマルタに夫婦のフリをしてほしいと頼む。
監督&脚本フアン・パブロ・レベージャ&パブロ・ストール(『25 Watts』日本未公開)
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サンダンス・NHK国際映像作家賞2003のラテン・アメリカ部門受賞を皮切りに、第57回カンヌ国際映画祭オリジナル視点賞と国際批評家連盟賞を受賞、第17回東京国際映画祭ではグランプリと主演女優賞(パスクアル)を受賞した。
昨年の東京国際で見たかったんだけど日程が合わなくて見送っていた作品がついに一般公開となり、ようやく見ることができた。

南米のカウリスマキと評されたというのは分かる。両者とも登場人物が感情を出さなかったり独特の間があったりするからだろうが、同じように見えるけど両者は全く違う。カウリスマキの場合は無言の間でも会話になっている、それぞれの思いが通じていると分かるのだが、本作の場合は無言の間は本当に何もない。そこで会話が止まってると感じた。特にハコボは相手が投げかけてきても返す気がない。投げかけた者はどうしていいか分からずに途方に暮れるしかない。漂う気まずい空気。緊張感を強いるような話じゃないのに、何だか疲れてしまった。ハコボとは一緒に仕事はしやすそうだけど、個人的に付き合うのは大変そうだ。

そもそもハコボは変化を嫌う人なのだ。毎朝同じカフェで同じものを食べて同じ時間に出社する。そしてマルタはそんなハコボに合わせていた。けれど妻役を引き受け、エルマンと3人で一緒に食事したり旅行するうちに彼女の中で少しずつ変わっていく。ハコボの変わらない毎日をしっかり見せた後での、エルマンが帰った翌日の1つの変化。この1つがとてつもなく大きく感じた。こうなることはちょっと予想してたけど、実際見せられて動揺しちゃったな。ラストをあそこで切ったのにもシビれた。上手い。中盤は「やりすぎかも・・・」と思うシーンはあったけど、とても長編2作目の30歳監督とは思えない作品だった。次回作も楽しみだ。

とりあえず今後の展開は観客に想像させるラストだったので私の予想を一応書いておこう。
(ネタバレ)エルマンへの手紙にはハコボと自分は本当は夫婦じゃないことが書いてあったと思う。ハコボには内緒にしておいてほしい、とも書いてあっただろう。お金を手にしたマルタはブラジルへ。エルマンを頼ったかどうかは分からないが。マルタはハコボを憎からず思っていたはず。でも彼が自分を受け入れることはないと分かって諦めた。さらに旅先で人生を楽しむことを覚えたので、今からでも遅くはない。やりたいことをやろうと決めたんじゃないかな。
ハコボはマルタがいなくなって・・・たぶん探したりはしないんだろうな(笑)エルマンに電話くらいはするかも。マルタがいない不便さに時々彼女を思い出しながら、やっぱり同じように毎日を過ごすのだろう。
でもマルタが、やっぱり今までの生活のほうが幸せだった、と思って戻ってくるかもしれないわけで、ある日突然またシャッターの前に立っているかもしれない。ハコボのためにそういうラストを想像しておこう。
(ここまで)

ハコボを演じたパソスとマルタを演じたパスクアルは本作ではまるで素人に見えたが、2人とも役者としてのキャリアを随分積んでいるのね。ほかの作品ではどんな演技をしているのか、そちらも気になるなぁ。
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PTU('03香港)-Apr 23.2005
[STORY]
2000年の香港、尖沙咀。ホー隊長(サイモン・ヤム)率いる機動隊(通称PTU)のメンバーが、夜のパトロールをしていた。同じ頃、マフィアのボスの息子とその仲間たちと組織犯罪課の刑事サァ(ラム・シュー)が食堂で鉢合わせし、仲間の1人に車を傷つけられたサァは彼を追いかける途中で転倒し失神してしまう。また、その間に拳銃を紛失してしまう。それを聞いたホー隊長は、上に報告する前に拳銃を見つけようとサァと話し合う。一方、ボスの息子は何者かに殺されており、チョン警部(ルビー・ウォン)ら特捜課(通称CID)らが現場にやってくる。そして挙動不信なサァを疑う。
監督ジョニー・トー(『ターンレフト ターンライト』
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PTUとはPolice tactical Unitの略で、夜の街をパトロールする特殊機動部隊のこと。ちなみにCIDはCriminal Investigation Divisionの略。
ものすごく前評判が良かったと、今までトー監督の作品はあんまり興味なかったんだけど『ターンレフト〜』を見てからは、この監督の次回作も見ようと決めていたので。過去作品も順番に見ていく予定。

1晩に起こった出来事を描くということでスピード感のある映画だと思ってたんだけど、シーンの1つ1つは意外とゆったりしている。PTUのパトロールは5人がフォーメーションを組むようにして、ゆっくり注意を払いながら歩く。それはまるでロボットのよう。そして彼らは顔色1つ変えずにチンピラたちを殴り、蹴る。これがまた異様にしつこくて長い。ここはかなり恐くて、見てるこっちがビビってしまった。サァ刑事のシーンも、彼が考えあぐねてしきりにタバコを吸うシーンも長かったりするのだが、彼の場合は災難続きで顔はボロボロだし、笑わせてくれるしPTUたちとは対照的なのだ。
かと思えば逃げたチンピラがいつのまにか捕まってたりして、PTUやサァの行動以外は思いっきり端折る。この演出が面白いと思った。ただ、一晩の話だからマフィア同士が今までどういう抗争を繰り広げてきたかの説明ももちろんないので、そのあたり薄さを感じる。物足りなさと言うべきか。

クライマックスは最近よく見るパターンな気がするのだが、面白かったからいいだろう。あまり印象になかったCIDも最後にチョン警部がやってくれたし、サァも最後まで笑わせてくれた。やっぱりサァがこの物語の中心にいたんだなぁ。一応主役はPTUのホーだったのかもしれないが。でも私は彼よりも女性隊員のマギー・シュウが男前(笑)で印象的だった。彼女とチョン警部もまた対照的な人物として存在させたのではないだろうか。
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さよなら、さよならハリウッド('02アメリカ)-Apr 23.2005
[STORY]
ヴァル(ウディ・アレン)は落ち目の映画監督。かつてはオスカーを受賞するほどだったが、今ではCMの仕事をするほどだった。そこにハリウッドのメジャースタジオからオファーがくる。実はその映画プロデューサーはヴァルの元妻エリー(ティア・レオーニ)だった。腹立たしく思いながら承諾するヴァルだったが、クランクイン直前にストレスで目が見えなくなってしまう。
監督&脚本ウディ・アレン(『スコルピオンの恋まじない』
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ウディ・アレンによるハリウッド風刺映画ということで、どこまでハリウッドをコケにし、どれだけ自虐が入るか楽しみにしてたんだけど、思ったより面白くなかった。目の見えないヴァルには笑ったけど、とにかく彼がエリーに愚痴ってばかりで疲れる疲れる。いつもはアレンの会話は楽しめるんだけど、今回は相手が元妻のせいか恨みがましさがプラスされてもううんざりだった。しかもアレンは若い女性にモテまくりだなー・・・あ!それをネタにしなきゃいけなかったんじゃないの?

楽しみにしていた映画撮影のドタバタは、目が見えなくなったヴァルを通訳がサポートするあたりはかなり面白かったのに、通訳が交代になってからは何の問題もなかったように撮影が進んでしまって、映画自体どうでもよくなってませんでしたか。いつのまにか映画は出来上がってるし、その映画の映像を観客には全く見せてくれないし、わざと見せなかったんだろうが残念でならない。実は私は、盲目になったヴァルのほうが素晴らしい映画を撮ってしまうんじゃないかと予想してたのだ。こだわりを捨てきったヴァルのほうが今の時代の映画に合っていた、もしくは撮影監督が優秀だったのでヴァルなどいなくても良かった、のどちらかの理由で一発逆転があると踏んでいたのだが、私の予想は今思えば単純すぎたなぁ。本作のあのオチはハリウッド風刺しつつ、返す刀であちらの映画界のほうをバッサリやってるようで、さすがでした。

ヴァルが中国人の撮影監督を起用するところは、アレン自身が『ギター弾きの恋』『おいしい生活』、そして『スコルピオン〜』と3本連続でチャオ・フェイを起用したところからこのアイデアが浮かんだんだろう。3本も起用してるから、アレンと彼は相性が良かったんだろうが、実際の現場もあんな風に通訳を介したやりとりをしてたのかな。しかし今回の撮影監督がフェイじゃなくて別の人(ドイツ人)なのが非常に気になるところだ(笑)
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愛の神、エロス('04フランス=イタリア=ルクセンブルグ=アメリカ=中国)-Apr 22.2005
[STORY]
1963年香港。高級娼婦のホア(コン・リー)から呼ばれた仕立て屋のチャン(チャン・チェン)は、彼女のドレスを縫いつづける。
『若き仕立て屋の恋―エロスの純愛―』監督ウォン・カーウァイ(『2046』
1955年ニューヨーク。ペンローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)は毎晩見る奇妙な夢に悩まされ、精神分析医パール(アラン・アーキン)に相談する。
『ペンローズの悩み―エロスの悪戯―』監督スティーブン・ソダーバーグ(『オーシャンズ12』
イタリア、トスカーナ地方。アメリカ人のクリストファー(クリストファー・ブッフホルツ)よイタリア人の妻クロエ(レジーナ・ネムニ)は喧嘩ばかりで関係は冷え切っていた。
『危険な道筋―エロスの誘惑―』監督ミケランジェロ・アントニオーニ(『愛のめぐりあい』)
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アントニオーニと、彼に影響を受けていると公言する2人の若い監督によるエロスを題材にした3本のオムニバス映画。作品内に登場する絵画はロレンツォ・マットッティのもの。音楽はカーウァイの『ブエノスアイレス』で「ククルクク・パローマ」が使われたカエターノ・ヴェローゾが担当している。

3作品の中で一番出来がいいと思ったのがカーウァイだった。ひょっとすると私が今まで見た彼の作品の中で一番いいかもしれない。ストーリーはシンプルだけど、ちゃんとテーマを忠実に表現している。長編だとグダグダになりがちだけど、短編だから良かったのかな。ホア様のドレスは美しいし、彼女の住むアパートも安ホテルも官能的な雰囲気たっぷり。顔や腕にかかる光と影の使い方も上手いんだな。撮影はおなじみクリストファー・ドイルで、実は評価の高い彼に対しても私はそこまでいいかな?って感じだったんだけど、今回の仕事を見てよく分かった。敬礼しとこう。

ソダーバーグはエロスと言われると「?」って感じ。女性の裸は出てくるけどエロスじゃないだろう。でもストーリーは先が読めなかったし、ヒネリがあってなかなか面白かった。アレを6回も止めたというセリフがあったんだけど、シーンの中で6回もそれを匂わせる部分があったかな?それが後から気になった。でもエロスじゃないよなぁ(笑)

アントニオーニは直球(笑)R-15なのはこの作品があったからだろう。『愛のめぐりあい』でもそうだったけど、初めて会って数分で全裸ですよ(笑)90歳を超えてもなおこれですからね、暖かく見守るような気持ちで見ました。ストーリーは理解する必要はなし(つまりわけわからんということですが)自然の中で戯れる美しい女性の身体に見とれるべし。
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