Movie Review 2005
◇Movie Index

海を飛ぶ夢('04スペイン=フランス)-Apr 17.2005スバラシイ★
[STORY]
26年前に事故が原因で首から下が全く動かなくなったラモン・サンペドロ(ハビエル・バルデム)は、自分の命を絶ちたいと考えるようになり、弁護士のフリア(ベレン・ルエダ)に相談をする。彼女もまた病を抱える身であったため、ラモンに共感し、裁判の準備を始める。一方、ラモンが尊厳死を訴えるテレビ番組を見たロサ(ロラ・ドゥエニャス)という女性がラモンを訪ねてくる。ロサは彼に生きるよう説得するが、逆に批判されてしまう。反省したロサはもう二度とラモンを説得しないと約束し、たびたび彼を訪ねるようになる。
監督&脚本アレハンドロ・アメナバール(『アザーズ』
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第77回アカデミー賞外国語映画賞受賞。原作は実在の人物ラモン・サンペドロの手記『LETTERS FROM HELL』
本人の写真を見たけど、よくここまで似せたなぁ。1969年生まれのバルデムがちゃんと50代に見えた。老けメイクってやりすぎなのが多いけど、これはとても自然。メイクアップ賞にノミネートされたのも頷ける。ラモンが怪我をした時のシーンでは25歳と逆に若作りしてるんだけど、こちらのほうが無理があるように見えた(笑)

前年の受賞作『みなさん、さようなら』が期待してたのと違ったので、本作もひょっとしたら・・・という不安はあったんだけど、いい意味で裏切られた。素晴らしいです。傑作です。アメナバールは作品を重ねるごとにいいものを作ってる人だね。『テシス』より『オープン・ユア・アイズ』、『アザーズ』よりも本作、と着実にレベルアップしてる。前の作品のほうが良かったなーというのがない。さらに監督・脚本だけでなく、製作・音楽・編集まで本人がやってるっていうんだから、まさに天才だ。今後この人はどうなってしまうんだろう?

尊厳死についてどの考えが正しいとか、一方的な方向へ導くような作りになっていないところが特に良かったと思った。だから私も見終わったあとに尊厳死について考え、自分ならばどうするか考えずにはいられなかった。登場する人々もみなラモンの願いについてさまざまな考えを持っていて、登場人物の数が少ないにもかかわらず奥行きのある深い作品になっていた。

ずーっとロサの押し付けがましさが鬱陶しくてしょうがなかったんだけど、ラモンのために部屋を借り、彼のおでこにキスするシーンでようやく彼女を好きになれた。ホントは彼の唇にキスしたかったんだと思う。でも彼に愛されていないことを知っていたからそうしなかった。初めて空気を読んだな!(笑)いや、茶化したらいけないな。ロサはラモンの望みを叶えることで彼を愛したんだよね。

それにしても、ラモンが死を望むようになってから彼を愛する女性が現れたというのは皮肉だな。彼の家族だって、彼を愛している。それなのに何故死のうとするのよ!という怒りももちろんあった。自分の家族にそういう人がいたら怒ったと思うよ。でも彼は愛する人に世話してもらうこと、苦労をかけることに耐えられなかったんだよね。早く皆を楽にしてあげたい。その気持ちも分かる。自分がラモンのような状態だったら同じように考えただろう。立場によってガラリと考えが変わってしまうな・・・。ただ、彼はまだ意思を伝えることができたけど、植物状態となった場合の本人の意思は?これからの映画ではこれもテーマになりそうだ。

ラモンが想像の中で自分の部屋を飛び出し、山を越え、海まで飛ぶシーンが特に素晴らしい。涙なしには見られない。これは絶対に大画面で見るべき。いつも邦題にケチをつける私だが(笑)この邦題は素敵だと思う。英題の『シー・インサイド』にならなくて良かった。
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コンスタンティン('05アメリカ)-Apr 16.2005
[STORY]
悪魔を見ることができるジョン・コンスタンティン(キアヌ・リーヴス)は、人間界にやってきた悪魔を地獄へ送り返している。しかし身体はガンに冒されおり、余命1年と宣告されていた。ある時、少女に取り憑いた悪魔を祓った時に今までとは違う不穏な空気を感じ取る。同じ頃、精神病院に入院していた妹イザベル(レイチェル・ワイズ)が病院から飛び降り、自殺として処理された。敬虔なカソリック信者だった妹が自殺するはずがないと納得できない姉のアンジェラ(ワイズ2役)は、コンスタンティンに助けを求める。
監督フランシス・ローレンス(ミュージックビデオ製作などを経て監督デビュー)
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原作はアメリカンコミック『ヘルブレイザー』だが、何人かの登場人物や設定を借りてきてはいるものの、ストーリーはほぼオリジナルのよう。っていうか、私は見た後で本作がアメコミだったことを知りました(笑)日本ではアメコミだったことをほとんど宣伝してないよね。どちらかというと『マトリックス』の二番煎じみたいな。

でも個人的にキアヌの役柄はネオよりもコンスタンティンのほうが魅力的に感じた。ネオは人形みたいだったけど、こちらはもう少し人間味があるというか、この世も地獄も天国もクソッタレだぜ、俺も含めてな・・・というスタンスがいい。自分の力だけで事件を解決するんじゃなく、利用できるものは何でも使ってやるというところも好き。喫煙者は嫌いだけど、身体弱い人は好みだし(笑)

映像は特に目新しさはなく、この手の映像には慣れ過ぎちゃって驚きも何もないのだが、世界観とキャラクターは面白いと思った。悪魔祓いのアイテムや地獄を見る時の方法、ハーフブリードという存在、中立を保つクラブなど、もっと奥を知りたくなるようなオタク心を掻き立てる設定がいっぱいでした(笑)ハマって二次製作しちゃう人も増えそう(私はそういう趣味はないが)特定の信仰を持たない日本人のほうが何のわだかまりもなく新たな世界を作り上げそうですな。

一応、途中までは真剣に見てたんだけど、ピーター・ストーメアが登場したあたりから笑いを堪えるのに必死だった。ジョンが両腕の紋章を合わせるシーンが変身ヒーローみたいなヘボさで一度笑ったけど、ストーメアのところはそれ以上(笑)最高です。ここまでやっといてこんな話なのかよ!という憤りもちょっと感じましたけどね。ストーメアのところだけでももう一度見たいな。同じメンバーでやるなら続編ももちろん賛成。世界観やキャラクターの説明を必要が省ける分、かえって続編のほうが面白くなるんじゃないかな。

そうそう、エンドクレジット後に少し映像があるので最後まで見るように。
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インファナル・アフェアIII 終極無限('03香港)-Apr 16.2005
[STORY]
ボスだったサム(エリック・ツァン)と潜入捜査官だったヤン(トニー・レオン)を殺したラウ(アンディ・ラウ)は警官として生きることを決意し、他の潜入マフィアたちを始末してきた。しかし保安部のヨン(レオン・ライ)が、以前サムと取引していた本土の大物マフィア、シェン(チェン・ダオミン)と接触していたことを知ると、ヨンが潜入マフィアではないかと疑いはじめ、彼を監視しはじめる。
監督アンドリュー・ラウ(『インファナル・アフェアII 無間序曲』
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『インファナル・アフェア』、『インファナル・アフェアII 無間序曲』に続く三部作の完結編。本作はヤンが死んでから10ヵ月後と、ヤンが死ぬ半年前とが交互に描かれている。

交互に描くのはいいんだけども、ヨンやシェン、精神科医のリー(ケリー・チャン)はどっちにも出てくるので、たまに過去だか現在だか分からずに混乱してしまった。素直に10ヵ月後のラウに焦点を絞って描いていくだけでいいと思うんだけどね。ヤンの出番は回想シーンやラウの脳内だけの出演でもよかったのに(リー先生とのコント(笑)でパート1の私の好きだったヤン像がガラガラと崩れ・・・あぁ)

レオン・ライが不気味な存在感を放っていたので、ラウ対ヨンをじっくり見たかったというのもある。私がこのシリーズで好きなのは、潜入がバレるかバレないか、誰が敵で誰が味方なのか?でハラハラドキドキさせてくれるところだった。本作でもヨンが潜入マフィアかどうかの謎があるにはあるんだけど、今回それは重要視しない描き方をしていた。ラウが現実に追い詰められるよりも、精神的に追い詰められていくところに重点を置いたんだろうね。同じパターンを嫌ったんだろうけど、期待してたほうとしては少し残念。
でも、最後まで善人であったヤンへの憧憬と彼のようになりたいという願いはすごく伝わってきたし、ラウがまさに“無間地獄”に落たんだというのは実感できた。ただ、それならばラストのラウはもっとつらい状態でないといけなかったんじゃないかなぁ。それともあれはあれでまだ“無間地獄”にいるんだろうか。

パート2を見た時にヤンがどうしてサムの手下になったのか分からないと書いたが、本作を見て頑張って自分の中で補完してみました。パート2でサムの部下になったヤンは前のボスの手下だったのでサムに信用されておらず、パート3でヤンを切ろうとしたが意外にも本土との取引を成功させたので信頼を勝ち得てパート1に至る、という感じか。ここを合わせるためにヤンの生前を描いたとか?(笑)
まぁ過去のシーンはなくてもいいって書いたけど、ヨンとシェンが接触してた理由が分かるシーンなんか切なかったしなー。思い返せばこれはこれで良かったのかも。でもやっぱり1作目→2作目→3作目、と面白さがどんどん減っていって、私が好きな順番もこの通りとなった。やはりパート1を超える面白い映画ってなかなかないもんだね。
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バッド・エデュケーション('04スペイン)-Apr 9.2005
[STORY]
若き映画監督エンリケ(フェレ・マルティネス)の元に、16年前に神学校で友人だったというイグナシオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)が訪ねてくる。彼はいま役者で、自分が書いたという脚本を使ってもらえないかというのだ。エンリケは不審に思いながらもその脚本に引き込まれる。そこには、サハラという女装の男が、幼い頃に自分を虐待した神父に復讐しようとする物語だった。
監督&脚本ペドロ・アルモドバル(『トーク・トゥー・ハー』
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第57回カンヌ国際映画祭オープニング作品。
『トーク・トゥー・ハー』に出演していたマルティネス、ハビエル・カマラ、レオノール・ワトリングは本作にも出演している。でもマルティネスが前作のどこに出ていたのか全く分かってなかったし(白黒のシーンだったのね)ワトリングが本作のどこに出てたか全く気付きませんでした(モニカ役だったのね)向こうの役者さんて作品によって別人になっちゃうからなぁ。カマラはすぐ分かったけど。彼のファースト・シーンはオースティン・パワーズかと思いましたよ(笑)

エンリケの友人だったイグナシオが持ってきた脚本が劇中劇になっていて、女装のサハラもベルナルが演じている。さらに彼はもう1つの役も演じているので1人3役をこなしているのだ。彼もまた役によって違う人に見える。特にもう1つの役で出た時の外見はイグナシオの時と変わらないんだけど、表情が子供っぽくて、イグナシオの時と違うのに驚いた。サハラの時は色っぽくて綺麗だったしなー。

見る前までは、エンリケとイグナシオの間に何か秘密があって、2人の間で愛憎が繰り広げられるのかと想像してたんだけど、そうではなかった。16年前に2人が別れなければならなかった理由はイグナシオのほうにあって、それがずっと尾を引いて現在に至っていたのだ。だから現在のエンリケとイグナシオの関係は、過去と比べるとちょっと薄いと感じた。エンリケ自体もあまり印象に残ってないな。私がイグナシオの過去の話のほうに引き付けられてしまったせいもあるだろうが。

少年時代のイグナシオに起きたことは腹立たしくマノロ神父は許せないが、客観的に見ると彼の歪んだ愛とその人生は、彼を主役にしても良かったんじゃないかと思うほどだった。ある意味ゼイタクな映画だわね(笑)彼は確かに人間として最低だし、1人の少年の人生を狂わせ破壊してしまった。でも行為を抜きにすれば、彼の愛そのものは美しいのかな、って。『トーク・トゥー・ハー』もそうだったけど、最低最悪の醜い行為を見せつけられながらも、同時に純粋な愛も感じ取れた。だから嫌悪感がありつつも好きな映画なのだ。本作もこの神父とイグナシオのシーンはイヤだけど好き。だからエンリケとイグナシオのところにも、もうちょっとヒネリがあると良かったのに。惜しいな。
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コーラス('04フランス=スイス)-Apr 9.2005スキ★
[STORY]
指揮者のピエール(ジャック・ペラン)は公演先で母の死を知り、故郷へ戻る。そこへ寄宿学校で同じクラスだったペピノが訪ねてきて、彼に1冊の日記を見せる。それはピエールの生き方を変えてくれた音楽教師クレマン・マチュー(ジェラール・ジュニョ)のものだった。
1949年、マチューは問題児ばかりがいる寄宿学校へとやってくる。いたずらする子供たちに教師は容赦なく体罰を与えるが、マチューは子供たちをなるべく叱らず、体罰も与えなかった。そして子供たちに歌を教え、合唱団を結成する。彼らはみるみる上達し、中でもピエール(ジャン=バティスト・モニエ)は天使のような歌声で、マチューは彼の才能を伸ばしてやりたいと思うようになる。
監督クリストフ・バラティエ(ジャック・ペランの甥で長編監督初)
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第77回アカデミー賞で主題歌賞と外国語映画賞にノミネート。製作は出演もしているジャック・ペラン。また、彼の息子マクサンス・ペランがペピノの少年時代を演じている。
本編で流れる合唱はリヨンにある「サン・マルク少年少女合唱団」のもので、少年ピエールを演じたジャン=バティスト・モニエはこの合唱団のソリストを務めている。

とにかく歌が素晴らしい。特にモニエ君の声を聞くと震えて自然と涙が出てきてしまいます。あまりにも美しいので自分の穢れた心を恥じて思わず泣いてしまうのかもしれません。ま、これは冗談ですが(冗談なのかよ!)歌は「海への想い」と「夜」が特にいい。サントラもすぐに買ってしまいました(サントラジャケットの集合写真も、子供たち1人1人の個性が出てて面白い)

それとマチューと子供たちとがだんだん打ち解けていくシーンでも涙。ジュニョは笑わせるのも上手いけど泣かせるのも上手い人だ。歌を教えるのに熱心だけど空回りするような熱血ではないのでウザく感じないし、笑えるシーンもウケを狙ためにやるのではなく、大真面目にやっているからこそ余計に笑えるのだ。演技にも絶妙な匙加減ってあるんだなぁと感心してしまう。今回ジュニョは監督ではないが、子供たちの演技はやっぱり彼によって引き出されていたんじゃないだろうか。

ストーリーに関してはもうちょっと練るべきだったと思った。95分というのは見やすいけど長さだけど、本作には短すぎた。最後のほうは駆け足というか全速力という感じだった(笑)
特に超問題児のモンダン(←ギャグじゃないよ)が入って出て行ってその後・・・が後味が悪かった。彼の扱いはあれで終わりなわけ?校長(フランソワ・ベルレアン)の描き方にも不満があるし。悪人に描くにしても、根は悪くないが・・・という人として描くにしても、最後まで責任持ってくれなきゃ。書きっぱなし、という印象だった。こういう物語だからこそ、主要人物以外にも愛情を持って作ってもらいたかった。
でも、老ペピノがなぜマチューの日記を持っていたかが分かるところは泣いちゃった。その時のナレーションもダメ押し(思い出してまた泣きそう)

モンダンを演じたグレゴリー・ガティニョル君は、他の子にはない独特の空気を纏っていて本気で恐かったのだが、実は彼は実際に青少年更生施設に入ってるのを監督が判事を説得して出演させたんだそうだ(見た後で知った)これを機会に本格的に俳優を志してくれないかなぁ。モニエ君と同じく逸材だと思いました。
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