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南中ソーランで育つ
はじめに
日本最北端の稚内市にある稚内南中学校。ここに10数年前の校内暴力で荒れた学校再生のなかからうまれた『南中ソーラン』の郷土芸能があります。
今年6月、札幌で開催された「YOSAKOIソーラン祭り」には、全国から280チーム、2万9千人の踊り手が参加し、観客は160万人をこえました。北海道では毎年これに参加する『南中ソーラン』を見るのを楽しみにしている人がたいへん多いのです。
『南中ソーラン』の踊りの完成度が高いのは、先生方がしっかりしているから、父母と教職員が励まし支えあっているからなどとおほめの言葉を頂戴します。本当に嬉しい限りです。
そんな気持ちに支えられて今年も156人の南中生全員が心ひとつに『南中ソーラン』を踊りきったのです。
三年生全員心一つに「どっこいしょ!どっこいしょ!」「ソーラン!ソーラン!」の掛け声が響く南中(なんちゅう)の体育館。
「腰を下ろして、顔、顔、」とそばにいる教師たちから檄が飛びます。子どもたちは、その檄に必死でこたえます。これは、『南中ソーラン』の練習のひとコマです。
『南中ソーラン』は女生徒には踊れないと言っていいほどの激しい踊り。ところが、この踊り、「南中生は全員おどれるようにしよう」と2年前に学校ぐるみ・PTAぐるみで提案したのがきっかけで女生徒の心を捕え、今や『南中ソーラン』は男女仲よく南中生全員(478名)の心を捕まえるまでになっているのです。
信頼して待つ!指導に徹して「女の子が股を割り、腰を下ろし、手と足の先までシャンと力を入れて踊るなんて!恥ずかしい!」激しい受験体制のなかで育った子どもたちは、厳しいつらい現実をよく知っています。それだけに心の世界を簡単にヒトにみせないし、悟られないように自分の心を包んでいます。何枚も何枚も着物を着て。まるで12単衣のように。
「カッコつけんなよ」と嘘とゴマカシの大人社会への批判。「めんどおくせー」と距離をおき、「ムカツクー!」といってストレスをはきだします。そんな姿をみながら、それでも教師はていねいに指導を積み重ねていきます。やがて、教師たちは生徒の心の変化をつくりだします。
「たくさんの人達がお前達に期待をかけているんだよ」「お前たちのまとまりが感動をつくるんだよ」って期待をぶつけるのです。「ウッソだー。先生は私たちを踊らせるためにそんなこといってるんだ」子供は自分の心を単純にヒトには見せません。
でも、何回も何回も踊りを繰り返し、子供の心の変化を待ちます。心のかよい愛には時間が必要なのです。あせらせないし、あせらない。イライラ教師ほど生徒に嫌われるものなのです。
負け犬根性からの出発
・ 3年生全員で「YOSAKOIソーラン祭りに参加する」と言ったとき私は、思わず「えっ!」と声が出てしまった。そんな話は少 しも知らなかったし、行くとしても選抜ソーランの人たちだけだとかんがえていたから。そのときの気持ちは「えっ、どうしよう 踊れない。いやだ。」というものだった。
・ 最初、先生から「女子も男子も全員出る」と聞かされたときは、何で私たちがいかされなきゃなんないの?と内心思いました。
・ 私は、本当は、はっきりいって踊りたくはありませんでした。それは恥ずかしいと言う気持ちもあったけど、絶対に学年がまとまるわけはないと思っていたからです。
「はじめ−っ!」始まるときの緊張感。「やーっ!」終わったときの満足感。
伊藤多喜雄(歌手)のオリジナル曲と春日壽升(舞踏家)のコンビで創られた『南中ソーラン』の歌と踊りは、中学生の心を一度つかんだら離さない魅力があります。
・ 自分がほかの人の足を引っ張ったらどうしようなどと思い、やりたくない、めんどうくさいなどソーランをやる前から自分はできないと思っていました。でも練習していく間につらかったけど踊ることがすこしずつ楽しくなりました。
・ 練習しているときみんなの顔が真剣になった
・ だんだんみんなが一所懸命になってくる
・ 私もきちんとやらなきゃだめだ
・ ぜんぜん踊ったことのない私にとってはすごく難しかったです。たくさん練習しているうちに、はずかしいと言う気持ちもきえていました。腰の高い人も日に日に減っていき、
みんなの目つきも真剣になっていきました。また、どうしても踊れない人は放課後も
練習して頑張っていきました
・ 踊ることがつらいことでなく楽しいことに変わってきた!
心の変化が起こり始めます。その時、南中生はグーンと大人に成長します。
心の通い合いが本当の感動をつくる
『南中ソーラン』を指導する教師たちの最後の仕上げは心の通い合いの組織化です。
「うっそー!あんなにみんなが揃うなんて信じられない」そんな言葉が返ってくるほど
『南中ソーラン』を最初に見た人たちは呆然とします。涙も流します。そして最後に
「ありがとう」と南中生に感謝と激励の言葉をよせてくれます。「青春時代の軍隊を思い出し感動しました。」との声もありましたが、それ以上に嬉しかったのは、今の中学生に対して暖かい励ましと期待の声をよせてくれたことです。
・ 稚内南中三年生の皆さん、「YOSAKOIソーラン祭り」見ましたよ。あなたたちの踊りが
一番だった。何よりもその真剣さに私は涙が止まらなかった。皆さんもきっとこの経験は一
生の宝物となるでしょう。がんばりましたね。さわやかな感動をありがとう。
・ 私は、稚内南中の踊りを見て、感動のあまり涙がボロボロです。いじめもなんのその!チームワーク、衣装、踊り・・・どれをとってもすばらしかったです。地域を越えて応援しちゃいます。あー、もう本当に涙が止まりません。
教師にとって自分の学校の子供を地域の方々から誉められるほど嬉しいものはありません。ましてや、「先生と出逢えたのが最高の喜びです」「南中生でよかった」などと教え子に言われようものなら大変です。うれしくてうれしくて・・・。
お人よしで、苦労人の教師たちの群像と子供達の心の変化の軌跡をつかみながら粘り強く指導することの大切さを日々、痛感しています。
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