Movie Review 2000
◇Movie Index

金髪の草原('99日本)-Sep 15.2000
[STORY]
ヘルパーの古代なりす(池脇千鶴)は心臓病を患う80歳の老人・日暮里歩(伊勢谷友介)の世話をすることになった。しかし日暮里は自分が20歳だと思い込んでおり、なりすのことを学生時代に憧れていたマドンナだと勘違いしてしまう。
監督&脚本・犬童一心(『二人が喋ってる。』)
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大島弓子原作漫画の映画化だったのと(でも『四月怪談』は見てない)予告を見てなんか良さそうだと思って見てみることにした。

簡単に説明すると、自分を20歳だと思い込む80歳の日暮里を若い伊勢谷君が演じている。だから観客には20歳の男が見えている。しかし映画の中の登場人物たちには80歳の老人に見えているらしい。また80歳の日暮里は最後まで画面に登場しないが、声だけ筒井康隆があてている。この設定を理解できないと最初はチンプンカンプンだろうし、作品の中に入り込むのは難しいかもしれない。

原作は短編なので、なりすと日暮里、そしてなりすの友達と片思いの相手くらいしか出てこない。映画ではそのほかに日暮里の家の隣に住む日向家の住人や日暮里の旧友(演じるのは加藤武。見た目おじいちゃんです)まで登場する。1時間半以上の作品を撮ろうと思ったらそれくらい話を膨らませないといけないが、日向家のエピソードはちょっと余計かな。また、なりすの片思いの相手は漫画では学校の同級生だが、映画では親の再婚相手の連れ子つまり義弟なのだ。しかし設定からしたら映画のほうがはるかに切ないはずなのに、全くそう感じないところがいかん。うまく絡んでくればそんなこと思わなかったのに、これも余計な感じすらしてしまう。

でも2階の窓から夕日を眺めるシーンや、日暮里が空を飛ぼうとするシーンは、漫画では決して出せない美しさがあった。漫画では薔薇をプレゼントする日暮里だが、映画で部屋中にひまわりを飾ったところも、まるで映画を見てるようで(って映画だけど)可愛らしく、これには切なさを感じた。なりすと日暮里、この2人のシーンを中心にもっとシンプルにまとめてほしかった。

池脇千鶴の演技をちゃんと見るのは初めてなんだけど、普段なら許せないような子供っぽい口調も、この映画に関してはすんなり入っていけた。メルヘンチックな設定に合ってる。伊勢谷友介の演技も同じく初めてだが、精悍な顔の割にはふにゃふにゃした喋り方で脱力するが、見ようによっては入れ歯のない老人のようであり(笑)白昼夢に漂う人のように見えないこともない。そういう意味ではこのキャスティングは成功かも。

しかし!!途中で気付いて最後までずーっと気になってたことを1つ言いたい。それは伊勢谷君のピアスの穴だ!横顔のアップの時、ポツッと開いててすごく目立ってた。これはメイクでうまく隠してもらいたかったな。
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ワンダー・ボーイズ('00アメリカ)-Sep 13.2000
[STORY]
大学で教鞭を取りながら作家活動をしているグラディ・トリップ(マイケル・ダグラス)は、前作から7年経っても新作を書き終えずにいた。そんな時、妻が家出をし、学生のジェームズ(トビー・マグワイア)を授業で傷つけ、変わり者の編集者テリー(ロバート・ダウニー・Jr)が新作の催促にやってきてしまう。おまけに不倫関係にある学長のサラ(フランシス・マクドーマンド)までがグラディにあることを打ち明け・・・。
監督カーティス・ハンソン(『L.A.コンフィデンシャル』
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ワンダー・ボーイとは“神童”のこと。映画の中でグラディがジェームズのことを言っているが、タイトルがボーイズなのがミソ。

3人目の妻が家を出た時から雲行きは怪しかった。しかし本降りになったのは、書き上げた小説を他の学生に最低だと言われて落ち込むジェームズを慰めるために“ある物”を見せた時から。まるで悪夢のようにグラディに次から次へとと災難が降りかかっていく。つーか本当に吹雪だったり土砂降りの雨がグラディを容赦なく痛めつけるんだこれが。どこまでがツクリでどこからが自然の恵みなのかは分からないけど、この天候がドラマに一役買っている。

M・ダグラスはずいぶん老けちゃったみたい。脂っこいエロオヤジだったのに、今回は湯通ししたような感じで、私はこっちのほうが好きだが。マリファナ中毒で時たま気絶したり、ヨレヨレのガウンを着ていつまで経っても書き終わらず2000枚を越えた短編小説(笑)を書く姿がちょっと可愛い。魅力的なキャラクターだ。そしてバイセクシャル編集者のダウニー・Jrもウザくならない程度に茶目っ気を出しててなかなかよろしい。しかし、そんな2人よりも注目してしまうのがマグワイア!

そう、コイツなのよコイツ(笑)相変わらずもさーっとしてるというか、ずんぐりしてて何を考えてるのか分からない得体の知れない暗いホモ・・・いやジェームズという役柄がね(笑)それが見事にハマってる。見るたび上手くなってるな。
ジェームズ自身は決して悪い子じゃない。でも行動が人とズレていたり、感性が鋭すぎていたり、いわゆる天才なのだ。そんな彼を放っておけず、しかし彼の作家としての才能に嫉妬も覚えながらも助けてしまうグラディ。この2人の関係が物語を引っ張っていく。大笑いはできないけど、思わずクスッと笑ってしまうシーンもあって、地味だけど面白い。でも『L.A.』の監督ということで期待しすぎたかも・・・。

原作は読んでないからどの程度端折ってるのか分からないけど、説明的な部分と説明不足なところが気になった。そしてオリジナル脚本でなく小説が元なんだなーというのが分かり過ぎるきらいあり。そういう風に感じさせなければ、もっと楽しめたのにな。
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アム・アイ・ビューティフル?('98ドイツ)-Sep 3.2000
[STORY]
スペインの田舎町を、ろうあ者と偽ってヒッチハイクを続けるリンダ(フランカ・ポテンテ)。ドイツにいる元恋人フランツィスカが忘れられず、彼女の結婚式当日まで電話しまくるクラウス(シュテファン・ヴィンク)。この2人が運命の出会いをする・・・はずがなかなか出会えない。
監督&脚本ドーリス・デリエ(『愛され作戦』)
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『ラン・ローラ・ラン』で見事な走りっぷりを披露したポテンテ主演。ほかに『ハンネス、列車の旅』に主演したヨハヒム・クロムがフランツィスカの姉婿役に、そして姉役のニナ・ペトリはその両方の映画に出てたはず。最近ドイツ映画もけっこう見るようになったので、役者さんの顔も覚えてきました。

デリエ監督の前作『愛され作戦』――このちょっとかわいいタイトルが気になって、当時はそれがドイツ映画とも知らずに見に行ったところ、ワタシ的にヒット。主人公の女性が自分を変えようと“死に方教室”なる講座に出てみたり、ゲイのアフリカンに運命の人を占ってもらったりするのだが、どれも見当違いの方向に進んでしまってさてどうなる?というところで、ラストにあざやかなオチが決まる。うわー面白い!と感動したものだ。それから新作を待ちわびて約4年。

今回は一応リンダが主役らしくなってはいるものの彼女中心ではなく、彼女とクラウスがいるスペインと、フランツィスカと家族がいるドイツの2カ国で、人々の愛と死について描かれてゆく。一見、なんの繋がりもない人々が意外なところで繋がっているというスタイルは、その前に見た『ひかりのまち』もそうだったけど、こっちのほうが意外性が高いかも。

一番良かったエピソードは長年連れ添った妻を亡くした男の話。妻のことを“100人の女と恋をした(と思うほど毎日違う顔を見せてくれた)”だって、いいよなー。かなりジーンとくる。ほかのエピソードもなかなかいいんだけど、人数が多いのでちょっと散漫になったかな。もうちょっと人数を減らすか、どの人物に対してもきちんと最後まで描いて欲しかった。個人的にはコックとウェイトレス夫婦が余計。

そして一番不満なのはドイツ映画なのに何で英語のタイトルなんじゃ〜!ってこと。原作本と同じく『あたし、きれい?』で良かったんじゃないかな。ちょっと映画の内容と違ってきちゃうような気もするが(笑)
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ひかりのまち('99イギリス)-Sep 2.2000
[STORY]
27歳のナディア(ジナ・マッキー)は伝言ダイヤルで恋人募集をしては毎日男性とデートをしている。姉のデビーは離婚して独り息子と暮らしながら恋人と会っている。妹のモリー(モリー・パーカー)は妊娠中だが、夫のエディが内緒で仕事を辞めたことから喧嘩をしてしまう。
監督マイケル・ウィンターボトム(『アイ・ウォント・ユー』
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ウィンターボトムの新作は、手持ちの16ミリカメラを使ってロンドンに住むナディアを中心とした人々の日常を描いたストーリー。この映像に『ピアノ・レッスン』でおなじみのマイケル・ナイマンが音楽をつけている。この音楽がすごく良くて、サントラ速攻買い。個人的には『ピアノ〜』以来の大ヒットだ。『ガタカ』『ラビナス』は特徴はあったけどそんなに好きじゃなかったんで。今もこれを書きながら聴いている。特に花火のシーンで流れる曲(サントラの8曲目「jack」)が好きだ。

いつものウィンターボトムなら、こういう話を描くとしても客観的で時には突き放すように人々を描いていくが、この作品では人々に歩み寄り、怒りや悲しみや切なさを捉えようとしている。そして最後はほんわかと温かい。かといって狙いすぎたような展開にはせず、まるでノンフィクションかと思うくらいリアルなシーンもある。この人は一体誰?って思ってると意外なところで意外な人と繋がりがあったりしてストーリーは好き。

でも私としてはこの作品はかなり物足りない。これはこれでいいと思うが、ウィンターボトム作品とするとちょっと甘いかなぁって思う。手持ち16ミリカメラで光溢れるロンドンの夜景を撮影し、その映像がブレていたり早送りされて映し出される――うーん、クリストファー・ドイルじゃないんだから(笑)新鮮味がないし、これで誤魔化されてるような気もしてしまう。

あとね、実を言うと登場人物がダメだった。ナディア役のマッキーは楠田江里子ロボ系(笑)だし、姉役のシャーリー・ヘンダースンも妹役のパーカーも好きになれなくて。いくら話が好きでもキャストがダメだと辛いね。その中では夫エディ役が『シューティング・フィッシュ』のスチュアート・タウンゼントだったんだけど、彼は良かったな。
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17歳のカルテ('99アメリカ)-Sep 2.2000
[STORY]
高校を卒業したものの、進学も就職もせず作家になることを夢見ているスザンナ(ウィノナ・ライダー)はある時、アスピリン1瓶とウォッカ1本を飲んで病院にかつぎ込まれた。自殺するつもりはなかったと医師に訴えるが、クレイムア病院に入院させられる。病院には拒食症や虚言症の少女たちが入院しており、スザンナはリーダー格であるリサ(アンジェリーナ・ジョリー)に誘われ、秘密の通路を通って自分のカルテを盗み見る。病名は<境界性人格障害>というものだった。
監督ジェームズ・マンゴールド(『コップランド』)
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悪い作品じゃないんだが、ウィノナを10代の少女として見ることができるかできないかで印象が違うと思う。で、結論。私には見ることができませんでしたー。そこでつまづいちゃったので最後までのれなかった。

そりゃ実年齢('71年生まれの29歳)よりは若く見えるけど、いくらなんでも17、8というのは無理がある。顔じゃないんだな。かえって彼女よりも老けた子いるもんね。じゃなくて、画面を通して見ても他の少女たちと比べると落ち着いてて貫禄があるのだ。10代の子に見られるような危うさや痛々しさを全く感じない。だから入院してても他の患者たちの観察をしているだけに見えるし、みんなのお姉さんっていう雰囲気が出ちゃってる。ウィノナは製作にも関わってるので、撮影の合間もベテランらしさを出しちゃってたのかなーなどと邪推してしまった。

でもスザンナって難しい役柄だよね。インパクトはA・ジョリー演じるリサのほうがあるけど、エキセントリックな役って演じやすいと思う。言葉は悪いが見てて分かりやすい病だ。逆にスザンナのように、一見ごく普通に見えて人間なら誰しも持っている不安を抱え、それを克服できず自分でも気付かないうちに逸脱してしまうという役は、見た目にも分かりにくいし理解されにくそう。10代の少女にありがちなことだと思われても仕方ないかもしれない。でも、だからこそ私はスザンナを実年齢が近い女優に演じて欲しかったな。もがき苦しんでいる姿がもっとリアルに出たはず。今回はこれに尽きる。ウィノナは好きだけど。

1960年代の精神病院では薬による治療(というより押さえ込み?)が主で、今の時代からすると考えられないが、この時はこれしか方法がなかったんだろうな。しかし病院内でタバコ吸い放題なのには驚いた。そういうところは自由だったのね。
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