Movie Review 1999
◇Movie Index

ラン・ローラ・ラン('98ドイツ)-Jul 11.1999
[STORY]
11:40a.m.ローラ(フランカ・ポテンテ)の元に1本の電話が入る。「12時までに10万マルク用意しないと俺は殺される!」恋人マニ(モーリッツ・ブライプトロイ)が裏金を電車に置き忘れたのだった。時間はあと20分しかない。ローラは銀行の頭取をしている父親にお金を借りようと、ベルリンの街へ飛び出した!
監督トム・ティクヴァ(日本公開初)
−◇−◇−◇−
『バッファロー'66』に引き続き、こちらもテクノに合わせた新鮮味ある映像と、ユニークなストーリーだった。「もし、あの時ああなってたら・・・」というのは『スライディング・ドア』でも使われたが、この作品の場合は話が枝分かれしているというよりも、いったん元に戻るといった感じ。まさにGAME OVERを告げられたプレイヤーが、リセットしてゲームをやり直す感覚だ。そしてちょっと違う行動に出るだけでストーリーがガラリと変わってしまう。この場合、犬を連れた少年とのやりとりで後々の全てが変わってるみたい(笑)ちょうどこのシーンがアニメなので、余計にゲーム感覚だと思わされる。

主人公ローラも、シンプルな服装に髪を真っ赤に染めていてゲームキャラっぽい。それにしても彼女の走る姿はとても綺麗だ。とくに横顔が素晴らしい。だから走ってない、正面から映された顔がいまいちだったんですが(笑)まさに彼女の走りっぷりがこの映画を支えてると言っていい。

また制限時間20分を何分にも引き伸ばすことをせず、スッパリ20分程度で終わらせるところが潔い。この作品の最高にいいところだと思う。そしてそれぞれのオチには男と女の強くてもろい関係を描いてるのも面白い。そこでいきなりゲームっぽさから解放された気分になる。

が、ストーリーをリセットして3回同じようなことを繰り返すわけだ。1回目はいいとして、2回目、3回目と見るうちに、だんだんストーリーが分かってきてしまうのが勿体無かった。特に肝心の3回目のラストは容易に想像・・・というよりもむしろ確信に近いものが浮かんでしまって「ああ、やっぱりね」という感じ。

(ここからネタバレします)そして何よりもカジノで賞金稼げたのに、マニがお金を取り返してしまったわけだ。追い掛けてないで最初から拳銃出しとけ!とツッコミ入れたのは言うまでもない。彼女があれだけがんばった意味がなさすぎて力が抜けました。ラストもアッサリしすぎてて肩透かし。「私の努力は?!マニ!お前って奴は!」とローラが蹴りの1発でも入れてくれたらスッキリしたのに。それが元で2人が別れたらそれはそれでまた男女の関係を描いてて面白いかな、と(笑)元々「お前の所為でお金なくした!」と騒いでるような男だし〜マニって。(ここまで)

というわけでちょっと不満はあるものの、勢いと痛快さにスッキリした。
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バッファロー'66('98アメリカ)-Jul 11.1999オススメ★
[STORY]
5年間の刑務所生活から出所して、故郷バッファローに帰ろうとするビリー(ヴィンセント・ギャロ)途中、家に電話をした時、ビリーは政府の仕事をしており女房もいると嘘をついてしまう。その上、その女房を連れて帰るとまで言ってしまった。そこで通りすがりの女レイラ(クリスティーナ・リッチ)を誘拐し、自分の妻役を演じるよう強要する。
監督&脚本&音楽もヴィンセント・ギャロ(初監督作)
−◇−◇−◇−
えらい混んでて立見でした(お尻痛い)でも前評判良かったし、ギャロ様は来日したし、予告はカッコ良かったし、私もCD-ROM付き前売り買ったし(笑)しょうがない。特に渋谷で公開、というのがまたツボでしょう。

監督としての勉強をずっとしてきた人じゃない(と思う)ので、その映像センスがとても新鮮だった。回想シーン挿入の仕方や、テーブルを囲んだ時のカメラアングルなどが面白い。でもそれは奇を衒ったわけじゃなく、とてもアーティスティックに見える。ギャロ様(←別にめっちゃファンじゃないんだけど何故か様付け(笑))の描いた絵を写真で見たことあるんだけど、印象としては同じ。ちょっと暗めのザラっとした静物画で、背景と物との差がはっきりしてないぼんやりした緩さが何とも言えなかった。だけどその中に繊細さがうかがえるという。ギャロ様にとって絵を描くのも映画撮るのも一緒なのね。才能のある人は何でもできるんだから羨ましい。

そしてギャロ様の人徳か、出演者も少ないながらに豪華。すっかり忘れてたけどリッチとアンジェリカ・ヒューストンって『アダムスファミリー』の母子じゃないの(笑)ほかにもベン・ギャザラやミッキー・ローク、ロザンナ・アークエッド、ジャン=マイケル・ヴィンセント・・・クセのある人ばっかり(笑)

その中で驚きなのはやっぱりリッチでしょう。思わず「そんな体型になっちゃったんかぃアンタ!」とツッコミ入れたくなっちゃう。背が小さいのに胸がデカくて胴も足も太いという(笑)しかも体型がバッチリ分かる服着てんだもん。でもね、私が今まで見た中で、この映画の彼女が1番可愛いです(笑)顔は『アイス・ストーム』の時のほうが正直言ってヤバかった。今回のこの役は彼女の名前以外、全く語られない。ダンスの練習をしてる最中に拉致されてから、1度も家族と連絡も取らずによくビリーに付いてったなぁ〜と感心するほど。そしてそんな彼に恋までしてしまう、そんな女の子なかなかいない。

逆にビリーの生い立ちは細かく描かれている。説明的でないのに、そのほんのちょっとしたことで彼がいかに家族に愛されず、初恋の人にどう思われていたのかがよく分かる。それをずっと観察していたからこそ、レイラは彼を好きになる。ホテルでのシーンはさらに輪をかけて繊細で可愛いらしく、思わず泣いてしまいました。ツボ突かれた。

立見だった所為もあるだろうけど、途中ちょっと気が散るくらいのダラ〜ッとした展開が気にはなる。でもそこがギャロ様の持ち味ってことで。選曲もいい。
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豚の報い('99日本)-Jul 10.1999
[STORY]
沖縄のスナックに突如豚が侵入し、店の和歌子(早坂好恵)は驚いてマブイ<魂>を落としてしまう。その厄を落とすため、店の客で大学生の正吉(小澤征悦)が店のママ・ミヨ(あめくみちこ)と暢子も誘って、生まれ故郷である真謝島に行くことを提案する。
監督&脚本・崔洋一(『犬、走る』
−◇−◇−◇−
例の如く、初日舞台挨拶に行って参りました(むふ)やっぱ崔さんはむちゃくちゃカッコいいです。映画上映前にサインしてくれたし写真も一緒に撮ってくれました。

この映画の主役はやっぱりスナックのネーネー(お姉さん)3人に尽きる。とにかくよく喋って呑んで食って出すもん出して(笑)民宿のおばちゃんも豪快な人でした。それに比べて男性陣の何と影の薄いことよ。崔さん映画って『月はどっちに出ている』や『犬、走る』でもそうだったけど、男に左右されないしっかりした女の人が登場してそれが魅力的だった。ただ主演が岸谷五朗というエネルギッシュな人だったおかげでうまくバランスが取れていた。

だけど今回は新人に近い小澤征悦@征爾の息子。顔は岸谷さん以上にインパクトあるけれど(笑)何せぎこちない。私の勝手な想像だけれど、闇雲に走らせたり荷物持たせたり女の人を背負ったりという行動をさせることで、余計な演技をさせないことにしたのではないでしょーか。実際に身体を動かせてヘトヘトにさせれば、下手なこと考える余裕もなくセリフも言えるんじゃないかと(笑)医者役の岸部一徳さんや民宿のおじちゃんも大人しくて静かだしね。それはイカスミ汁を食べてるシーンで如実に現れているが(笑)

(ここからちょっとネタバレ)だから肝心の正吉の父のエピソードも弱い。個人的には彼の父親のことなど取っ払って、3人のネーネーとの珍道中というか、きちんと御獄<ウタキ>へ行って御願(ウガン)してほしかった。そこでネーネーたちの過去を、陽気な中に潜む辛さや悲しみを見せてほしかった。最後に唐突に暢子ネーネーが泣き出すシーンは、いかにも付け足しな感じだ。(ここまで)

でもワタシ的にめっちゃ嬉しいのは、豚を積んでトラックを運転していた川満聡さん(笑)この人は「ズームイン朝」の沖縄紹介で偶に出てくる人なんだけど(アナウンサーではないらしい)独特の沖縄言葉と熊みたいに人なつっこい笑顔に、お茶の間はおろか福沢アナまでいつも失笑してしまうスゴイ人なのである。もっと出番があれば良かったのに〜と思うけど、彼がメインで登場してたら全員彼のペースに嵌まって話が進まなくなると思うんで(笑)まぁこんなもんなのでしょう。
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ゴールデンボーイ('97アメリカ)-Jun 30.1999
[STORY]
ロサンゼルス郊外に住むトッド(ブラッド・レンフロ)は成績優秀でスポーツ万能の高校生。しかし学校の授業で学んだユダヤ人虐殺に持つようになる。ある時、トッドはバスで見かけた老人デンカー(イアン・マッケラン)が、元ナチスの将校だと見破り、彼の家を訪ねる。トッドはデンカーを脅して収容所での話をするよう強要した。
監督ブライアン・シンガー(『ユージュアル・サスペクツ』)
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何だかあんまり評判良くない映画なんだけど私は好きだ!ということで今回はその良さについてタップリ書こうじゃないの(笑)ネタバレしちゃいますのでご注意を。

確かにこの手の作品は、やろうと思えばいくらでも残虐でおぞましい話にできるんだけど、それをしないのがシンガー流なのだ。『パブリック・アクセス』も『ユージュアル』も、犯罪者が捕まることなくどこかへ消えてしまう。そして観客は狐につままれたような気持ちになる。この作品も同じ。原作のトッドは人を殺しまくって警察に捕まるけれど、この作品のトッドは偶然殺しちゃったホームレス以外にはまだ人殺しをしてない。だけどこれから彼の邪魔になるような者が現れたらやりかねない。しかも狡猾で絶対に捕まらないという自信に満ち溢れている。そこが怖い。トッドが教師を脅しているシーンにデンカーの息絶えるシーンが重なる。まるでデンカーの残酷な魂がトッドに入り込んでいるみたいだ。そしてトッドはモンスターになりつつあるが、映画はそこで終わってしまう。これまたあざやかというか「やられた」と言うべきか。

監督は常に観客に挑戦しているというか・・・意地悪だ(笑)「あとは自分で考えろ」的な冷たさがある。それでも『パブリック』や『ユージュアル』には仕掛けやヒントがあった。だから一生懸命考える気持ちにもなれたんだけど、この作品ではそれさえないから、どこから考えていいかが分からない。収容所話があまりリアルじゃないとか、少年が悪に目覚める過程を描くのが甘いなどと思わなくもないけど(笑)映像になってない部分を自分で想像して、その空白を創造しなきゃいけない気持ちに私はなる(我ながら誉め過ぎで「どうしたんだ自分?」と思う(笑)ひょっとして誉め殺し?!)

レンフロ君は今までになく集中力があってなかなかいい。そして何といってもマッケランでしょう。1番良かったのは彼がニセ軍服を着て行進するシーン。これはめちゃめちゃ震えた。そして出番がちょこっとだったけど、収容所に入っていたユダヤ老人役の演技!拳を口に突っ込んでむせび泣くところが凄すぎ。これだけで収容所生活がどれだけ苛酷だったのかが一目で分かる。

なーんて思い入れ強くなってますが、別の意味でニヤリな映画でもあるんだこれが。
だって明らかにホモ色強い映画なんだもん(笑)監督がシンガー(カムアウト済)でしょ。主演がサー・イアン・マッケラン(同じく)でしょ。レンフロ君のハダカシーンが妙に多いでしょ。ホームレスがホモを匂わす発言するでしょ。教師がホモ疑惑をかけられるでしょ。こんだけ揃えば立派なもんだ(笑)
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ファザーレス 父なき時代('98日)-Jun 27.1999オススメ★
[EXPLANATION]
自ら企画し、主演を兼ねたドキュメンタリー。都会で1人暮らしをしている村石雅也は、学校にも行かずバイトもせず、映画館で出会った見知らぬ男に抱かれることで自分を慰めていた。雅也の両親は離婚しており、その後、母が再婚。雅也は義父とうまく行かずに家を出ていたのだった。ある時、雅也はこの荒んだ生活を変えようと、故郷の長野に帰ることにした。
監督・茂野良弥
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内容にももちろん惹かれてたんだけど、それよりも私はひょっとしたらプライバシーを侵害するような、デリケートな問題をどうやって撮影したのか、村石さんがどんな気持ちで撮影されていたのかが知りたくて見に行ったのでした。

ドキュメンタリーはほとんど見たことがないのでよく分からないけど、少し演出が入ってるかな、と思った。それは人間が出ている場面じゃなくて、ところどころに映される長野の風景に、ちょっと大きすぎるかなぁと思うほどの音楽が挿入されるところなどが。また、最初は村石さんのナレーションにも違和感があった(だんだん気にならなくなったけど)映画学校の卒業制作作品とあって、撮影自体よりも編集に悩み過ぎ、作り込みすぎの印象がある。まぁでもこの映画に関していえば、そういうことじゃなくて内容が大事なわけなんだけど。

俳優が演じてるわけでもないし、ちょっと訛りがあるので聞き取りづらいところもあるので、ものすごく集中しないと聞き逃してしまう(それでもいくつか分からないところがあった)いつもよりもずっと居住まいを正して見たような気がする。そして何よりも村石さんの真剣さが、こちらに緊張を強いていたんだと思う。村石さんも「カメラが回ってるんだからここで聞かなきゃいけない。うやむやにしてはいけない」という気持ちが出たのかもしれない。

撮影当時22歳だった村石さんが幼い子供に見えた。人生経験の乏しい私が言える立場では全くないんだけど「もっとしっかりしろー!」と言いたくなるほど、村石さんは拗ねて意固地になってるように見えた。でもそれに対して、親御さんたちはあくまでも大人だった。特に義理のお父さん。私は最初、村石さんに何の関心もない人なのかと思っていた。でもそうじゃなかった。詳しくは書かないけど、村石さんよりもずっと辛い経験をしてきた人だったのだ。だから今、とても穏やかで優しい表情をしている。村石さんが聞かなければ一生分からなかったこと。でも聞いたからお父さんに近づけた。そしてそんなお父さんを、息子を理解しているお母さんがいる。・・・泣いちゃったよ、久々にオイオイと。
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