Movie Review 1998
◇Movie Index

相続人('97アメリカ)-Oct 22.1998
[STORY]
弁護士リック(ケネス・ブラナー)はある晩1人の女を助ける。彼女、マロリー(エンベス・デイビッツ)は変質的な父親のことで困っていた。リックは彼女のために父親を病院に強制収容する措置を取るが、父親は病院を抜け出し、リックのまわりで次々と事件が起こる。
監督ロバート・アルトマン(『ショート・カッツ』)
−◇−◇−◇−
ジョン・グリシャムが映画用に書き下ろしたオリジナルストーリーということだが、いつもの法廷場面が少なく、どちらかというとサスペンス色が強い。ただし出演者の色は薄い(苦笑)

出演陣は豪華なんだけど、どの人物もいまいち個性に欠けている。ブラナーもいつもの大袈裟なところがないのはいいけど、目立たな過ぎ(この役自体、誰がやっても同じような感じなんだろうなぁ)ブラナーに協力する探偵役のロバート・ダウニーJrもちょいとアル中気味なところが地出してるみたいで笑えるけど、それほど印象に残らない。薄幸でミステリアスな女マロリー役のデイビッツも雰囲気出そうとしてるんだろうけど何かが足りないし、ダリル・ハンナもロバート・デュパルも、トム・ベレンジャーだって出てたのに一体どういうことなのやら。そんな中で1番印象に残っているのがヘラルド!どんな役かと言えばそれはハリケーンの名前ですよ(配給が日本ヘラルドなのは偶然か?!)ほぼ全編にわたって雨を降らせて、そりゃあもうよく働いてました。1度街から離れたと思いきやまた戻ってきて、しつこくしつこく暴れてくれました。クライマックスも彼がいたからこそ成り立っていたようなもんです。良いように解釈すると、人より嵐を目立たせるのも演出だったのかな、とも思うけど。アルトマンだしね。

原題は『ジンジャーブレッドマン』マロリーが父親のことをリックに語る場面で“ジンジャーブレッドマン”というのが出てくる。この話を知って、この物語全体が見えてくるんだけど、邦題にまた『相続人』なんてストレートなタイトルつけるのはちょっとね。『依頼人』ていうグリシャム作品があるけど、あれとはまた違うもの。
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イヴの秘かな憂鬱('96アメリカ)-Oct 10.1998
[STORY]
美人で優秀な検事のイヴ(ティルダ・スウィントン)は、常に自分がパーフェクトであり続けなければならないという強迫観念とプレッシャーがあった。イヴの姉マデリンは妹にコンプレックスを感じ、ストレスから万引きの常習犯で警察に捕まる。イヴはマデリンを助けようとするが・・・。
監督&脚本スーザン・ストライトフェルド(初監督作)
−◇−◇−◇−
たぶんそんなに若くないんだろうスウィントンが、ダークな色のタイトスカートのスーツとか着て登場するのかと思ったら、予想を裏切ってパステルカラーだしフレアーのミニとか履いてるし(笑)でびっくりした。それが似合ってる時もあれば、ちぐはぐに感じる時もあって思わず苦笑い。ま、すごい美人には違いないけどね(歯並びはあんまり良くないが)ファッションだけでもけっこう楽しめた。

イヴの苦悩や心の叫び、小さい頃の忌まわしい思い出、父との関係などを表現したシーンは女性らしい繊細な作りになっている。「嫌な女だ」という幻聴が聞こえたり、自分が縛られていたり綱渡りをしていたり、イヴが感じているプレッシャーがうまく表現されている。ただ、そのシーンがかなり多く挿入されているので、ちょっとうざったく感じたが。だからストーリーの展開もちょっとまどろっこしい。表現したいことが纏まらないまま編集しちゃったような印象だ。また仕事をバリバリこなすイヴと、私生活でのイヴがもっとギャップが激しくても良かったんじゃないかな。

イヴの他に、姉マデリン、イヴにライバル意識を持つ検事ラングリー、マデリンと同居しているシングルマザーのエマ、エマの娘、ストリッパーらしいエマの叔母、イヴと関係を持つ女精神科医師など、さまざまな女性が登場する。それぞれが「1人の女」としてきちんと描かれている。全部じゃないけど、どこか一部は自分と当てはまるところがあって面白い。チラシと前売りに付いてきた「あなたのイヴ度チェック」では私はラングリータイプらしい(笑)「常に前向きでストレスはその場で解消し、後を引かない性格のあなたは、精神的には健康で楽に生きられるでしょう。ただし、行きすぎると他の人との間でトラブルが生じたり、ねたまれることも」うはは、けっこう当たってる。楽に生きてるからなぁ。ってこりゃ映画の感想じゃないけど。
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生きない('98日本)-Oct 7.1998
[STORY]
12月30日、沖縄初日の出ツアーに参加する面々は、みな自殺志願者だった。バスごと崖から海に転落させることで、保険金と見舞金を貰おうとするツアーだったのだ。しかしそこに1人だけ関係のない小泉(大河内奈々子)という女の子が乗り込んでくる。参加予定だった叔父が精神病院に入ってしまったため、代わりに参加したのだ。添乗員・新垣(ダンカン)は一緒に死んでもらおうと参加させるが・・・。
監督・清水浩(初監督・北野作品助監督)脚本ダンカン
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『生きない』っていうタイトルに惹かれて見に行く。思わず脱力&失笑してしまうタイトルですごく好きなんだけど、映画自体は気を抜いていられなくて緊張感がところどころに感じられる。思いつめたようなダンカンの表情と、何かを象徴するかのような缶蹴りシーン。ダラダラっとしたシーンやお笑いシーンの後に、ふとそんなシーンが挿入されると思わず息を止めてしまう。

大河内以外はみんなベテランの役者さんなので、やっぱりうまい。左右田一平とか石田太郎とか。小倉一郎なんて見るからに借金苦で貧乏そうだし、元宗教家役というグレート義太夫が宴会芸で空中浮遊する(つもりな)シーンには笑わせてもらった。個人的にはバス運転手とガイドさんの不倫カップルが可愛くて好きだったけど。だから大河内のキンキンした声がちょっとイヤだったし苛々した。わざと若い演技下手な子を配して、周りの自殺志願者とのギャップを出したかったのかもしれないけど。まぁ他に誰と言われても思い浮かばないが。

この映画で何を表現したかったのか分からないけど、映画を見たことで「生と死」について考えさせられたりはしなかった。なんにも残らないし、なんにも感じない。ああ、そうなんだ。ってちょっと思って終わり。こういう不思議な感覚も珍しい。人の表情をアップで映したりしないで、人々全体を俯瞰で映し、時間の流れを客観的に見せられているからかもしれないなぁ。

北野映画と同じように、妙な間のショットや沖縄の青空がポンッと映されたりするけど、北野映画よりは素直な感じがした。でも影響受け過ぎ。もうちょっと独自なテイストを入れて欲しかった。
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アイス・ストーム('97アメリカ)-Oct 7.1998
[STORY]
1973年アメリカ・コネティカット州。一見幸せそうに見える2組の家族。ベン・フッド(ケビン・クライン)は隣家のジェイニー・カーヴァー(シガーニー・ウィーバ)と浮気しており、ベン妻のエレナ(ジョアン・アレン)は万引き、娘もカーヴァー家の息子たちを誘惑していた。しかしアイスストーム―氷の嵐―の夜に起きた、ある出来事が彼らを変える。
監督アン・リー(『いつか晴れた日に』)
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アン・リーの『ウェディング・バンケット』と『恋人たちの食卓』は家族やカップルの人間模様をコミカルに描いたところがすごく好きだったんだけど(特にラン・シャンがいい)今回は同じ家族でも全然違う描きかたをしている。

フッド家の長男が寄宿している高校から感謝祭のために家に戻ってくるあたりから始まり、その間カメラは家族1人1人の苛立ちや不安を淡々と映していく。いつから、どうして、そうなってしまったのか分からないんだけど、長男が16歳だから20年近くかな?の結婚生活に少しずつ歪みが出てしまったのかも。子供たちが大人になり、夫婦は人生を考える時期なのか。家のある場所も周りは木が生い茂った郊外で、ちょうど季節は冬。特に物悲しい気持ちにもなりそう。

今まで水面下でくすぶっていた家族の絆が、アイス・ストームが起きたと同時にバラバラと崩れていく。嵐はさらに激しくなり、氷の森と化してしまった場所である事が起こる。そして嵐が去った後、家族は・・・。この表現がうまい。もう職人業って感じ。特にラストは中途半端なようで実はグッと引き締まっている。ほかの人が撮ったらこうはいかないだろうな。さすが!
,br> ただし撮影時期がいつなのか分からないんだけど・・・アイス・ストームも多分人工的に起こしたんだと思うんだけど(それはとてもリアル)残念ながら「寒さ」は感じなかった。ガラス窓や枝に氷が付いて冷たそうなんだけど「寒く」はない。どうしてかな?と思ったいたら気が付いた。人の息が白くないのだ。そして鼻の頭も赤くならないし震えてもいない。富士山に短パンTシャツで登っちゃう外国人もいるけど(笑)みんなが寒さに強いってわけでもなかろう。以前見た『ウインター・ゲスト』はホントにみんな寒そうだったけどね。
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犬、走る('98日本)-Sep 26.1998
[STORY]
警察の情報を流してワイロを受取る不良刑事・中山(岸谷五朗)は、ヤクザの組長の愛人で上海人の桃花(冨樫真)を恋人にしていた。中山とつるむ韓国人の情報屋・秀吉(大杉漣)も、桃花とデキている。そんなある時、桃花が秀吉のアパートで死体で見つかった!
監督&脚本・崔洋一(『月はどっちに出ている』)
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初日舞台挨拶に行ってきた。目当ては岸谷さんでも大杉さんでもなく、ズバリ崔さん。ん〜やっぱりカッコイーーーッ!撮影時のコワさは有名らしいけど、普段は本当にニコヤカで話が面白い。岸谷さんたちが語る監督のエピソードも最高だった。クーッますますファンになったぞー!

コピー通り「食って寝て走ってる映画」だった。欲望の渦巻く新宿で、金のためならどんな汚いことだってやるサイテーの奴等ばっかり出てくるんだけど、不思議と嫌悪感は沸かない。ギリギリのところでどこかすっとぼけたようなこと言うからなのかな?だから「バカでどーしょーもない奴だね」って笑えてしまう。そういう人間臭いところがいい。撮影時期も映画会社も被ってしまった『不夜城』はスタイリッシュさを追求したような映画だったけど、それとは逆に地べたを這うような作品だと思う。暴力シーンもこっちのほうが上。殴られたりドロドロになりながら犬のように新宿の街を走り回ってる。ラスト近く、新大久保あたりから歌舞伎町まで走るシーンはすごかった。一体何キロ走ったんだろう。

ただ話の内容がいまいち掴み難かったこと、それと日本映画のネックでもある台詞の聞き取り難さが少しあった(『マークスの山』ほどじゃないけどね)岸谷さんも大杉さんも楽しそうに余裕で演技していて、見ているこっちも楽しくなったし、遠藤憲一さんや國村隼さんといった個性的な役者さんも良かったな(國村さんは出てくるだけでインパクトバッチリ)ただ、桃花役の冨樫さんは途中で死んじゃうからかなぁ?いまいち。やっぱり男のドラマって感じがした。
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