Movie Review 1999
◇Movie Index

黒い家('99日本)-Nov 3.1999
[STORY]
昭和生命北陸支社の主任・若槻慎二(内野聖陽)は、ある日「自殺でも保険金は下りるのか」という電話を受ける。翌日、若槻は菰田重徳(西村雅彦)という保険契約者から呼び出され、菰田の自宅へ出掛ける。そこで菰田の息子の首吊り死体を発見して愕然とするが、菰田の不審な行動に疑問を持つ。さらにその翌日、菰田の妻幸子(大竹しのぶ)が保険金請求のために若槻を訪ねた。
監督・森田芳光(『39 刑法第三十九条』
−◇−◇−◇−
原作とほぼ同じストーリー展開だが、小説では味わえない視覚と聴覚での効果を狙った作品に仕上がっていた。疑惑の菰田重徳が登場するシーンでは必ず、まるで○○を切り落とす(←自主規制)ような音が終始しており彼を現す色は常に緑色、そして幸子を現す色は黄色だった。でもこの色の所為で怖さが半減したように思う。

小説を読んでの私のイメージはひたすら暗くて真っ黒だった。そもそも『黒い家』というのは、単に家のことではなく、そこに住む彼らの心が洞穴のように真っ暗で何も見えない、理解できない恐ろしさを象徴してのタイトルだと解釈している。それが映画ではカラフルになってしまって、また 家自体もそれほど不気味な黒さを感じさせなかったのが残念だ。

また、『39』でやってることをここでもやってるのにはちょっと呆れる。どちらの作品でも登場人物それぞれに「ちょっとヘン?」と思わせる特徴を出しているんだけど、この作品に関してはそれが失敗してるように思う。ごく普通の会社員がとんでもない人物から狙われてしまうという怖さがあるはずなのに、そこらじゅうにヘンな人がうじゃうじゃいるようじゃ本当に怖い人が埋没してしまうじゃないか。若槻自身もちょっとヘンに描かれているが、それなら原作のように彼の過去の説明が必要。何の説明もなしに彼の行動のみを描くのはおかしな話だ。逆に夫妻の過去のほうを必要以上に描く必要に疑問を感じた。理解できない、得体の知れない人物たちだからこそ恐ろしいのに、彼らを理解しようと理由をつけたら意味ないでしょう。

菰田夫妻以外のキャスティングについてはあまりイメージが壊れなくてよかった。若槻役の内野聖陽はその怖さをきちんと表現できていて、それがこちらにも伝わった。が、問題は菰田夫妻だ。大竹しのぶは想像通りの演技で意外性はなく、特に西村雅彦の「まだなのか」の言い回しには思わず「その言い方、違うー!」とツッコミ入れたくなった。彼の場合は怖くというよりもむしろ滑稽なだけだった。森田監督が製作時に「ポップでキッチュなホラーにする」と言ってたが、上記の色のことも含めて「ポップでキッチュ」のみが残ったようだ。
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クリミナル・ラヴァーズ('99フランス)-Nov 3.1999
[STORY]
アリス(ナターシャ・レニエ)とリュック(ジレミー・レニエ)は共謀して同級生サイードを殺した。2人は死体を埋めるために森に入ったが道に迷ってしまい、森に住む男(ミキ・マノロヴィッチ)に掴まってしまう。
監督&脚本フランソワ・オゾン(『ホームドラマ』
−◇−◇−◇−
ものすごくシリアスなサスペンスタッチのドラマなのかと思えば童話のようになり、そして急に現実的に展開していくストーリーだった。『ホームドラマ』とぜんぜん違うじゃない!とびっくりしたけど、動物がいっぱい出てきた××なシーン(←ここらへんは自主規制)は笑えて、そこがオゾンらしい?のかな。

童話らしさは2つある。1つめは『不思議の国のアリス』だ。アリスはウサギの後を追いかけて不思議の国へ入り込むが、この作品ではウサギを轢き殺してしまうシーンが挿入されている。そしてこの作品のアリスは、見ているとどうも現実的な少女ではないことが分かってくる。リュックを惑わせては悦に入り、次第にそれがエスカレートしていく。自分のために尽くしてくれる男、自分のために人を殺してくれる男がいるんだ!そうして自分の価値を高めて陶酔しているように見える。逼迫した理由で犯した殺人も実は・・・。

そしてもう1つの童話は『ヘンゼルとグレーテル』だ。森で迷子になった兄妹がお菓子の家を見つけるが、人食いばあさんに掴まってしまうというあの話。この作品でも森に住む男に監禁され、お前達を食べると脅される。ここでリュックは××から○○を△△(←ここらへんも自主規制)というわけで、今までアリスのペースに嵌りっぱなしだったのが、自分自身の意思で行動できるようになり、ある違った「心」を持つようになる。

こうして、アリスとリュックは同じ方向へ進んでいたハズが、次第にそのベクトルが違う方向に向かっていく。そしてそれが2人の運命をはっきり分け隔てる。思春期の男女の、多感で残酷な面を引き出しつつ、大人へと成長できるかできないかを表現した作品だ。童話をモチーフにしたアイデアと演出は面白いと思う。
が、こういう話は自分がどこまで入り込めるかによって印象や気持ちが違ってくると思う。私は振り回されっぱなしのリュックに同情を覚えつつも呆れ、アリスの言動にはもっと呆れたため(笑)あくまでも2人を観察するだけになってしまったようだ。若さゆえの痛みや悩みをちゃんと自分の中にまで受け止められたら、この作品をもっと近くに感じられただろう。
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I Love ペッカー('98アメリカ)-Nov 2.1999オススメ★
[STORY]
母親から貰った中古のカメラで、ペッカー(エドワード・ファーロング)は家族やガールフレンドのシェリー(クリスティーナ・リッチ)の写真を撮りまくっていた。ある時、自分で開いた展覧会にNYのアートディーラーが偶然やってきて、ペッカーが撮った「ある写真」を気に入ってしまい1300ドルもの値を付けた!
監督&脚本ジョン・ウォーターズ(『シリアル・ママ』)
−◇−◇−◇−
下品なのにチャーミングな映画だった。そして最後は一緒になって大騒ぎしたくなるような楽しさ。原題はただの「PECKER」なんだけど「I love ペッカー」っていうタイトル付けたくなるのも分かるくらい愛すべき作品だ。が、ペッカー自身はそれほど濃いキャラクターでもないんだよね。ファーロングの顔や表情がウォーターズに似てるのがヤバいけど、設定としてはいたずら好きのカメラ小僧ってだけで。ペッカーのパパはこの映画の中ではマトモなほうだし、万引き好きの親友マットもそれほど強烈には感じなかった。

だって女性キャラクターが凄すぎるんだもん。バスの中で股広げてムダ毛剃ってるお姉ちゃんやストリッパーを見ちゃったらアナタ(笑)ペッカー一家の女性たちもスゴイ。ペッカーのおばあちゃんもイっちゃってて可愛いが、妹のクリッシーがめちゃヤバいのなんのって!糖分取り過ぎでヒステリックになったかと思えばクスリでラリってみたり、鼻からグリンピース吸い込んだり(出すのは梅垣義明だが)子役にそこまでやらせるとは・・・!でもウォーターズだからよし!(笑)

NYアートを皮肉ってるようにも思える作品ではあるけれど、ペッカーの撮る写真はあながち偶然だけの産物ではないと思う。ペッカーはそのシャッターの切り方が天才的なんだろうな。一瞬でその人物の特徴を捉えることができて、1番いいポーズでシャッターが切れる。古いカメラから新しいカメラに換えて写真を撮っても、やっぱりいい写真が取れてるんだから、その洞察力、観察力の良さがあるのだ。映画で使われた写真は、実際はプロのカメラマンが撮ったらしいんだけど、これが全ていいんだ。カメラマンの腕と役者たちの表現力があってこその写真て感じ。全部欲しくなっちゃう。パンフにミニ写真集がついてたんだけど、きちんとした写真集が欲しい!あったら絶対に買うのにな。

そして何もアートはNYだけじゃない、ボルチモアでだってできるんだ!という強い主張が感じられる。最後はNYをボルチモアに屈服させてしまうくらいのパワー。お高くとまってた人達も写真を撮られたことで裸にされたようになり、ボルチモアの人達と同じように解放される。まさにボルチモア万歳!の映画なのだ。
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スパイシー・ラブスープ('98中国)-Nov 1.1999
[STORY]
これから結婚しようとする1組のカップルがいる。彼らが結婚にこぎつけるまでに踏まなければならないステップを少しずつ描きながら、初恋・再婚・倦怠期・離婚・運命の出会い・・・さまざまな愛のかたちをオムニバス形式で描いていく。
監督&脚本チャン・ヤン(初監督作)
−◇−◇−◇−
中国の映画というと文化大革命や戦争をベースにしたような、暗くて真面目でお堅い作品のイメージしかなかったけど、この映画は違った。香港映画ほど垢抜けてはいないけれど、台湾映画と言われても分からないかもしれない(って香港も台湾も中国なんだけどさ)それくらいポップでキュートでユーモアたっぷりの作品だった。

5つの話はどれも出来がいい。好きな女の子の声を録音して何度も聞いたり、自分の告白をテープに吹き込んで女の子に渡す初恋の話は瑞々しくて甘酸っぱくて、いいなぁ〜って思うし、定年を迎えた女性が再婚相手を選ぶ話はニヤニヤしちゃった。倦怠期を迎えたカップルがオモチャに夢中になって夫婦生活が復活する話も面白い。ただし全てがハッピーエンドではない。恋も愛も破れてしまうことがある。いくら努力しても報われないこともあるんだよ、ということをしっかり描いている。でも私としては全てうまく行くかたちにして欲しかったなぁ。

最後の話は、偶然の出会いから恋に発展し、また偶然に再会したカップルの話だった。これだけは美男美女を揃えてキレイに描きたかったのかな?と思ったら「え。まじ?」とびっくりするラストに思わず笑ってしまった。短いけどこの話、私はけっこう好き。このへんがピリッとスパイシーな味になってるんだね。

5つの話はどれも面白いのに、それを繋ぐカップルの話が私はあまり面白いと思わなかった。紆余曲折して結婚にこぎつける、それをもっと面白おかしく描いてほしかったし、次のエピソードに繋がるシーンがいまいちだなぁと思うところもあった。ただ、中国も日本とあまり変わらないんだな〜と感心したり、披露宴で行う「共に白髪が生えるまで」とお互いに白い粉を吹きかけるセレモニーは日本でもやると面白そう!と思った。
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ルート9('99アメリカ)-Nov 1.1999
[STORY]
国道9号線沿いにあるガソリンスタンドで麻薬取引が行われようとしていた。しかし取引がうまくいかず、銃撃戦に発展して全員が死亡した。そこへ偶然通りかかった保安官補のブース(カイル・マクラクラン)とアールは150万ドルという大金を発見し、それを隠匿しようとするが・・・。
監督デビッド・マッケイ(『レッサー・エヴィル』
−◇−◇−◇−
この作品は劇場公開されず、2000年1月にビデオとDVDでの発売のみとなりましたが、私は映画祭で見たのでここに書きます。

『レッサー・エヴィル』は過去に犯した罪を隠匿しようとする話だったが、こちらはほんの出来心で犯した罪を隠匿するためにさらに罪を重ねていく話だった。『シンプル・プラン』にかなり似ている。人間、大金が絡むとホントにロクなことしないね。しかもやりすぎて、さらに傷口広げていく。考えてみれば、もともと頭の良い人間なら借金もないし成功してるはず。頭が働かないくせに中途半端に悪知恵だけ働くものだから悪いほう悪いほうに進んでっちゃうのね。

『シンプル・プラン』は何となくヌル〜い感じの展開だったけど、それよりも追い詰められ方も隠匿の仕方も過激で、さらに浅はかで杜撰で(笑)なかなか面白かった。ラストもこっちのほうが好きかな。それにビル・パクストンよりもマクラクランのほうがこういう演技はハマってるね。相棒アールの猪突猛進さに振り回され、煮え切らず優柔不断で、さらに不倫してるところもいい(笑)ほかのキャラクターもそれぞれ個性があって『レッサー・エヴィル』よりも格段にその表現がうまくなってると思った。

でもすごく面白かったというわけじゃない。面白かったのは『レッサー・エヴィル』や『シンプル・プラン』より面白かった、というだけ。うまく書けないんだけど、劇場公開されないのも分かるかなーという感じ。失礼な表現で申し訳ないけど、したとしてもシネパトスで2週間のみの上映かなって感じ(ごめんね)何だかね、全体的に安い感じがしてしまった。たぶんブースの不倫相手の女優がいかにも安そうだからなんだろうが(厳しいな)これがもうちょっと有名な人でも使ってくれればまた違ったかもしれないのに。アバズレな女でも演じる人によってかなり雰囲気が違ってくると思うんだ。これならビデオで見てもいいかって思っちゃう。TVドラマっぽいんだな。
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