Movie Review 1999
◇Movie Index

菊次郎の夏('99日本)-May 24.1999
[STORY]
夏休みだというのに、おばあちゃんと2人暮らしの正男(関口雄介)はどこへも行けず、寂しい思いをしていた。そこで、離れて暮らすお母さんに会いに行こうとする。近所のおばさん(岸本加世子)は心配になって旦那(ビートたけし)に正男を母親の所まで送り届けるように命令する。そうして2人の旅ははじまった。
監督&脚本も北野武(『HANA-BI』
−◇−◇−◇−
明石さんには申し訳ないけど(笑)『キリコの風景』よりも、風景に人がピッタリとはまり込んでいる。浜辺を俯瞰で撮る。向こうのほうに小さくうつむいた正男とそれを見ている菊次郎がいる。独特の間。たったそれだけなのにどうして全てを表現しきれてしまうんだろう。セリフも何にもないのに。そういうところが随所に見られて、この部分に関して言えば『HANA-BI』よりも素晴らしい。

私は見る前、菊次郎というのは男の子のほうの名前だとばかり思っていた。それがたけしのほうだと知って「どうして?」と思った。少年が体験するさまざまな出来事を描いてるのではないのか?と。確かにそれはその通りなんだけど、見たあと、このタイトルの意味が分かった。

母を求める正男にインスパイアされ、菊次郎もまた母を求め、少年の中に同じものを見つけ、同じことを体験して夏を感じていく、そういう映画だった。だからこのタイトルは正しい。最初から最後まで「なんだよバカヤロー!」を繰り返す、偉そうでヤなオッサンだったけど、不思議と憎めない人だった。ボーッとしてて可愛くない正男も可愛かったしね。

でもね、はっきり言っちゃえば、TVでやってることと同じものは見せて欲しくない。スーパージョッキーが終わって寂しいのか(笑)ガンバルマンとやってることが変わらない。確かに笑っちゃうけど、ジワッと泣きそうになるシーンとその笑いドコロのシーンとにきつい違和感が出てしまう。北野武とビートたけしを使い分けるて泣かせて笑わせる、それはもちろんオッケイ。でもどっちの流れも、変わった途端に途切れてしまうのはどうか。それが北野映画と言われればそれまでだけど。

また、技術的なところがやっぱり気になってしまう。少年の夢のシーンが稚拙でがっかり。麿赤兒が踊るシーンは緊張感があっていいけど、あとのは何だかねぇ。夜空の星も汚かったし。自然や下町の風景の美しさと比べると作り物がいかにも作り物すぎてこれにも違和感があった。

全体的には冗長でベタなギャグをやらなきゃ1時間で終わるような映画です(笑)でも無駄なことが楽しいのだな。
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スパニッシュ・プリズナー('97アメリカ)-Mar 19.1999
[STORY]
ロス(キャンベル・スコット)は会社に莫大な利益をもたらす『プロセス』を発明した。そのプレゼンテーションを行なったリゾート地で、ジミー・デル(スティーブ・マーティン)という富豪と出会う。彼と懇意になったロスは、ニューヨークに戻ってからも何度も会うようになり「プロセス」の相談までしてしまう。
監督&脚本デビッド・マメット(『殺人課』)
−◇−◇−◇−
スパニッシュ・プリズナー―スペインの囚人詐欺―とは、昔から使い古されている詐欺の1つのことだそーです。

えらい発明してそれを誰かに盗まれないかビクビクしてるような人にしては、行動が軽率のような気がする。大事な『プロセス』を直に手に持ってプラプラ歩いちゃダメでしょう!(笑)まぁでも、見てるこっちは「コイツは絶対にアヤシイ!」という先入観があるから、ロスがそいつらに近づくたびに「あ〜あ、罠にハマッてる」ともどかしく思ってしまうわけだ。これが見てるほうも知らず知らずのうちに騙されている、そういう作品だったらロスに対して言うことないんだけどね。

彼が騙されるまでの伏線がたくさんあって「これも何かあるな」「このショットも意味ありそう」と注意深く見るのは楽しい。そして騙したヤツらの巧妙さには驚かされる。ホント、誰を信じていいのか分からなくなってしまう。たった1人に騙されるよりも集団から騙されたほうが疑いも薄れてしまうだろうなぁ。自分以外すべてスタッフだった『トゥルーマン・ショウ』を彷彿とさせる。しかしロスがヤツらの思惑と違った行動を取ることによって、そこにほころびができていくのは、騙されるシーンよりも面白かった。

ただし、やっぱり問題なのはロスさんです。騙されて窮地に立たされたわりには焦りや不安が伝わってこない。結局、頭はいいけど根はのんきなお坊ちゃんタイプなのかねぇ。そんでもってメガネ外してどうして普通に行動できる?!(笑)テンポを変えずに全体的にゆったりとした流れはいいような悪いような中途半端な印象を受けた。

・・・ちなみに日本人がけっこう出てきます(笑)
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催眠('99日本)-Mar 16.1999
[STORY]
「ミドリの猿」と言い残して変死する事件が多発していた。事件を担当している櫻井刑事(宇津井健)は心理カウンセラーの嵯峨(稲垣吾郎)から、死んだ者たちは催眠を掛けられていた可能性があると指摘される。一方、催眠術師・実相寺(升毅)の前に、由香(菅野美穂)と名乗る女が現れ、彼女もまた「ミドリの猿」という言葉を口にした。
監督&脚本・落合正幸(『パラサイト・イヴ』)
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始まって1時間くらいしてハラハラドキドキした・・・厠に行きたくなっちゃって(おい)←でもホント(笑)

ネタバレも含みますのでこれから見る方は読まないほうがいいでしょう。

原作を読んでたけど(感想はこちら)いちおう頭を切り替えて“映画は映画”として見たつもり。んにしても出来が悪すぎる!これではまんま『リング』だ。オープニングタイトルで鏡に映った人の顔がぼやけてるところ、人が同時に変死するところ、由香の髪型も服装も貞子みたい。そんなところばっかりパクってて肝心のキャラクターがまるでなってない。

まず主人公の嵯峨がへなちょこ過ぎ(笑)TVで催眠術かけてるような実相寺に簡単に催眠を掛けられちゃうし、由香の中にある人格にも催眠を掛けられてしまう。そんな人が催眠のスペシャリストだなんてそっちのほうがよっぽど詐欺師みたい(笑)そして1番問題なのは、過去に消したい記憶を持っている櫻井に対して「事件が終わったらその記憶を消してあげましょう」ときたもんだ。これには呆れてものが言えない。カウンセラーは記憶を消すのではなく、心の傷の原因を探り、それを克服するための手助けをしなきゃいけないわけでしょう。記憶を消すことが心の傷を癒すこととは全く違う。

同じように由香は原作ではきちんと多重人格になる要因の説明がなされているが、ここでは単に「拒食症だった」「いじめられてた」くらいの説明しかない。どうしてそうなったのか?というのがない。拒食症という症状を簡単に使い過ぎている。映画だから、エンターテイメントだから、というなら『催眠』を下敷きにしなくてもよかろう。これではやっぱり催眠というのを誤解する人ばかりじゃないのか。見ていてだんだん腹が立ってきた。

単純にホラーとしてもダメ。怖いのは死体が映るシーンのみ。そして0.2秒で怖さを忘れる。「あのシーンのアレが」と思い出すこともなかった。そんで急にロマンチック(笑)なシーンを盛り込んでみたりして失笑するのみだ。

1つ誉めるとすればバイプレイヤーが豪華なこと!升さんに漣ちゃんに白井晃さん。絵沢萌子さんも出てる。そして小木茂光さん(はぁと)白衣の似合う“でこっぱち”でした。
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ラウンダーズ('99アメリカ)-Mar 12.1999
[STORY]
法学校に通うマイク(マット・デイモン)は学費や生活費をポーカーで稼いでいた。しかし全財産を賭けた勝負で、ロシアンマフィアのテディKGB(ジョン・マルコビッチ)に負けてしまい、足を洗うことを決意する。だがマイクの親友ワーム(エドワード・ノートン)が刑務所から出所し、マイクを再びポーカーの世界へと引きずり込んでいった。
監督ジョン・ダール(『アンフォゲダブル』)
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ノートンが出てなかった見なかっただろうな。やっぱりうまいです彼は。人の名前で金を借りるだけ借りて、結局返さないで雲隠れしてしまう嫌な奴だけど、あの顔をくしゃっとさせて「ワリィなぁ」って表情されると「しょうがない・・・」って思っちゃう(笑)結局そういう生きかたしかできないと自分で分かった上での行動だし。人間なんて変われないものよ。

デイモンはねぇ、もうここまでが限界かな、という感じ。『グッド・ウィル・ハンティング』『レインメーカー』を足して2で割ったようなそんな役。ストーリー、特にラストも2作品に通じるものがあって「またかよ」と思った。イイ年なんだから学生みたいな役ももうやめたほうがいい。それに天才な役もそろそろ捨てたほうが良さそう(でも次回作が天才リプリー君なのだった)頭の良さとルックスが合ってないのがそもそも問題なのかもしれない(酷い<自分)

マルコビッチ、ジョン・タトゥーロ、マーティン・ランドーなど脇役は豪華だけれどホントに脇役(泣)その中ではランドーの優しさが素敵だった。あとマルコビッチの赤いジャージ姿(笑)『フェイク』でパチーノがやっぱりジャージ着てたけど、マフィアってホントにホームウェアはジャージなんだろーか。

ストーリーは最後まで緊迫感がなく狭い世界を描いている。ラスベガスで華々しく活躍するラウンダーズ<勝負師>な話かと思えばそうではないし、裏世界で激しく汚らしい勝負をするわけでもない。確かに裏世界でやってることはやってるけど、怖さや迫力がないので全く実感が持てない。またポーカーシーンももっと「タメ」を入れて、私のようにポーカーにさほど興味のない者でも緊張してしまうようなゲームをドラマチックに見せて欲しかった。
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39 刑法第三十九条('99日本)-Mar 9.1999
[STORY]
妊娠していた女とその夫を殺した罪で逮捕された柴田真樹(堤真一)は、裁判中に精神障害の兆候を見せたために司法精神鑑定を受けることになった。鑑定の担当となった藤代教授(杉浦直樹)は多重人格だと結論付けたが、助手の小川香深(鈴木京香)は柴田が詐病ではないかと疑い、今度は自分が鑑定したいと検察に訴えた。
監督・森田芳光(『失楽園』
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なかなかよく出来ています(笑)内容的には惹かれてたものの『失楽園』が念頭にあったせいで「こりゃダメかも〜」と思っていた。それが想像してたよりもしっかりした作りだったので驚いた。ミステリ的要素があるので詳しくは書けないけれど、ミスディレクションな映像には騙されたりしたし。

でも、やっぱりいじり過ぎだとは思う。映像は現像時に黒っぽくなるよう処理してあるのはいいとして(「銀残し」というらしい)妙なカメラアングルやらヘンテコなカット割りが多用されてて少々うざったい。それに出演者も「これでもかっ!」というくらい癖のある人ばかりを脇に固めている。検事に江守徹、弁護士に樹木希林、刑事に岸部一徳、香深(カフカと読む)の母親に吉田日出子・・・みんないかにも「役者です」って感じの演技過多でげっそり。裁判シーンは特に下手な演出だった(喋っちゃいけない人が断りなく口挟んでくるし<被告)唯一、裁判長がどこにでもいそうな普通のおじさんだったのが救いでした(笑)

テーマはホントに難しい。刑法第三十九条というのは、事件を起こした時に心神喪失だった時は罪を問われなかったり刑が軽くなったりすること。事件を起こした時は心神喪失だったかもしれないけど、鑑定した時点ではそれがなくなっていたりするし、逆に事件を起こしたことでそうなってしまう場合もあるだろう。だから精神鑑定なんてアテにならないとは思う。かといってやらないわけにはいかない。もうそこからして議論を呼ぶ。そんでもって起こした犯罪に対しての責任能力の有無など、さらに激しい議論になること間違いなし。この映画で思い出すのは神戸の小学生連続殺傷事件。製作者サイドもこの事件があったからこそこの映画を作ったんだと思う。さらに問題提起をしようとする熱意は感じるけれど・・・どうでしょう。結局「どうだっ!」って見せただけで終わっちゃったような気がする。「どう思いますか?」じゃなくてね。

でもね、1番ダメなところは、どの年代の客層に見て貰いたいのか、プロモーションも含めてターゲットを絞ってないところでしょう。松竹さんそれどころじゃないのかしら。
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