Movie Review 2000
◇Movie Index

ホワイトアウト('00日本)-Aug 31.2000
[STORY]
日本最大の貯水量を誇る新潟奥遠和ダム。ダムの運転員・富樫輝男(織田裕二)と吉岡和志(石黒賢)は遭難者救助の途中でホワイトアウト――ガスと雪のために視界を完全に奪われる現象――に襲われ、吉岡は命を落とす。2ヶ月後、吉岡の婚約者・平川千晶(松嶋菜々子)がダムの見学にやってくる。しかしダムに向かう途中で武装グループに襲われ、身柄を拘束されてしまう。
監督・若松節朗(初監督作)
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原作と映画どっちを先にするか迷ってたんだけど、結局原作を先に読んでしまった。でもそれで良かったみたい。映画だけだったらよく分からなかったと思うんだよね。あるシーンなんて3秒くらいしか映ってなくて、小説を読んでない人なら何のことだかさっぱり理解できなかったはず。本当はもっと長く撮ったんだろうけど、時間の関係でカットしちゃったんだろうな。あれならシーンまるごといらなかったようにも思うが、きっと勿体無いと思っちゃったんでしょう(苦笑)

日本映画にしてはよくやったほうだ、と失礼かつ生意気な発言だが、そう思った。銃やスノーモービル、ヘリを使ったアクションシーンにけっこうハラハラしたもの。CGもそれほど違和感なかったしね。今の日本ではこれが限界なのかな?とも思ったが、できるギリギリの線まで頑張ってるのが分かったし、主演の織田とスタッフの“熱意”は十分伝わった。

しかし・・・織田はダメだ(ファンの人すまぬ)彼のセリフを聞いた途端に萎えてしまった。『踊る大捜査線』の青島まんまじゃん!富樫はそんな男じゃねえだろー。小説と全く同じものを期待してたわけじゃないが、いくらなんでもそりゃないよ。原作を読んでいて私が一番泣いてしまった、長見署の奥田との無線での会話も台無し。本人の意図かどうか知らんが、青島の着てたジャケットと同じような色の防寒着で登場だったしね。
また犯人たちから逃げたり、ダムの放流を止めたりするシーンはオーバーアクションで息遣いもわざとらしいほどに荒く、タフな富樫のイメージとは掛け離れているし、そんなんでは体力持たないでしょ?って思ってしまった。画的にはたいそう地味だが、雪山に慣れた無駄のない動きをしてほしかった。
そして・・・松嶋もダメだ(ファンの人すまぬ)表情に乏しく、銃で人を殺しても何の衝撃もなく、銃で撃たれた痛みさえ感じないロボットのような人やね。そんだけ。良かったのは犯人グループのメンバー役だった吹越満&橋本さとしの2人でした。

映像として致命的なのは凍るような寒さや雪の恐ろしさを表現できてなかったこと。特にホワイトアウトのシーンはガッカリ。いかに原作を読んでいようとも、これだけは映像で見なきゃ意味ないよなーと思ってたのに。また豪雪の中を黙々と歩く富樫を、うんと上のほうから映して欲しかった。この作品はテロリストとの戦いでもあるが、雪との戦いでもある話だから。
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イギリスから来た男('99アメリカ)-Aug 19.2000
[STORY]
9年間の刑期を終えて、ウィルソン(テレンス・スタンプ)はイギリスからロサンゼルスにやってきた。ロスで暮らしていた娘のジェニーが事故で死んだことが信じられず、それを確かめるためだった。彼に手紙をくれた男エドゥアルドに会いに行くと、ジェニーがテリー・ヴァレンタイン(ピーター・フォンダ)という男と付き合っていたと聞かされる。
監督スティーブン・ソダーバーグ(『アウト・オブ・サイト』
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ストーリーは先が読めるし単純だと思う。でも回想シーンを細かいカットで繋いでいくことで飽きさせず、見ている者を引き付ける。時には同じシーンを微妙にずらしながら挿入させているのも効果的。ピーター・ギャラガーが主演した『蒼い記憶』もこんな感じだったけど、あれはまさに主人公の記憶の断片を繋いでるような感じで、見ていてこちらまで不安定な気分になった。それと比べるとこちらは、同じ回想でもウィルソンの娘に対する想い――深い悲しみと後悔の念がよく表れている。まるで映像自体が演技してるよう。

ウィルソンの若い頃の映像は、ケン・ローチ監督でスタンプが主演した『夜空に星のあるように』('67英)がそのまま使われている。見てないのでストーリーだけ調べてみた――窃盗で生計を立てていた男が警察に捕まり、残された妻は生まれたばかりの子供と2人で逞しく生きていく――だそう。この映画の設定ほぼそのままが何十年後かのウィルソンの役柄になっている。

でもね、申し訳ないけど、いくら本人が出てても『夜空〜』の挿入はワタシ的に違和感ありまくりだった。30年以上も前の映像だからというのももちろんだし、この映画の延長だから仕方ないが、スタンプが窃盗の常習犯であること。そして刑務所暮らしをしていて最近出所したばかりという設定も違和感あり。まず、あのスッとした立ち姿からして泥棒っぽくない(泥棒にもいろいろあるし、知らぬ間にアレを抜き取っていたところは確かにカッコ良かった)さらに刑務所にいたようには見えないし、出所したばかりなのにかなり身奇麗なのもちょっとね。
でもやはりスーツ姿はよい。欲目だがフォンダよりも断然カッコイイ。ヴァレンタインなどというアホな男にうつつを抜かしておらずに、父親に萌えとけば死なずに済んだのに娘よ(そうきたか<自分)
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('00日本)-Aug 16.2000オススメ★
[STORY]
母が営むクリーニング店の二階で、洋服の直しをしている吉村正子(藤山直美)。ホステスをしている妹の由香里(牧瀬里穂)はそんな姉を軽蔑していた。ある時、母が急死してしまい、ショックのせいか正子は葬儀にも出ず、無神経なことを口走るばかり。そんな姉に由香里は怒りを爆発させるが、逆に正子に殺されてしまう。香典袋を持ち、35年間暮らした家を出て、正子の逃亡生活が始まった。
脚本&監督・阪本順治(『傷だらけの天使』)
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性格も顔も全く違う姉妹が母の死によってついに決裂し、姉は妹を殺して逃亡する。逃げてまもなく、阪神大震災が彼女を襲う。名前を変え、職を変え、様々な人々に出会いながら、次第に強く逞しく、そして1人の女として恋もするようになる。

阪本作品って失礼ながら関西の泥臭い話というイメージがあって、しかも主人公はアウトローな男性ばかりで興味持てなかったんだけど、この作品は予告を見て絶対見ようと決めていた。予告だけでもかなり面白かったのだ。ストーリーだけ読むと暗くて辛そうな感じだけど、思わず大声で笑ってしまうシーンがたっぷり。そして時には泣きたくなるような切ないシーンもある。

とにかく藤山直美だ!舞台は見たことないけど、ドラマ『女は度胸』はやっぱりこの人がすごくて、かなりハマって見ていた。セリフ回しも間合いも絶妙で、個人的に彼女に今年の主演女優賞あげたい。あ、でも申し訳ないけど“女優”って言葉はちょっと気取っててこの人には似合わないと思う。やっぱり“芸人さん”だなあ。芸達者な人だ、本当に。
ほかのキャストも豪華で、特に中村勘九郎の役柄には驚いた。しかもあんなことして・・・。

不謹慎だが、正子は人を殺したことで解放され、人間的に成長し、生きる楽しさを知ったんだと思う。閉じこもりがちだった家から出て、乗れなかった自転車にも乗れるようになったし、泳ぎたいと思うようにもなった。人を殺すことは絶対にしてはいけないし、罪は償わなければならないが、正子に限っていえば「変わって良かったね」と思ってしまうし「このまま捕まらずに時効まで逃げ続けてくれ」と願ってしまう。それだけ正子というキャラクターは、見ている者が応援したくなるような魅力があるのだ。
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サルサ!('99フランス=スペイン)-Aug 12.2000オススメ★
[STORY]
ピアニストのレミ(ヴァンサン・ルクール)はクラシックを捨ててサルサを選んだ。しかしキューバ人ミュージシャンに認めてもらえない。諦めずにレミは髪を染めて肌を焼き、自らをモンゴと名乗ってダンス教室を開く。そこへやってきたのは法務省勤務のエリートと婚約しているナタリー(クリスティアンヌ・グゥ)。初めはシャイだった彼女もいつしかサルサに魅せられ、レミは彼女に恋をするが・・・。
監督&脚本ジョイス・シャルマン・ブニュエル(日本公開初)
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キューバ音楽といえば『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』だけど、この映画で演奏された曲は、どちらかというと哀愁漂う、放浪の旅をしているようなそんな曲が多かったが、この映画では明るくて情熱的なアップテンポの曲ばかりで、見ながらついこちらも身体を前後に動かしてしまった。とにかくみんな楽しそうなのが伝わってきて、見てるだけでは物足りないのだ。ビデオが出たら借りて一緒に踊ろうかな(これは冗談)

レミ役のルクールは、キューバ人になりすましてる時のほうがずっとカッコ良かった。ラストでフランス人に戻った時に「あれ?」って思ったよ。なんかフニャっとしてて笑顔がちょっと気持ち悪かった。最初はキューバ人モドキのほうが違和感あったのに慣れって恐ろしい。
そしてナタリー役のグゥはグー!(←ベタなギャグはやめれ<自分)ちょっと太めの身体でダンスしている姿は、まるでインド映画に出てくる美女のよう。さらに恋あり笑いあり涙あり、おまけに衝撃の事実まで飛び出して、フランス映画なのにここまでやるとはビックリだ。

キューバ音楽に絡めたレミとナタリーの恋がメインだけど、そのほかにも衝撃の事実やらダンスコンテストまでもストーリーに詰め込んでいて、上映時間は1時間40分。インド映画の半分くらいしかないわけで(あれはほとんどは歌とダンスシーンだけどね)あるエピソードにウエイトを置くと他がおざなりになってしまっていたり、展開がスムーズでなかったり説明不足な感もあった。いい意味でストーリーの先が読めてしまうので困りはしなかったけど、もっと流れが良ければさらに面白かったのにな。

フランス映画祭の時に叶姉妹が来てて「どうしてだろう?」って思ってたんだけど、叶妹がこの映画のテーマ曲「サルサ!」のカバーを歌うのね、叶姉の作詞で(脱力)
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リプリー('99アメリカ)-Aug 11.2000
[STORY]
貧しいアメリカ人トム・リプリー(マット・デイモン)は大富豪グリーンリーフから、イタリアにいる息子ディッキー(ジュード・ロウ)を連れ戻して欲しいと頼まれる。イタリアに渡ったトムは婚約者マージ(グウィネス・パルトロウ)と楽しそうに過ごすディッキーに憧れるようになるが・・・。
監督&脚本アンソニー・ミンゲラ(『イングリッシュ・ペイシェント』
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何でアラン・ドロンの役をジミー大西――じゃなかったマット・デイモンがやるだよぉー!と納得できない人がたくさんいると思うんだけど『太陽がいっぱい』とこの作品では大まかな設定やストーリーは同じこそすれ、テーマや殺人の動機がまるで違う。あの淀川長治さんは『太陽〜』を見てホモセクシャル映画だとおっしゃったようですが(私は見ても全然そういう風には見えなかったけどねえ)この作品ではそれが全面に出ていて、トムはまさに“太陽のような”ディッキーに羨望の熱い眼差しを送るようになるわけです。そんな屈折した暗いぶちゃいくをデイモンが演じるのは決してミスキャストではないでしょう。強烈にダサい水着姿を披露したのは役者魂か(笑)でも、ディッキーになりすましたトムが、本物のディッキーくらい輝いて見えればもっと面白かったのに。変装しようが何しようが変わらずモサいんだなデイモンは。

それに比べてジュードの何と美しいことよ(はじまったな自分)ちょっとデコが広くなってきたとはいえフェロモン出しまくりで、男でも女でも魅了されてしまうのには納得がいく。
ホモっぽいのはトムとディッキーだけじゃない。ディッキーの友人フレディをおなじみフィリップ・シーモア・ホフマンが演じていて、見るたび別人で流石なんだけど、あのヌラヌラっとした唇が今回はやけにいやらしい(笑)また、『太陽がいっぱい』では登場しなかった(はずの)もう1人の友人ピーターは、次第にトムと親しくなる様子が気持ち悪いが、デイモンとケイト・ブランシェットとのキスよりマシかな、などと思ってしまうのであった。

ちょっと納得できないのは、トムがロクな変装もせずディッキーのパスポートでお金を下ろせること。『太陽がいっぱい』ではトムはちゃんとパスポートを偽造したのに、予告でトムがディッキーのパスポート写真を潰していたのは偽造のためではなかったとは。そういえば『ガタカ』でも、どっからどう見てもイーサン・ホークとジュードは似てないのに信用されてたなあ。きっとジュードの顔って元々フィルターがかかってて、別人でも間違ってしまうんですねえ(んなわけないか)
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