Book Review 1998
◇Book Index

『ブリジット・ジョーンズの日記』ヘレン・フィールディング Dec 8〜10.1998
[STORY]
30代半ばで独身、恋人なし。出版社に勤めるブリジット・ジョーンズの1年間の日記には、目標やら体重やらカロリーやら何やらたくさん書き込んであるものの、結局守れなくて体重は増えたり減ったり。また、彼女の会社や家庭でもいろんな事件が持ち上がって・・・。
−◇−◇−◇−
ミステリじゃないけど、これは超オススメ!買ったのは11月だったんだけど、積ん読がたくさんあったりバタバタしてたりで遅くなっちゃったものの、読み出したら止まらなくなってしまった(でもせっかく買ったんだから勿体無い!と思ってこれでもゆっくり読んだ)日記というからそんなに面白くないかと思ったんだけど、日記の構成が結構凝っていて、日付の下に体重、アルコール、タバコの本数が書いてあったり、恋人のことを考えてる時間まで書いてあったりしている。その時の気分によってそれがものすごく激しいので、これだけ見ても飽きないし面白い。

何しろこのブリジットはドジでおっちょこちょい。そして目標や理想は高く持つけど守れない。おまけに空想というか妄想というか頭の中でのシミュレーションの方が先行してしまうタイプだ。自分はこんな女じゃない、こんなにヒドくないもん!って思うかもだけど、でも実はみんなどこかブリジットのようなところがあると思うし、自分の周りにこういう女性がいたらダメだなぁと思いつつもほっとけない存在になりそう。実際、彼女の友人たちはみんな彼女思いのいい人ばっかりで羨ましい。特に彼女の誕生日の日の日記はいい。

◆映画の感想はこちら
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『ブラックダリア』ジェイムズ・エルロイ Jul 6〜16.1998
[STORY]
1947年1月15日、ロス市内で若い女性の惨殺死体が発見される。彼女が黒髪でいつも黒いドレスに身を包んでいたことから「ブラックダリア事件」と呼ばれるようになる。この事件を担当した元ボクサーのブライチャートとブランチャードの2人の刑事は、いつしかこの事件にのめり込んでいく。
−◇−◇−◇−
以前読んだ『L.A.コンフィデンシャル』の2作品前の作品で「LA四部作」の第1作目にあたる。こっちから先に読むんだった!!と思ったのは、同じ登場人物が何人か出ているからだった。この作品の次の『ビッグノーウェア』も、『L.A.〜』の次の『ホワイトジャズ』も、共通する人物が登場しているので、これから読もうと思ってる人はこの『ブラックダリア』から読むといいと思う。

さて感想。この事件は同じ年の同じ日付に実際に起こった事件を元に書かれているらしい。現実の事件のほうは迷宮入りしてしまったようだが、この小説ではきちんと結末が出されている。誰がダリアを殺したのか?という疑問もさることながら、事件によって人生まで狂わされてしまった刑事たちとその家族らがどうなるのかという不安で、後半はページがどんどん進んだ。暴力的なシーンが数多くて明らかに男性的なストーリーなんだけど、女の私が読むと彼らの気持ちになるというよりは、壊れていく彼らに付き添いたい気持ちになった。時には一緒に殴ったり蹴ったりしたい衝動もあったけどね(笑)まさに彼らの荒い息遣いにシンクロした。ただ、こんなにも刑事たちが変わってしまうほどダリアは魅力的だったのだろうかと疑問に思う。死んでしまったところから始まるので、彼女の性格などはまわりにいた人々の証言のみになる。どれが本当の彼女なのか?私には窺い知ることができなかった。

彼女が殺されるまでの空白の何日かを埋めていくたびに犯人らしき人物が現れては消えていくよう。そして事件を追う刑事たちの気持ちや境遇の浮き沈みの激しさ。すべてに圧倒された。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『L.A.コンフィデンシャル』ジェイムズ・エルロイ Jun 8〜12.1998
[STORY]
1950年代のロサンジェルス。深夜のコーヒーショップで6人の男女が惨殺される事件が発生し、それに関わった3人の刑事(エクスリー、ホワイト、ヴィンセンス)を描くクライムサスペンス。
−◇−◇−◇−
映画が面白かったので原作も読みたくなくなった作品。大まかな登場人物や事件は同じだが、内容はほとんど違っていた。詳しいことは書けないけれど、この物語は50年から58年という実に8年間が描かれている。そして物語はこの作品では完全には終わってない。どうやら次の作品に続いているようだ(読んでないからその辺のところが分からないんだけど)映画ではそれを端折ってコンパクトに纏め終わらせている。

どちらが面白いか?といわれても比べることはできない。珍しく(笑)どちらも面白い。ただどちらを先にと聞かれたら映画が先かな。私は外国人の名前を字面だけで覚えるのは苦手だ。その点、映画なら顔や性格と一緒に名前を覚えられるので、あとから小説を読んでも顔を想像しながら読むことができて大分楽になる。ただし、小説と映画ではキャラクターに関して若干違和感はあるが。特にヴィンセンスは映画よりも小説の方が詳しく語られている。もちろんほかの2人も同じだ。

家族と過去と今の立場が、3人の視点で順番に語られる。エクスリーの視点に慣れて乗ってる時に急にホワイトの視点に移られ「なんだよ、せっかくいいとこだったのに」と思う箇所もあったが、1人の立場で描かれるよりも、各人の思惑やL.A.の警察の全体を見渡せるようで良かったと思う。彼らにとっての正義はそれぞれで、客観的に見れば正義でもなんでもなくてただのエゴだったりするのだが、彼らが経験してきたことを考えると正義とは一体何なのだろう?と疑問に思う。
◆映画『L.A.コンフィデンシャル』の感想はこちら
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『不夜城』馳星周 Jun 1〜4.1998
[STORY]
新宿歌舞伎町で故買屋をやっている日本と台湾の混血の劉健一。一年前に上海マフィアのボスの片腕を殺したことから逃亡していた昔の相棒・呉富春が歌舞伎町に戻ってきており健一が脅された。3日以内に富春を連れてこなければ殺される。同じ頃、謎の女が健一に「あるものを売りたい」と持ち掛けてきた・・・。
−◇−◇−◇−
映画を見るための予習(?)で原作を読んだ。ハードカバーが出た時、すごい話題になっていたけれど、正直言ってこんなに面白いとは思わなかった。

歌舞伎町という町で生き抜くために、嘘をつき、騙し、裏切る。金、暴力、女、薬、使えるものは何でも使うという貪欲さや強引さとあいまって、1つの「うねり」のようなものが見えた。時折り「男のセンチメンタリズム」みたいなものも感じたのだけど、そこがハードボイルドってやつなのかな?(ほとんど読まないから分からないけど)

実際の歌舞伎町がどういう町なのか知らないから、それがリアルなのかどうか分からないが、町の臭いや、そこに登場する男たちの息遣いはリアルに伝わってきた。この世で信じられるのは自分だけ(私は自分も信じられない時あるけどね。酒飲んだ時とかね(ぉ )それが悲しくもあるけど、人を逞しくさせるのだと思う。

どの登場人物もクセがあり、みな人種差別や境遇やらで苦しんだり、逆にそれを利用したりしている。自分と違う世界の話だから誰にも感情移入できなかったが、追い込まれた健一がどうやって潜り抜けるのか、一緒になって体験したような気持ちになれた。自分がどこで本を読んでるのか忘れちゃったくらい。電車が止まってドアが開いたのに気づかなくて、あやうく乗り越しそうになった時もあった。だから読みながら私も人を殴ったり脅したり殺したくなっちゃったんだけど(笑)『極妻』見たあと、急に声が1オクターブ低くなったという私の女友達がいたけど、あれと同じかもしれない(笑)

健一役が金城君だって知ってたので、彼をイメージしながら読んでいたら、健一は30代半ばなんじゃないか〜。金城君とは10歳以上違うぞ(笑)
◆映画『不夜城』の感想はこちら
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『十三番目の人格―ISOLA―』貴志祐介 Jan 25〜26.1998
[STORY]
由香里は人の強い感情を読みとることができるエンバスという能力を持っていた。その力を生かして、ボランティアとして阪神大震災の被災者の心のケアをしていた。そんな時、由香里は多重人格障害の少女と出会う。第3回日本ホラー小説大賞長編部門佳作
−◇−◇−◇−
『黒い家』より1年前、佳作だった作品だがこれが佳作だなんて思えないくらい私には読み応えがあった(文庫として刊行する際に加筆訂正はしたようだけど)話の運びもいいし、心理学的な部分も専門的になりすぎず、とても分かりやすい文章で飽きない。『黒い家』より現実離れしているし怖くもないし、クライマックスも予想できた。ホラーというジャンルではないと思うが。でもラストをああいう形で終わらせたところはホラーっぽいのかな。本当の怖さを最後に出すところ。『黒い家』のラストの時もそう思ったが、私はこういう終わりかたがけっこう好きだ。主人公・由香里の設定もいいので、これ1作だけではもったいない存在。ちょっと理想的な女性すぎる感じがしないでもないが、けっこう共感できる。続編が読みたいくらいだ。次回作も楽しみ。
◆映画『ISOLA』の感想はこちら
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

『黒い家』貴志祐介 Jan 6〜7.1998
[STORY]
保険会社で死亡保険の査定を担当している若槻慎二は、顧客の家で小学生の首吊り死体を発見する。その場にいた養父を若槻は疑うが、証拠がない。若槻は証拠を集めようと調べるうち、彼自身が危険な目に遭ってゆく。第4回日本ホラー小説大賞受賞
−◇−◇−◇−
面白くて恐い。保険会社に勤める普通の会社員が、こんな恐ろしい目に遭ってしまうとは。私はお客さん相手な仕事じゃないけど、同じ会社員として身近に感じて震えた。保険に関する説明は実体験を元にしているらしく、とてもリアルだしこれだけ読んでも十分面白い。いろんな仕組みがあるものだ。それにしても犯人は本当に恐いです。犯人の視点がないし、犯人の内面も描かれていないので、私には最後まで霧のかかった人物だった。これが怖さの秘密かな。こんな人、本当にいるかなぁ、なんて最初は思ったけれど・・・いるかもしれない。そう思わせる説得力があって、単純な私は1発で信じた(笑)

あれから何かあるたびにこの小説をいろんな人に薦めていて、ハマった人が多数いる。
◆映画『黒い家』の感想はこちら
home