Movie Review 2010
◇Movie Index

約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語('09フランス=ニュージーランド)-Nov 3.2010
[STORY]
1808年フランス、ブルゴーニュ地方。農夫のソブラン(ジェレミー・レニエ)は葡萄農場のやり方が気に入らず、いつか醸造家となって最高のワインを造ろうと決意していた。そんな彼の前に天使ザス(ギャスパー・ウリエル)が現われ、葡萄や愛についての助言を与えられる。やがてソブランは恋人セレスト(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)と結婚し、子どもにも恵まれる。そこにまた天使が現れ、葡萄の苗木をプレゼントされる。そしてこれからは年に1度、必ず天使と葡萄畑で会うという約束をする。
監督&脚本ニキ・カーロ(『クジラ島の少女』)
−◇−◇−◇−
原作はニュージーランドの作家エリザベス・ノックスの『The Vintner's Luck』
舞台がフランスなのでフランス人作家の話かと思ってたけど、監督もニュージーランド人だし、セレストを演じたケイシャ・キャッスル=ヒューズもニュージーランド人。ジェレミー・レニエはベルギー人で、男爵夫人オーロラを演じたヴェラ・ファーミガはアメリカ人(ウクライナ系だけど)、そして天使はフランス人だ。言語はフランス語ではなく英語。こうしてみるとかなり自由な作りの映画なんだなと思った。まぁ天使が出てきてワイン造らせるっていう話自体、すごい自由すぎるんだけど(笑)

本編を見る前までは、天使の存在はワイン造りに取り憑かれたソブランが作り出した幻想だと思ってた。そしたら実在してるし、半裸だし羽背負っちゃてるし(笑)一貫して真面目に演じてるんだろうけど、コントに見える時があったり逆に妙になまめかしくて見ているほうが恥ずかしくなっちゃったりと、彼が登場するたびに口元が緩んじゃう自分がいました(笑)

主人公のソブランは一言でまとめると“ワインバカ一代”な男で、傍から見ればかなり身勝手。惚れ抜いて結婚したはずの奥さんを苦労させまくり。子どもをボコボコ作っといていつまでも貧乏で、天使と一緒にいるところを見られて奥さん発狂(しかもこの男、天使にまで手を出そうとしてたんですよ)しまいには他の女と浮気。ワイン造りを取ったらただのどうしようもない男なんだけど、なぜかこの手の男に女は寄っていくんだよねー。しかし演じたレニエは歳の取り方が上手かった。ちょっと不親切で何年経ったのか分かりにくい映画なんだけど、ソブランは着実に顔や髪、そして喋り方に衰えが見えてきて、うまくラストに繋げてるなと感じた。

おいしいワインを造る!というより、いい葡萄を作ることに心血を注いでいて、ワイン醸造のシーンは足で踏んづけてだけなのが個人的に淋しかった。葡萄の出来が悪い年はワインを造る過程で工夫するとか、新しい醸造方法を考えるとか何かあるのかと思ってたんだけど、葡萄が不作だからワインがまずい!って怒ってるだけなのが何とも。この時代、それしかできることがなかったのかもしれないけど。それにワイン造りを人生になぞらえているから、いい時も悪い時もあるっていうのは分かるんだけどねー。悪い時は頭を使ったり努力をして、自力で変えるというのも大事なんじゃないかと。原作は読んでないので(日本語訳版も出てないし)憶測だけど、この著者はワインへの造詣はあまり深くなさそうな感じがした。
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森崎書店の日々('10日本)-Nov 3.2010
[STORY]
ある日、貴子(菊池亜希子)は、同じ会社に勤める恋人の竹内(松尾敏伸)から他の女性と結婚すると言われてしまう。傷ついた貴子は会社を辞め、毎日部屋に篭りきりになってしまう。そんな貴子に、神保町で古書店を経営している叔父の悟(内藤剛志)から電話があり、書店に住み込みで手伝ってほしいと頼まれる。
監督&脚本・日向朝子(『Presents 合い鍵』)
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原作は八木沢里志の同名小説(本作の1年半後を描いた続編『桃子さんの帰還』も収録されている)小説は第3回ちよだ文学賞を受賞した。

またこの手の作品を選んでしまった・・・疲れてるのかな、わたし。
予告で主人公が小さな本屋で店番するシーンがすごく居心地良さそうで、私は古本屋って実はあんまり好きではないんだけど、この古本屋なら行ってみたい、自分も店番してみたい、そう思わせる映像だったので興味を持った。そういえばこの前、TVで誰かが言ってたけど、作品の中に入ってみたいと思わせるのがいい作品なんだとか。蒸し返して悪いけど『マザーウォーター』に出てくる店はどこも入りにくそうで常連さん以外お断りみたいに感じたから(映画の中の店じゃなくて、実際に営業しているお店にはぜひ行ってみたいが)

原作を読まずに映画を見たんだけど、結局そのあと原作を読むことになったのだが(その理由は後で書きます)読まなくてもストーリーはシンプルで分かりやすい。今までは本も読まず、古本屋といえばブックオフくらいしか行ったことがない貴子が、店番をするうちに古本と古本屋の良さを知り、傷ついた心を癒していくというお話。この過程を非常に丁寧に描いていて、起伏はないけど退屈はしない。本の売り方がまた面白いんだ。小さい紙片に書店名と四角い空欄が入ったスタンプを押して、その空欄に本の価格を入れて裏表紙に貼る。売る時にはその四角い価格のところを切り取って(竹の物差しをあててピリッと切る)お客さんに渡す。ネット販売もやっているから書店での販売も新しいやり方ができそうだが、あえてそれはしていないようだ。こういう昔ながらの売り方がいいという客も多いのかもしれない。それを見ているだけで懐かしいような暖かい気持ちになる。

と、ここまではよかったんだけど、貴子が竹内に対してけじめをつけるシーンがグダグダで全くスッキリできない。原作もこんなに弱弱しいのかと、それで原作を読むことにしたんだけど、何だ、ちゃんとハッキリさせてるじゃない。ということは演じた菊池がいまいちだったのかと・・・ぐずぐずしてなかなか言い出さず間が空きすぎで、話し始めてからも言葉が詰まり気味で訴える感じじゃなかった。そこはしっかり演技指導したほうが良かったと思う。それから原作では竹内に「ざまぁ〜」な後日談があるので、さらにスッキリできる。映画でも軽く触れておけばよかったんじゃないかねえ。私は映画を見たあとのモヤモヤして、すぐに本屋に駆け込んだもの。ハッ!ひょっとして本を買わせるための作戦だったのか?!(笑)

原作の続編を映画化する予定は、たぶんないだろうなー。貴子や悟のその後を知りたくなった人は読んでみるといいと思う。それにしても、映画を見た時は桃子は死んじゃったんだな、って思ってたのに、まさか生きてたとは(笑)
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マザーウォーター('10日本)-Oct 31.2010
[STORY]
京都。セツコ(小林聡美)が営むバーはウイスキーしか出さない。その店で家具工房で働くヤマノハ(加瀬亮)は水割りとタバコを愉しむ。疎水沿いの喫茶店ではコーヒーの匂いに惹かれて入ってきた豆腐屋のハツミ(市川実日子)を、店主のタカコ(小泉今日子)はやさしく迎える。マコト(もたいまさこ)は毎日町を歩き回っている。ハツミの豆腐屋、オトメ(光石研)の銭湯、セツコのバー、そして鴨川沿い。銭湯を手伝うジン(永山絢斗)はマコトの誘いで豆腐屋やバーに行き、この生活を楽しみ始めていたが、オトメからはいつまでもここにいてはいけないと諭されていた。
監督・松本佳奈(初監督作)
−◇−◇−◇−
映画制作やマネジメントの会社スールキートス配給による『プール』『トイレット』に続く第3弾(それとも『かもめ食堂』から続いてるというべきか?)
『プール』は荻上直子の劣化版なんだろうなぁと勝手に予想して見なかったんだけど、本作は三番煎じくらいだろうと予想しつつも京都好きなもんで見てみた。

で、予想以上にクソ映画でした(アハッ☆)京都ほとんど関係ないーーー。映像は確かに綺麗だったけど、脚本がひどすぎた。セリフの数はホント少ないのに「アタシいま大切なこと言ってるんだからね」とドヤ顔でいちいち言われるもんだから、かえって五月蝿く感じる。でもその大切なことがすべて上っ面だけにしか聞こえない。本当は中身なんてないってバレてしまっている。

ストーリーも和めるどころかむしろ寒気がしていった。
私はスイーツ(笑)みたいな女とは違うだから、的なサブカル系の女どもがドロップアウトしてこの町にたどり着いて、儲ける気なんて全くない、大事なのはお金じゃないもん、と趣味みたいな店を開いている。空いた時間は町をぶらぶら。新鮮な野菜や豆腐を買って、外でおいしいものを食べる、それが自分への毎日のご褒美(笑)そして自分が産みそこなったんで他人の赤んぼを気が向いた時にだけあやしてあげる。――うう、書いてて「コワッ!」ってなった。ここに出てくる女はスイーツ(笑)どころじゃない。かえってタチが悪い。和スィーツ(失笑)って感じだ。

悪く書き過ぎたけど、これはほぼ同属嫌悪ってヤツです。分かってるんだ。こっちも現実逃避したくてこの手の映画を見てるわけ。でもこの映画では理想“しか”描かれてない。この理想の生活を維持していくためには、時にはお金に困ったり、無理したり、嫌なこともやらなきゃいけないでしょうに。それらもちゃんと描いた上で、それでもこの町で続けていくんだ――っていう話だったら、あぁ、いいなぁ〜って素直に思えただろう。

余談だけど私がいま京都を舞台にした話で好きなのは、漫画だけど麻生みことの『路地恋花』自分もいろいろ手作りするんでこういうの大好き。あと小説ならやっぱり森見登美彦ですかね。『四畳半神話大系』のアニメは面白かったなー。
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ストーン('10アメリカ)-Oct 26.2010
[STORY]
刑務所で仮釈放管理官として真面目に働いてきたジャック(ロバート・デ・ニーロ)は、定年を間近に控えたある時、“ストーン”という愛称の男(エドワード・ノートン)を担当することになる。反抗的で自分の罪に全く反省のないストーンはジャックを苛立たせ、保釈させまいとしていた。保釈延期が我慢できないストーンは、妻のルセッタ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に、ジャックを誘惑して味方につけるよう命じる。
監督ジョン・カラン(『The Painted Veil』)
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第23回東京国際映画祭特別招待作品。
久々にノートン先生の映画だ〜と思ってチケットを取ったのはいいが、スリラーらしい、という情報以外はよく分からずに見た。そしたらぜんぜんスリラーじゃなかった(苦笑)宗教が軸になっている話なので、信心深くない私にはいまいちピンとこないところも多々あったけど、だいたいの話は掴めた、かな。

ここからは感想というより、自分が映画を見て解釈したことを列挙してってみる(なのでネタバレ満載ですが文字は白くしませんのであしからず)
定年間近の、真面目な男ジャックは、妻マデリン(フランシス・コンロイ)と43年も連れ添ってきた。傍から見れば敬虔なクリスチャンで毎週教会にも通っている健全な夫婦に見えるが、実は若い時から破綻していて(ジャックがモラハラ)惰性で一緒に暮らしてきただけだった。そんなジャックが、宗教など全く興味がなく、自分の罪を反省していないストーンと出会う。そこからジャックの人生が一変する。

ルセッタに誘惑され、口では断ってるんだけどすでに目が乗り気じゃねーかジャック(笑)というツッコミをしつつ、結局負けちゃって関係を持ってしまう。しかしルセッタも夫のために、という献身的な気持ちもまぁあるんだけど、根本的にビッチ(笑)ストーンに寂しいと泣きついた直後に他の男を呼び出しちゃいます。だから目覚めちゃったストーンとは出所後、当然やっていけなくなる。今日もどこかで男を物色中。
マデリンもそうだけど、これ見ると女ってリアリストだなと思う。2人は一見全く違うようにみえるけど、本質は一緒。マデリンの娘も含めて、一度決めたら迷わずバッサリだもん。その点、男はいつまでも引きずるんだなぁ。

ジャックとストーンについては、同じ男でも対照的に描かれている。毎日祈るほど熱心なのに満たされず、納得できる答えを得ることもできず1人残されるジャック。ある日突然、実体験によって何かを理解し、今まで持っていた単純な欲求を捨ててしまったストーン。面白いと思ったのは、ジャックとストーンを演じた2人の演じ方が役柄とはまた対照的になっていて、デ・ニーロはいわゆる“デ・ニーロ・アプローチ”をしておらず自然で無理のない演技なのに対し、ノートン先生はコッテコテ(笑)見た目を変え、声色まで作っている。最後のすべて削ぎ落とした人物を見せるための作りだったんだろうが、ちょっとやりすぎだったな。

あらすじを列挙してっただけでマトモな感想が書けてないんだけど、宗教に詳しかったり信教があればもっと深い感想が出たかもしれない。宣伝では、デ・ニーロとジョヴォヴィッチとノートンの競演!と打ってるけど、私はマデリンを演じたコンロイと、彼女の若い頃を演じたペッパー・ビンクリーも、出番は少ないながら印象に残る演技をしたと思う。ジャックの若い頃を演じたエンヴェア・ジョカイもまた「そのホクロはっ(爆笑)」って、ある意味印象に残りました(一瞬コントかと)
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スープ・オペラ('10日本)-Oct 3.2010
[STORY]
大学の図書館で働く35歳のルイ(坂井真紀)は、幼いころに母を亡くし、母の妹である藤子(加賀まりこ)に育てられてきた。 2人はずっと一緒に一軒屋で暮らしていくのだとルイは思っていた。だがある日、藤子は結婚すると言って家を出てしまった。 1人残されたルイは、ひょんなことから出会った画家のトニー(藤竜也)と、出版社でバイトする康介(西島隆弘)と同居することになる。
監督・瀧本智行(『イキガミ』)
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原作は阿川佐和子の同名小説。未読だけど読みやすそうなので読んでみるつもり。
私が勝手にカテゴライズしている“料理する女映画”だったので見てみた。最近この手の映画、増えたよね。出演者もどことなくかぶってないか?と思って調べてみたら、『しあわせのかおり』の藤竜也と平泉成、『食堂かたつむり』の余貴美子と草村礼子がかぶってた(笑)主演の坂井真紀と中谷美紀と柴咲コウも、これらの映画の中では雰囲気が似てる。そうなっちゃうのかねえ。

映画に出てくる料理のメインは野菜と鶏ガラを煮込んで漉したスープ。具がなく見た目寂しいのに何故かやたらとおいしそう・・・と思ったら、六本木のフレンチレストランのシェフが料理を担当したんだとか。悪いけど某フードスタイリストの料理よりずっとおいしそうなんですが。肉屋のハムカツや手打ち蕎麦、ルイが大学で食べるお弁当も食べたくなってしまう。映画を見た後、思わず自分もハムカツを買ってしまった(揚げ物・・・と敬遠してたのに。食べたらおいしかった)登場人物がわざとらしくない程度においしそうに食べてる姿にも共感できたのかも。

35年間ずっと叔母と2人で平穏に暮らしてきて、これからもずっとそれが続くと思っていたルイ。だがそれが一変してしまい、戸惑いながら新しい生活を始めるというストーリー。これだけ読むとありがちな話に見えるけど、ルイ以外の登場人物がみな個性的、いや、はっきり言うと風変わりな人たちばっかりなので現実味がない話になっている。この映画って思いっきりファンタジーなんだ!と途中で気がついたけど、映画の冒頭、閉園になった遊園地で楽器を演奏する人が登場する時点で気がつくべきだった。製作側が「これはファンタジーですよ」って最初から教えてくれてたわけだ。この演奏シーンがストーリーに関係なく何度も挿入されるので、多少ヘンなエピソードがあってもついて行けたし。そういうベースがなければルイが夢を見るシーンは恥ずかしくて席を立ってしまったかもしれない。今時あんな幼稚なシーンはないよ。ないない。

原作のラストがどういう風になっているか知らないけど、結末はもうちょっとはっきりさせてほしかったな。『食堂かたつむり』とそっくりな終わり方で安易だと感じた。
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