Movie Review 2010
◇Movie Index

悪人('10日本)-Sep 12.2010
[STORY]
長崎の漁村で暮らす解体工の祐一(妻夫木聡)は、出会い系サイトで知り合った佳乃(満島ひかり)を殺してしまう。そんな時、祐一に一通のメールが届く。それはやはり出会い系サイトで知り合い、メールのやりとりだけをしていた女からだった。
紳士服量販店で働き、妹と2人暮らしをしている光代(深津絵里)は、寂しさから前に灯台の話で盛り上がった男にメールを送ってみた。佐賀で待ち合わせする約束をした光代は、金髪の若い男、祐一を見て一瞬怯むが、誘われるままにホテルへ行ってしまう。
やがて祐一は、人を殺したことを光代に告白する――。
監督&脚本・李相日(『フラガール』
−◇−◇−◇−
原作は吉田修一の同名小説で、第34回大佛次郎賞と第61回毎日出版文化賞を受賞。映画の脚本も監督の李相日とともに手がけている。
映画は2010年度のモントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門に出品され、深津絵里が最優秀女優賞を受賞した。

原作は未読だけど原作者が脚本を書いているからさほど違いはなかろう(中には原作ぶち壊しの映画もあるので念のため)ということで素直な感想を書くけど、人を殺した祐一がほとんど悪く描かれてない話なんだね、これ。結果的に人を殺してしまったけど、一番の悪人は事件のきっかけを作ったボンボンの増尾(岡田将生)と被害者の佳乃だ!っていう弁明を見せられているみたいだった。確かにこの2人はそれぞれ一言で言えば、増尾は「クズ」だし佳乃は「ビッチ」だったよ。あまりにもヒドイ女なので祐一が逆上するのも分からないでもないが、それにしても極端な描き方だなと。それに対して光代はまるで聖母のようだったし、自分が女だからかもしれないけど、光代と佳乃はいかにも男目線の理想の女と最悪な女だったので、なんか気持ち悪い!と思ってしまった。だからストーリーも受け入れられなかった。

そう思ってしまったせいか、深津絵里は最優秀女優賞を受賞したけれど、個人的にはそんなに良かったかな?と首を傾けてしまった。ドラマでも見慣れているからか特に新鮮味もなく、演技に対して驚きもなく(海外の人には良かったんだろうね)しいて挙げれば佐賀弁が可愛いので、標準語よりもさらに一途な女っぽく見えたかな?っていうくらい。逆に清々しいまでにビッチを演じきった満島ひかりのほうが私は印象に残った。最後のキレっぷりはホント首絞めたくなるほど憎たらしくて最高でした(笑)

あと2つ気になったこと。1つめは、佳乃の父・佳男(柄本明)が事件現場で佳乃の幻影(幽霊?)と対面するシーン。それまではそんな非現実的な映像がなかったので面食らった。何でこんな演出を?原作にもこんな場面があるんだろうか?それともう1つはイカの目玉にズームして黒目の中から回想シーンが始まるところ。何でイカ?この2つにそれぞれ引っかかってしまったため、その直後のシーンが一時目に入らなくなってしまった(苦笑)でも何でイカだったんだろう・・・。
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彼女が消えた浜辺('09イラン)-Sep 11.2010
[STORY]
カスピ海の沿岸リゾート地に、セピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)ら3組の子連れ家族と、セピデーの同僚で1人で参加したエリ(タラネ・アリシュスティ)がやってきた。セピデーはエリに離婚したばかりの友人アーマド(シャハブ・ホセイニ)を紹介したいと思っていた。その日は仲良くすごし、アーマドもエリを気に入っていた。だが翌日、子供の1人が海で溺れ、エリも姿を消してしまう。溺れたのか、それとも何も言わず帰ってしまったのか。残された者たちは必死の捜索をするが・・・。
監督&脚本アスガー・ファルハディ(『Chaharshanbe-soori』)
−◇−◇−◇−
2009年の第59回ベルリン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した作品。

私が今まで見てきたイラン映画は子供や女性が主人公で、彼らの貧しい生活を描いたものが多く、イラン人と結婚した友人なんかは「日本に来るイラン映画は貧乏臭いのばっかりで見たくないんだよね」と愚痴られたこともあった(笑)本作はそれらとは違って、それぞれ車を持ち、海辺の貸し別荘に3泊できるくらいの財力はある、中間層の成人男女の群像劇となっている。場所は主に古い貸し別荘内と浜辺なんだけど、セリフも多いし人もよく動くし、ホント私が見てきたイラン映画とはずいぶん違う。舞台化しても面白いんじゃないかなぁ。

いなくなったエリには秘密があった。この秘密を旅行メンバーが知らなかったら話はここまでこじれることはなかっただろう。だが、旅行に誘ったセピデーはその秘密を知っており、且つ秘密を知りながら彼女はエリを旅行に誘っていたことが明らかになる。私は最初はこの事実を知った時「あ、そうなんだ」としか思わなくて、登場人物たちが慌てているのを見て「そんな深刻になること?」と、そっちのほうが驚いたほど。でもイランでは、というかイスラム教の世界では決して許されないことだったのだ。これの前に見た『瞳の奥の秘密』もそうだったけど、見慣れたアメリカやイギリス以外の外国の映画を見て「えっ何で?!」と驚いたり、イラッとさせられる(笑)ことがよくある。変わった風習や常識を知ることができる、そこが一番の面白さだと思うので、この映画も新鮮だった。

ここからネタバレになるけど(ここから)エリの婚約者が登場した時、私はもっとヒドイ男だと思っていたので、エリは彼のどこがイヤで婚約解消したいのか分からなかった。アーマドを殴る場面があるけど、そこで殴るのはまぁ理解できたしDV野郎って感じでもないし。母親が関係してるのか?エリだけがイヤだと思う何か理由があったんだろうか?今となっては誰も分からない・・・。それにしても婚約者はエリに裏切られたと思い込み、その怒りをぶつける相手もいなくなり、一生引きずってしまうのではないだろうか。セピデーも無理やり旅行に誘ったことと、鞄と携帯を隠したこと、そして婚約者に嘘をついたことで一生自分を責め続けてしまいそうだし、夫との間にも亀裂が生じそうだ。ラストの浜から抜け出せなくなった車が全てを象徴しているようだった。(ここまで)

この映画だったら、イラン人と結婚した友人も見てくれるかもしれない。そういえば本作で『みなしごハッチ』ってセリフが出てくる。イランでも放映されていたとは!日本のアニメすごいなー。
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トイレット('10日本=カナダ)-Aug 28.2010
[STORY]
引きこもりのピアニストの長男モーリー(デヴィッド・レンドル)、研究員でプラモデル好きの次男レイ(アレックス・ハウス)、大学生の末っ子リサ(タチアナ・マズラニー)の母が死んだ。母は死ぬ前に日本から自分の母親、つまり3兄妹にとって“ばーちゃん”である老女(もたいまさこ)を呼び寄せていた。死んでからも母の家にいるばーちゃんに、どう接していいか分からない彼らだったが、言葉が通じないながらも徐々に親しくなっていく。
監督&脚本・荻上直子(『めがね』
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監督の萩上直子によるオリジナル作品で、2005年に監督した『かもめ食堂』でフィンランド人スタッフが日本のトイレに感激したというエピソードから作られたという。

全編英語で、日本人のばーちゃんのセリフはほとんどない。そのせいか、日本人監督の日本映画っていうことを途中で忘れてしまったほど。ばーちゃんだって、最初に出てきた時はちゃんと日本人だったけど、3兄妹とかかわっていくうちに彼女も日本人に見えなくなっていくから不思議だ。特にばーちゃんが粋にタバコをふかしビールを飲むシーンを見てから見方が変わる。気難しくて真面目なばーちゃんかと思ってたけど、ひょっとして若い頃はファンキーだったかも。娘(3兄妹のママ)がハーフだとしたら(最初に少し登場した時そう見えたけど、純日本人でカナダ人の夫と結婚したかもしれない?)ばーちゃんスゲーなと。『かもめ食堂』の時もさらっとマリメッコの服を着こなしていたけど、もたいまさこは強烈な存在感を見せたり気配を消したりが自由自在で、どんな世界にも馴染めちゃう人なんだな。監督が起用したい気持ちがよく分かるわ。

映画ではママが死んだ後の3兄妹とばーちゃんのことしか語られないので、上に書いたママのことも含めて過去にどんなことがあったのか?じーちゃんやパパはどんな人だったのか、飼い猫の名前がセンセーなのは何故か、レイがアレなのはどうして?とか謎がいっぱい。でも謎が解明されなくてもこの映画には関係がないし、明らかになったらかえって作品が損なわれたかもしれない。ただ、裏設定など実は全くなく、単に日本人のばーちゃんと言葉の通じないカナダ人の3兄妹が1つ屋根の下で暮らし、一緒に餃子食べる設定って面白くない?ってな軽い気持ちで作られたとしたら、ちょっとムカつく(笑)

荻上が監督する作品は“ほっこり映画”なんて言われているけど、私が過去に見た『かもめ』と『めがね』については(あとはまだ見てないので断言できませんが)都会の喧騒を離れて別の場所で新しい生活を始めて、いくらでも自由に暮らせるのに、どっか頑なというか自分ルールに縛られて窮屈な印象があった。主演の小林聡美がきっちり演じすぎてちょっと鼻についちゃったところもあるかな。それに比べると本作はレイがきっちりしているかと思えば間が抜けていてドジなところが適度にユルく、フリーダムな兄と気の強い妹、そしてばーちゃんとのバランスがよかったと思う。それとレイの同僚を演じたインド人。最初はちょっとウザかったんだけど、徐々にいい味をだしてきたなと思っていたら、いつのまにかレイに重要なアドバイスをする役になりやがった(笑)映画のいいスパイスになっていたな、インド人なだけに(おい)
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特攻野郎Aチーム THE MOVIE('10アメリカ)-Aug 20.2010
[STORY]
米軍の特殊部隊に所属するハンニバルことジョン・スミス大佐(リーアム・ニーソン)は部下のフェイスことテンプルトン・ペック(ブラッドリー・クーパー)とともにメキシコでのミッションを遂行していた。だがフェイスが捕まり、ハンニバルは荒野で偶然出会ったB.A.ことB・A・バラカス(クイントン・“ランペイジ”・ジャクソン)の助けを借りてフェイスを助け出す。そして精神を病んで病院に入院していたパイロットのマードック(シャールト・コプリー)を無理矢理退院させてヘリを操縦させ、見事ミッションに成功する。これが4人による特殊部隊“Aチーム”の誕生だった。
8年後、米ドル紙幣の原版をバグダッドから運び出そうとしているゲリラ集団から原版を取り戻すミッションに取り掛かったAチームだったが、罠に嵌まり、全員監獄送りとなってしまう。
監督&脚本ジョー・カーナハン(『NARC ナーク』
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アメリカで1983年から1987年にかけて放映されたTVドラマシリーズ『特攻野郎Aチーム』の劇場版。
キャストも一新され、TVシリーズの時代はベトナム戦争末期だったが、映画ではイラク戦争末期となっている。エンドクレジット後には、TVシリーズでフェイスを演じたダーク・ベネディクトと、マードックを演じたドワイト・シュルツが映画版のフェイス、マードックと共演している。

TVシリーズは夕方放送をやっている時にちょろっと見たことはあるんだけど、その当時はテレビを見る時間があまりなかったのでほとんど覚えていない。あの有名なテーマ曲とチームの紹介ナレーションくらいかな。懐かしさもあってドラマが見たくなっちゃったんだけど、見れば意識せずとも比べちゃうのでやめておいた。

チームの4人はすでにキャラクターが確立されているから分かりやすいんだけど、それ以外の登場人物の設定やポジション、そしてストーリーが分かりにくかった。もともとこのチームは敵を騙したり裏をかいた作戦を立てて成功させていくので、観客への事前のネタばらしがあまりない上に、途中でトラブルが起きたりするのですべて終わってみるまでどうなるか分からない。そこが一番の見せ場で面白いところではあるんだけど、分かるまでは置いてけぼりにされたような気分にもなる。だから2回見たほうが素直に楽しめるだろう。

4人がミッションに成功して大笑いするところは、人種も階級も年齢もすべて取っ払った同士というか、いたずらが成功してはしゃぐ男子ども!って感じで思わずカワイイと思ってしまった。いい歳したオッサンばっかりなのになぁ。ブラッドリー・クーパーはやっぱりイケメンで、鍛え上げた身体も含めて眼福〜。TVシリーズではコング(B.A.のこと)を演じたミスターTが一番人気で、それと比べると映画のB.A.は小ぶりで面白味に欠けるけど、作品を重ねるごとに彼は彼でいい味を出してくるんじゃないかと思う。なのでアメリカでは(日本でもだけど)あまりヒットしなかったみたいだけど、私はシリーズ化してほしいと思っている。
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瞳の奥の秘密('09スペイン=アルゼンチン)-Aug 14.2010
[STORY]
裁判所を定年退職したベンハミン(リカルド・ダリン)は25年前に自分が担当した殺人事件を小説にしようとする。そして事件当時の上司で、今では検事になっているイレーネ(ソレダ・ビジャミル)と再会する。
事件が起きたのは1974年。銀行員の夫リカルド(パブロ・ラゴ)の妻リリアナ(カルラ・ケベド)が自宅で暴行され殺害された。だが捜査は行き詰まり、未解決のまま終わろうとしていた。だがベンハミンは自分で犯人を捕まえようとしているリカルドを見て、このまま終わらせてはいけないと再び捜査を開始。そしてついに事件の手がかりを見つける。
監督&脚本フアン・ホセ・カンパネラ(『ラブ・ウォーク・イン』)
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原作はエドゥアルド・サチェリの『La Pregunta de Sus Ojos』で、映画の脚本はサチェリと監督の2人が手がけている。
第82回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した。

アルゼンチンの映画ならあらゆる意味で濃厚、いや重厚なんだろーな、と勝手に妄想、いや予想していたので、実際見てみて意外と淡白だなぁと正直ちょっと落胆した。事件そのものは確かに重かったし、結末も衝撃的で考えさせられるものだった(それにしても当時のアルゼンチンの司法が全く理解できん!政治でゴタゴタしてた時期のようだが)

でも主人公ベンハミンに重みが感じられなかったんだよね。顔はいかついくせに(おい)事件はうやむやのまま、そして彼の同僚まで事件に巻き込まれたというのに、25年後の彼が過去を背負ってるように全く見えなかった。それと一番はベンハミンとイレーネの関係ね。事件に関わるうちに2人の仲もズブズブになっちゃったんだろうなって思ってたのに、単なる上司と部下ってだけやんけ(おい)だって冒頭のシーンを見たらそう勘違いしてもしょうがないじゃん!(逆ギレ)
事件によって2人は結ばれたが、同時に2人を引き裂いたのもこの事件によってだった、そして別れても相手のことを思い出すたびに忌まわしい事件の記憶も蘇ってしまう――そんな話だと思ってたわけよ。すいませんね、妄想が激しくて(笑)久々にどよーんとした気持ちで映画館を出てもいいなぁと思ってたのに、ラストもなんか知らんが爽やかな感じで終わってるし、もうちょっと余韻を残してくれてもよかったんじゃない?

殺されたリリアナの無残な姿を観客たちもしっかり目に焼き付けておけ!とばかりに長く見せたり、犯人を追ってスタジアムを走るシーンは観客も一緒になって追いかけているような気持ちにさせられたり、見せ方は上手いなぁと感じた。エレベーターのシーンもドキッしちゃったし、印象に残るシーンはたくさんあった。フアン・ホセ・カンパネラ――いつかハリウッドに招かれて映画を撮りそうだな。名前を覚えておこう。
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