Movie Review 2008
◇Movie Index
しあわせのかおり('08日本)-Oct 13.2008
[STORY]
金沢の町にある「小上海飯店」は中国出身の王さん(藤竜也)が腕を振るう人気の料理店で、デパートの営業部門で働く山下貴子(中谷美紀)は店を訪ねデパートへの出店を要請する。王さんは即座に断るが、貴子は諦めずに何度も訪ねる。やがて貴子は仕事を忘れ、ランチ目当ての客として通うようになる。そんなある時、王さんは倒れて店が続けられなくなってしまう。そこで貴子は会社を辞め、王さんに代わって料理人になろうと決意する。
監督&脚本・三原光尋(『屋根裏の散歩者』)
−◇−◇−◇−
主演の中谷と藤は撮影前にプロの指導を受け、劇中に登場する料理はすべて2人が手がけたらしい。

おいしそうな料理が出てくる映画となれば見ないわけにはいかない、さらに前売券の特典に中華スパイス小瓶がついてくるとなれば前売券は買わなくてはいけない、というわけで見ました。
見終わった後で中華が食べたくなってしまうだろうと思っていたのだけど、料理がたっぷり映されるので、かえって見てるだけでおなかいっぱいになってしまい、それほど中華を食べたいと思わなくなってしまった。そして、映画自体もそんな感じでした。

貴子が王さんに代わって料理人になる――それくらいの情報しか入れずに見たので、最初に貴子を見た時に「この人の表情、悪いけどちょっとおかしい」と思ってしまった。失礼だけど、精神的にヤバそう。中谷美紀どうしちゃったの?大丈夫か〜って。でも実は貴子が病を抱えていたという設定だと分かり大反省。ホントすんません。いや〜、中谷さんすごいです。

藤竜也も本当の料理人みたいで、この2人と料理に支えられた映画だったと思う。それに頼りすぎて、ストーリーと演出に起伏がなく平板な印象を受けた。とにかく調理と食べるシーンが長すぎ。特に最後の食事のシーンは1品1品出して食べている見せるんだもん。だから見てるほうもおなかいっぱいになっちゃうのよ。せっかく2人が頑張ったんだから全部見せたい!って気持ちも分かるんだけどねぇ。あと、せっかく中国まで行ってロケをしたんだから風景をたくさん見せたい!っていうのもあったかな(笑)中国でのシーンも長すぎた。

余談だけど主題歌が好きになれなかった。サビのところが特に。どうして嫌なのかうまく書けないんだけど・・・。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

私がクマにキレた理由(わけ)('07アメリカ)-Oct 12.2008
[STORY]
ニューヨークで就職活動中に、ひょんなことから上流階級の子守をすることになってしまったアニー(スカーレット・ヨハンソン)だが、雇い主のミセスX(ローラ・リニー)は息子グレイヤーの面倒を全く見ず、父親のミスターX(ポール・ジアマッティ)もほとんど家に帰ってこないため、アニーは24時間グレイヤーの世話をすることになってしまう。最初は反抗的なグレイヤーに手を焼くが、次第にアニーを慕うようになっていく。
監督&脚本シャリ・スプリンガー・バーマン&ロバート・プルチーニ(『アメリカン・スプレンダー』)
−◇−◇−◇−
原作はエマ・マクローリンとニコラ・クラウスの『ティファニーで子育てを』(本の原題は『The Nanny Diaries』で映画の原題と同じ)

私はよく邦題に文句をつけていますけど(笑)この映画の邦題はいいと思う。このタイトルに「どういうこと?」と興味を持ち(あと前売券の特典がクマのチャームだったというのもある。オマケに弱い私)見てみようと思ったから。原作本のタイトル『ティファニーで子育てを』や、原題の『ナニー・ダイアリーズ』とかだったら多分見てなかったと思う。で、見てみて「なるほど!そういうことだったのか」とタイトルの意味に納得。内容も思っていたよりずっと面白く、このタイトルと前売特典をつけてくれた配給会社に感謝だ。

※以下、映画に倣い子守のことは“ナニー”と書きます。
ナニーになったアニーの目を通して、セレブ一家の非常識ぶりが描かれているんだけど、どれも予想の範囲内でそれほど驚くことはない。添加物入りの食品を食べさせたくないとか、地下鉄は汚いから乗せたくないとか、そこは理解できる。でも、6歳にもなるのにベビーカーに乗せて学校の送り迎えというのにはビックリしたなー。チョロチョロするから危ないってのは分かるけど、きちんと歩かせなきゃだめだよ〜。

働かなくてもお金に困らないミセスX、お金さえ与えていれば家族は満足するだろうと考えているミスターX、2人とも息子への教育には熱心だけど自分が関わることをせず、すべて他人任せ。そしてワガママな息子グレイヤーは、実は親の愛情に飢えていて、次第にアニーを信頼するようになる。このグレイヤーがだんだん可愛く見えてくるのよ(ポスターでは可愛くなく仏頂面で写っているが、理由を知れば可愛いと思うはず)

そんな一家のためにアニーはプライベートを捨て、24時間面倒を見るハメになる。だが、ある事件が起こりクマにブチ切れ。この時の怒りの言葉はミセスXの心を変え、見ているこちらも思わず涙・・・まさか泣かされるとは思わなかったよ・・・。
貧しく、自分の子を食べさせるために子守になった女性を登場させるなど(黒人やアジア人のナニーが多く、白人で大卒のアニーは珍しい)コメディではあるけど、ナニーに就く女性たちの現実も描かれていて、バランスも良かった。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

僕らのミライへ逆回転('08アメリカ)-Oct 11.2008
[STORY]
さびれたレンタルビデオ店で、店長のフレッチャー(ダニー・グローヴァー)から店番を任されたマイク(モス・デフ)。そこに友人のジェリー(ジャック・ブラック)がやってきて、ジェリーの住むトレーラーのそばにある発電所を襲撃しようと持ちかけてくる。だがマイクは断り、ジェリーは1人で発電所に入り感電してしまう。翌日、店にジェリーがやってくると店中のビデオが磁気の影響を受けて映らなくなってしまった!困った2人は自分たちで映画を撮り直すことにする。
監督&脚本ミシェル・ゴンドリー(『恋愛睡眠のすすめ』
−◇−◇−◇−
第58回ベルリン国際映画祭でもコンペティション外作品として上映。原題の『Be Kind Rewind』は登場するビデオ店の名前で、レンタルビデオに書いてある“巻き戻して返却して下さい”という意味。

前作『恋愛催眠〜』はワタシ的にダメだったけど、これはかなり良かった。『ゴースト・バスターズ』や『ドライビング Miss デイジー』など劇中に登場する映画を事前に見ていれば、より楽しめる作品だ。『ゴースト・バスターズ』に出演していたシガニー・ウィーバーが登場するのも遊び心があっていいが、残念ながら真面目な役だったのが惜しい。どうせなら『ゴースト・バスターズ』のパロディ的な役なら良かったのに。

誤魔化し目的で始めた映画のリメイク制作が大評判となり、レンタルしたいという人がどんどん増えていく。確かに彼らが撮影しているシーンは面白かったけど、そこまでかな〜?というのが正直なところ。YouTubeで流したら人気が出そうだけど、行列を作るほどかというと・・・ちょっと過剰演出だったかな。

でもその後、客だった人たちも巻き込んでオリジナル映画を作るところはすっごい好きだ。撮影中は手作り感丸出しで滑稽なのに、実際の映画を見ると本物らしく映っていたりお洒落に見えたりして、もっと長く見たいと思ってしまった。いや、自分も撮影時に参加したかったよ(笑)上映会のシーンだって、災い転じて素敵な上映会に変えてしまうアイデアが最高。まさに奇跡の夜という感じでジーンとなった。ラストはやっぱりやりすぎな気もするが、ある意味ファンタジーということで目をつぶろう。基本的にロマンチストだよね、ゴンドリーって。

ウザいのが売り(?)のジャック・ブラックだけど、本作では最初こそウザイものの映画を撮り始めるあたりから映画に溶け込みはじめ、ちょっと物足りないと思うほどになった。そこが一番の驚きだったな(笑)
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

容疑者Xの献身('08日本)-Oct 4.2008
[STORY]
大森で男性の惨殺死体が発見される。身元は無職の富樫慎二で、死因は絞殺で顔が潰され指を焼かれていた。刑事の内海薫(柴咲コウ)たちは被害者の元妻・花岡靖子(松雪泰子)を事情聴取し、彼女が容疑者だと睨むが彼女にはアリバイがあった。そんな中、靖子の隣に住む高校数学教師の石神(堤真一)が、“ガリレオ”と呼ばれる物理学者・湯川学(福山雅治)の同窓生だと知る。湯川は石神に会いに行くが、学生時代では考えられなかった石神の態度に、湯川は彼が事件に関与しているのではないかと考えはじめる。
監督・西谷弘(『県庁の星』)
−◇−◇−◇−
原作は東野圭吾の同名推理小説で、物理学者・湯川学が事件を解き明かす短編集『探偵ガリレオ』『予知夢』に続く長編小説。フジテレビで2007年10月〜12月に放映されたTVドラマ『ガリレオ』の劇場版でもあり、同じキャスト・スタッフが携わっている。

小説では湯川に不可解な事件を持ちかけてくるのは草薙という湯川と同い年の男性刑事なのだが、TVドラマは内海という若い女性刑事と事件を解いていく。そして大掛かりな実験を行ったり、湯川がところかまわず方程式を書くという派手な演出が定番となっている。そんなドラマを経て本作がどうなるのかとても心配だったのだが、ほぼ原作を壊すことなく地味に展開するので安心した。

ただ、ドラマファンの期待を裏切らないためか、一番最初に本編と関係のない事件が挿入されていた。スペシャルドラマ『ガリレオΦ』のラストで起こる事件の続きで、私は映画を先に見てしまったが、ドラマを見ていなくても分かるようにはなっている。その時に派手な実験が行われるのだが、どう見ても映画だから予算を使おう!という風にしか見えない(笑)雪山に行ったりヘリを飛ばしたりするのも同じく。あの程度の事件で普通はヘリなんか飛ばさないだろうに。そういうところがフジテレビ映画の嫌なところではある。

堤は原作の石神とはかけ離れているが、かなり頑張って原作に近づけているのが伝わってきた。難しい役だから彼くらい演技力がないとダメだから他に適役もいないし。原作は最後のほうで泣いてしまって(電車で読んでいたのでどうしようかと思った)映画でも同じところで泣いてしまった。特に石神が天井に四色問題を作るシーンは、映像で見るほうが分かりやすいせいか小説よりもグッとくるものがあり、切なかったな・・・。
ただ、本当言うともうちょっとキモイ感じが欲しかった。あの程度じゃ靖子とどう見ても釣り合わないって感じじゃないもんね。それに娘の美里(金澤美穂)が外で石神を見かけて手を振るシーンなんて入ってて、もうね台無し。他はどうでも、このシーンだけは絶対に入れるべきじゃなかった。

原作では湯川と草薙の友情が壊れてしまうかもしれない場面があるのだが、ドラマ・映画での湯川と内海はそこまでの関係ではないため、湯川の苦悩がちょっと伝わりにくかった。福山自身も役者が本業じゃないから限界あるし。だからといって草薙を出すのもおかしくなっちゃうんだよね、ドラマでの2人はもっと軽い感じの関係だから。元の設定と変えると、いろいろ不具合が出てきちゃうんだなぁ・・・。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

トウキョウソナタ('08日本)-Oct 3.2008
[STORY]
佐々木家はごく平凡な4人家族だが、ある時、サラリーマンの竜平(香川照之)がリストラで会社をクビになってしまう。それを家族に伝えることができず、毎朝スーツで家を出ては公園などで時間を潰していた。妻の恵(小泉今日子)は主婦で、ドーナツを作っても誰にも食べてもらえない。大学生の長男・貴(小柳友)は、突然アメリカ軍への入隊を志願し、小学生の次男・健二(井之脇海)は家族に内緒でピアノ教室へ通いはじめる。こうして一家は徐々に崩壊へと向かっていく――。
監督&脚本・黒沢清(『叫(さけび)』
−◇−◇−◇−
第61回カンヌ国際映画祭で、ある視点部門審査委員(JURY)賞受賞。

最近黒沢作品ではホラーや不条理ミステリ系の作品ばっかり見てきたので、(家族を描いているのは『ニンゲン合格』以来?『アカルイミライ』も家族ものになるかな?)そうではない作品というのが新鮮だった。が、ホラーや不条理作品では見なれた奇妙な演出がこの作品でもふんだんに使われていて、ホラーなら登場人物が不可解な行動を取ってもあまり気にならなかったが、この作品で同じようにやられてしまうとどうしても違和感を覚えてしまう。

ま、でもこれもファンタジーかつホラーな話だよね。いきなりピアノ天才とかって、ファンタジー以外の何ものでもないでしょう(笑)日本人がやってるから気になっちゃうけど、パリの街でフランス人が同じように演じていたら違和感なかったかもしれない(笑)演出がヨーロッパ的というか、カンヌでウケたのも分かる気がする。竜平が解雇されるシーンや、恵の海のシーンが特に日本ぽくない。脚本をオーストラリア人のマックス・マニックスが手がけているせいもあるのかな。タイトルが“東京”じゃなくて“トウキョウ”なのも、日本でありながら異国のような話であるという意図があるのかもしれない。

とはいえ、同じ家に住んでいながらそれぞれが秘密を持ち、食事の時だけ顔を合わせ、かといってたいした会話もなく食べているシーンは誇張とも言えない(食事時間ですらバラバラかもしれない)そんなところがリアル。健二が学校の先生の秘密をバラしてしまうシーンも、いかにもありそうだ。
そしてホラーばりにやたら怖くて背筋が寒くなるシーンもありました。特に竜平が黒須(津田寛治)の家に行って食事をするシーンがね。ここも過剰な演出だと思うけど、その過剰なところが逆に自然でハマっていた。津田寛治は演出にぴったりの演技で、この映画の中で一番のハマリ役だった。一方、常連の役所広司のほうが、この映画では浮いてたな。

最後のピアノは音楽に疎い私ですら聞きほれてしまうほど素晴らしくて驚いた(実際の演奏者が健二役の子とほぼ同い年の高尾奏之介くんというのにさらに驚いたんだけど!)演奏そのものがもちろん素晴らしいんだけど、音を録る時にも細心の注意をして、他の音よりクリアに聞こえるように処理してるのかな、と思った。高音が特によく聞こえるし。また、他のシーンで流れる音楽が暗いオルガンのような音色を使っているのも、この最後のシーンを引き立てるためなのかも。このピアノを聞いただけで佐々木家が本当の家族になったんだって思わせてくれる。国外にいる貴だって、自分には帰る家がちゃんとあるって分かってるから自分の求めるものを追求できるわけで、それはとても幸せなことだ
黒沢映画で不安要素を残さない作品って、私が今まで見た中では初めてかも(あ、『ドレミファ娘』以来か?!(笑)『LOFT ロフト』もある意味そうか?!(笑))後味悪いのも大好きだけど、こんな作品もいいものだ。
home