Movie Review 2009
◇Movie Index
曲がれ!スプーン('09日本)-Nov 22.2009
[STORY]
12月24日。香川県のとある町にある喫茶店“カフェ・ド・念力”では、エスパー好きのマスター早乙女(志賀廣太郎)が1年に1度エスパーパーティーなるものをを開いていた。そこに集う人々は実は本物のエスパーで、電化製品を操る井出(川島潤哉)、人の心が読める椎名(辻修)、透視ができる筧(中川晴樹)、手を使わずに物を動かせる河岡(諏訪雅)の4人がすでに集まっていた。そしてこの日は新しいメンバーが入ることになっていた。そこへやってきたのは狭い場所を通り抜けるという神田(岩井秀人)という男。彼は超常現象を扱うバラエティ番組に投稿しており、番組のAD・桜井米(長澤まさみ)を店に呼び出していた。
監督・本広克行(『UDON』
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劇団ヨーロッパ企画主宰の上田誠による脚本で、本広とのコンビは『サマータイムマシン・ブルース』に続き2作目。2000年に『冬のユリゲラー』のタイトルで上演された舞台作品を映画用に書き換えている。物語の舞台は本広の出身地であり『サマー〜』『UDON』の舞台にもなった香川県で、両作品に登場した場所やキャラクターが本作にもちょこちょこ顔を出している。

予告では面白そうに見えたんだが、本編は「これ映画化していい作品じゃないだろ・・・」と正直思った。舞台は見たことないけれど、この作品はあの独特な高揚感の漂う舞台上で、役者たちの絶妙なタイミングでのセリフの応酬やアドリブがあってこそ盛り上がるもので、映画だとそれが表現しきれてなくて、時に寒さを感じた。CGを使ったりして映画らしさを見せようとはしていたけれど、テンポの悪さもあってショボさが際立ってしまった。

ストーリーそのものは嫌いじゃなく、むしろくっだらね〜ところが好みだ。が、やっぱり何度も言うけど見せ方がダメ。もっと早いテンポで展開させていったほうが面白くなったんじゃないかな。エスパーたちの自己紹介も1つ1つのんびりやりすぎ。そして桜井が登場するとさらにモタモタしだすのが気になった。真面目だけど天然ボケというキャラクターはいいが、喋りがモタモタするのと天然ボケってのは違うと思うんだよね。長沢まさみの演技と他の登場人物との演技が合ってなくて、せっかく彼らがコミカルに演じても彼女が打ち消しちゃってるように感じた。この桜井米というキャラクターは実は演じるのが一番難しい役だと私は思うんだけど(マスターの役もちょっと似ているけどこれを難なく演じる志賀はさすが)役作りをしない(させない)なら、最初から天然ボケな女優がやったほうがよかったかも(綾瀬はるかとかね)

いろいろ書いたけど、エンドクレジットと主題歌(YUKIの『Cosmic Box』)はやたら良くて、そこだけちょっと感動してしまった。このテンポとノリで本編も作ればよかったんじゃない?
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イングロリアス・バスターズ('09アメリカ)-Nov 22.2009
[STORY]
1941年。フランスの山間の村にナチスがやってくる。“ユダヤ・ハンター”と呼ばれるランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)はユダヤ人一家を匿っている農場主を白状させ銃撃するが、少女のショシャナだけは逃げ延びる。
1944年。パリで映画館を営むミミュー(メラニー・ロラン)はナチスの兵士フレデリック(ダニエル・ブリュール)に気に入られ困っていた。実は彼女は逃げ延びたショシャナだった。だが、フレデリックが主演した映画をここでプレミア上映したいと言われ、ショシャナは復讐を計画する。
一方、連合軍は“イングロリアス・バスターズ”という極秘舞台を結成し、レイン中尉(ブラッド・ピット)を筆頭にナチスを皆殺しにしてきた。そんな時、ドイツ人女優でスパイのブリジット(ダイアン・クルーガー)から映画のプレミア上映でナチスの高官が集まるという情報が入り、レインたちは潜入を試みるが・・・。
監督&脚本クエンティン・タランティーノ(『デス・プルーフ in グラインドハウス』
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1976年に公開されたイタリア映画『地獄のバスターズ』(原題『The Inglorious Bastards』)から着想を得て製作されたという作品。第62回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、ランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツが男優賞を受賞した。タランティーノ本人もカメオ出演しており、ナレーションはサミュエル・L・ジャクソンが担当。

これから見る方は、ヒトラーやゲッペルスなど実在の人物が登場するが史実とは違うストーリーであることを頭に入れておいたほうがいいでしょう。
タランティーノがナチス映画?と意外に思ったけど、中身はちゃんとタランティーノ映画だった。彼の映画の魅力の1つに登場人物たちが延々と話す雑談があるわけだが、本作ではその雑談やゲーム中の会話にめちゃくちゃハラハラさせられた。個人的には銃撃戦よりドキドキでしたよ。冒頭のランダ大佐と農民との会話、そして中盤の酒場でのやりとり、この2つのシーンが特に面白い。長い映画なのに短く感じちゃったもの。座って喋っているだけなのに、このあとどんなセリフが飛び出すのか、どういうつもりで喋っているのか、駆け引きしてるつもりなのか、いつ牙をむくのか、と固唾を呑んで見守った。ランダ大佐が飲み食いしている時ですらも「この人、いま絶対何か企んでる!」と目が離せなかった。

ヴァルツが男優賞を受賞したっていうのに納得させられたわ。とにかく芸達者で上手い!申し訳ないけど、ブラッド・ピットがかすんじゃった。彼は彼でスクリーンに登場するだけで華があって目を引くし、自分のキャラクターを生かした演技で面白かったけど思ったより出番が少なかったし、上に書いたように私が面白かったシーンには登場しないので、予告で見たシーン以外は印象に残らなかった(一番面白かった「グラッツェ」のところも実は宣伝で見ちゃったんだな)ていうか、予告でピットの見せ場をほとんど見せちゃうってどうよ?(苦笑)
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副王家の一族('07イタリア)-Nov 21.2009
[STORY]
19世紀ブルボン王朝支配下のシチリア。スペイン王家代理に当たる副王家の末裔であるウゼダ家。家長で長男のジャコモ(ランド・ブッツァンカ)は、母親に愛されていた弟のライモンドが疎ましく、その母が亡くなると不倫をもみ消す代わりに遺産相続を放棄させる。そして妹のルクレツィアを町長と結婚させ、妻のテレザが亡くなるとすぐに愛人と再婚する。
そんな横暴な父を見てきたジャコモの息子コンサルヴォ(アレッサンドロ・プレツィオージ)は父に反発し修道院へ送られてしまう。そして妹のテレーザ(クリスティーナ・カポトンディ)もまた、父から愛する男の兄と結婚するよう強要されるのだった。
監督ロベルト・ファエンツァ(『鯨の中のジョナ』)
−◇−◇−◇−
原作はフェデリコ・デ・ロベルトが1894年に書いた小説『副王たち』
この映画と同時代を描いた作品に、かの有名なルキノ・ヴィスコンティ監督アラン・ドロン主演の『山猫』がある。が、恥ずかしながら私は『山猫』を見たことがない。本作を見たことでこの時代の歴史がちょびっと分かったのでこれから見ようと思っている。

予告やポスターなどではとても重厚な雰囲気のある映画だったので、じっくり見ようと構えてたんだけど、思ったよりも軽いなぁと思ってしまった。セットや衣装はよかったけど出演者の演技とか演出がね。ジャコモが頭にコブを作って喋るシーンはコントかと思ったし(ブッツァンカは元々コメディ俳優なのね)修道院を数年で脱出したからまだ若いハズなのに無理な若作りで登場するコンサルヴォとか、作ってるほうは大真面目なんだろうけど、見てるこっちはそれが逆に可笑しくてしょうがなかった。もっと重々しい作品を期待してたのに。

それから映画ではジャコモが死ぬところでほぼ物語が終わり、コンサルヴォのその後は字幕で説明が出るだけで終わってしまうのだが、この話の一番面白いところはコンサルヴォ自身が嫌いだった父のようになっていくところじゃないのかな。原作がどうなっているか分からないけど、前半をもう少しタイトにして、コンサルヴォのその後を見せてほしかった。

テレーザのパートは、恋に破れたジョヴァンニーノ(グイド・カプリーノ)が絶望するシーンに緊迫感があり、兄のミケーレのキャラクターも(悪いけどただのデブだと思っていたらそうではなく)意外性があって面白かった。そして何よりクリスティーナ・カポトンディの清楚で可憐な、かつ感情を抑え込んだ演技に引き込まれて見ごたえがあった。彼女は他の作品でも見てみたいと思わせる女優さんだった。
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ロフト.('08ベルギー)-Nov 21.2009
[STORY]
1年前から友人5人共有で使っていたマンションのロフトで全裸で血まみれの女の死体が発見された。第一発見者のルク(ブルーノ・ファンデン・ブロッケ)はマンションを設計したビンセント(フィリップ・ペーテルス)、精神科医のクリス(ケーン・デ・ボーウ)、酒飲みで女好きのマルニクス(ケーン・デ・グラーヴェ)、クリスの腹違いの弟フィリップ(マティアス・スクナールツ)に連絡する。ロフトの鍵を持っているのはこの5人だけだった。
監督エリク・ヴァン・ローイ(『ザ・ヒットマン』)
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2008年にベルギー本国で公開されて大ヒットしたというサスペンス映画。実はベルギー映画は今まで見たことがない(ダルデンヌ兄弟が監督した映画はどうも見る気が起きず)私の好きなドンデン返しのある映画ということで、初ベルギー映画となりました。

5人が共有で使っていたロフトで女が殺されていて、犯人はこの部屋の鍵を持っている5人のうちの誰か?というのがメインストーリーで、その中で5人の男たちの関係や、彼らの私生活などが徐々に明らかになっていくという構成。正直言って、もっと緻密で計算された作品かと思ったんだけどそうでもなかった。どのシーンもスタイリッシュかつ重厚で、登場人物もミドルエイジばかりだからか、その雰囲気に騙されたって感じ。ホントに最初から伏線を張りまくって作ってたのか疑問だ。真相を知ってからもう1回見たら繋がらないような気がするのだが、私の理解力がないだけだろうか。

それから5人の設定自体は面白いのに、それも活かされてないと感じた。例えば精神科医クリスと謎の女アンとの関係、クリスと腹違いの弟フィリップとの関係、ルクの妻の病気、このあたりで何かあるのかなぁと期待していたのだが、フツーだったり描かれなかったりちょっと期待はずれ。観客をミスディレクションさせるシーンをもっと挿入してもよかったんでは。死んでいた女が一体誰なのかをなかなか明かさないところは面白かったが、それなら候補となる女をもっと用意したほうがもっと面白くなっただろう。と、偉そうに書いてしまったが、内容そのものは悪くなかったし(男の嫉妬って意外に怖い)初めて見る俳優ばかりだから誰が怪しいとか全く予想できず、新鮮な気持ちで見れたのがよかった。

見終わった後で、この映画はDVDになった時にエロチックサスペンスな路線で宣伝されて(DVDのパッケージがモロそんな感じで)ベルギー映画とか関係なく興味がある人が手に取ってしまうんだろうなぁなんて思ってしまった。そういう押し方をしないとなかなか見てもらえない映画だと思うし、多くの人に見てもらえればそれも悪くないけど、ちょっともやもやしますな。
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ジェイン・オースティン  秘められた恋('07イギリス=アメリカ)-Nov 3.2009
[STORY]
1795年イギリス、ハンプシャー。ジェイン・オースティン(アン・ハサウェイ)は両親から名士のレディ・グレシャム(マギー・スミス)の甥と結婚するよう勧められるが、本当に愛する人と結婚したいジェインは首を縦に振らない。そんなある時、法学生のトム・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)がジェインの兄ヘンリーに誘われてオースティン家にやってくる。彼はジェインが書く文章にケチをつけ、顔を合わせるたびに衝突するが、舞踏会で踊った夜、2人は恋に落ちる。
監督ジュリアン・ジャロルド(『キンキーブーツ』
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原作はジョン・スペンスの『ビカミング・ジェイン・オースティン』(映画の原題が『BECOMING JANE』)で、彼女の手紙や日記等の資料を元に書かれたもので完全ノンフィクションというわけではないようだ。
ジェイン・オースティンは18世紀から19世紀のイングランドの田舎町を舞台に、中流社会に生まれた女性を主人公とした生活や恋愛を描いた作家で、6つの長編小説を著しており、彼女の著作はすべてドラマ化・映画化されている。

本作はオースティンの最高傑作と言われる『高慢と偏見』を特に意識した作品で、ジェインの境遇は『高慢〜』のエリザベスそのもの。聡明だが勝気で、恋に落ちる男性と初めて顔を合わせた時は悪い印象を持ってしまうのも一緒だ。ただ、紆余曲折しながらもハッピーエンドになる小説と違い、ジェイン本人は・・・。『高慢〜』のリディアは借金だらけのウィッカムと駆け落ちして不名誉な事態になるも、うまく立ち回ってくれる人がいたおかげで事なきを得るが、本作ではすべて悪いほうに・・・。そしてジェインの姉カサンドラもまた『高慢〜』のジェーンとは違い・・・。現実が厳しかったからその分、自分の書く小説の登場人物たちは最上の幸せを手に入れて欲しいという気持ちが強かったのかもしれない。
私は今まで彼女の著作は知っていたし映画も見てきたけど、彼女自身のことは生涯独身で早くに亡くなったということしか知らなかったので、フィクションを交えてあるとしても、本作で彼女自身のことを知ることができてよかった。それまでは上から目線なお嬢さまが書いたものってどこかで思っちゃってたからなぁ。

キャストについては、ジェイン役にアメリカ人て、とちょっと思ったが、見てるうちに気にならなくなった。そのかわり今こうして感想を書きながらストーリーを反芻してて、『プライドと偏見』『つぐない』と本作とがごっちゃになって思い出されて混乱している。つまりマカヴォイのキャスティングが安易なんだな。彼とヒュー・ダンシーは似たような役に使われすぎだと思う。
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