春の章

惟光のつれづれ草子2003

夏の章
晩春 立夏より大暑

ホームページには日記をつけるならひにてあめれば、
かの徒然なるままによしなしごとを書きつる法師にまなびて、
日ごろ心にうつることどもをなむ
筆にまかせて書きつけはべらむ

西遊雑記

冬の章

秋の章
盆休みの記 立秋より立冬
行く河の流れにこの身をまかせ春より書き綴るこの草子も夏秋過ぎぬ。草かるるとて人目かれずここに至る、いとありがたし。
12

11
小田原にて
第八
雨なり。小田原の城下にてつねの仕事ありてゆく。往路ロマンスカーにありて日ごろの気鬱起こりて揺らるる車、黄泉路渡しの黄染(丹塗り)の屋形船にある心地して、叫ばむかぎりの恐怖わく。苦しさに一人二人にメール送りてしのぐ。
つねの仕事は心地よく果つれば雨もあがりて、宵闇街を訪づれむとするころほひ、直に帰る気もあらねば、駅をすぐして城址にむかひぬ。いまだ5時にはならね、人影まばらにて、女子高生のまばゆきひとりふたりなど足早にすぎゆく。雨の気の残る冷たき大気に包まれて天守櫓をあふぎつつ堀端城内を歩きせば、いつしか心にわだかまりたる鬱気のとけゆく思ひぞする。大手よりにぎやかなる大路をゆけば、なつかしき店々のたたずまひ心に沁み満ちゆく。この街が、こんな心を、優しく、迎えてくれている……
旅とはえいはぬものにしあれど心の旅としては黄泉路越えてかへりしほどの旅にてぞ。
12

10
感傷 第七 卒論提出もまぢかなるにゼミ生のすべて集まりて研究室にてののしりあへるは何ぞ。風船をふくらまして似顔を書き壁に張りたる。テレビを飾る。記念写真も撮る。騒ぎは花火の最後のきらめきにぞ似たる。
かへりは東海亭にて焼肉を囲む。ひごろの鬱気は彼ら彼女らとともにしあればおこる気配もなくなごみたり。
さう…来週は卒論提出なればかやうなるゼミも果つ。卒論てふ目的を一にしてうごなはれる者どもの、目的達成さるれば、かやうな集まりにはならじ。かく思ひつつひとりひとりの顔をながむるうちに涙とともにわきおこる感傷。時止まらむかし。
12

宵闇のプラットホーム 第六 常の仕事終へて帰るに、日ごろ帰路をともにせし三でう五でうの兄妹をも置きて、独り駅のホームにたたずみをれば、雨上がりに吹く北風も寒き中に鉄路光りてあり。光みつめて思ふやう…この日はいかにか朝餉もえとらねど、さいつころより気も戻りてをるに、常の仕事かさね、このところ溜まりしものどもも片付け、心晴るるべきに、などか気ますますふたがりぬ。かねてより気にかかりしことも、かりそめにはあれ、覚悟きまれば、なんらふたがるゆゑもなきに、宵闇の鬱々と身をつつみゆく。
  宵闇に溶けゆく思ひのゆくへなくまたしみじみと身に宿りつつ
12

多摩の夕暮れ 第五 多摩渡りの冷たき風と、冬の夕暮れの陽に宿るそぞろ神たちなむまねきつる。ゐもゐられず車に乗りて早稲田通りを西に走りて青梅街道を下る。夕日に欅照り、風に葉舞ふ。多摩こそふるさとなり。学生のころほひ、湘南に疲れしとき、多摩の教習所にて免許をとらむと通ひし冬休み、小金井の欅を見るに心溶くる心地してなごみぬ。いま同じ心地あるは、あらたしく湘南に通ひしに疲れたるにや。されど車を走らせむとて、多摩に身を投げむとて、心の晴れ間はつかの間にして、悩み溶くるべうもあらず。もとの淀みに戻れば、うつうつとして常の仕事に戻りぬ。
  夕されば多摩の横山富士の峰 北風に浮かぶそのシルエット
11

22
西海道日記 第四 みことかしこみ筑紫に下りぬ。早うにつねの仕事片付けて17時前の急行にて海老名・横浜を経て京浜急行にて羽田に赴けば18時半なり。飛行機は19時15分とあれば、よきころあひなり。ただ座席はすでによきところ無く、ジャンボ機の二階の先頭にてある。壁の向こうは操縦席ならむ。ハイジャックにあれば先づ被害にあひさうな席ぞ。
連休前とて混雑しはべりぬ。機材の遅れにて5分送れて動きつれど、離陸には十台待ちとて20時に飛び立ちぬ。かやうの席なれば窓もなく中央の席にて壁を見るばかりも心苦しく、うとうとしながら1時間半のフライトなり。福岡には21時半過ぎに着きぬ。さりながら空港は博多駅より地下鉄で8分ほどなれば22時にはホテルに着きにけり。ロイネットホテルてふ宿にて略せばロイホ。文字通り一階にはロイヤルホストあり。ロイヤルホストの経営する宿なめり。受付の娘子は好みの顔立ちにて受け答へもよし。パソコンを借りて仕事しつつ夜をすごし翌朝は8時8分博多発の快速にて赤間にむかひぬ。
すべきこと果つれば、在の馴染の友がりゆきて語らひぬ。赤間より快速二駅小倉方面に向かへば黒崎てふやや大きある駅あり。山せまりて囲まるる中に高きビルひしめきながら陽の光明るくどこか懐かしき思ひぞする。ここより筑電てふ小さき電車に乗りて通谷てふ駅まで290円ほどゆく。車窓の眺めも心地ぬくまる景なるが不思議なり。かやうの懐かしさは何ゆゑかはかりかねたり。
友なるものも健在にてすぐる年より元気戻りてあれば、心やすく、一刻ばかり雑談をかはしてまかりぬ。中間(なかま)てふこのわたりは古くは炭鉱で栄えしところななれど、面影無し。ただ彼方に見ゆる小山のボタ山なるを聞けば驚きなり。中心にはダイエーあれど、そこの字は「陥落」といふなり。昔、田の広がるを、地下を掘りて陥落せしところに水溜まりて池となる。そを埋めて今ダイエー建つとなむ友語りける。
来るに同じ道をかへりつつ、夕暮れなれば、冬空に西の方あかく染まりて、筑前の町並みを宵闇包まむとす。
  冬の日の凍れる空を塗りかへて宵闇包む筑豊の町
羽田への便は20時45分なれば、名所旧跡を訪ぶらはむにも夜なればよからず。博多駅前にてラーメン屋を求め、土産物屋をひやかしつつ、空港にてグラスかたぶけぬ。ひとりし思へば数々の想い出よぎり、いにしへの人の顔ども浮かぶ。まいて今なるものどものことし思へばさまざまな感興おこりてわろし。
  想ひ出も今来の思ひもぬばたまの闇にとかさむ 夜間飛行(よるのフライト)
帰りの便は窓側にて街の灯よく見ゆ。灯りの一つ一つに人の営みぞ見ゆる心地して、
  街の灯のひとつひとつに人の息 愛 恋 憎しみ 思ひやりもまた
となむ。阿蘇より豊後水道をわたり熟田津の上より瀬戸内海を見をろし、大阪より明日香の上を飛ぶ。難波、平城京、平安京をひと目で見わたし、前方には尾張国までのぞめり。
 異郷にある心地しつつ太平洋より千葉、川崎の夜景を見て、
  すてきれぬ思ひいだいて明日もまた憂き世にあらむせむすべなくに
羽田に着きぬ。
11

16
冬の日 第三 冬の日めきて北風強く空晴れ澄みわたりけり。街に出れば頬を切る風心地よく、心も清からむと思へども、鬱々として晴れることなし。いにしへ家持卿の春日に鬱として「いよよますます悲しかりけり」とうたひしもかくのごときありさまにや。その故を自問自省すれば自らの位置を見失うてあればこそ。堕つるとはかくのごとき有様をいひつべし。
11

16
ひとりにしあれば 第二 ひとりにしあれば、昼食(ちうじき)にはラーメンこそよけれ、さりながら乾麺チャルメラ・サッポロ一番は食ひ飽きたれば、生麺にせむとて茹でたり。TVにならひて茹で上がりたる麺を「天空落とし」とせば台所一面茹で汁満ちたり。さりとてジェット湯切りもなければ笊にあけてちゃっちゃと細切れにして前後にゆすれば、さながら「砂金荒ひ」といふべけんや。されど水槽一面茹で汁飛び散りたり(TT)…。また素も味気なければコーンなど買ふに大なる缶詰(されど¥99♪)のみあれば麺よりさはにコーン満ちたる、あはれならざるありさまなり。かくてラーメン入り味噌コーン汁ぞいできにける……しくしく。
11

13
小田急線車両 第一 さいつころ、つねのごとく小田急の急行に乗り書き物してあるに、つかれて窓の外をみやれば、相模大野の駅にしありて、彼方に江ノ島線見ゆ。小田急の車両は白き車体に青き線の入りたるもので白砂に海やらん空やらん青を配して湘南をあらはせしものと思ゆ。されどこの日、見ゆるは濃紺の車体に窓をはさみて黄に塗られし車体にぞある。海の濃紺に輝く日の色をあらはせしか。古き車体にあらず今の車体なれば、わざとかく塗りしものなれど、このカラーリングはかつて見しものなり。幼きころは小田急の車体は白に青線の車体こそ新しく輝いて見ゆれ、多くかくのごとく濃紺と黄に塗り分けられてありき。いとおどろきたり。

戻 る