「なんだ、くだらない駄洒落じゃないか。」
果たしてこれは現実にあったことだろうかとか、嘘じゃないかとか、妄想じゃないかとかそんなことを思ってはいけない。仮にこれが現実ではなかったとしてもここに書かれているということは事実なのだ。
桜の木の下には屍体が埋まっていると言う。と言うことはだ。この春桜が咲いた人は一生懸命屍体を埋めたわけだよ。そりゃあたくさん埋めたんだろうねぇ。君も埋めなきゃいかんよ。僕?僕はあんまり埋めてませんねぇ、好きじゃないんですよ。屍体。
その昼、青年は納豆を食べていた。青年は何か悩みを抱えているようだった。
「先輩。俺、自分が何やっていいかわかんないんすよ。」
先輩は仕事の手を休めることなく言った。
「いつの時代も若者はそう言うもんだぜ。」
「先輩はいいですよね。天職が見つかって」
とたんに先輩は怒鳴った。
「馬鹿野郎!俺がこれをやってるのはこれができるからでも得意だからでもねえ。この豆をくずして分解する。それしかできねえからやってるんだ!」
しかしその怒鳴り声は周りの人には聞こえなかっただろう。先輩は元々声が小さいのだ。
「別によう。作家じゃなくたっていいんだ。俺は作家にゃなれねえし。職人だよ。俺は。」
青年は「ネジがネジをつくる」と言う言葉を思い出していた。先輩が言葉を次いだ。
「それで十分だよ……俺は。ほら。食えよ。癌にもいいらしいぜ。」
先輩は自分の作ったモノを差し出した。青年はそれを食べた。実際の所、先輩も一緒に食べてしまったのだが、それは仕方あるまい。
その男はいつも大きな荷物を背負っていた。あまり必要でない大小さまざまなモノを何でもかんでも抱え込んでしまう質らしい。
ある日彼の下に天使が舞い降りて彼にささやいた。
「あなたは一人で背負うにはあまりにも大きな重荷を抱えています。さあ、その半分を私がにないましょう。」
所が男はカッと目を見開いて言った。
「黙るがいい、天使よ。この荷は誰にも渡さぬ。悲しみも憎しみも怒りもすべて俺の物だ。誰が貴様になどくれてやるものか。」
天使は彼を救えなかった。男はやがてその重荷につぶされてしまうのだろうが、彼はそれでもかまわないと言った。
突然情報が入った。目標がコースを変更してこちらに来るというのだ。コードネーム『佐渡おけさ』は言った。
「今しか無い!」
俺は頭の中で現在動ける人間を数え上げていた。この場におれと『佐渡おけさ』の二人。
「『張り子の虎』と……、残りは?」
「『田舎姉妹』」
合計五人か。何とかなりそうだ。俺は黙って頷いた。
その、お世辞に「絶世の美女」と言うには多少のパラダイムの変換かあるいは努力が必要な女は、コップをもってこちらに向かってきた。その建物の中はとても暑かったが、それを考慮してかコップの中には大量の氷が入っていた。女はコップをテーブルに置くと
「メニューはおきまりの頃にまいります。」
と、謎の言葉を残して去っていった。困った。意味が分からない。何かの暗号なのか?いや、それともまた別の。そんなことより僕は何をしたらいいのだ。メニュー?メニューはここにある。それともこの食品の写真と数字が並んだ冊子をメニューと名付けるのは僕の勘違いなのだろうか?案外そうなのかもしれない。今までにもそういうことはたくさんあったじゃないか。そうだ、彼女は言ったじゃないか「おきまりの頃にやってくる」と。彼女が詐欺師やペテン師や預言者の類でないとしたら、その『メニュー』が何かを知るためには『おきまりの頃』を待てばいいのだ。そう考えて、僕は手に持っていた冊子を閉じた。そして、やがてやってくる『メニュー』が僕を食べてしまうような物でないことを祈った。
その建物には他にも奇妙な箇所があった。例えばお手洗いだ。お手洗いというのは一般に言うお手洗いのことではなくて純粋にお手洗いという意味でのお手洗いだ。そのお手洗いは壁とタバコの自動販売機の間に挟まれ身動きがとれずに縮こまっていた。ずいぶん長い間そうやって縮こまっていたようで、その幅はもう24cmぐらいしかなかった。これは大変なことだ。腕の直径が12cm以上の人はどうやってもそのお手洗いで手を洗うことはできないのだ。幸いにして僕の腕の直径は12cmを幾分、いや、かなり下回っていたので何とか手を洗うことに成功したのだった。
一時間もその建物の中にいただろうか、その建物を出ようとしたときいくらかの金を請求された。請求したのはお世辞に「絶世の美女」と言うには多少のパラダイムの変換かあるいは努力が必要な女ではなく、お世辞なら「絶世の美女」と言ってもあまり精神的な苦痛を及ぼさないであろう女だった。ぼくはその金額を確かめようとしてレジスターの表示を見た。そこに数字は書かれておらず、ただ「アリガトウゴザイマシタ」と言う文字が横に流れているだけだった。僕はめまいを覚えた。
気がつくと、僕は自分の部屋にいた。さっきまでのことは全部夢だったんだろうか。ふと財布の中身を確かめてみると、確かに千円札が一枚無くなっているのだった。
僕はその看板をしばらく見つめていた。別にその看板にとりわけ面白いジョークが書いてあるわけでもないし、fホールが付いた女の背中の写真が貼られているわけでもないのだが、僕はその看板を見つめなければならなかった。その看板には嫌になるほど数字が書き込まれており、その数字の中からある一つの数字を探し出さなければいけなかったのだ。どうやらそれらの数字は全て使い慣れた十進法で書かれているようで安心した。
しばらくそうやって看板をにらんでいたときのことだ。突然看板が立ち上がり、僕にむかって飛びかかってきた。驚いて逃げようとしたが、間に合わない。看板のタックルをもろに背中にくらい、僕はアスファルトにたたきつけられた。
「なにすんだ!くそう。」
看板は無言のまま僕の上にのしかかってきた。振り払おうとしてもさっぱり効果がない。なんて重い看板だ。看板はその堅い腕を僕の首に回してがっちりと絞めた。チョーク・スリーパーだ。こいつ、グレイシー柔術をやってるな。そんなことを考えている間もなく僕の脳には酸素がなくなり、僕は意識を失った。
自分が自分である事を証明しなさい。
今の自分と前の自分を比較してみて、二つがぴったりと重なれば命題が真であると証明される。
最近撮った写真と、20年前の写真を観察、比較する。
など、様々な差異が確認された。
結果から、与えられた命題は偽であると考えられる。
-100点。もう少し頑張りましょう。
こんな所に財布が落ちている。と、右上の方に黒い人が出てきて言った。
「こいつはすごい。みんなに黙ってねこばばしてしまいましょう。」
そこへ左上の方から白い人が出てきてこう言った。
「いやいや、そいつはいけない。その財布はスペイン製の上等な物だからみんなに見せびらかすべきだ。」
黒い人は言った。
「何をおっしゃる、そんな事したらどうなるか分かったもんじゃねえ。」
「お前こそ何を言ってるんだ。上等な物を見せびらかさないんだったら、何のために上等なのかわかりゃしないじゃないか。」
その内口論はエスカレートして、白い人は頭に血が上って真っ赤な人になったが、仕事率が3倍になるわけでもないので覆面をかぶって顔を隠したところ、自分が誰だかばれないであろう事を利用して数人で黒い人をリンチし、黒い人も黒豹に変身してこれに対抗しつつブルースを歌っていたが、白い人には黒い人のように歌える人がいなかったのでプレスリーの登場を待つほかなかった。
何故客足が少ないのかというのは、大変に重要な問題である。この問題を解き明かすことによって、より多くの客を獲得し、さらなる発展を遂げることが我々経営者の永遠の目的であることは言うまでもない。
それでは本題に入ろう。まず客足が少ない理由として考えられる物は以下の物である。
はい、そこの君。質問?どうぞ、遠慮なく。はい。3番目?これですね。なんと読むか?まあ、好きな風に読んだら良いんじゃないでしょうか。質でも質でも。
もうすぐ嫌なやつがやってくる。毎年一回はやってくるやつだ。今年ぐらいは来ないでおいてやろうとそんな気は微塵もないらしい。だいたいそんな優しいやつじゃないんだ。この時期に郵便受けの中に入って出られなくなったところへ雨に降られる様な少年がどれだけいるか考えたこともないに決まってる。きっとあいつの頭には電気が流れてるんだぜ。俺だって流れてるけど。いや、だいたいあんなやつは生き物でもなくて……
ほら来た。
狸は語った。
「もうちょっとの所だったんだ。ホントにあとちょっとさ。もうちょっと早く飛び出してれば捕まえられたんだ。本当だって。あと髭一本分の所だよ。いや、爪はかかっていたかも。」
隣で前足を舐めながら話を聞いていた狐が言った。
「でも、捕まえられなかったんだろ?」
「ああ、まあね。でも惜しかった。」
狐は前足を顔にこすりつけながら言った。
「それより、獲物は何だったんだい?」
「獲物?」
「逃したやつさ」
「よく覚えてないよ。もうちょっとって所で目が覚めちまったから。」
狐は前足を前にだして大きく伸びをしてからこういった。
「そういうの、なんて言うか知ってるかい?」
「いや?なんて言うんだい?」
「『捕らぬ狸の泣き寝入り』って言うんだ。」
狐は物知りだなあと狸は思ったが、そばでかくれていた兎は「ちがうな、そいつは『とらぬ狸の胸算用』だ!」と言おうとしたところをからまれても嫌だなぁと言う考えが脳裏をよぎったので、黙ってこそこそ立ち去ったのであった。
むかしむかし、あるところにおじいさんがおりました。あるとき、おじいさんが山でごるふをしていると、おばあさんがやってきて言いました。
「まあまあ、こんな所で何やってるんですか。少しはお仕事をして下さいな。」
おじいさんはむっとしておばあさんに言いました。
「ちゃんとしてるじゃないかよう。いちいち干渉すんなよう。」
そうです。おじいさんはちゃんと仕事をしていたのです。よその人が見たらそうは見えないかもしれませんが、それは立派なお仕事なのです。
例えば、それはその場所に本当に繁栄すべき種を根こそぎ追いやってしまって、そこに別の種を繁栄させようとするときに生じるのだが、自分が何処に向かっているか分からない帰化種に対して、マッカチンが主意主義と言う右のハサミとプラグマチズムと言う名の左のハサミを振り回して、生存圏を拡大していく時のように話はそれていくのである。 しかしながら、そもそも大理石というのはただの墓石であって、その中に入っているのはやはり死体なのであるから、サケがカツオノエボシに撃沈されたことで、実はものもらいであったことが明白になったタヌキにサケのことなど忘れて猛然と襲いかかってくるのが仕方のないことだとしても、同情は禁じ得ないなどとは心にも思わない。 つまりは、この問題の答えは何であるかと言うことを考える前に、何故この問題を解かねばならないのかと言うことを考え、それを解決するために神の実在について考えを巡らし、四季折々の花々に見とれ、ふと空を見上げて生命と宇宙と万物の問題について"42"と言う答えを得た時点で、試験時間は終了してしまうのである。
男はしばらく前からずっと同じ場所を見つめていた。男は言った。
「いつだって、君のことだけを見つめてるんだ。」
女は眉をひそめながらこう言った。
「本当に?」
男は大きく瞳孔をひらいて、
「本当さ。さっきだって、君のこと見てたから段差にけつまずいて転んだんだから。見てくれよ、この傷。」
と言って額の傷を示した。女は傷跡をまじまじと見て、言った。
「あたし、そんな傷知らないよ。」
「そりゃあ、君はその場にいなかったから、知らないだろうけど……」
言いかけて、男は激しく瞬きした。
「あー、目薬持ってる?」
第一次間充織細胞と同じ胚葉からつくられる組織・器官を持たない動物はどれか。下記の(ア)〜(ク)から2つ選び、記号で答えよ。
(ア)アミカイメン (イ)イトミミズ (ウ)ウマカイチュウ (エ)エチゼンクラゲ (オ)オウムガイ (カ)カワヤツメ (キ)キイロショウジョウバエ (ク)クロボヤ
1999年山形大学試験問題より
脳味噌が溶けていく。ごぷごぷと泡を立てながらどろどろに溶けていくのだ。溶けた脳が髑髏の中でたぷんたぷんと揺れているのに、どうして俺の意識はこんなにはっきりしているんだ?ああそうだ、こんなジョークがあったっけ。ベテランの宇宙飛行士と熟練の脳外科医が話してるんだ。宇宙飛行士が言うんだ。「俺は何十回も空を飛んだが神なんて見なかったな。」すると脳外科医が言うんだ。「わしも何十人もの頭の中を見てきたが、意識とか精神とか言った物は見たことがない。」そこへ、若い経験論者がやってきてこういうんだ。「いやいや、君たちはまだ若い。君たちが見たことがないからといってそれがいないとは限らないじゃないか。」若造にそんなことを言われて憤慨した老人二人が若者に殴りかかろうとすると突然空から天使が降ってきて、三人の脳味噌を溶かしてすするんだ。ちょっと違ったかな。最近記憶が曖昧でねぇ。ふわぁあ。眠い。
突然のことだった。
「君、補欠ね」
そういわれた。なんてこった。補欠と言うことは誰か欠員がでなきゃ、上に上がれないって事じゃないか。人生は厳しいもんだって誰かが言ってたな。待てよ、逆に言えば誰か欠員を出してしまえば、俺の手でだよ、そうすれば、そうすればさ……。
気がつくと、俺は消毒液のにおいのする部屋の中のベッドの上にいた。ウウ、頭が痛い。一体何があったんだっけ?俺は記憶中枢が故障してないことを祈りながら記憶をたどっていった。そうだ。俺は1人の男に目を付け、バナナの皮をもって後ろから近づいていったのだが、足下に落ちていたナイフに気づかず滑って転んですりむいて化膿して病院に捕まった上に果物の不法所持で警察に入院したのだ。人生って厳しいなぁ。
宇宙は広い。どのくらい広いかというと、日本で唯一電車の通ってない市から東京都全域を見渡すぐらいに広い。あるいはもっと広いかもしれない。そんなに広いところでは、我々の常識を覆すような何か、例えば現代物理学の基本原理を根底から覆してしまうような現象に出くわしてしまうかもしれないのだが、幸いなことに我々は物理学の専門家ではないので、それがどれだけすごいことか全く理解できないのである。仮に我々が物理学の専門家であったとして、そのような現象を見たと言ったところで非常識な人間だと言われるのが関の山である。
それだけ広いところに、鉄道で行かねばならないのであるからこれは大変な事だと言わねばならない。しかし、これだけは言える。そう、はっきりと言うことができるのは、出発は明日であり、こんな事をしている場合ではないと言うことだ。
彼は惑星アヴァキーキャットの宇宙立ち食いそば屋で食券を買った。それはわかめうどんの物だったが、彼は銀河間旅行にはタンパク質が必要と考え、油揚げをつけてもらおうと思っていた。彼は食券を店員のアヴァキーキャット星人に示しながら言った。
「あぶらげ入れてください。」
すると店員は言った。
「ウドン?」
「え?ああ、はい。」
店員はうどんをお湯からあげ、わかめとネギを入れてつゆをかけた。
「ハイ、オマチドオ」
そういってその年喰ったアヴァキーキャット星人はどんぶりを彼に差し出したのだ。
彼はそそくさとわかめうどんをたいらげると、銀河超特急の出るオジコット星へと向かった。
彼は機械の体をもらうためにウコオート星雲にあるアタガマジ星に行くのである。銀河超特急ツバサに乗り込むと車内放送が静かに流れた。
「えー、この列車はー銀河超特急ツバサ451号。停車駅はオネウー、アジモ、アマジロック、アミスクー、ウジャカ、ネスノアマジマック、終点アタガマジの順で停車を致します。えー携帯電話、PHS、クイックキャスト、デスクトップパソコン等は周りのお客様のご迷惑になりますのでー、電源をお切り下さいますようお願い申し上げます。えーまたー車内でのたき火、どんと焼き、護摩などは消防法により禁止されておりますので、ご理解と、ご協力をお願い申し上げます。(以下略)」
いつまで続くのか分からない車掌の演説を聞いているうちに列車は走り出し、窓を見て『地球って青かったんだ』などと思っているうちに車内販売のワゴンがやってきたので彼はワゴンを呼び止めた。彼はワゴンに言った。
「アーモンドチョコ下さい。」
「ハイ、200宇宙円ニナリマス。」
機械的な音声でワゴンは言った。彼は財布から200宇宙円玉を探して取り出すと、ワゴンのマジックハンドが彼の目の前にジップスターをつきだしていた。彼は何でも自動化するのは良くないなと思うのだった。
しかし、本当にうんざりする出来事はアタガマジ星で起きたのだった。彼は、ウコオート星雲ではそばがうまいと聞いていたので夕食は絶対にそばだと決めていた。そしてホテルの近くの宇宙そば屋に入ったのだ。そこのメニューがアヴァキーキャット星の宇宙立ち食いそば屋と大差がなかったのはこの際対したことではないことは先に言っておかねばなるまい。
彼は席に着いて、アタガマジ星人のウエイトレスに宇宙天ぷらそばを頼んだ。しばらくしてから、男がひとりやってきて、隣の席に着いた。その男は宇宙山かけそばと宇宙ビールを頼んだ。酒類が料理より先に出てくるのは全宇宙共通である。そして、山かけそばがそばにとろろがかかった物であることも全宇宙共通のはずである。しかし、宇宙はエーテルに満ちているのではない。宇宙は間違いで満ちているのだ。やがて、アタガマジ星人のウエイターが宇宙天ぷらそばを手にやってきて、それをあとから来た男の前に置いてしまったとしても別に不思議ではない。不思議ではないが、それをその男がこれ幸いと何も言わずに食べはじめてしまうのも不思議なことではない。そしてこの経験を元にこの物語の主人公が性悪説を唱えてしまうのも、じきに厨房で怪しげな問答が始まるのも、その問答の結果ウエイトレスが宇宙山かけうどんを持ってきて「山かけうどんですか?」と聞いてしまうのも、例の男が会計の時に「宇宙山かけうどん頼んだんですけどー」と言ってしまうのも、アタガマジ星人の店主が「ああ、いや、山かけの値段でいいです」と言ってしまうのもこれは不思議なことではない。不思議なのはすっかりふてくされて隣の男に背を向けていた彼の背中を男がつついて
「天ぷらそば?たのんだの。」
と、嬉しそうに言ってのけたことと、店員が伝票を確認しなかったことである。なお、彼が「この野郎、今度会ったらぶん殴ってやる」と思ったのも「新しい天ぷらそばが来た時点で『やっぱ帰ります。』といってやろうか」と考えたのも「あの男は600宇宙円得したのに、俺は10分間の損だ。」と言う発想も全く持って不思議な物ではない。
だめ押しに、オジコット星系に帰るとき、自動販売機で青い飲み物を買おうとしたら黄色い飲み物が出てきたとき、彼は宇宙旅行にこういったことはつきものだと思った。メーテルは何も言わない。
屍解仙は言った。
「うーん。この岩もだめじゃのう。」
そうつぶやいて、持っていた杖で突然その岩を削りだした。その杖の硬いことと言ったら一晩で山を削り尽くしてもなおその長さを保っているといった風であった。その岩はほんの数刻で穴を穿たれてしまった。そこへ、その岩の持ち主が現れて言うには、
「やい、爺。なんて事をするんだ。それはお前の岩じゃない。俺の岩なんだぞ。」
しかし屍解仙は取り合わず、別の岩に目を付けてそれを削りはじめた。岩の持ち主は大変腹を立てて、その屍解仙を打ち据えようとした。ところが男の拳は屍解仙の体を捉えず、そのまま通り抜けてしまった。屍解仙はゆっくりと岩の持ち主の方に向き直って、杖を大地に突き立てて一喝した。すると男は風に舞う木の葉のように吹き飛ばされ、まだ削られていない岩に打ちつけられて気を失ってしまった。男はしばらくの間気を失っていたが、気がつくと日は落ちかけ、屍解仙の姿はなく、すばらしくいい加減に削りあげられた岩の超現実的な彫刻だけが夕日にてらされているのだった。仙人のやることはよくわからない。
我が国は大変豊かである。豊かであると言うことはみんなが靴を履いているというとか、第三次産業に従事する人口が多いとか、そういうことではない。どういうことかというと、定職を持たない若者がブラインド・ブレイクのCDを衝動買いしても食いっぱぐれることがないと言うことである。そういった国では突然或る人形が欲しくなった人が600円を散財したとしてもちゃんと夕食をとることができる。また、こういった事実は不況とは何の関係もないが、有明海ののりの不作が少なからず影響を及ぼしているのである。