飛雄馬のズボン

野球にはまったく興味のない私をして名作と言わしめる「巨人の星」がリアルタイムだった昭和40年代、皆それなりに貧しかったが、当時ですら、主人公、星飛雄馬のあのツギの当たったズボンは、すでにビンボの象徴だった。
ビンボだった昭和中期から、誰もが自分は中流以上であると大きな勘違いを身につけてしまったバブルの時代を経て、平成の今、勘違いな人々もさすがに再びビンボを自覚し始めているようなのだが、それでもバブル時代に身についた習慣なのか、古いものをツギを当ててまで身につける、という人は、ほとんどいないようだ。
それどころか、特定の古着が新品以上の高値で取引されるという、なんともわけのわからないことになっている。飛雄馬や、彼の姉の明子がこの状況を見たらどう思うのだろう。少なくとも、モーレツに感動はしないだろう。
それはさておき、穴が開いたら、ふさげば直る。擦り切れたら、継ぎ足せば直る。たとえ見てくれがビンボくさかろうと、キャラメルマンだろうと、直せば少なくとも機能は回復する。そのビンボくささゆえに、いまや絶滅したかのような感もあるツギハギだが、ビンボジーパーはあえてビンボをジープで主張してしまうのだ。

というわけで、切ったところをふさいだり継ぎ足したりするわけだ。ツギハギに使う部材を「パッチ」という。
小さな損傷なら、損傷部分を滑らかに切り取って、損傷部分だけを覆うパッチを当てればよい。パッチの形は、ジープの場合ボディはモノコック構造ではないので、応力集中などを特に気にする必要はないが、見た目の収まりがいいのは、円形とか、八角形のような、きちんとした幾何学的図形だ。
しかし損傷が大きくなると、そうも言っていられなくなる。ツギを当てるというよりは、区画の張替えに近くなってしまうからだ。その場合は、継ぎ合わせるラインができるだけ視覚的に美しくなるように切るしかない。ボディのアウトラインやプレスラインなどに違和感のないようにデザインすればよいのだが、これがなかなか簡単でない。
今回の修理では、前席周りのかなりの部分を、大きく切除して張りなおした。元の板とまったく同じ構成にすれば、固定がスポット溶接からリベットに変わっただけでほぼ元通りになるのだが、いかんせん、サビ穴はこちらの都合を考えて開いてくれるわけではない。で、キャラメルマンのページの写真のようなことになってしまうわけなのだ。

まっ平らな区画の穴をふさぐのは、これまたまっ平らなパッチを使えばいいので、パッチを切り出すときにゆがまないように注意しさえすれば、なんということはない。切って、張るだけだ。
これが、前席の足元部分の床板やツールボックス部分の壁面のように曲がっていたり、ステップやトランスミッションカバーのように複雑な曲面になっていたりすると、ぐっと大変になる。元の形を崩さないように、かつ、元のボディにぴったり合うように成形して、固定してやらなければならない。
幸いなことに、ジープのボディには、曲面部分がほとんどない。したがって、

というような手順になるのだ。

また、今回の運転席部分のように、床と壁、ステップのように、互いに交わる複数の面を同時に張り替える場合、面ごとに型を取りながら、慎重に位置合わせ、型合わせを行って、パッチを作っていく。運転席部分の場合、壁、床、ステップ、ツールボックス、の順に作っていった。そして、取り付けは、すべてを同時に、一気に行わなければならない。私はクレコを50本しか持っていないので、シャコ万(Cクランプ)やバイスプライヤー、果ては洗濯バサミまで駆使して、仮留めと位置合わせを行った。何度も何度も外しては付け、微妙な曲げ具合の調整などを行いつつ、穴を決めていくのだ。ものすごく時間と手間がかかり、集中力もいる、大変な作業だった。この部分だけでも、2週間は仮止めのまま置いてあったのだ。


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