Movie Review 2012
◇Movie Index

ぼくたちのムッシュ・ラザール('11カナダ)-Jul 28.2012
[STORY]
カナダ、モントリオールの小学校。ある朝、牛乳当番のため一番に教室に来たシモン(エミリアン・ネロン)は、担任の女性教師が首を吊って死んでいるのを見てしまう。シモンの同級生アリス(ソフィー・ネリッセ)も現場を見てしまいショックを受ける。一週間後、ようやく子どもたちが落ち着きを見せ始めるが、後任の担任はまだ決まらずにいた。そんな時、アルジェリア出身のバシール・ラザール(モハメッド・フラッグ)という男が応募をしてくる。そして担任となったラザールは今までとは違う授業を始める。
監督&脚本フィリップ・ファラルドー(『本当に僕じゃない!』)
−◇−◇−◇−
原作は、本作にもアリスの母親役で出演もしている女優のエヴリン・ド・ラ・シュヌリエールの戯曲。
ケベック州製作のため言語はフランス語。カナダのアカデミー賞で主要6部門受賞、第84回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされた(この年に受賞したのはイラン映画の『別離』

予告ではラザール先生によって子どもたちが変わっていく感動的なストーリーに思えたんだけど、実際は大人の都合に振り回された子どもたちが気の毒な映画だった。最初は言うことを聞かないシモンら子どもたちにイライラさせられてたんだけど、徐々にこれは子どもたちのせいじゃないぞ、と分かってくる。わざわざ教室で自殺した女性教師は身勝手だし、次に決まった担任は実は・・・。主役だけどラザール先生もヒドイわ。バレたらおしまいって分かりきってるじゃない。そしたら子どもたちがまた動揺してしまうって、どうしてそこまで考えなかったのか。しかも、いい授業をするならまだしも、そうでもないんだよねー(笑)だから子どもが親に愚痴る、すると親がすぐに口を出してくる。校長は先生にガチガチに規則を守らせようとする。見ててうんざりすることの連続だった。

最後は一応綺麗にまとめた風だけど、結局ラザール先生によってちょっと変わったのはたった1人の生徒だけ。まぁ1人でもいただけ良かったけど、あとの子たちは混乱しただけだったんじゃないかな。客観的に見れば迷惑な先生だったな、と。

ラザールを演じたモハメッド・フラッグは実際もアルジェリア生まれで俳優や舞台監督として活動していたが、国内情勢が悪化してチュニジアへ移住。しかしそこでも危険な目に遭いフランスに亡命したという、ラザールと同じような経緯をたどってきた役者ということは見る前から知っていた。だからそれがこの役に深みを与えているだろうと期待してたんだけど、それがほとんど感じなかったんだわ。フラッグの演技どうこうの前に、上にも書いたけどラザールというキャラクターがいまいちだったんじゃないかな。もったいない。

そんな中で子どもたちの演技、特にシモン役のネロンがよかった。将来楽しみな俳優さんになりそう。
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屋根裏部屋のマリアたち('10フランス)-Jul 23.2012
[STORY]
1962年のフランス、パリ。ジャン=ルイ・シュベール(ファブリス・ルキーニ)と妻のシュザンヌ(サンドリーヌ・キベルラン)の家には先代から仕えているフランス人のメイドがいたが、シュザンヌとうまくいかず辞めてしまう。そこでシュザンヌは友人からスペイン人のメイドが勤勉だと聞き、マリア(ナタリア・ベルベケ)を雇う。マリアは他のスペイン人メイドたちと屋根裏部屋で共同生活をしながら懸命に働く。そんな彼女たちとジャン=ルイは親しくなっていく。
監督&脚本フィリップ・ル・ゲイ(『一夜のうちに』)
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2011年のフランス映画祭で『6階のマリアたち』のタイトルで上映された作品。

予告の感じがよかったし、主演のルキーニも好きなので見てきたんだけど、ルキーニがなんか老けたなぁ。『しあわせの雨傘』と同じ時期の作品だけど、あれは倒れちゃう役だったし主役じゃなかったからあまり気にならなかったんだけど、本作では主役だからね。以前より演技にキレもなくなったような気がする。前はもっとコミカルでテンポのいい演技を見せてくれてて、それが作品全体のテンポにも繋がってたんだけど、本作では全体的に鈍く見えた。

家事はすべてメイドがやるというブルジョア家庭で、フランス人メイドが辞めてスペイン人メイドを雇うことになったことからジャン=ルイの人生が変わっていくというお話。1960年代はスペインはまだフランコ政権下、そこから逃れるようにメイドたちはフランスに渡ってきたのだった。スペインというとやっぱりフランコ政権絡みは切り離せないんだなぁ。スペイン映画ではよく取り上げられるけど、フランス映画でもなのか。メイドの中には両親を殺されてしまった人もいるが、それでも強く逞しく生きている。そんな彼女たちの暮らしぶりにジャン=ルイは惹かれてしまう。

ジャン=ルイの妻も決して悪妻ってわけじゃない。典型的なブルジョア妻で、家の女主人としてメイドに家事の指示をすることと夫の相手をすること以外はやることがない。他の妻たちとつるんでお茶やゲームに興じて時間を潰すだけ。男からしたら、愚痴が多く退屈そうな顔をした女よりも、仲間と楽しそうに働く女に心を動かされるのはしょうがない。というか、女の自分でもマリアになびいちゃうわー(笑)他のメイドたちもみんな大らかで包容力があって、何でも悩みを聞いてくれそうで。ペドロ・アルモドバル映画の常連カルメン・マウラとロラ・ドゥエニャスも出演しているので親近感が沸いちゃう(笑)

というわけでジャン=ルイの行動には共感できたが、マリア側に複雑な事情があってすんなりとはいかない。ドラマとしてはそのほうが起伏があるけど、ここらへんのいくつかのシーンが唐突で、ブツ切りだったりカットしたのか?みたいなところがあったりで、私の想像だけど結末にどう繋げたらいいんだろう?っていう迷いが感じられた。結末はあれで決まっていただろうから、その手前でモタついたのが非常に残念だった。それと最初に書いたように、ルキーニの演技に以前のキレがなかったので、余計にグダってしまったようだ。
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おおかみこどもの雨と雪('12日本)-Jul 22.2012
[STORY]
大学生の花(声:宮崎あおい)は大学である男(声:大沢たかお)に出会い付き合い始めるが、実は彼はおおかみ男だと打ち明けられる。それでも構わないと花は彼と同棲を始め、やがて姉の雪と弟の雨を出産する。4人で幸せに暮らし始めたある嵐の夜、彼は突然事故で死んでしまう。花は1人で育てようとするが、都会で暮らすには不自由が増えたため、思い切って山あいの村へと移り住む。
監督&脚本・細田守(『サマーウォーズ』
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細田守の長編3作目であり2作目のオリジナルストーリー。脚本は細田と奥寺佐渡子、キャラクターデザインは貞本義行と、前2作と同じスタッフが手がけている。

『サマーウォーズ』は好きだったけど、本作はすごくいいと思ったところもあるけど、う〜ん・・・と思うところもある映画だった。

おおかみの子どもである雨と雪を中心にして見ると、いい映画だと思う。ここからほぼネタバレ入ります。
幼い頃は活発で野生児みたいだった姉の雪と、内気でひ弱な弟の雨という関係だったのが、成長するにつれて変わっていく様子が、おおかみって設定じゃなくてもリアルだなと感じた。雪は学校に通いはじめて自分が周りと違うことに気付き、女の子を意識するようになる。雨のほうは急に本能に目覚めておおかみとして生きることを選ぶ。私も姉で弟がいるんだけど、ちっちゃい頃は私のほうがそりゃ強かったし(笑)今も気だけは強いけど、男の子ってホントに急にガラッと変わるんだよね。雨みたいに親の知らないところにフラッと出かけて夜になって帰ってきて、どこに行ってたか喋らないとか、まんまうちじゃないか(笑)って。よく描けていたと思う。

でも花を中心にしても見ると何とも微妙なのだ。まず学生の身分で子どもができちゃって、しかも2人目まで。これって、おおかみとか関係なくただ無計画なだけじゃん。母子家庭になってからは病院にも行けず周りにも相談できず、たった1人での子育てだからそりゃ大変だろうし、見ててこっちが泣きそうになるシーンもあった。でも子どもたちがドタバタやってても叱らないし、躾らしい躾をしている場面がないので、結局周りに迷惑かけてるだけじゃんとモヤッとくる。田舎に引っ越してからも1人で家の補修も畑仕事もこなして、超人的すぎてリアリティに欠けていたし、何で子どもたちに手伝いをさせないの?って思った。ここで名前を出すのは無粋かもしれないが、某宮崎御大なら親子で雑巾がけしたりする姿を生き生きと描いただろうな。
結局、子どもたちは花の知らないところで自分で進む道を見つけてて、花は何かしたっけ?という感じ。クライマックスの台風の時の行動も理解できないし、最後まで必死になる方向がちょっとズレてるなぁと思ってしまった。

そんな理由で微妙だったけど、アニメーションとしては前作よりクオリティが高かったし、目を見張る演出もあった。『サマーウォーズ』で陣内家の縁側に座る人々を、スッーっと横に移動させて見せていくところがすごくよかったんだけど、本作では雨と雪が小学校で過ごす姿を右に左にに移動させて見せるシーンが上手かった。こういう映像を見ちゃうと、やっぱり見てよかったと思ったし、次回作も期待してしまう。
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アメイジング・スパイダーマン('12アメリカ)-Jul 7.2012
[STORY]
幼いときに両親が失踪し、伯父夫婦に育てられたピーター・パーカー(アンドリュー・ガーフィールド)は、ある時、父が使っていた鞄から勤めていたオズコープ社の資料を見つける。ピーターはオズコープ社に忍び込むが、そこで遺伝子実験中の蜘蛛に噛まれてしまう。するとピーターの身体に異変が起こる。
監督マーク・ウェブ(『(500)日のサマー』
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『スパイダーマン4』を監督するはずだったサム・ライミが降板したことでパート4を断念し、キャストとスタッフを一新して作られた映画。
監督の降板はしょうがないけど、何でキャストまで・・・と思ってたけど、確かに前のピーターを演じていたトビー・マグワイアが年齢的にもう厳しい。でも、かといって本作のピーターが若いかというとそうでもない。28歳だからやっぱりあと1、2作が限界だろう。あ、そしたらまた新しいキャストで新しいスパイダーマンを作ればいいのか。頭いい〜(棒読み)

アメコミ映画は、ヒーローのド派手な活躍と暗めの私生活のギャップが面白いところでもあるんだけど、前のシリーズでは特に登場人物たちのどん詰まり感が好きだった。ピーターにしてもMJ(キルスティン・ダンスト)にしても、ハリー(ジェームズ・フランコ)もメイ伯母さん(ローズマリー・ハリス)も、心がギリギリだったり生活がギリギリだったりと余裕がなくて、そこがドラマとして濃いシリーズだった。
それに比べると本作は全体的に軽い。ピーターの性格が軽いし、メイ伯母さん(サリー・フィールド)も若くて元気。片思いの相手であるグウェン(エマ・ストーン)は普通に可愛いしすぐ恋人になっちゃうし。やっぱMJブサイクだな〜!って思いながら見るのが楽しかったのに(←ヒデェ)ピーターもグウェンも普通に美男美女って感じなんだもん。

前シリーズが好きだったからまだ受け入れられないところが多いけど、パート2で確変するかもしれないので様子見するか。今回良かったところを挙げると、やっぱり映像は断然素晴らしい。今回は3Dで見たんだけど、ラストの飛び出しは凄かった。「近い!」って言いそうになったくらい(笑)
ストーリーでは、前シリーズのピーターの両親は亡くなっているのに対して本作の両親は失踪していて生きているかもしれないこと、それが今後どうなるか(全然触れられなかったら悲しい)それとコナーズ博士(リス・エヴァンス)が2作目でどうなるのか?このあたりが楽しみ。ピーターとグウェンはどうなろうとどうでもいいや(おい)
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クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち('11フランス=アメリカ)-Jul 1.2012
[EXPLANATION]
フランス、パリのシャンゼリゼ通りの近く、ジョルジュ・サンク12番地にあるナイトクラブ“クレイジーホース”カメラはショーの風景から舞台裏、オーディションやクラブの運営会議まで70日間に渡り完全密着している。
監督フレデリック・ワイズマン(『パリ・オペラ座のすべて』)
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ワイズマンのドキュメンタリーを見るのは初めてで、ナレーション等をつけての説明がないということだったので、内容を理解できるかな?とちょっと心配になったんだけど、そこは全く問題なかった。しかも説明は確かになかったけど、他のメディアがクレイジーホースに取材に来ている場面を横から映し、インタビュー映像もちゃっかり撮影。そこはちょっとズルイだろ(笑)でもこれがあってさらに分かりやすくなった。

女性のダンサーたちがほぼ全裸になるんだけど、ほとんどいやらしさは感じない。人間というよりなんかマネキンみたい、って思ってしまった。だから客層もカップルで来たり、家族で?みたいなのも。あ、日本のニューハーフショーに女性が行くみたいなもんなのかな(ちょっと違うか)

ショーの映像もたくさんあって、予告やTシャツのデザインに使われている水玉の照明のショーがおしゃれで素敵だった。あとイギリスの近衛兵のコスプレのショーも面白くて、人気があるというのは分かる(でもこれ本物から怒られませんかね)
ただ、ダンサーたちの表情がみんなだいたい同じだったり、ダンスも似たようなバリエーションだなとも思った。振付師のフィリップ・ドゥクフレが愚痴ってたけど、ダンサーがやりたくない振付があるっていうのはどうなんかねぇ。そういうこと言うから同じようなダンスになっちゃうんじゃないかと。

あとオーディションのシーンを見て思ったんだけど、やっぱり身長やスタイルを重視して、今いるダンサーと似たタイプを選ぶんだね。確かに何人かで踊るショーが多いから揃ってたほうがいいのは分かる。でも1人で踊る場合はもう少し個性がある人がいてもいいんじゃなかなぁと思った(私が見分けがつかないだけかもしれないけど)
そのオーディションシーンは小声でドゥクフレたちが相談しているのが面白かった。「あの子は足が短いからイヤ」とかハッキリ言い過ぎ(笑)あと、スラッとした女の子が多い中で、1人だけ小柄で寸胴の子がいると思ったら、そうきたか(笑)これは仕込みか?と思っちゃった私はバラエティ脳かもしれん(苦笑)
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