Movie Review 2009
◇Movie Index
クララ・シューマン 愛の協奏曲('08ドイツ=フランス=ハンガリー)-Aug 18.2009
[STORY]
19世紀半ばのドイツ。作曲家ロベルト・シューマン(パスカル・グレゴリー)の妻クララ(マルティナ・ゲデック)は、7人の子の母でありピアニストとしても活動する忙しい日々を送っていた。そんなある時、シューマン夫妻の前に作曲家のヨハネス・ブラームス(マリック・ジディ)が現われる。ヨハネスはクララを敬愛し、やがてロベルトにも認められ、シューマンの家に迎えられる。だが、ロベルトの持病が悪化し、自殺を図って失敗するなど一家に不幸が訪れる。
監督ヘルマ・サンダース=ブラームス(『林檎の木』)
−◇−◇−◇−
監督のヘルマ・サンダース=ブラームスはブラームス家の末裔。
クララ・シューマンはユーロに統合される前のドイツマルク紙幣に肖像が使われるほどの女性で、過去にはキャサリン・ヘプバーンがクララを演じた『愛の調べ』や、ナスターシャ・キンスキー演じた『哀愁のトロイメライ』などがある。

恥ずかしながらマルティナ・ゲデックが好きというだけで選んだ映画だった。予告を見るまでシューマンとブラームスの名前は知っていても、クララのことは全く知らなかったし、シューマン夫妻とブラームスに交流があったことも知らなかった。そんな無知は私が見てもなかなか分かりやすい映画だった。

本作ではシューマン夫妻がデュッセルドルフに移住する1850年あたりからが描かれている。この2人は結婚するまでに紆余曲折あったようで、上に書いた映画では2人の出会いから始まっているようだが、本作は精神障害を患ったロベルトを支えるクララと、クララを助けようとするブラームスを主軸に持ってきている。クララは大らかな肝っ玉母さんという感じで、これはこれで魅力的な女性なんだけど、ブラームスに対して息子と接してるみたいで色気が全然なかった。ブラームスも子供っぽい行動ばかりしていたし、シューマン家の子供たちに慕われていて、この中の娘と将来恋仲になったほうが自然じゃない?とさえ思った(笑)2人の間にもっと濃密な空気を出してほしかったなぁ。たとえプラトニックだったとしてもさ。

ロベルトが自分はもうダメだと悟って手術を受け、手術後にクララに食事を口に入れてもらうところまでが切なかった。それまでの神経質で怒りっぽい姿を見て嫌な人だな、クララは苦労して可哀相に・・・と思って見ていたのだが、自分で入院を決めたところでそれは消えてしまった。彼はクララを本当に愛していたし、ブラームスのことも可愛がっていた。音楽の才能もあり、病気でさえなければもっとさまざまな楽曲が作れたかも・・・。いや、逆にそういう性質だったから偉大な音楽家になったのかもしれないし、そこは分からないやね。

ロベルトを演じたグレゴリーはこういうエキセントリックな役がとても上手くて本作の役もピッタリだったが、フランス人なのでドイツ語吹替になってしまい(ジディもフランス人なので同じく吹替)激しい口調の時には口と合ってないところがあって、そこでフト我に返ってしまうことが度々あった。グレゴリーやジディがイヤなわけじゃないけど、素朴な疑問としてドイツ人役者でシューマンやブラームスを演じられる人はいなかったのかねぇ。
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未来の食卓('08フランス)-Aug 14.2009
[EXPLANATION]
学校の給食をオーガニック食材を使ったものだけにしようと取り組む、南フランスのバルジャック村の活動を追ったドキュメンタリー。
ヨーロッパでは近年、ガンや糖尿病の患者が増えており、その原因が環境にあると発表された。小児ガンも増えていることから、バルジャック村の村長たちはまず小学校の給食からオーガニック化に着手。そして学校内に菜園を作り、種まきから収穫までを生徒たちにやらせて野菜の美味しさを教え、そして子どもたちの親にもオーガニック食品の良さを分かってもらおうという取り組みが始まった。
監督ジャン=ポール・ジョー(『羊飼いの四季』)
−◇−◇−◇−
フランスは農業国であると中学の頃に習ったことは覚えているが、まさかこんなに農薬が使われているとは知らなかった(そういえばフランスワインの中にはものすごく薬臭いものがある)日本よりもずっと農薬に厳しいと思ってたし、オーガニック先進国だと勝手に思っていた。後で調べてみたけれど、実はまだ取り組み始めたばかりのよう。今年からはバルジャック村だけではなくフランス全土で学校給食をオーガニック化するキャンペーンを始めたという。

バルジャック村ではまず子供たちを教育することで村全体の理解を得ようとする作戦には感心した。子供たちがおいしい給食を食べ、農作物を育てる喜びを知ってそれを親に話せば親たちだって知らん振りはできない。「うちのごはんはオーガニックじゃないの?」なんて真顔で言われた日には、関心を持たざるを得ませんわな(笑)

とはいえ、子供の中にも自然食品よりジャンクフードのほうが好きな子もいるし、村長が村人たちにオーガニックの説明をしてもポカンとしている大人もいる。農業を営む人にとっては手間と経費がかかるし、オーガニック農業に転換するためには3年かかるというから大変だ。そんな中、めちゃくちゃ積極的に会合に参加している男性もいて、その人が映るたびに思わず笑ってしまった(いや、笑っちゃいけないんだけどあまりに真剣なもんで)

映画は村の1年を追いつつ、ユネスコ会議での発表や、ガンで命を落とした子供の母親のインタビューなどが挿入されていく。場面が切り替わる時にちゃんと説明は入るんだけど、村が出てくるところでは日付を入れてほしかったな。始めてからどれくらい時が経ったのか分かりにくく、これはいつ頃なんだろう?と服装や気候を考えながら見るのが面倒だった。

それにしてもフランスは給食を食べるところもちょっとオシャレなんだよねー。子供たちは座ってるだけで調理する人たちが全部配ってくれるし、テーブルまで来て「おいしかった?」って聞きながらリンゴをむいてくれたりする。内容もショックだったけど、給食の風景にも驚きました(笑)
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ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式('07アメリカ=ドイツ=イギリス=オランダ)-Aug 12.2009
[STORY]
父親が亡くなり、ハウエルズ家の長男ダニエル(マシュー・マクファディン)はストレスを感じていた。母親と妻の折り合いが悪く、これを機会に引越しを考えていること。弔辞の文章を考えたが、小説家として成功している弟ロバート(ルパート・グレイヴス)と比べられること。そしてそこにもう1つ悩みが加わった。葬儀の参列者の中に見覚えのない男がおり、その男ピーター(ピーター・ディンクレイジ)が父親のとんでもない秘密をネタに金を要求してきたことだった。
監督フランク・オズ(『ステップフォード・ワイフ』)
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チラシすら見たことがない映画だったんだけど、ネットで他の映画のスケジュールを調べている時に、ふと目に止まったのがこのタイトル。ちょっと面白そうだなとあらすじを読んでみたところ、興味を惹かれたので見てみることにした。

そんな軽いきっかけで見たので、出演者については全く頭に入っていなかった。主演のダニエル役の役者を見て、ちょっとジョン・キューザックに似てるなぁ、私が今まで見た映画に出てたことがあるかなぁ、などと思っていたらアナタ!何と『プライドと偏見』のMr.ダーシーを演じていた人だった。嘘だぁぁぁーーー!あの時はもっとスリムだったし髪だって(いや、あの時は髪が長かっただけで量はそんなに変わってなかった)何でたった2年でこんなでっぷりしたオッサンになっちゃうのさー!ちなみにダニエルの妻ジェーンを演じているキーリー・ホーズとはマクファディンと実生活でも夫婦なんだって。

それからダニエルの弟ロバートも見たことあるなぁと思っていたら何とルパート・グレイヴスで、彼も久々に見た。つーか、マクファディンよりグレイヴスのほうが本当は12歳も年上なんですけど(笑)彼も『モーリス』とか出てた頃から比べたらあれですが、それでもマクファディンと比べると若く見えるな。でもいいのか、それで。

他のキャストもスターではないけれど、私が今まで見た映画に出演している人が多くて楽しめた。特にこの映画で素晴らしいのはサイモンを演じたアラン・テュディックだ。精神安定剤と幻覚剤を間違えて呑んでしまったことから錯乱状態でお葬式に来てしまい騒動を巻き起こしてしまうという役。笑いのほとんどは彼が持って行きました。彼の演技だけでも見る価値ある。そういえば彼も過去に『ドッジボール』で見てるはずなんだけど覚えてないなあ。

不満だったのは、シーンのほとんどがハウエルズ家の敷地内で繰り広げられるため、画的には単調に見えてしまったこと。同じ部屋を何度も行ったり来たりするのもちょっとくどい。もしかして元は舞台なのかなと思ったけど、調べてみるとそうではないようだ。それならもう少し変化がほしかったな。それから父親がどういう人物だったのかもっと知りたかった。そこが惜しい。あ、オチは大好きだ、とても(笑)
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そんな彼なら捨てちゃえば?('09アメリカ)-Aug 12.2009
[STORY]
同じ会社に勤め、仲の良いベス(ジェニファー・アニストン)、ジャニーン(ジェニファー・コネリー)、ジジ(ジニファー・グッドウィン)。彼氏のいないジジはジャニーンの紹介でコナー(ケヴィン・コナリー)とデートをするが、その後一度も彼から連絡がない。それでもポジティブに待ち続けるが、彼の友人アレックス(ジャスティン・ロング)から「君に興味がないだけ」とはっきり言われてしまう。
一方、恋人のニール(ベン・アフレック)と7年も同棲しながら結婚を申し込まれないベスは彼に別れを告げる。ジャニーンは3人のうち唯一結婚しているが、夫のベン(ブラッドレイ・クーパー)はひょんなことから出会ったアンナ(スカーレット・ヨハンソン)に恋をしてしまう。アンナはコナーと付き合っていたが、偶然出会ったベンに運命を感じていた。アンナの友人メアリー(ドリュー・バリモア)は既婚者であろうと関係ないと彼女をけしかけるのだった。
監督ケン・クワピス(『旅するジーンズと16歳の夏』
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原作はアメリカのTVドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のスタッフだったグレッグ・ベーレントとリズ・タシーロの 『そんな彼なら捨てちゃえば』と『恋愛修行―最高のパートナーと結婚するための恋愛心得』製作総指揮はドリュー・バリモア。

『旅する〜』がけっこう面白かったので、本作の群像劇も上手く撮ってそうだなという期待と、予告でのジジとアレックスのやりとりに惹かれて見てみた。
予想通り、やっぱりジジとアレックスのくだりが一番面白かった。ジジが「きっと忙しいから電話してこないのよ」と言えば、アレックスが間髪入れずに「いや、電話したくないだけだ」と切り返す。そもそもこの映画は、このやりとりの面白さから映画化が決まったらしい。だから他にもいろんなカップルが登場しいくつかエピソードが挿入されるんだけど、ジジのパートがダントツで面白い。演じるキャストもまた魅力的で、特にジジを演じたグッドウィンがとってもキュートで一途なのだ。彼女だけでも幸せになって!と応援してしまった。

あとはある意味面白かったのが、ヨハンソン演じるアンナのエピソード。美人でグラマーでモテるんだけど、最後は『それでも恋するバルセロナ』と似たような結末でびっくりした。偶然なのか、それとも彼女のような美人でモテる女性はハッピーエンドにしなくてもまたすぐに新しい男が現れるからいいのよっ!みたいなやっかみがあるとか?女性観客に配慮したのかなーなんて邪推してしまった(笑)

トップクレジットのアニストンとアフレックのカップルはつまんなかったなぁ。ベスの焦りや寂しさは共感できて泣きそうになったけど、ニールが何を考えてるのかさっぱり分からないのだ。アフレックって演技あんまり上手くないしさ(失礼)結婚はしたくないけどベスしかいらない、とかお前何なんだよと・・・中途半端にカッコつけんな(笑)アホでしょうもない男だけどまだベンのほうが分かりやすくていいわ。結婚したくないという彼のポリシーをもうちょっとはっきりさせてほしかったな。
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サマーウォーズ('09日本)-Aug 5.2009オモシロイ★
[STORY]
2010年夏。高校2年生の小磯健二(声:神木隆之介)は世界最大規模を誇るインターネットコミュニティ“OZ(オズ)”の保守点検のアルバイトをしていた。だが、憧れの先輩、陣内夏希(声:桜庭ななみ)から夏休みのアルバイトを頼まれ、夏希と一緒に陣内家を訪ねる。武士の家系だという陣内家は驚くほどに立派な屋敷で、一族を束ねる陣内栄(声:富司純子)の90歳の誕生日を祝うために、親戚中が集まっていた。健二は夏希から婚約者のフリをするバイトだということを聞かされ、困惑しながらも栄に会い、認められるが“OZ(オズ)”から送られてきたメールの謎を解いたことで正体がバレてしまう。
監督・細田守(『時をかける少女』)
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細田守監督初の長編オリジナル作品。キャラクターデザインは『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行。

ほとんど予備知識ナシで見に行ったので、最初の“OZ”のシーンで「ナニコレ?」とビックリしたが、物語の世界観が分かるにつれて面白い!とどんどんハマっていった。アニメ映像も綺麗でビックリ。東京駅地下の「銀の鈴」前で夏希と健二が待ち合わせをするんだけど、かりんとうで有名な「錦豊林」の赤いベルトポールが映ってる!すごーい。ちゃんと取材したんだなぁ。陣内家は長野県上田市に実際にある名所や風景が使われているそうで(こちらは行ったことがないので見ても分からなかったけど)上田市観光課ではサマーウォーズの里「信州上田」として宣伝しているそうだ。

世界中のほとんどの人がユーザーで、何もかもOZに頼っているという設定はちょっと強引だけど、アニメならまぁいいかと納得できるレベル。そのコミュニティの危機を救うのが田舎の大家族というのもベタで強引だけど、これはアニメとして正しい設定だ(笑)しかも家族の中には自衛隊員や消防署員がいて花札が得意な者から数学の天才まで人材豊富というのもいいじゃない。複雑なシステムも作り出したのは人間であり、それが暴走しても対処できるのは人間しかいない。家族が汗水たらしてディスプレイを凝視して戦う姿は滑稽だが、やっぱり最後に頼れるのは機械じゃなくて人間の力なんだ!ってことを見せてくれる。一族の長だった栄の訓えを見事にやり遂げた陣内家に拍手を送りたくなった。家で見てたらホントにパチパチしてただろうな(笑)見終わった後はちょうど夏祭りが終わった時のような、爽快だけどちょっと疲れて、寂しいけど甘い余韻が残った、そんな気分になった。ちょうど夏に公開したのも良かったね。

残念だったのは声のキャスト。神木は声変わり前は天才だったけど、今は声優としてはちょっと聞きづらい。桜庭は後半の花札のあたりは良かったけど、健二たちにバイトを持ちかける前半はヒドイ。声質もあまりよくないしね。そして富司純子。演技は悪くないけどキャラクターの顔と全く合ってないの。90歳のおばあさんの役に何で起用するかね。栄の次男を永井一郎が演じてるんだけど、永井のほうが年寄りみたいだった。これもキャラクターの顔と声が合ってない。佳主馬という少年役に谷村美月ってのも・・・私は佳主馬がずっと女の子だと思ってましたよ(苦笑)もっとちゃんと考えてキャスティングして下さい、ホントに。逆に驚いたのは38歳主婦の由美の声を『時をかける少女』の仲里依紗が演じていたこと!これは気がつかなかったなぁ。けっこう上手くて感心した。

コミック版も出版されていて、まだ1巻しか出てないんだけど映画より描写が丁寧で経緯が分かりやすい。映画を見た後で読むのがオススメだ。
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