Movie Review 2003
◇Movie Index

WATARIDORI('01フランス)-May 1.2003
[EXPLANATION]
北半球に春がやってくると、渡り鳥たちは一斉に北極へ向けて旅立つ。そこで卵を産み、子を育て、再び同じ地へ帰ってくる──。3年の月日をかけ、世界20カ国以上、100種類以上の渡り鳥たちを追いかけたドキュメンタリー。
総監督ジャック・ペラン(俳優であり『ミクロコスモス』では製作を担当)
−◇−◇−◇−
第75回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート。

映画『グース』と同じく、鳥たちが卵から孵った時から刷り込みを行い、超軽量航空機と一緒に空を飛ぶよう準備をした上で撮影に入ったという。そのおかげで普段見ることができない鳥たちの飛ぶ姿を間近で存分に見ることができる。
私は飛んでいる鳥を後ろから撮影したシーンが一番面白いと思った。身体が重そうで不恰好でも、ちゃんと飛べるんだよねー。飛んでる時って足はどうなってるんだろう?っていう疑問もちゃんと解けたし。羽の音がかなり大きいということや、はぐれないようになのか距離を保つためなのか、頻繁に鳴き声を出し合っていることも興味深かった。

また、よくぞここまで撮ったな!と感心するような鳥たちのユーモラスな姿も見せてくれる。優雅に踊っているように見えるタンチョウヅルがずっこける瞬間を捉えた映像は最高。ここだけ何度でもリピートしたくらい。名前が分からないけど胸がプクーッとふくらむ鳥や、ペンギンのヨチヨチ歩きも可愛らしい。ペンギンは渡り鳥と括っていいのか?という疑問もあるが。

刷り込みやってる時点でこの映画はドキュメンタリーとは言えないと思うし、最初と最後に少年が登場するあたりもドラマっぽい。まぁそれはそれでいいんと思うんだけどね。しかし気になったところもある。(ここからネタバレ)鳥が撃たれるシーンは正直いただけないと思った。飛んでいた鳥がたまたま撃たれてしまった、というのとは明らかに違うもん。カメラが、鳥が撃たれるところを待ち構えて撮ってるんだよ。ちょっと嫌な書き方するけど、たとえわざと撃ち落してたとしても、それを悟られないようにうまく撮るべきだったと思う。(ここまで)

それから鳥と地球のCG映像はいらなかった。余分なところを削って1時間半以内におさめてくれたら良かった。DVDならいくら長くなっても構わないけど、劇場で見るにはちょっと長いと感じた。
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少女の髪どめ('01イラン)-Apr 30.2003
[STORY]
テヘランの工事現場で、イラン人と一緒にアフガン難民たちが無許可で働いている。イラン人のラティフ(ホセイン・アベディニ)は、現場にお茶を出したり買出しをする係をしていた。ある時、アフガン人の1人が2階から転落して骨折してしまった。翌日、彼の息子だというラーマト(ザーラ・バーラミ)が代わりに働くとやってくるが、身体が小さいラーマトにはきつい仕事だった。親方はラティフの仕事をラーマトにやらせることに決めるが、仕事を取られたラティフはラーマトにきつく当たる。
監督&脚本マジッド・マジディ(『太陽は、ぼくの瞳』)
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イラン人少年がアフガン人少女に恋をする話ということで見に行ったのだが・・・
後先考えないおバカさんが、嘘をついて金を借りたり、ストーカー紛いのことをしたり、あげくの果てには大事なものまで売り払って、最後は自己満足する、というお話。
・・・だと私は思いました。間違っても彼を純粋だとか、己を犠牲にしてまで尽くす素晴らしい人、などと感動したくはない。馬鹿ですよ。馬鹿野郎です(泣)←って泣きそうになってるし

というわけで、ラティフの行動には私は否定的だ。しかしラティフとラーマト、2人の距離間の演出は素晴らしかった。いじめられても黙って仕事をこなすラーマトを見つめるラティフ、ラティフが偶然目撃する、磨りガラス越しにラーマトが髪を梳くシーンは艶かしさすら感じる。そしてドアを隔てて見詰め合う2人、ラーマトがブルカで顔を隠すシーンは思わず声を上げそうになるほど。2人の距離が少し近づいてはまた離れていく、まるで波のようだった。

そしてラティフがストーカー・・・もとい、彼女を見守る視線はイコール、イラン人から見たアフガン人たちの境遇であった。祖国を逃れ、イランに辿りついて貧しいながらも何とか生活してきた人々。しかし祖国を忘れてしまったわけではない。お金さえあれば今すぐにでも祖国に帰りたいのだ。ちなみこの映画は2001年9月11日よりも前に作られたそうだ。ということはタリバン支配下のアフガニスタンということか。うーん。それでも残してきた家族や親類のために祖国へ帰ろうとするのか。映画とはいえ、ラーマトたちが心配でならない。向こう見ずなおバカ青年のことも心配。そして私は親方に一番同情している。
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D.I.('02フランス=パレスチナ)-Apr 30.2003
[STORY]
イスラエル領ナザレの町にエリア(エリア・スレイマン)の父が住んでいた。近所には道路を壊す老人や、隣家にゴミを投げ捨てる男、懸命に掃除をするおばさんなどが住んでいる。父は自動車工場を経営していたが、うまくいかなくなり税務署に家の物や工場を差し押さえられ、とうとう心臓病で倒れてしまった。東エルサレムに住むエリアは父を見舞い、パレスチナ自治区の街ラマラに住む恋人と検問所で逢っていたが・・・。
監督もエリア・スレイマン(『消滅の年代記』)
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第55回カンヌ国際映画祭審査員賞、国際批評家連盟賞受賞作品。

正直言って、よく分からない映画だった。クスッと笑えるシーンもあるけど、それが何を表現しているのか、どう受け取ったらいいのか分からないのだ。イスラエルとパレスチナの問題を理解してないからしょうがないんだけど。あ、でも監督も何かを訴えたいわけじゃなく、単に笑わせたいだけかもしれないが。現実が笑えないだけに、と。

でももうちょっと現在の中東情勢を理解してから見るべきだったな。釈然としないまま劇場を出て、思わずカウンターに置いてあった『映画「D.I.」でわかるおかしなパレスチナ事情』っていう本を買いそうになった・・・あぶないあぶない(笑)読んだからどうってわけでもないのよね。それで理解したつもりになるのも何だか偽善くさいし。

と言いつつ『カンダハール』の時は買っちゃいましたが。でもこの映画を見に行った一番の理由っていうのは、中東問題を考えるためではなく、TVで見た予告のスゴさにビックリしたからなのだ。エリアの恋人が忍者になるシーンという、一番の見せ場をまるまる放送したのだ。で、期待して見に行ったら、ちょっと違ったというか、あそこ以外ではそれほどぶっ飛んだシーンがなく(アンズを食べるシーンも見せ場かな)不条理連作コントって感じだったね。

ああ、でも本を読めばもっと笑える!というのであれば、やっぱり読むべきなのかも〜(ジレンマ)
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愛してる、愛してない('02フランス)-Apr 27.2003オススメ★
[STORY]
美大生のアンジェリク(オドレイ・トトゥ)には心臓外科医の恋人ロイック(サミュエル・ル・ビアン)がいたが、彼には妊娠中の妻がいた。それでもアンジェリクは彼が離婚してくれると信じていた。しかしデートをすっぽかされ、旅行にも来てくれなかった。アンジェリクに恋する医学生ダヴィッドがロイックに問い詰めるが「もう終わったことだ」と追い返されてしまう。
監督&脚本レティシア・コロンバニ(長編初)
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これから見ようと思っている方で、先入観を与えられたくないという方は読まないほうがいいでしょう

私はこの映画がこういう映画ということは、少しだけ知っていた。『アメリ』のような 話のようでいて、実はそれだけじゃないよ、ということだけ。劇場予告もそれを匂わせる作りになっていたしね。 でも詳しくは知らなかった。

という前置きをしておくけど、見始めて15分くらいでカラクリが読めてしまった。でも読めても面白かったねー。 ストーリーに無理がなくてすごくよく出来てるし、ビックリするところもたくさんあった。

(以下ネタバレ箇条書き)
・アンジェリクパートではハート型の映像がいっぱいで、ロイックパートでは心臓の絵がいっぱいなところに思わずニヤリ
・アンジェリクが留守番を任された家とロイックの家が隣同士だったことにビックリ
・アンジェリクのバイク事故エピソードを深く考えずに後でビックリ
・ロイックが隣の家に行った理由に感心
・ダヴィッドがロイックに殴り込みシーンは、ロイックがクビにした秘書が伏線になってたのねと感心
・アンジェリクがロイックに恋したエピソードが些細なことすぎてあっけにとられる
・アンジェリクが住んでた家の壁にあったロイックの絵に恐怖!
・病院の壁にあったロイックの絵に鳥肌!

ホントに怖すぎました。『危険な情事』のグレン・クローズよりずっと怖いよ。だってあっちはマイケル・ダグラスにも責任あるもん。でもロイックには責任ないでしょー。バラを受け取った瞬間から、アンジェリクの脳内で着々とストーリーが作られていったかと思うと本当に恐ろしい。
(ここまで)

『アメリ』を見た人に、この映画も見てもらうことを前提に作られてるような気がしないでもない。『裏・アメリ』って感じかな。『アメリ』を見てなくても十分面白いとは思うけどね。ただし『アメリ』のイメージを壊したくない人は見ないほうがいいでしょう。ワタシ的には超オススメ(笑)
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ベッカムに恋して('02アメリカ=イギリス=ドイツ)-Apr 20.2003
[STORY]
イギリスに住むインド人少女ジェス(パーミンダ・ナーグラ)はベッカムの大ファンで、いつも男の子たちと一緒にサッカーをしている。そんなある時、地元の女子サッカーチームに所属しているイギリス人少女ジュールズ(キーラ・ナイトレイ)がジェスの上手さに目をつけ、チームに入らないかと声を掛けてきた。ジェスは家族に内緒でチームに加わるが・・・。
監督&脚本グリンダ・チャーダ(監督3作目で日本公開初)
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タイトルを見て「どうせベッカム人気にあやかった下らない映画だろう」なんて思った人も多いだろう。確かにタイトルは直訳したものではない。原題は『Bend it like Beckham』直訳すると「ベッカムのようにボールを曲げろ」──なので、タイトルにちゃんとベッカムの名前が入っているし、これを「恋して」に変えても的外れではない。主人公はベッカムが大好きという設定だし、彼女の友達もベッカムに本気で恋してるからね(笑)

というわけで見てソンはない映画だ。てゆーかちょっと泣いたし(笑)イギリスには住んでいるけれど、インドの伝統や文化をしっかり守っている一家の次女ジェスが、家族に反対されながら大好きなサッカーを続けていくんだけど、親の世代とその子たちの世代とのギャップが1番のテーマになっている。女の子がサッカーをやるなんてもってのほか、料理上手になってインド人男性と結婚すること、でも結婚前に男性と付き合うのはダメ、と親は子をがんじがらめにする。でも子供たちはそういう親の目をくぐりぬけて何とかやってるんだよね。ジェスはその中でも一番の不良(笑)なので、そりゃあもう大変。せっかく才能があるんだから潰してやるなよ!頭固いなぁ。なんて怒りながら見てたんだけど、インド式の結婚式を見て、こういうのもいいよなーって羨ましくなったりして。

ジェスの家庭も面白かったが、ジュールズの家族もまたしっかり描かれていて良かった。サッカー大好きで娘がサッカーやるのも大賛成なお父さんと、娘がひょっとしたら男に興味がないのでは?と心配する天然ボケお母さん。ジェスのお母さんやお姉さんがキッツイので、このパートでだいぶ和ませてもらった。
それにしても、よくよく思い返してみると、かなり内容詰め込み過ぎなんだよね。2つの家族(文化)を描き、女子サッカーを描き、ジェスとジュールズとコーチのジョー(ジョナサン・リース・マイヤーズ)の三角関係まで描いてるんだから。だからところどころエピソードがおざなりになっていて、全体で見ると未整理な作品なんだけど、これをすっきり纏め上げたら、きっとこの映画の持ち味が失われてしまうだろうな。

サッカーに詳しくないのでビックリしたんだけど、女子サッカーのプロチームってアメリカにはあるんだね。アメリカではサッカーはあまり人気がなく、ヨーロッパでのほうが断然人気があると思っていたので、これは意外でした。
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