Book Review 2002
◇Book Index

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』J・K・ローリング
[STORY]
ホグワーツ魔法学校で1年を過ごしたハリーは、再びダーズリー家に戻ってきた。しかし意地悪な伯父や伯母にいじめられ、突然現れたドビーという屋敷しもべ妖精からは学校に戻ってはならないと警告される。騒いだドビーのせいで伯父から監禁されてしまい、ハリーは学校へ行けなくなりそうになる。そこへ親友のロンがやってきてハリーを助ける。手紙を出したのに返事が来なかったため心配になったのだ。こうしてハリーは新学期が始まる学校へ戻るが、また新しい事件に巻き込まれる。
−◇−◇−◇−
『ハリー・ポッターと賢者の石』の続き。今回もまた映画の直前に予習をしてみた。

前作は魔法、魔法使い、魔法学校の世界を表現するために文章を割いていたが、本作はストーリーを進行させることに重点が置かれている。ホグワーツの4つの寮のこと、ハグリットのこと、ヴォルデモードの過去のことなどが少しずつ明らかされていく。そのせいか、1作目ではキャラクターが生き生きしてたのに本作では“ストーリーのために登場人物たちが駒のように動かされている”という感じが否めない。しかも話の展開パターンが一緒だし(とほほ)

児童書だと思えばいいんだろうけど、ひねくれた大人が読むとダメなんですかね。いちいち引っかかっちゃってねえ。ハリーがダーズリー一家にいじめられ過ぎだったり、スリザリンという寮と寮生たちの扱いがやっぱり苦手だ。悪い魔法使い養成施設って感じなのよね。寮の誕生エピソードは分かった。でもそれなら「寮を良くしよう。いい子を育成しよう」って先生たちは思わないのかな。ちょっと気の毒だ。スリザリン寮の中からもたまにはいい子を登場させてやればいいのに(3作目4作目に出てたらごめんよ)まぁ残り2つの寮の扱いからしたらたくさん登場するだけマシなのかもしれないが。えーと、名前何だっけ(おいおい)

いじめだ、意地悪だ、にもう少し可愛げがあれば、児童書であったとしてももう少し楽しく読めるんだと、今これを書きながら何となく分かった。妙に陰湿なところがあるからなぁこの本。まぁだからといってハリーの心に影響が出るわけでもないからいいのか(ヘンな自己完結)

前作を読んだ時にも映画を見た時にも感じてたことなんだけど、クィディッチって、シーカーがスニッチを取れば150点追加で試合終了なわけだよね。ってことは、いち早くスニッチを取ったら勝ちなわけだ。片方のチームが150点以上取ってない限り、いくらチェイサーたちが頑張っても結局はシーカーの頑張り次第だと。おかしいよなぁ。スニッチを取れば試合終了、というルールは面白いと思う。でも点は余計じゃないか?(しかも150点って)
点は0点でいいじゃないか。勝っているチームは早く試合を終わらせようと一生懸命スニッチを取りに行く。負けてるチームはそれを妨害する。得点が逆転すればシーカーの立場も逆転する。こういうルールのほうが面白いと思うんだけど、どうでしょう。小説内ゲームだからマジに考えるなよと思うかもしれないが、でもハリー1人を賞賛するためのルールのような気がして気持ち悪いんだなぁ。
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『T.R.Y.』井上尚登
[STORY]
1911年上海。刑務所に服役中の日本人詐欺師・伊沢修は暗殺者によって殺されそうになる。しかし同房の中国人革命家・関(グァン)に助けられ、伊沢は関から革命のための武器を日本陸軍から騙し取って欲しいと依頼される。暗殺者から身を守ってくれることを交換条件に伊沢は協力を承諾。刑務所を抜け出して関らと日本へ向かった・・・。
−◇−◇−◇−
第19回横溝正史賞受賞作。織田裕二主演で映画化が決まっているということで、事前に読んでみた。言葉の問題やこの時代をうまく表現できるのか不安要素はたくさんあるけど、クライマックスの逆転に次ぐ逆転はうまく演出できればすごく面白くなりそう。

でもこの小説のテンポのままを映画化したらあまり面白くないだろうな。もっと閉塞感のある息詰まる攻防が展開されるのかと思いきや、おおらかであっけらかんとした空気が小説全体を包んでいる。こんな激動の時代が舞台なのに、こんなに軽くていいのかな?というほど。主人公の伊沢に対して著者が肩入れしすぎてないところもあるだろう。物語の登場人物ばかりか、読者に対しても「こいつ、何考えてるんだろう?」って思わせる男で、全く掴み所がない。悪く言えば掴めなさ過ぎて、のめり込んで一気に読む、という感じじゃなかったのよね・・・。

それでも伊沢の頭の良さや手際の良さに感心。これは計画失敗か?!と思わせといて、それもすべて計算づくなところに驚きながらもニヤニヤし通しだった。また、ところどころで実在の人物が出てくるので、どこまでが史実でどこからが創作なのかだんだん分からなくなっていったところが面白かった。伊沢だけでなく登場人物全員に騙されてるような気がしたよ。ということは著者に騙されてるってことか(笑)
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『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』モフセン・マフマルバフ
[STORY]
映画監督であり作家でもあるモフセン・マフマルバフが、映画『カンダハール』製作後に書いた、アフガニスタンに関するレポート。また、同映画が《フェデリコ・フェリーニ》メダル受賞した時のスピーチ及び、イランのハータミー大統領への公開書簡も収録されている。
−◇−◇−◇−
本書の著者が監督した『カンダハール』を見たあと、この本を買った。タイトルを読んだだけで、私は自分の無知さに恥ずかしくなった。あの仏像が崩れ落ちた時、私はそこに住む人々のことなどちっとも頭に浮かぶことなく、ただ仏像が壊されたことに腹を立て「タリバン=悪者」という簡単な図式を作っていた。そして、まさに私のような人間を指す文章があった。
「仏陀は世界に、このすべての貧困、無知、抑圧、大量死を伝えるために崩れ落ちた。しかし、怠惰な人類は、仏像が崩れたということしか耳に入らない。こんな中国の諺がある。『あなたが月を指差せば、愚か者はその指を見ている』
誰も、崩れ落ちた仏像が指していた、死に瀕している国民を見なかった。」(本書P107)
確かに私は指しか見てなかった・・・。またメダル受賞した時のスピーチを読んで泣いてしまった。以下の文章がそうだ。
「この国では世界中のどこよりも神の名が語られるというのに、神にさえ見放されているかのようです」(本書P8)
私が神の名を口にするのは年に1回くらいだろうか。そんなんでも今とても平和に暮らしている。平和すぎて何が平和なのか分からなくなるほどだ。読んで泣いたのはアフガニスタンの人々に対してなのか、己を恥じてなのか、それは自分でもよく分からない。

本書は、アフガニスタンがどうして神にまで見放されてしまったのかということが、とても分かりやすく書いてある。本当に知らなかったことばかりだ。部族のこと、女性の地位のこと、アフガニスタンが麻薬の生産国だったことも初めて知った。そしてタリバン政権の誕生やオマル師についても私が持っていた像(イメージ)とは違っていた。読んでいてなるほどと唸りっぱなしだった。
イラン人らしい表現が分かりづらかったり、同じような文章が何度も出てくるのが気になるが、今までアフガニスタンについてぼんやりとした映像(イメージ)しか持ってなかった人は読むべきでしょう。これを読んだからといって全てクリアになるわけじゃないけど、輪郭くらいは分かるようになるはず。

今回の件で、日本はアフガニスタンに対して2年半で5億ドルの支援を決めたが、その金がちゃんと農具を買うため、人々のパンのために使われるだろうか、それが少し心配だ。どうか麻薬や武器のために使われることがないように・・・。
本書は2001年9月11日以前に書かれたものだ。マフマルバフは今現在と今後のアフガニスタンについてどう考えているのだろう?
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