「なんだ、くだらない駄洒落じゃないか。」
あなた方はこの文章を読んで、何を感じたとしてもけっして私のところに黄色い救急車を呼んではならない。なぜなら、これはさほど真剣に書かれたものではないからだ。
我々はいったいどれほどの命を無駄にしてきただろうか。一人が生きるためだけにどれだけの命が意味もなく消えていっただろうか。小さなあのこの顔を覚えているかい?僕は迷わずあの子を殺そうとしたんだったが、あの子だって僕を殺そうと必死だったんだ。僕は勝った。だけど、あの子が死んで僕が生き残らなきゃいけない理由は何だ?ああ僕はヒトゴロシだ。あの子はずっと許してはくれないだろう。背丈が1µmにも満たなかったあの子は。
なんてこった。せっかくの努力がいっぺんに無駄になった。今まで費やした時間と労力を返してくれよ。もっと早く言ってくれればこんな過ちを犯さずにすんだってのに。ああ、時計の針は右回り。地球の自転は右回り?冷たい手でも元にもどるさ、やまない雨は無いじゃない。僕の頭はスポンジ状。いいや、まだまだ生ぬるい。ああ何だって?今日は外で御馳走になるんだって?そんななあ御免だ。何故って墓場からよみがえった岡本太郎が俺の門歯を太陽の塔にしちまったからさ。あーあーなんて落ちのない一日だ。もう沢山だね。
何ものにもとらわれてはいけないと言う呪いをかけられた男の運命という物が、はたして巨大な岩塊を山の頂まで押し上げなければならないと言う拷問と同じような物であるかどうかという問題はさておき、現在直面している問題が何であるかと言うことを考えたとき、75人中89人が「私はうそつきです」と言った人物が正直者なのかどうかと言うことを思い浮かべ、かつ残る31人が「あのことわたしとどっちが大事なの?」と聞かれたとき答えが一つしかないことをしっており、またそのうちの約30%が大理石の中での問答が無駄であると考える確率が0.000000001%と言う定数であることはよく知られているが、無闇に時間をかけて長ったらしい弁舌を振りまいているとβ-エンドルフィンが分泌されるが、聞いている方は眠りに落ちることも紛れもない事実であり、加えて述べておかねばならないのは、ある種のマニエリズムは常にあらゆるところで働くと言うことであるが、そのようなことを気にしているのは一部の読者と著者の一部であるので、その事をあまり気にかけるのは精神衛生上好ましくない物ではないかという見解が一般的であるというもっぱらの噂である。
スズメは言った。
「君は今、何をしたい?」
ムクドリは答えた。
「僕は渡り鳥になりたい。」
その答えを聞いてスズメはがっかりしたようだった。
「そういう事じゃなくてさあ……。」
ひょっとしてスズメは歌を歌いたかったんじゃないか、側で話を聞いていたハシブトカラスはそう思ったがいつの間にやら話題が変わっていたので何も言えなかった。いや、歌いたかったのはハシブトガラスの方かも知れない。ただ、スズメもムクドリもハシブトガラスも三羽とも会話の主導権を握っていなかったのは確かだ。なぜなら彼らには……。
男は道に迷っていた。無作為に歩き回るうちに見知らぬ土地に来てしまったようだ。
「困ったなぁ。どうしよう。」
辺りを見回すと、それは見たこともない景色だった。しかし、その景色に見入っている余裕はなかった。今は帰り道すら、いや自分が来た方角すらも定かではない。男はふと鞄の中に地図を入れていたのを思い出し、それをとりだした。地図は言った。
「や、旦那。今日はいい天気ですなぁ。まさに散歩日和ってやつですか。おや、何か困ったことでも?あっしにできることなら力になりますよ。こう見えてもあっしはここいらのことにゃあ詳しいんですぜ。」
男は言った。
「あー、現在地は何処だ?」
その言葉で地図は著しく気分を害したらしく、小さく丸まって鞄に閉じこもったまま口をきいてくれなかった。
ドサ回りの演歌歌手は歌う
『ユキはクル〜。あなたは古代〜。』
その隣でわずかに検出されたフォークゲリラも負けじと歌った。
『花は何処へ行ったのか?花粉が目にしみるんで兵隊さんが伐採したよ。』
更に隣でフォークゲリラを卒業してエレキブームに突入した若者が歌った。
『その答えは友よ、風の中だ。その答えは、風に吹かれているんだ。』
一番はじっこで物静かに女が歌う
『どうか私を月まで吹き飛ばしてください。』
僕は訊いた。
「ねえ、なんだかとっても悲しいんだ。どうしたらいい?」
「悲しいときはなくのがいいよ。」
「ぁお〜〜〜〜〜〜〜ぅおぅおぅおぅ〜〜〜」
昔の僕は一体どこへ行ってしまったんだろう。僕はいつの間にか俺になってしまった。たまに僕にもどりたいときもあるのだが、そう思っても僕には戻れないのだ。やがて俺は私になるだろう。そうなったら僕はおろか俺にさえ戻ることができない。それからしばらく経つともう儂になってしまうだろう。その先はもうない。もう僕でも俺でも私でも儂でも、ましてやあたしでも拙者でもない。それはいわばバラモン教的な無我の境地なんだが、僕は彼で君はあいつであなたは俺で我々はみんな一緒なのだ。むしろ私は卵人間で彼らも卵人間で、儂はセイウチだとも言える。こんな事を言ってもよくわかってもらえないかも知れないが。
種がなければ芽は出ないでしょうか?と生物の先生に訊いた。
「そんなことはないぞ、シダやコケやカビを見てご覧。」
と答えが来た。
芽を出すためだけに種をまくべきでしょうか?と国語の先生に訊いた。
「いいや、種をまくことは色々なことに役立つかも知れない。無駄だと思っても種をまいておくのはいいことじゃないかな?」
と答えが来た。
では、何処に種をまいたらいいのだろうか?と育ち盛りの友人に訊いた。
「ああ?おめー種まく場所なんか決まってんだろーがよー。赤い糸でつながってんだよー。」
と答えが来た。
望む答えは得られなかったと落ち込んでいると、メアリーさんがやってきて耳元にささやいた。
「あんた、分かってんじゃないのさ。それでいいじゃん。」
ある時木こりが湖の畔で木を切っていました。その木は大変手強く、木こりはもう何時間もその木に斧を打ち付けていましたが一向に歯が立ちません。しかし、木こりは大変あきらめが悪く、自分の誇りにかけてもその日のうちにこの木を切り倒さないことには明日を迎えられないと、強く思っていました。そんなときです。木こりが渾身の力を込めて斧を振り上げたときに、手から斧がすっぽりと抜けて飛んでいき、湖の中に落ちてしまいました。その日は真夏日で木こりの手は大変汗ばんでいたのです。
「ああ、なんてこった。明日から仕事ができない。」
と、木こりは滑り止め付きの軍手をはめなかったことを後悔しました。
途方に暮れた木こりが辞世の句を詠んでいると、突然湖の底から大きなあぶくがいくつも上がってきれいな女の人が現れました。その女性は玉虫色に美しく光る高そうな服を身につけていましたが、不思議とその服は少しも濡れていないので木こりは少しがっかりしました。その女性は透き通るような声で言いました。
「あなたが落としたのはこちらのハス○ヴァー●社製のチェーンソーですか?それともこちらの○ョービのチェーンソーですか?」
木こりはちょっとチェーンソーが欲しくなりましたが、ガソリン代を考えるとかえって高くつくとかんがえ、正直に答えました。
「どちらでもありません。わたしが落としたのは鉄製の斧です。」
すると女性は感激したように言いました。
「まあ、なんて原始的な人でしょう。あなたにはこれを差し上げます。」
と言って白いプラスチック製のお面を投げてよこすと
「もっと自然を大切にしてくださいね。」
とわけの分からない捨てぜりふを残してまた湖の中に沈んでいきましたとさ。めでたしめでたし。
魔は問うた。
「何が故に我を呼ぶのか。」
魔術師は答えた。
「その力を借り受けたい。」
また魔は問う。
「我にあらずとも力あり。あえて我を選ぶ故は。」
魔術師は答えた。
「他の者は私の手に負えないか、あるいは私の仕事の役には立たない。」
魔は言った。
「主が我に値するか分からぬ。しばし待て。」
そう言って魔は煙の中に消えた。こんな問答で何が分かるのか。これが何にもならないと言うのなら、いっそ呼び出した瞬間に地獄に突き落としてくれればいいものを。そう魔術師は思った。悪魔との契約が成立するかどうかは誰も知らない。
昔、ヤドカリはこんな事を言われた。
「いったい何時までそうやって小さな殻の中に閉じこもっているつもりだ?何時までも自分を閉じこめてどうなるってんだ。見せて見ろよ。本当の自分って奴をさ。」
「そんなこと言われても……俺……甲殻類だし。」
とヤドカリは答えた。そもそもそんなことを言い出すアメフラシ も怪しい物だが……。
個人の意識を無視して働く力がある。こういう風にすべきだと誰が言ったわけでもないのにそう言う風に進ませる何かが。例えばそれはみんなで同じ文章を読み上げるときとか、誰も大した意見を持っていない事柄について考えを述べるときとかに現れるのだ。
それは明確ではない。明確ではないがある程度の力を持って働きかける。同じになれ、同じになれと繰り返す。その力に抗うのをやめたとき、人は皆一体になれるのである。
問題はそのような力がどこから働くかである。誰が、何処で、何の目的で、いつ頃から?滝のように流れてくる疑問を一つ一つ確かめながら、私はついに一つの答えを発見し…ボシュッ!ん?バンッ!ダダダダダッ!な!なんだあんた達は?!ガシャーンッ!ちょ、ちょっとまジャキッ!ジャキジャキッ!ジャキジャキンッ!そ、そんなことをしてみろ警察が黙っていないぞ!バスッバスバスバスッドンッ!ザージジジブツッ!
息の仕方を忘れた。いったいどうやってするんだったかな。確かこう…ここら辺の筋肉を……ちがった。肩をあげるんだっけ?嗚呼、だんだん苦しくなってきたな。はやいとこ思い出さないと大変なことになりそうだ。えーとそうだ。腹式呼吸って言うのがあったな。おなかを膨らませるんだっけ。おなかを膨らませるには……どうするんだ?ご飯をたくさん食べたらいいかね?ビール?僕ぁ酒飲めないんだよ。何故ってヘビに足描いたからさ。そうじゃなくて今しなきゃいけないのは何とかして肺に空気を送り込むことだぜ。いや、その方法は賛成できないな。僕は男なんだぜ。あ?小腸壁に?だからさっきもいっただろう!?おなかを膨らますのが目的じゃないって。いったい何を聞いてるんだよ!だいたいあんたまじめに考えてんのか?人の命がかかってるんだぞ!落ちつけって?これが落ち着いていられるか!深呼吸なんてできたら苦労しないよ!いいか!もうすぐ僕の頭の中から酸素が無くなって脳の機能が停止するっていうのに君はくだらない冗談ではぐらかしてるんだ。これで落ち着くと思うか?!落ち着くわけがないんだよ!
今日という日を今日と呼べる時間はそれほど長くない。最近は時計も律儀な奴が多く、小さな水晶を震わせながら間違えることなく細長い針で時を刻んでいくのだ。そんなことを言っているうちに今日と呼んでいた日が昨日になってしまうのだが、今日はどんな日であったとしても存在するのだ。
話は変わるが、私という人間を私と呼べるものはそれほど多くない。最近は戸籍調査も明確になって、薄っぺらい紙をちらつかせながら間違えることなく年金を回収していくのだ。そんなことを言っているうちに私と呼んでいた人間が貴方になってしまうのだが、私はどんな人間であったとしても年金を払わなければいけないのだ。
「お茶を入れていただけますか?」
「すいません。さっき入れたのが最後なんです。もう茶葉が無いんですよ。」
「そうですか、出涸らしでもかまいませんよ。」
「でも、もう出ないと思いますよ。」
「待ちますよ」
「そうですか。」
「ええ。何時間でも。」
「暇なんですね。」
「やることはあるんですけどね。」
「なんでやらないんですか?」
「いざというときのために取ってあるんです。」
シャツの襟がぼろぼろになっていた。このシャツをいったい何年前から着ていたんだろう。流れ行くファッションと言うものとあまり縁のなさそうなその持ち主は、ぼろぼろになった襟を見て沈んだような表情を見せた。
「ああ、お前がこんなにぼろぼろになっているのに俺はどうしてその事に気づかなかったんだ。」
しかし、シャツの襟はにやりと笑いながら言うのだった。
「なあに、いいって事よ。俺達ゃもとからこういう運命だったんだ。じたばたしても始まらねえってもんよ。」
こんな話は誰も聞きたくはなかっただろうが、吟遊詩人は語り始めた。町のはずれにすむ小さな魔術師の話を。使い魔にと呼び出した悪魔に殺された小さな魔術師の話を。
その話は聞くものの心を温め、喜ばせるようなものではなかった。聞くものの心を打ち、涙させるようなものでもなかった。ではどのような物であったのか。それをその場にいた者に尋ねても口を割ろうとしない。よほど苦い記憶として記されているらしい。ならば、とその吟遊詩人を呼んでその話を再現させようと言う考えは無駄なことだ。彼は客の一人が何らかの目的で投げつけた銅貨のうちの一枚がのどに入り、呼吸不全で死んだからである。
むかしむかし、どこか遠い国にそれはそれは美しいお姫様がおりました。ある悪い魔法使いがお姫様に結婚を申し込みましたが、魔法使いは大変酬怪な顔つきをしていましたのであっさり断られてしまいました。
魔法使いはあきらめきれず魔法を使ってお姫様をさらい、自分の住む屋敷の高い塔のてっぺんの部屋にお姫様を幽閉しました。
娘がさらわれたことを知った王様は娘を助けるため国の騎士達の中でも一番強い騎士を一人選んで魔法使いの屋敷にけしかけました。命を受けた騎士は勇んでお姫様の待つ魔法使いの屋敷に向かいました。
数度にわたる降伏勧告にも応じず籠城を決め込む魔法使いに対しついに騎士は実力行使を開始しました。強硬な門を蹴破り、襲いかかる使い魔をばったばったと切り倒し、騎士はとうとう魔法使いの部屋までたどり着きましたが、すでにそこには魔法使いの姿は見あたりませんでした。
こうして騎士に助け出されたお姫様は、その後近隣の国の王子と政略結婚して退廃的に暮らしましたとさ。
今日未明、○○都△△区の□□さん宅で三男の××ちゃん(三ヶ月)が首を吊って死んでいるところを家族に発見されました。○○地検特捜部は家族による殺害と見て捜査を進めています。
第一発見者である母親は三男の自殺と主張。父親は「三男は神の子だ。3日後に復活する。」と証言し、兄弟らはそれぞれ「僕はただ見ていただけです。」「あの子はペシミストだったのよ。」「彼はまだ死んでいない。早く胸に杭を打つべきだ。」と述べています。関係者各人の証言の食い違いにくわえ、本人の物と思われる遺書が見つかっていることから捜査は難航する模様。
ゴフー。シュハー。私を憎め。恐れよ。ゴフー。シュハー。フォースの暗黒面を受け入れるのだ。ゴフー。シュハー。どうした。ゴフー。シュハー。さあ、剣を取れ。ゴフー。シュハー。私に斬りかかってくるが良い。ゴフー。シュハー。ゴフー。シュハー。
腹にあいた風穴から流れ落ちる血のおびただしさ。3月の風はこんなにも冷たかったろうか。光がまぶしい。風の音もうるさい。俺は何をしようとしているのだ。誰だ、側でけたけた笑うのは。嗚呼、笑うがいいだろう。俺は自分で自分の負債を担っているだけなのだから。ただそれだけのことなのだ。
長く長く、何時までも生き続ける生物がいる。それは環境に適応したもの達だ。
あまり長くは生きない生物もいる。そう、例えば10週間ぐらいで死に至る者。いかにその姿が美しくあり、画期的な酵素を作り、斬新な行動様式を持っていたとしても、環境に適応できなければ10週間で死なねばならない。自然界では適応しない生物を生かしておく余裕がないのである。ドン、ドン、しゃからかー。
俺は革靴という奴がどうも好きになれない。と言うよりもむしろ革靴の方が俺を嫌っているようだ。その証拠にあいつは俺の近くに来るとすぐ噛みつく。だからめったに近づかないようにしているが、たまに近づかなきゃいけないときが来る。そんなときは悲惨だ。一日中憂鬱と不快を持続的に感じながら過ごすことになる。
そして、またそいつに近づかなければならないときが来る。いい加減噛みつくのが痛いので今度は親父の年老いた革靴を借りることにした。長く生きてるだけあって骨格がゆがんでいるところもあるが、あごはあまり丈夫でないようでそれほど噛みつかない。心配なのは白癬菌だけだ。
夕方、駅前、地震、画面揺れる、落ちてくる瓦礫、空を指さして騒ぐ群衆
台詞:「ぐわはははは、その程度の歌でこの儂を倒せると思ったか。おろかものめ。」
ナレーション:三度、厭世大魔王は甦った。突如寝返ったアコギブラックをピアノブルーが迎え撃つ。かつての仲間と争うことに難色を示すベースイエローは去り、襲いかかる厭世大魔王の手下、自虐仮面に立ち向かうのはヴォーカルレッド一人。タンバリンピンクの救援は間に合うのか。はたしてフォークレンジャーの運命やいかに!
テロップ:こうご期待!
時間が迫ってきている。手短にすまさなければ。しかしどうやって?時間はあまりにも短い。この手の中には何もない。どうしたらいい?神よ!もしこれがガスタンクに仕掛けられた時限爆弾で俺が一人残された解体師であったなら、全てをあきらめ赤か青かに賭けるのも良いだろう。しかしこの俺の立場と来たらどうだ?俺は何も失いはしないのだ。ただ生き恥をさらすのみだ。さあどうする。ここにあるのは救わなければならない命でも何でもない。ただ単に手段と目的が巧妙にすり替わった何かだ。強迫観念?は!強迫観念!まさか。そんなたいそうなものではないさ。これは明らかに『やらなくてもいいこと』だ。俺はこれを無視してもいいんだ。それは自由だ。例えばこれをあっという間に無意味なものにしてしまうことだってできるわけだ。そうさ、これをやることについては元々大した意味を見いだしてない。さあ、もうそろそろ時間だ。今日はやめておこう。……いや、待てよ。元々大した意味がないってんなら……。
§£¡©«¶¿ÆþŒ®Δ應€ ™ — ∈ √ ≠ ↓ ⊆ ∏ ∀.I ∃ ∴ I am.
彼女は前から言っていた。「こんな所で一生を終えるのは御免だ。」それはもっともだ。薄暗く寒い房の中、不衛生なトイレ、粗末な食事、寝苦しいベッド。想像してみるがいい。
彼女は脱走した。逃げたところで身寄りがあるわけでもない。食事にすらありつけるかどうか分からない。それでも逃げ出した。そこには自由がある。逃げている間だけ彼女は今までにない体験をすることができるのだった。あの狭い房の中では体験し得ない何かを。
彼女は、新しい世界にでたと思っていた。今までにない世界。そこに無限の自由が広がっていると、そう信じていた。数時間後、彼女は壁に突き当たった。彼女は壁づたいに歩いて回っただろう。ところがそこは四方を囲まれている。「これは巨大な落とし穴か?」それから数十分後、異常に気づいた看守が駆けつけ、立ち往生していた彼女を捕まえた。
看守はまた彼女を独房に放り込んだ。彼女はけろりとした顔で材料の不明な食事を食べた。看守は一息ついたが、彼女はチャンスさえあればまた逃げ出すだろう。それだけが、気が狂うほどつまらない生活に潤いを与えているのだとすれば。