宇実お姉ちゃん達が小さい頃は、お雛様を飾る時にはいつも
一緒に飾り付けをしていたらしい。
今はお嫁に行っちゃったから、ままは寂しくて「ハッピー、一緒にままと
飾ろうね」って、お座敷に連れて行かれた。
いつもは入ってはいけない場所だ。
しかし、落ち着かないな。
お出かけバッグをままは一緒に持って来てくれたけど、まだそれでも
落ち着かない。
「ハッピー、どうしたの?じゃあねえ、オルゴールをかけようねえ。
お雛さんの曲よ〜♪」とままは雛ケースの横に付いている何やら
飛び出たものを回し始めた。
ゴリゴリゴリと回す音がする。
そして、回し始めた途端にきれいな音楽が流れてきた。
面白ーい!箱から音が出るなんて。。。
そうかあ、オルゴールなんだね。
「灯りをつけましょう雪洞に〜♪」
楽しい曲だね。
僕は口ずさんでいるままのお顔をじーっと見た。
でも、なんだかままのお顔は寂しそうだ。
どうしてなの?まま?
楽しい曲なのに何故しょんぼりした目をしているの?
ままは、お姉ちゃん達が小さい頃のことを思い出したらしい。
ちょっと泪目になっている。
もおー、ままは泣き虫なんだからー
まま、元気を出してよ!
僕は落ち着いてられないなんてことは忘れて、ままの様子を観察した。
お座敷に入っても、必ずお出かけバッグから出てはいけないんだ。
だから、ちょっと首を傾げないとダメ。
あまり、僕が覗き見するもんだから、ままはハタと気が付き、
「なーに?ハッピー」なんてとぼけて聞いてきた。
まま!僕は分ってるよ。
去年も実はそうだった。
お雛様の道具箱の中には下のお姉ちゃんが小学校4年生の時に落書き
した、ままの似顔絵が描かれた紙切れが入ってるんだ。
お姉ちゃんたちは二人とも絵が好きだった。
平成17年の3月3日の木曜日。
うん?なんだか酸っぱい匂いがするぞー
僕はあまり酸っぱいのは好きじゃない。
だから、すぐ分る。
ままがお仕事で忙しいので、お家でお仕事をしているパパは
ままの代わりにどうやら、ひな寿司を作っているようだ。
そうだよ。今日はまま曰く楽しいひな祭りだそうだ。
僕は男の子だからね、あまり関係ないんだけどさ。
って思ってたら・・・
なんと、僕はまたまた去年と同じように、お座敷に飾ってあるお雛様の
前で、お座りをさせられ、写真を撮られてしまった。
ままがお雛様を飾ってる間、よく二人でお絵かきをしていたそうだ。
いつの間にその絵が箱の中に入っていたのか、毎年ままは大事に
記念になるからって、小学4年生真○実と書かれたその端切れを
しまっていた。
下のお姉ちゃんが天国に行ってからも、捨てきれずにいる。
だから、毎年お雛様の箱を開けると、その絵を眺めることになる。
そして、いつも涙ぐむ。
分るよ、僕・・・
だから、まま、元気を出して!
しばらくして、ままは立ち直った。
そして、僕の顔を見て、にっこりした。
もう、大丈夫だね、まま。
もう泣かないよね、まま。
「ハッピー、オルゴール好き?良かったわねえー」って、とっくに
止まっていたオルゴールをまたままはゴリゴリやり始めた。
その後、可愛いお雛様の前で、僕は何枚もパチパチ写真を
撮られたけれどどうも調子が出ない。
ねっ、変でしょう?
まあ、仕方ないよね。
だって、僕は男なのだぞー!
でもね、お姉ちゃんの代わりだから、と僕は必死でいいお顔を一応
作ろうとしたんだよ。これでもね。
まあー、仕方ないかあー
僕は男だぞー!