サンスカッティマリー物語

●地球温暖化による大災害が多発

地球温暖化による災害が多発 20世紀に始まった地球温暖化は、21世紀の後半には人類史上例を見ない暴風雨、大洪水、低い土地の水没、食糧不足などの深刻な災害をもたらし始め、西暦2280年ごろには世界の人口が半減するという悲惨な状況をもたらしていた。2264年に、全世界で化石燃料の使用を禁止する国際条約が結ばれ、以降は自然エネルギーや原子力、バイオエタノール、新たに開発された「ネオエタノール」などが利用されるようになり、CO2の排出量は減ったが、深刻な災害は26世紀まで続いた。27世紀に入っても、バイオエタノールやネオエタノールが出すCO2の問題、核廃棄物の処分の問題、エネルギー不足や食糧不足など、深刻な問題は解消できていなかった。このころの地球の平均気温は20世紀と比べて約14℃も上昇し、人口も1/4にまで減るという壊滅的な状況に陥っていた。

●世界を方向転換させたスカッティマリー・シュナイダー

29世紀に入り、EU環境省の総合次官スカッティマリー・シュナイダーが、EU国内(EUは2176年にひとつの国に統合された)におけるアルコール系燃料の使用禁止と原子力発電所の撤廃、代わりに自然エネルギーとHOエネルギー(水素と酸素の化学反応によって得られるエネルギー)の推進を提案、程なく法律化され、2850年ごろにはEUにおけるCO2排出量を激減させる結果となった。この動きはまもなく世界中に広がり、地球全体のCO2排出量を大幅に減らしただけでなく、2866年には原子力発電所がついに地球上から姿を消すこととなった。

●古きものから学んだ新時代の哲学「地球の思想」

一方、中国では人間の精神面についての研究が進んでおり、2770年ごろから複数の研究機関と大学が合同で「宗教の融合」という研究を始めていた。これは、世界各国の宗教の教えの中から、この時代に適するものを抽出、整理して一つにまとめ、人類にとって極めて有益な哲学を生み出そうとする試みであった。この研究の結果は2827年に「地球の思想」という論文にまとめられ、世界中で読まれることとなった。この論文は、思想を実践することを重んじ、信仰することを否定していたため、保守的な宗教関係者は批判的な反応を示したが、それ以外の人々の中には共感する人も多く、中には「現代の聖書だ」という人もいた。

スカッティマリーもこの「地球の思想」に影響を受けた一人で、EU環境省における彼女の精力的な取り組みは、この思想が訴える「経済を重視するのではなく、一人一人の人間を重視せよ」という考え方の実践に他ならなかった。スカッティマリーは、さらに自身の経験により学んだ「自然は絶対的なものであり、侵してはならない」という考えを「地球の思想」に加味して、さらに優れた思想に発展させようとしていた。

●人間自然主義を基に「サンスカッティマリー国」誕生

彼女が環境省を退官した後、2872年に発表した論文「人間自然主義」は、世界中のさまざまな人々に大きな影響を与えた。次第に世界各国で人間自然主義を掲げる政党が生まれ、徐々に人々の支持を伸ばしていったが、いずれの国でも政権を獲得するには至らなかった。そのような中、2908年にフレンドルという人物が、前年に亡くなったスカッティマリーの遺志を継ぐべく、人間自然主義に基づく国「サンスカッティマリー国」の建国を世界中に呼びかけ、賛同した人々がドイツ南部に集まり始めた。2915年には人口10万人を超え、EU政府に独立を要請。翌年、独立が認められ「サンスカッティマリー国」が誕生した。

●「宇宙時代」の到来 2950年のヨーロッパ

サンスカッティマリー政府は2924年に、銀河系に属する惑星「ダンマニーパ」(Dhammanipa)の人々と協力関係にあることを突然発表。地球上では2700年代に入ってから世界のあちこちでUFOや宇宙人が頻繁に目撃されるようになっていたため、他の国々の人々も意外と冷静に受け止めたが、「でっち上げだ」と言ってまったく信じない人たちもたくさんいた。しかし、ダンマニーパ星との技術協力によって生まれたという“発光する植物”や“反重力飛行機”、“壁のない建物”などを次々と開発、実用化したため、他の国々の人々も次第にダンマニーパ星の存在を信じるようになっていった。こうしたことにより、サンスカッティマリー国は急激に人口と国土を増やし、2950年ごろには ヨーロッパの半分を占めるようになっていた。また、中国やアメリカなどでも、サンスカッティマリーのような地域を作ろうという動きが出てきて、こちらも急激にその範囲を広げていった。

●ダンマニーパ星からのメッセージ

2972年に、ダンマニーパ星の使節団が地球人に向けたメッセージを発表。その内容は次のようなものであった。
「今年は『人間自然主義』が誕生してちょうど100年目にあたります。人間自然主義は、銀河系の他の惑星の人々から見ても、とてもすばらしい思想です。私たちは、この思想が地球の全土、すべての人に行き渡ってほしいと願っています。現在、銀河系C2惑星ネットワークでは、地球が現在のカテゴリー1からカテゴリー2へとステップアップするのかどうか強い関心を持って見ているところです。地球がカテゴリー2へとステップアップするには、人間自然主義が地球上の80%以上の地域に浸透することが絶対の条件です。それが実現することによって、いずれ地球上から“自然破壊”と“経済中心主義”がなくなると同時に、すべての人が高い道徳心を持つようになるでしょう。私たちは、地球がカテゴリー2へとステップアップし、銀河系C2惑星ネットワークに参加するようになることを心より願っているのです。私たちは、友好の証として、地球のみなさんにプレゼントを用意しています。近いうちにサンスカッティマリー国の担当部署を通じて、世界各国へと贈られるでしょう。」

この後、サンスカッティマリーから世界各国に向けて約1万台の「病原体除去装置」と呼ばれる医療機器が寄贈された。これは、正確に制御された電磁波を発生させることによって、人体に有害な病原菌やウイルスを死滅させる装置で、この処置を定期的に受け、普段から健康的な生活をしていた人は、ほとんど病気にかからず、長い人で250才まで生きる人も出てきた。

●地球がカテゴリー2の惑星に進化

こうした一連の出来事を受けて、世界各国では「私たちの国もサンスカッティマリーに統合されるべきだ」、「この国も人間自然主義国家になるべきだ」といった意見を持つ人が爆発的に増え、わずか20年間で地球の半分以上の地域が人間自然主義国家に属するようになった。しかし、地球温暖化によって引き起こされた災害の影響で、地球上にはまだ劣悪な環境におかれた国々もたくさんあり、人間自然主義が80%以上の地域に浸透するには約100年の歳月が必要だった。

3088年に、ダンマニーパ星の代表者が次のようなメッセージを発表した。
「おめでとうございます! 今年、地球上の80%以上の地域に人間自然主義が広がり、地球がカテゴリー2の惑星になったことが、高次の惑星の代表者会議によって正式に認められました。私たちを含むC2惑星ネットワークに属する惑星では、みんな地球のネットワークへの参加を心待ちにしています。」

●他惑星との交流で始まった大変革の時代

その後の地球では国際会議が度々開かれ、3091年に「銀河系C2惑星ネットワーク」への参加を正式に表明した。ネットワーク参加後は、ダンマニーパ星はもとより、その他の惑星との交流も行われた。さまざまな文化や技術が輸入され、政治や行政のしくみも根本から変えるなど、地球は大きな変革の時代を迎えた。コンクリートやアスファルトなどは取り払われ、新たに開発された新建材などを利用して、自然と調和した街づくりが進められた。劣悪な環境におかれていた国々も、それほど長い歳月をかけずに改善、発展を遂げた。

食文化も大きく変化した。動物の肉や魚介類は、それらとほぼ同じものを人工的に(自然と調和した方法で)生産できるようになったのである。これにより、動物や魚などを殺すことはほぼ行われなくなった。(農業や酪農は続けられた。)また、経済中心主義が終わったことと、ほとんどの人が高い道徳心を持っていたことで、お金の存在意義が次第に薄れ、3259年、ついに貨幣制度は地球上から姿を消した。

●サンスカッティマリーが世界統一国家に サンスカッティマリーの風景

C2惑星ネットワークに参加した当時の地球には、まだ87の国々が存在していたが、他の惑星との交流や、交通、通信手段の劇的な発達などの影響で、次第に、国境を取り払って世界をひとつの国に統合しようという動きが出てきた。この流れに乗って、サンスカッティマリー国は次々と他の国を吸収し、国土を拡大し続けた。そして、3400年、それまでに残っていたブルネイと中央アメリカ連邦(2440年に海面の上昇によって小アンチル諸島が水没したことをきっかけに、周辺島国とキューバ、ドミニカなどが「中央アメリカ連邦」という一つの国にまとまっていた)も、サンスカッティマリー国への統合を承諾、ついに地球の全土がサンスカッティマリーという一つの国に統一された。

3450年、世界統一50周年記念行事に参加するため、C2惑星ネットワークに属する「リオクリウス星」の使節団がジュネーブに到着。その中でひときわ美しく上品で落ち着いた人が、歓迎式典で次のように挨拶した。

「地球のみなさん、こんにちは。私はスカッティマリーと申します。私のアストラル体は、以前、この地球に住んでおりました。再びこの地球に来ることができて、とても懐かしく、言葉で言い表せないくらい感動しています。また、この地球の統一国家の名前に、私の名前が使われていることが、本当にうれしく、ありがたく思っております…」

と、目に涙を浮かべながら語った。

 

◆この物語はフィクションです。

 


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