球磨焼酎のふるさと
人吉球磨地方
雲海をまとった九州山地の奥深く、そっと守られるように広がる緑豊かな盆地、人吉・球磨地方。
その中央を日本三大急流のひとつの球磨川が貫いているこの地は、鎌倉時代から明治維新まで代々700年もの間、この地は相良(さがら)藩によって治められてきた隠れ里でした。
江戸時代、幕府の役人が巡検を行う際、霧の多く発生する秋に時期を指定し、険しい峡谷と奇岩怪岩の急流球磨川を遡らせ「これから先はなにもありません」と追い返した、という昔話もあるこの地は、表高こそ二万二千石ながら実高、十万石以上だったとも云われており、弥生時代から肥沃な米の産地でした。
この恵まれた環境の中で、あえて日本人の主食である米を原料とした贅沢なお酒が育まれたのです。朝霧の人吉城跡人吉球磨盆地の日の出
球磨焼酎の歴史
室町時代
16世紀の前半、球磨や薩摩で焼酎作りが始まる。
1546年、ポルトガル商人ジョルジュ・アルヴァレスが揖宿郡山川町に滞在してフランシスコザビエルに報告した「日本報告」の中で「飲み物として、米から作るオラーカおよび身分の上下を問わず皆が飲むものがある」(オラーカとはアラック、焼酎のこと)九州で最古の焼酎に関する記録として残る。
1559年、当時相良藩が治めていた鹿児島県大口の郡山八幡神社から見つかった落書きの中「施主がケチで、工事の間一度の焼酎を飲ませてくれなかった。何とも迷惑である」とある。この二つはいずれも鹿児島における記録であるが16世紀の中頃、鹿児島県及び球磨地方では、相良氏の勢力の元、焼酎(主に米焼酎)が飲まれ、誰でも飲めるものではなく大変貴重なものであったという事がわかる。
安土桃山時代
1592〜1598年 文禄・慶長の役。豊臣秀吉に従軍した相良氏は約800人の相良藩兵を率い朝鮮で戦った。そして朝鮮人の捕虜数十人が球磨地方にも連れてこられ、今の別院前あたりから七日町あたりに唐人町を形成。焼酎を作る朝鮮人技術者がここに住み新たな蒸留技術を伝えたと云われる。
江戸時代
1657年 酒造株制度開始。焼酎醸造販売には「株」が必要であり(人吉城下)、城下以外には「入立茶屋」(現代の料亭のようなもの)という別の許可制が存在した。「入立茶屋」の許可を得るためには、藩に対し財政的貢献が必要であり、その貢献の度合いで期間の延長、永代、苗字を許される、といった段階があった。米焼酎の醸造販売が認められた蔵元は20軒のみで、農民は大麦などの雑穀の自家製焼酎を作った。当時も、米焼酎は大変貴重品であった。
1705年 鹿児島で甘藷栽培開始。(芋焼酎は1782年〜)
1804年 当時の相良藩当主からの拝命により初代萬屋次兵衛が焼酎作りを初める。
文化6年の帳簿
明治時代
1871(明治4)年 酒造株制度が廃止になり、届け出れば誰でも酒造可能となり,
約60軒郡立したといいます。
1875(明治8)年 「肥後国球磨郡村誌」では清酒製造量は焼酎の約1.3倍へ。
1898(明治31)年 焼酎等自家用酒製造、全面禁止となる。
1902(明治35)年頃〜 焼酎商売の本格的開始となり、蔵元毎に銘柄付き商品が
発売され始めます。
明治末期〜 兜釜式蒸留機から蒸気吹き込み式蒸留機への移行へ。
大正時代
1913(大正2)年頃〜 原料が玄米から白米へと代わり、2次仕込み法の導入へ。
生産効率の向上と、出荷量の増大に拍車がかかりました。
1923(大正 12)年 製造業者53 製造数量1723kL
昭和時代
1940(昭和15)年頃〜 技術革新が進み、黒麹菌を使用(それまでは黄麹菌)
1945(昭和 20)年〜 5年間の米不足により公式には米焼酎製造不可となり
芋・麦焼酎製造を余儀なくされる。
(戦後の物資の足りない時期であった)
1950(昭和 25)年頃〜 白麹菌の使用へ(昭和45年以後ほぼ100%白麹菌に)
1972(昭和 47)年頃〜 飲みやすく口当たりまろやかとなる事から
減圧蒸留機の導入開始へ。
平成時代
1995(平成7)年 国税庁により「球磨焼酎」として「地理的表示指定」を受ける。 (球磨焼酎の定義を満たすものは世界的に保護する、というもので、 ウイスキーのスコチ、ブランデーのコニャック、ワインのボルドーと同様である)
球磨焼酎の定義
球磨焼酎の楽しみ方
「ストレート」
焼酎そのものの味わいを感じ楽しめる飲み方です。
「オンザロック」
グラスに氷を入れ、その上から焼酎をゆっくりそそぎます。焼酎がマイルドで爽やかな味わいになります。
「水割り」
焼酎の持つ香りと風味を水の量を調整して楽しむ飲み方です。
できれば軟水をグラスにいれ、焼酎を上から注ぎます。水と焼酎の割合はお好みに水の量を調整しましょう。いろいろな種類の水でお好みの味わいを探してみては…?
又、あらかじめお好みの割合でまぜ、1日〜2日寝かせる事で、よく混じり合い格段においしくなります。(寝かせる期間により味わいも変わります。)
「お湯割り」
酒器に最初にお湯を入れてから焼酎を入れる事で酒器の中で対流が起こり、程よくブレンドされます。使用するお湯は60〜70℃ぐらいがおすすめ。地元では一番ポピュラーな味わい方です。
「熱燗・直燗」
立ち上がる香りとまろやかさを楽しむ
ストレートの焼酎、又は、あらかじめ水割りしている焼酎を湯煎(熱燗)、陶器など(ガラなど)にいれて直火にかけてください。(直燗)焼酎の組織を壊さず甘みやまろやかさを楽しめます。(加熱しすぎると風味、香りが飛んでしまうので注意。)