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「みずほ流」点訳入門教室

4.アルファベット



アルファベット(『てびき』p27〜31)

日本文の中に出てくるアルファベットも、数字と同じように、ここからアルファベットになりますよ、という記号をつけることによってモードを変えて表します。(全体が外国語のときは、モードを変える記号は不要です)
6点入力の場合は、自力で記号を付けてください。
モードを変える記号は2種類あって、ひとつは、アルファベットを字として書く場合に使う「外字符」。
もうひとつは、言葉として書く場合に使う「外国語引用符」です。
外字符は前置記号、外国語引用符(略して外引符)は囲み記号です。
ローマ字入力のときは、ファンクション10で英数モードにして打つと、外字符は自動的に付いてきます。
けれども、外引符は自分で付けないとなりません。
「入力」をクリックし、さらに「記号」をクリックすると、記号の一覧表が出てきますから、その中から外国語引用符を選んでください。
これらの記号のあと、あるいは間に、アルファベットを打っていくわけですね。
でもそうすると、外引符と外字符がだぶってしまうので、外字符の方を手動で消します。

AからZまでの点字を、AからJ、KからT、UからZ、というふうに見ていただければ、その法則性がおわかりになるでしょうか。
整然とした並びをひとりで乱しているのが、Wですね。
Wを無視して考えれば、全てがうまくいくのに・・・。
実は、ルイ・ブライユがフランスで点字を考えていた頃のフランス語には、Wという字はなかったんだそうです。
フランス文学をやっていた友だちに、「昔のフランス語ってWがなかったんだって?」と聞いたら、「そうよ、手で書いたら、WもMも一緒じゃない」と、いとも簡単に言われてしまいましたが、ほんとにそんなことなんでしょうかねえ?
いずれにしても、のちになって新たにWを加えたので、まさに取って付けたようになっているんですね。
アルファベットと数字の並びについても、お気付きですね。
アルファベットも数字も、輸入したものをそのまま使っているので、外国でも一緒です。
仮名は、日本特有の字なので、それを表すためには、ひとひねりもふたひねりも苦労があったようです。
日本の点字では、何もことわりがなければ仮名である、ということになっていますから、それ以外のモードにするには、記号が要るわけですね。

アルファベットを字として書く、という意味は、たとえば、「少女A」「三角形ABC」「AB型」などという場合、あるいは、「Yシャツ」「T字路」「Uターン」など字の形を問題にしている場合、「YMCA」「PTA」「ODA」などの略称の場合です。
それに対して、言葉として書く、というのは、単語であれ文であれ、意味を持つ言葉であればいいのです。
ですから、記号の名前は「外国語引用符」となっていますが、実はアルファベット表記の日本語でもいいわけです。
そして、「2年I組」は外字符で打ちますが、「Iという英語に相当する日本語は、我、私、僕、俺、おいら、儂、手前、小生、拙者・・・いろいろある」というときの「I」は単語ですから外引符で打ちます。

大文字を表すにはその字の直前に大文字符を打ちます。
ひと続きになっている字をすべて大文字にするには二重大文字符(大文字符を二つ続ける)を前置します。
マスあけがあれば、二重大文字符の効力は消滅します。
これは、外字符の場合も外引符の場合も同じです。

外字符自体も、マスあけによって効力が切れます。
仮名には前置記号がありませんから、アルファベットから仮名に戻るときは、原則として1マスあけて、外字符の効力を切ってやります。
ただ、仮名ではなく、読点・句点・カギ閉じ・カッコ閉じなどの記号が外字に続くときは、マスをあけません。
外引符の場合は囲み記号なので、開き記号から閉じ記号までが外国語だとわかり、その中にマスあけがあっても効力が切れることはありません。(外引符の中は、原語の区切りどおりにマスをあけます)
でも、閉じ記号は仮名の「ん」と同じですから、誤読の可能性を避けるために、仮名に戻るときは、やはり1マスあけます。
但し、本来ひと続きで書くべき1語、たとえば、「B組」「O嬢」「Academy賞」などは、切ってしまうと意味が取りにくくなるので、ツナギ符を挟みます。
数字のあとのア・ラ行の仮名と同じ扱いですね。
数字はア・ラ行以外の仮名とは区別がつくので、ツナギ符を使う場面は少なかったのですが、アルファベットは、みんな仮名と同じ形なので、マスあけせずに仮名を続ける場合は必ずツナギ符が必要です。

それでは、練習問題を打ってみませんか。
例によって、■はマスあけの印ですが、アルファベットであるがゆえにあとの仮名との間に必要になってくるマスあけと、外引符内のマスあけについては■をつけませんので、ご自分で必要と思われるところに入れてください。
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  練習問題 7
 1.■IT■革命
 2.■1970年の■EXPO
 3.■GDPに■占める■原油■輸入の■比率
 4.■M■選手は、■身長■184cm、■体重■76kg。
 5.■水■400ccに■砂糖■50gを■加えて■煮立たせる。
 6.■Micronesiaと■Polynesiaと■Melanesiaの■位置■関係が■よく■わからない。
 7.■試合■終了を■意味■する■game setと■いう■言葉は、■和製■英語らしい。
 8.■CATVと■いうのは、■cable televisionの■略です。
 9.■N市の■市民■オーケストラが■F■先生の■指揮で、■Alhambraの■思い出、■O Mio Babbino Caroなど■13曲を■演奏■するそうです。
 10.■当社は、■New Yorkと■Hong kong、■国内では■Tokyoと■Osakaに■店が■あり、■2、3年の■うちに■Singaporeと■Los Angelesにも■出店■する■予定です。
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<練習問題7>について

 1.の「IT」、2.の「EXPO」、3.の「GDP」、8.の「CATV」の前には二重大文字符が必要です。
 4.の「M選手」のMの前、9.の「N市」「F先生」の前には、大文字符はひとつでいいですね。
アルファベットが1文字しかないからです。
確かに、ひと続きのアルファベット全部を大文字にするときつけるのが二重大文字符ですから、全部がたまたま1文字であった、と言えば言えるのですが、大文字符ひとつで足りるので、敢えてふたつ付ける必要はありません。
Mと選手の間、Fと先生の間にはツナギ符は入れず、マスあけです。
ツナギ符が必要なのは、切るわけにいかない言葉の場合で、「選手」「先生」という言葉は、それだけ独りで置いてあっても意味が通じますから、ここは切るだけでいいのです。
それに対して「N市」の「市」は、独りで置くにはちょっと短すぎるので、Nのあとにはツナギ符が必要なんですね。(この辺のことについては、また後日詳しく)
 3.の「GDP」のあと、5.の「cc」「g」のあと、8.の「CATV」のあとは、アルファベットから仮名へ切り換えなければならないので、1マスあけます。
 4.の「184cm」「76kg」、5.の「400cc」「50g」は、数字とアルファベットが続きますね。「数符184外字符cm」とひと続きに打ちます。数字やアルファベットには、前置記号があるので、モードが変わることがわかります。仮名はそれがないのでマスあけが必要になってくるんですね。
 6.や10.の「Micronesia」「New York」などの地名、7.の「game set」、8.の「cable television」、9.の「Alhambra」や「O Mio Babbino Caro」は、イニシャルや字の名前ではなく、言葉です。
よって、外字符ではなく、外国語引用符を使わなければなりません。
外国語引用符を閉じたあとは1マスあけます。
 10.の「2、3年」は、およその数の書き方ですね。

 実は、4.の「184cm」「76kg」、5.の「50g」など、普通の文章中では外字符を使わず、「センチ」「キロ」「グラム」と仮名で打つことも多いのです。
その方が読みやすいからです。
でも、ここはアルファベットの練習なので、一応アルファベットで打ってください。
「センチメートル」「キログラム」が正式ですが、普通にはそこまで言いませんね。「体重」と言っているのだから「km」や「kl」でないことはわかります。
「cc」の場合は、なぜか、墨字で「シーシー」と表記することはまずありませんので、いつもアルファベットで打つようです。

ちょっと面倒でしたか?
少し慣れれば大丈夫です。
アルファベットは、漢字などと違って、点訳者が読みで悩むことはありませんから、その分、気が楽ですね。


大文字符

アルファベットの大文字を表すときに用いる大文字符。
晴眼者には「A」と「a」の違いは明白ですから、同じ言葉でも、大文字で書いてあるか、小文字で書いてあるかで、ずいぶんと印象が違います。
でも、点字では、大文字で表したい文字の前に大文字符が前置されるだけで、「A」も「a」も、1の点であることにはかわりありません。
このことで、以前興味深い経験をしました。

電機メーカーの「SONY」、この会社の社名のロゴは全部大文字です。
「TOSHIBA」、「SHARP」も大文字で、電気メーカーの社名は全部を大文字にするのが多いな、と思ったのですが、やはり例外もあって、「National」は、大文字は頭文字だけです。
さて、これらを点字にするさい、ある視覚障害者は、大文字符をつけても、記号が増えるだけで、点字そのものは変わらないのだから、いちいち大文字符をつけなくてもいい、と言いました。
全部が大文字だったりすると、二重大文字符ということになりますから、わずらわしいというのです。
また、あるひとは、たとえ点字では変わらなくても、実際の各メーカーがどんな形のロゴを社名に使っているか、想像する手がかりになるので、やはり大文字符をつけてほしい、と言いました。

私たちが、墨字の文章を読んでいて、あまり重要な意味があるとも思えない記号がやたらと出てきたら、ちょっと面倒になりますよね。
記号が増えることを嫌う点字ユーザーがいても不思議ではありません。
だから、大文字符は要らない、という人の気持もわかるのですが、特定の人からの依頼があって、「大文字符はつけなくてもいい」とでも言われないかぎり、やはり原本が大文字で書かれていたら、その文字には大文字符をつけるべきだと思います。

こんなとき、さまざまな前置記号を駆使して異なる体系の文字や、異なる形の文字を区別しなければならない点字を、読みこなすことの難しさ、たいへんさ、が、ほんの少し、理解できるような気がします。
なにしろ、空白マスを含めて64通りしかない点の組み合わせで、仮名・数字・アルファベット・その他の記号を網羅しようというのですから。
前置記号がなければ、1の点は仮名の「あ」、数符がついていれば「1」、外字符、または外国語引用符が使われていれば、「a」で、さらに大文字符があれば、「A」・・・これを瞬時に読み分ける技術というのは、たいしたものだと思いますね(熟練の点字ユーザーにとっては、どうということもないのかもしれませんが)。
機械的に原本を点字に置き換えるのではなく、ちょっと、そんなことも考えて点訳してみると、見慣れない前置記号にも親しみが湧くと思います(湧くといいな)。


ローマ数字(『てびき』p27)

『てびき』では、ローマ数字の書き方を、数字の項目に入れています。
数字なので当然ですが、実は、点字での打ち方を説明するには、アルファベットをやってからの方が簡単です。
ローマ数字の1ならアルファベット大文字の「I」、2なら「I」をふたつ続ければいい、5なら大文字の「V」でいいわけです。
17なら、「外字符二重大文字符XVII」です。
これでおしまいです。

実際には、ローマ数字の使用頻度はそう高くありません。
墨字でも、やたらに出てくるものではありませんが、点字では、普通のアラビア数字で間に合うところはそれに変えてしまうことがしばしばありますから、墨字以上に稀にしか使いません。
たとえば、「まちおこしシンポジウム・パートII」というような場合、必ずしも「II」である必要はなく、どちらかというと目で見たときのかっこよさを狙った感もありますね。(そもそも、「第2部」と言えばいい、という説もありますが、それはさておき・・・)
これは、「パート2」の方が、数字だということがすぐにわかって読みやすいだろうと思います。
どうしてもローマ数字でなければいけない場合も、もちろんあります。
大きな見出しから小さな見出しまで何種類もあって、段階によってI II III・・・、123・・・、ABC・・・、abc・・・、あいう・・・、アイウ・・・、といろんな記号を付け分けてあるようなときですね。
こんなときに勝手にTを1に変えたりしたら大変です。
どんな場合にどういうことを優先するのがいいのか・・・、読みやすい点訳物を作るには、機械的にはいかないこともありますね。






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