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「みずほ流」点訳入門教室

20.書き方の形式−1



書き方の形式(『てびき』p93〜)−1

点字は、いろいろ制約があります。
墨字で書くように、どんな文字も、どんな記号も、どんなレイアウトも自由に使える、というわけにはいきません。
それは主に、視覚による読み取りと触覚による読み取りの違いからくるものです。
それでも、ここまでこの「教室」にお付き合いくださった方には、点字の書き方には、きちんと決まっている部分と、そうでない部分――点訳者の裁量に任されている部分があるらしい、ということがおわかりでしょう。
「書き方の形式」についても、はずしてはいけないルールと、この範囲であればご自由に、という領域があります。
それでは、まず、基本的なルールの部分から・・・。
でもこれは、多分もうご存じのことばかりですから、復習のおつもりで。

 その1 本文の書き方(『てびき』p93〜99)
●行頭
文の頭、墨字では1字下げて始めるところは、点字では2マス下げて、3マス目から打ち始めます。
ただ、墨字の場合、なにしろ書き方は自由なので、全てのものが学校で習ったように、文の頭を1字下げて始めているとは限りません。
そういうものを点訳する場合でも、できれば文の頭、段落の始めは、2マス下げた方がいいでしょう。
何度も言うように、目で見る場合には、1ページ全部が視野に入るのに対して、指で読む場合には、1度に入ってくる範囲はかなり狭いのです。
ですから、そのページの中で、段落の区切りを探すのは、目で見るほど簡単ではありません。
墨字では、ひとつの段落の中では、会話などがない限り、行の終わりも揃っています。
行末まで字が詰まっていないところを探すことによっても、段落の区切りを見つけることができます。
点字では、それができませんね。
点字は、原則として語の区切りのところでしか行を移さないので、行末は決して揃いません。
行末を見て判断できないので、せめて、段落の始めは2マス下げておいた方がいいと思います。
2マス下がっていれば、行頭を縦に触っていけば探せます。

墨字では、会話などのカギ括弧をどこから始めるかは、3種類ほど考えられます。
1.行頭から書いてあるもの――カギや丸括弧は、活字でいうと正味半角、1字分の真ん中あたりから始まる記号なんですね。
そのため、行頭から書いてあっても、見た目には少し下がっているように見えるので、敢えて1字下げなくてもいい、と考えて、行頭から書いてしまうことがあります。
2.1字分下げて書いてあるもの――いや、それでもちゃんと1字分下げる、という方針もあります。
3.半角下げて書いてあるもの――1字分下げると、見た目には1.5字分下がっているように見え、下がり過ぎの印象を与えるので、0.5字分下げて、1字分下がっている感じを出そう、というやり方もあります。
原本がこれらのどれであっても、点字では2マス下げて始めた方がいいでしょう。

会話などのあと、「と」などの助詞が次の行の頭に書かれますが、行頭から書いてあるものと、1字分下げて書いてあるものとがあります。
書き手や編集者の趣味によりますね。
 「そうなの?」
と聞きました。
 「そうなの?」
 と聞きました。
という違いです。
それは、原則として、原本どおりに、行頭からのものは行頭から、1字下げのものは2マス下げで打ってください。

●行移し
行を移すのは、パソコンの場合、ソフトが自動的にやってくれるので、何も考えずに済んでしまいます。
でも、それが却って落とし穴、ということもあるので、ご注意ください。
前に出てきた段落挿入符のようにマスあけを含んだ記号では、記号の途中で行替えされてしまって読めなくなりますし、メールアドレスを打つときなど、機械任せにしていると打てません。
手動で調整してください。

普通は、マスあけの箇所でしか行移しをしてはいけないのですが、例外があります。
点字ではなるべくひと続きに書く言葉を短くしているのですが、それでもなんだかとても長くなってしまうこともあるのです。
そんなとき、それが行末に入り切らないからといって、全部次行に移すと、前行末がずいぶん長くあいてしまいます。
それは、紙がもったいないだけでなく、あれ? これでもう終わり? という感じがして、ちょっと読みにくい場合もあるようです。
そこで、『てびき』p94にあるように、
1.続けて打つべき括弧や点訳者挿入符の前、また、範囲を表す波線の後ろ
2.続けて打つべき助詞(「ワ」を除く)や、「だ」「です」「ようだ」「ごとし」「らしい」「みたいだ」、伝聞の「そうだ」の前
3.長い単位(立方センチメートルなど)の前
4.長い外来語・動植物名などのツナギ符の後ろ(第1カギの中にある場合を除く)
で切って、行移しをしてもいいことになっています。
けれどもこれは、点字図書館やグループによって、どれを採用しているかはまちまちですから、よくお確かめください。

因みに、「みずほ点訳」では、1.だけ採用しています。
ひとつは、「彼の出身地はアルバカーキ(ニューメキシコ州)で」というときに、(ニューメキシコ州)はアルバカーキの説明なので、ほんとはひと続きで打つはずですが、それでは行末に入り切れない場合、「アルバカーキ」までを前行に、括弧からを次行に打ちます。
なお、前の語句を直接に説明している点訳者注の場合は、説明される語と説明とを切りたくないので、多くの場合、原則どおり前の語から行移ししています。
「ニホンヨミダト■シャンハイノ■チカクノ■コーシュー点訳者挿入符コーワ■クイ点訳者挿入符モ、■ホンコンノ■チカクノ■コーシュー点訳者挿入符コーワ■ヒロイ点訳者挿入符モ、■オナジ■オトデ」というようなときです。
説明の括弧の場合でも、説明される語が1〜2マスの短い語だったり、前の語句と説明との結びつきが非常に強力である場合、前の語から行移しすることもあります。
それから、文中注記符とそれが付く語句との間は切りません。
もうひとつ、「1966年〜1989年までの」というとき、入り切らなければ、「数符1966ネン....」までを前行に、「数符1989ネンマデノ」から次行に打ちます。
範囲を表す波線の後ろです。
波線の前で切ることは、例外規定にもありません。

「みずほ」ではこんな具合ですが、もちろん、これらの例外規定を採用していないグループもありますので、くれぐれも所属グループの方針を確認してください。
まだどこにも所属していない方は、こういうことがある、というふうにご承知おきください。
ただ、点訳を始めて日の浅い方には、2.はあまりお勧めできません。
分かち書きの混乱に繋がる可能性があるからです。
また、2.では、「ワ」だけでなく、助詞の「ヲ」も行頭に持ってきてほしくない、という声も聞きます。
上段の点を含まない字は、咄嗟に読み取りにくい、ということでしょう。
これらの例外的な行移しも自動的にはできないので、自力でやってください。

●行あけ
原本が、段落の変わり目などで1行あいている場合、点訳書でも1行あけます。
前にも書いたように、原本では、空行に*や☆などが入れてある場合でも、点訳書では1行あけます。
その空行がページの最終行にきても、1行目にきても、かまわずあけます。
これは、文中の行あけの場合です。
見出しが変わる場合の行あけについては、扱いが違います。
それは、あとの「見出し」のところで説明しましょう。

●挿入文
引用文などが挿入されている場合、本文との違いが読者にわかるようにします。
原本で、挿入文の前後が1行ずつあいていればその通りに、その部分が全体に下げて書いてあれば2マス下げて、カギや棒線に挟まれていればその通りに打ちます。
原本が、字の大きさ・字体・平仮名とカタカナの別・字の色など、点字では表せない技で区別しているときは、上記の、点字でもできる方法に替えます。
まるまる段落ごと挿入されているときは、段落挿入符を使うこともできます。
いずれにしろ、原本に忠実にできればそのように、できない事情があれば適宜、ということです。

●2マスあけ
2マスあける必要があるのは、文頭、文末、小見出し符もつけない小さな見出しとその内容の間、見出しの中の「第1章」とか「1」「A」などとそれに続くタイトルの間、詩行符のあとなどの他、カギでくくった文が並ぶとき、マスあけを含む言葉が並列的に並ぶときなどです。
とにかく、1マスあけよりもっとあけたい、はっきり区切りたい、という場合です。
ですから、そうする必要がないと思えば、たとえ原本が1字分あいていても、2マスあけるには及びません。
原本が「住所氏名年齢を記入」でも「住所 氏名 年齢を記入」でも、点字では「ジューショ■シメイ■ネンレイヲ■キニュー」でいいでしょう。
けれども、「住所 氏名 年齢 電話番号 メールアドレス」だったら、「ジューショ■■シメイ■■ネンレイ■■デンワ■バンゴー■■メール■アドレス」がいいでしょう。
住所と氏名の関係と、電話と番号の関係は、ずいぶん違うからです。

詩や短歌などでは、原本の書き方はいろいろです。
1語1語区切って書いてあるものもあるし、上の句と下の句の間だけを切っているものもあり、全部続いているものもあります。
原本の表記は参考にはなりますが、それに惑わされないでください。
点字のマスあけとは違うこともありますし、上の句と下の句の間がいつも意味的に大きな切れ目、ということもありません。
たとえ上の句や下の句の途中であれ、はっきり文が切れていて、意味の理解をたすけるときには、2マスあけた方がいいと思います。
「朝帰り 妻と子どもは 里帰り」という川柳を、原本の1字あけを尊重して「アサガエリ■■ツマト■コドモワ■■サトガエリ」と打つか、全部等間隔に「アサガエリ■ツマト■コドモワ■サトガエリ」と打つか、あるいは「アサガエリ■■ツマト■コドモワ■サトガエリ」と打つか・・・どれがわかりやすいでしょうね?
この3つとも、決して間違っているわけではないのです。
1番目は、原本の表記を重視した点訳です。墨字でどう書いてあるか、を伝えています。
2番目は、原本の表記をそのまま点訳することが、この場合必ずしも内容の理解に役立つわけではない、という判断のもとに、書かれている字は伝えるけれど、内容は読者の解釈に任せる、という姿勢でしょう。
3番目は、(点訳者が考える)原本の意味を重視した点訳です。
私は3番目の打ち方をしたいのですが、それは点訳者の解釈が入り過ぎている、という意見もあるかもしれません。
うーん、難しいですね。

さて、練習問題ですが、ここまでくると、ここで説明したことのために、妙な文章を無理矢理でっち上げるのも難しくなってきました。
そこで、「みずほ点訳」のHPの『談話室』にある文章の中から、適当なものを選んで打ってみていただけるとありがたいです。
ほんとうは他のものでも何でもいいのですが、見せていただくときに、こちらも原本を持っている方が便利、という、ただそれだけの理由です。






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