裸に

いよいよ最大の難物、ボディの修理にかからねばならない。
幌を直したので、風雨をしのぐことだけはできるようになったのだが、いかんせん床板がメッシュかパンチングボードのような状態では、危なくて走らせることはできないのだ。走ってる足元から流れる地面が見えるなんて、考えただけで恐ろしいではないか。

-----ウチのジープ掲示板「VOJ Lover's BBS」より引用-----

[91]ボディに着手! - by おとうさん@大家族---2003/07/04/12:30

昨日から、いよいよ穴だらけのボディの修理に着手しました。
昨日は、まずはウインドシールドのホロ用ヒネリの左端、サビでヒネリが土台ごともげた部分の修理です。
穴の縁をきれいに切って、サビチェンジャー処理して、1mmの鉄板でパッチを作って、鉄のポップリベットで固定しました。で、ジンクリッチの防食塗装をして、新しいヒネリを植えました。強度は十分、メカメカしい仕上がりも味ですね。
で、もうひとつ、運転席下のツールボックスを外しました。
ツールボックスはスポット溶接と点付け溶接で付いています。スポットをドリルで削り、点付けのビードはサンダーで削って、鏨(タガネ)ではつってとりました。久しぶりに鏨なんか握ったもんで、左手の人差し指を2回ほど叩きました。まだ腫れてます。
外してみて、改めてびっくり、床は見事にメッシュになっています。
外して気づいたのですが、ジープの床板は、昔のナローボディの床板をそのまま使って、ワイドになった分を継ぎ足してあるのですね。その継ぎ目からも錆びていました。コストダウンの産物ですね。皆さんも一度下から床板をのぞいてみてください。笑っちゃいますよ。
床はかなりの面積を張りなおさないとならないようです。ツールボックスも前側の土台部分が長穴に抜けてしまっていますが、アングルを当てればすみそうです。ツールボックスは、スポットの数から見て、リベット止めにしても本数を少し増やせば大丈夫のようです。
ドアの下の側板も、床との継ぎ目や補強材の裏がサビまくっていますので、大きく切って張りなおしですね。結構な大手術になりそうです。リベットだらけで飛行機みたいになってしまうかも。

-----引用ここまで-----

さて、ボディの修理に当たり、近所の金物屋系ホームセンターに頼んで、1mm厚でサブロクサイズ(90cm×180cm)の鉄板と、鉄のブラインドリベット(片側から専用工具で引き絞ることで固定するリベットで、ポップリベットなどとも呼ばれる)の4-2サイズの1000本箱入りを調達した。4-2とは、直径が4/32インチで約3.2mm、締め付け可能板厚が最大2/16インチで約3.2mmという意味だ。通常どこのホームセンターにも置いているブラインドリベットは、本体がアルミのものだ。柔らかくて作業は楽だが、強度は劣るし、鉄板に使うとイオン化傾向の違いからリベット側が強烈に腐蝕してくる。鉄には鉄、がいちばんいい。鉄板は1900円、リベットは3500円くらいだった。
ブラインドリベットは、機械工具を扱っている店ならどこでも入手できるが、鉄フランジのものは在庫していることは少ないようだ。一般的に使われるのはアルミかステンレスのものなので、需要がそれほどないのだろう。頼むときは、材質とサイズを明確にすればよい。今回使ったやつなら、「ブラインドリベット、スチールフランジ、スチールシャフトの、サイズは4の2」といえば、たぶん全国的に通用するはずだ。

修理を始める前に、修理作業に邪魔なものはすべて外しておかなければならない。床板の修理があるので、運転席下のツールボックスも外さなければならないのだ。試しに付けたJ53のシートと燃料タンクを外せば、室内からは前席の床は丸見えになる。
さらに、フレームやドライブトレインも検査しないとならないので、トランスミッションのカバーも外す。ミッションカバーも、足の当たって摩耗していたところは腐蝕で穴が開いている。固定用のボルトもサビで齧っていて切るしかないのが何本か、土台の床板が腐っていて土台ごともげたのが何本かあった。
さらに、右サイドにつけていたスコップホルダーや、ラジオのアンテナも外す。床下のステップも邪魔なので外す。グローブボックスも外した。シートベルトも邪魔なので外す。ついでに、外装の外付け部品類も外す。フォグとステー、牽引フック、ピントルフックなど。とにかく外す。ひたすら外す。
さらに、ワイドボディ初期、4DR50A搭載のJ54では、下回りを見るためにはアンダーカバーも外さなければならない。アンダーカバーは、フレームをジャッキアップして、フロントアクスル(前車軸)をぶら下げた状態にしなければ、フロントデフとエンジンの間を抜くことができないという厄介なものだ。このカバーのボルトは、ブリーザー(エンジンクランクケースの換気口)から吹き出すオイルで潤滑されているせいか、ほとんど齧っていない。ただ、フロントグリルとカバーの固定ボルトは見事に齧っていた。土台側は四角いナットをハット型の鉄板で包んで、鉄板を溶接しているだけなので、その鉄板が腐ると、ボルトを回すと鉄板が切れて、ナットが共回りしてしまう。こうなると、裏のナットを押さえることができないので、ボルトの頭をレンチで押さえて、ボルトをドリルで揉んで切るしかない。カバーはブリーザーのオイルで真っ黒、ベタベタ。困ったものなのだ。

ツールボックスは、スポット溶接と点付け溶接で車体につけられている。スポット溶接とは、溶接したい板の重なった部分をとがった電極で強くはさんで、そこに大電流を流すことで瞬間的に発熱させ、溶かして接合する、というもので、現代のクルマはほとんどこれで作られている。ロボットが「指先」で組み立て中のボディをはさんで火花を散らしている場面を見たことのある人も多いだろう。溶接部は「ナゲット」と呼ばれる、丸いへこみになる。点付け溶接は、普通の電気アーク溶接(ビル工事の現場などで火花を散らしているアレ)で、部分的に点状に溶接したものだ。
スポット溶接は、ナゲット部分を削って、点付け溶接は、溶接部の「ビード」と呼ばれる盛り上がりを削って、外さなければならない。スポットを外すには、専用のカッターもあるが、私は普通のドリルを使ってみた。しかしドリルだと、どうしても削りすぎになってしまう。下の板もほとんど切断する予定なのでまあいいのだが、別に切断しなくてもいいところまで穴が開くのは困った。そこで、7mmのドリルを研ぎなおして、スポットカッターを作ってみた。ドリルの先端を、中心と外周部だけ切り刃を残して削った。中心は外周部よりほんの少しだけ出るように直して、外周部は1mm程度の幅で切れるようにしてみた。使ってみると、見事にナゲット周囲に溝が切れて、中心を軽く叩くと、ナゲットを残して上の板が外れた。やってみるものだ。
点付けの部分は、サンダーで削ってから、鏨(タガネ)ではつった。タガネとは、全体が硬い鋼でできた、大工道具の「のみ」のごついようなやつで、尻をハンマーで叩いて、金属や石など、普通切れないような物を叩き切るときに使う。仕事でも、鏨など年に一度も握らないほどなので、まあ手を叩くこと。切っているときは鏨の先端に注目しているので、鏨を握る左手の、人差し指や親指の付け根を叩いてしまうのだ。これは痛い。1ポンド(約450g)のボールピーンハンマー(片側が円筒形で、反対側が球状になっているハンマー)なのだ。打撃を受けた個所の腫れが引くのに1週間かかった。
ツールボックスは、前面側の運転席床に面した部分の下側が、大きく腐蝕して穴になっている。足が当たって塗装が痛むことと、ツールボックスの床に開いた穴からの浸水の影響だろう。浸水の影響が大きいのか、内側のほうが腐食が大きく広がっていたが、単に塗装の違いによるものなのかもしれない。
ツールボックスのふたの蝶番は、使っていたころにすでに錆びで切れていた。
運転席取り付けボルト穴の周囲には、左の穴の周りに亀裂、裏側に当たっている補強材との接合面の錆びによるふくらみがある。ボルト穴の後ろのほうにも亀裂が一箇所。


ツールボックスを外す直前の運転席床


外れたツールボックス

でもまあ何とか外せるものは外して、作業の準備はできた。小さなジープだが、室内は妙にがらんと広くなり、外観はさらに妙に小さくなった。

しかしここで、さらにもう一枚脱がすのだ。サビで膨らんでいる部分をハンマーやらで叩いて、落ちるところはすべて落として、腐食の程度を特定し、確認しなければならない。 この作業は、うるさい上にやたらと「カス」が飛び散る。意外に危険な作業なのだ。まずは丸見えになった床面を叩いてみる。ボロボロとフレーク状になったサビがボディから剥離し、地面に落ちて積もっていく。塗料とサビだけでつながっていた個所の、なんと多いことか。こんなにさびていていいのか。泣きたくなるような、笑っちゃうような。
やがて、異様に風通しのいいボディがそこに残された。

ツールボックスの床面だったところは、前輪のはねた水が直撃する右半分がほぼメッシュ化し、後ろ側は完全な大穴になっている。以前穴をふさいだとき、板を固定したアルミのポップリベットは、完全に腐蝕して、軽く叩くと抜け落ちる。運転席の足元も、薄皮一枚でメッシュ化を免れている状態だ。助手席の足元は比較的ましだが、やはり前輪のはねた水がかかる、タンクカバーの足やステップが付く左側は、メッシュもしくは穴になっている。タンクの下も、壁のところからステップ取り付けボルトのあたり、さらに後部の壁に渡って積もっていた24年分のごみを取り除くと、ごみの含んだ水分のためか、見事にメッシュになっていた。やはり、水の直撃を受けつづける部分は腐るのも早いようだ。

激しくメッシュになっているツールボックスの床面。
マジックでマークされているのは、実線が「要切除個所」、点線が「床下の補強材の位置」。
こんな色になっているのは、ノズルの詰まったサビ止め缶スプレーに穴をあけて使ったとき、余った塗料をサビの進行を止められるかもしれない、と塗ったもの。捨てるのももったいないし。
サビ止め色になっていないラインが、ツールボックスの付いていた部分。
写真中央上のほう、点線の補強材のラインの中に、ボディマウントボルトを抜いた穴がある。
そのまま視線を下に移動すると、縦に二つ並んだ円形の物体は、ステップ取り付け用のボルトの頭。ボルトの頭は床板に溶接されている。
左下の大穴はサビで崩壊していたもの。中央右側の丸い穴は、ツールボックスの水抜き穴で、普段はゴムの栓が入る。
ステップ取り付けボルトのすぐ外側(写真では下側)で、ナロウボディの床板にワイドボディ用の延長部分が継ぎ足されているのだが、みごとにそのラインに沿って錆びている。コストダウンのツケは必ず現れるのだ。

壁面は両側とも、床面に沿って、広いところでは5cm以上の幅の長穴になっている。ステップ代わりにつま先を突っ込めるような状態だ。リアフェンダーの内側になっている荷台の壁も、床面に沿って3cm位の幅の長穴になっている。荷物の小さなものは落ちていくに違いない。壁面は、室内に入った水が床と壁の接合部にたまって腐食を進めているようだ。壁の穴から床の接合しろのフランジが見えている。
フロントフェンダー後部のステップは、右側は上面に穴が開き、左側は後部2/3ほどがすでに崩壊している。床下から左ステップの下に伸びる補強のチャンネル材も、原形をとどめていない。ボディからたれた水やはねた泥などがたまりやすい部分だし、左側はハイリフトジャッキを載せていたりしたので水はけが悪かったのだろう。
右のフロントフェンダーにも、上面に穴が開いている。ここは、裏に補強剤が入っている部分で、補強材との接合部から錆び始めている。フードは、左後部のコーナー部分に穴が開いているが、理由はよくわからない。たまたま塗装に傷がついたところから、サビが波紋のように広がっていたようだ。同様の波紋状のサビは、左のフード側フードキャッチ金具周辺にも見られる。
ウインドシールドは、1997年に、一番左のヒネリ(幌を留めるホック)が、錆びた土台ごともげて、穴になっている。この部分は修理も手軽そうだし、とっかかりとしては悪くない気がしたので、先に直してみることにした。手順はBBS引用の上記のとおりだが、一応ビジュアルページも用意してみた。画像をご覧になりたい方はこちら
ウインドシールドは、ほかにも内側の骨というか、横方向に入っている丸パイプと、窓枠パネルの間からさび始めており、なぜか丸パイプ側ばかりが腐蝕して、所々穴が開いている。ベンチレーターからの浸水がたまって錆びたのだ。
ため息をつきつつ、雨が入りそうな個所の穴をテープで仮ふさぎして、ここまでの作業は終了とした。

フェンダーやフードのような非構造部材はともかく、タンクや座席のつく、通称バスタブ部分がこれでは、本当に危ない。
かなり大規模な修理、ひょっとしたらほとんど張り替えが必要になりそうだ。DIYにはかなり手ごわいことになるのは必至だろう。
おまけに、作業を終えて風呂に入ると、体を洗っても、頭を洗っても、とにかくものすごーくサビ臭いのだ。全身鉄粉まみれなのだろう。鼻の中まで鉄粉で真っ黒になっている。マスクをかけていないと体に悪そうだ。こんな日々が、あとどれだけ続くのだろうか。
そして、私とJ54に、復活の日は訪れるのだろうか。


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