そのような修理方法なので、まずはボディの損傷部分を切り取るところから始めなければならない。
切り取る場合、切ってからさらに切り広げることはできるが、切りすぎたら元には戻せない。切る前に、どこをどう切れば損傷を取り去って元板をできるだけ残せるか、パッチを当てたときに形がよくなるか、どの方向からどうパッチを当てれば作業しやすく、形がいいか、複数の面が交わったりする部分の処理はどうするか、等々をじっくり考えなければならないのだ。実際、ボロボロのボディをじーっと眺めているだけの、この作業が一番時間がかかったように思う。
切断ラインのイメージを作る前に、床板のように裏に補強剤の入っているところは、補強材のラインを表側にもマークする。ボディカラーはブルー、場所によってはオリジナルのドカメタ(ドカタメタリック)、もしくは錆色なので、黒のマジックで直接マークした。補強材を板の継ぎ目とどのようにまとめていくかも考えなければならないのだ。床板などでは、場所によっては、フレームへのマウントボルト穴や、水抜き穴も開いている。ステップやタンクカバーなどの取り付け穴もある。
また、助手席の足元には、トランスミッションのための開口部に沿って、床下に燃料の配管が通っているし、運転席の足元にはセンターブレーキ(パーキングブレーキ)のワイヤーも通っている。これらも十分に調べてからでないと、うかつに切り始めることはできないのだ。自分で故障個所を増やす羽目になる。
板の裏側の様子を表側にマークしたら、ひたすら考える。モノコックボディではないので、厳密に強度計算をしたりする必要はないが、ジープのボディはフレームとともにねじれるのが特長なので、できるだけ力が集中しないように、穴の角は丸く切るのがよい。切断するときは、さらに2cmずつ大きくなるパッチの形も考慮する。何らかの形で元板を残していないと、パッチを固定できない場合が出てくる。しかし、損傷の具合によっては、たとえばパッチの縁がボディの縁になってしまうこともある。
ラインのイメージが固まったら、実際にマークしてみる。マークしたラインを見て、切断ライン上にある、切りたくないもの、注意すべきものを確認し、作業する側から見えるように印をつけておく。必要に応じ、あらかじめ燃料配管を外したりなどしなければならないだろう。
納得がいったら、一気に切る。刃を入れる最初の一撃だけはなんとなくためらいも残るが、刃が入ってしまえば、後は度胸を決めて切るしかない。次第に破壊行為が快感になってくるかもしれない。しかし、ものすごい騒音が出るので、配慮が必要だ。
切断は、酸素アセチレントーチがないので、サンダーやジグソーといった電動工具と、金切りのこぎりや金切鋏のような手工具を駆使して行った。錆穴からジグソーで切り進み、ジグソーの大きなベースプレートが入らない隅の部分などはサンダーで、サンダーも届かない部分は金ノコで切った。切り口の微調整はサンダー、やすりや金ノコで行う。
切断作業は、切粉も飛ぶし、熱も出るので、安全メガネや革手袋は忘れてはならない。また、切断したままの切り口は実に破壊的な切れ味を持っているので、十分な注意が必要だ。
ジグソーを使うときは、ベースプレートを板にしっかり押し付けて使う。また、曲線切りはゆっくりと行い、あまり無理に小さいカーブで切らなくていいように、あらかじめラインを滑らかに設定しておく。押し付けが足りなかったり、無理にきついカーブを切ると、ジグソーが暴れ、刃が折れて飛散する。
サンダーなら、とにかくしっかり保持し、方向を維持しつつ、切り込み深さをコントロールする。サンダーの回転する砥石は、文字通り高い殺傷力がある。無理にこじったりすると砥石が割れて、接線方向に猛烈な速度で飛散するのだ。回転砥石飛散によるの事故はしばしば悲惨(もちろん駄洒落ではない)で、命にかかわる結果を招く。シドニーオリンピックのオープニングで行われたパフォーマンスのように、ディスクサンダーで叩くような動きをすることは、絶対に避ける。ケガ人や死人が出たと言う話は聞かなかったが、よくぞ出なかったものだ。
サンダーは、その日最初の使用前と、砥石の交換後は、少なくとも1分は空転させ、砥石の安全を確認する。本来は、回転砥石の交換は特別教育を受けなければやらせてならない業務で、素人が砥石の交換をしたりすべきではないのだが、自家使用では制限のしようがないのか、法的には自家使用は除外されている。私の場合は、本業のほうできちんと必要な特別教育を受けているのだ。特別教育では、グラインダの砥石の危険性について、かなりの時間を割いて説明される。
また、高速回転のため、発熱が大きく、火花も飛ぶ。ボディの材質は軟鋼のため、まっすぐな長い火花がスパスパとシャワーになって飛ぶのだ。化繊の服や靴では、同じ個所に火花のシャワーを浴びていると、簡単に溶けて穴が開く。引火性の強いものなら、簡単に着火してしまう。周囲から引火性のものは遠ざけ、火花の飛ぶ方向に注意しなければならない。
高速回転体ははじかれやすく、ちょっとグラインダの向きが斜めになれば、きちんと押さえていないと簡単にはじかれる。多くのディスクサンダーは手を離しても止まらないため、はじかれたサンダーが手を離れれば、大暴れする。
電動工具は、鉄板を切ったり削ったりできるのだから、人体などは物の数ではない。本当に危険なのだ。十分な注意が必要だ。