ちょす

かっこよく言えば「カスタマイズ」ということだが、北海道方面では「いじる」という行為をこう表現する。

念願のジープをゲットした私は、さっそくこのジープを自分のオリジナルにカスタムすることを考えたのだった。Yさんがこれを読んだら怒るかもしれない。

まず、車体の色を変えた。
もともとこのジープは、グレーメタリックのような色だった。厳密にはグレーではなく、ジープといえば、の国防色というかOD(オリーブドラブ。アメリカ陸軍のジープのこんな色→ですね)にメタリックを入れたような色で、見ようによってはグレーっぽくも、鈍い金色っぽくも、茶色っぽくも見える、という不思議な色(こんな色→)だ。民生用ジープらしさでいえばこれほど「らしい」色もないのだが、それだけに、これほど作業車っぽい色もない。
私は、ミリタリーマニアではないので、 ODにしようとは思わなかった。ODは好きな色だが(だからこのページの背景は淡いODにした)、その色のジープに乗るのはいやだ。

結局私は、ジープを鮮やかなコバルトブルー(こんな色→)に塗装した。缶スプDIY塗装である。楽しいジープには、鮮やかな色が似合う!と思っていたのだ。紫がかった濃い青で、なかなかだと思った。

まだまだちょした。

等々。

最終的にはなんのことはない、色こそ鮮やかだが、中身は軍用車と紙一重の、こてこての実用オフロード作業車仕様になっていたのだ。

カスタムのつもりが、結局ありがちな実用ジープになってしまったのには理由がある。

ジープに乗る上で、たとえばジープとは方向性はまったく違うが同じくらいスパルタンな2シーターのスポーツカーに乗るときのような、クルマ自体の持つ強い方向性に対するある種の割り切りというか、一般にクルマに求められる、大半は実はどうでもいいような機能のうち、納得ずくで切り捨てる犠牲がどうしても必要だった、というのもある。
また、私がジープを手に入れたバブル末期には、街中でサイのように武装した四駆をみせびらかす「シティオフローダー」なるバカヤロ様たちが闊歩していた。まあひとが何やろうが知ったことではないが、私は、そういう流れが大嫌いで、そういう連中と同類に見られるようなマネはしたくなかった。だから、極端にそれらの反対方向に突っ走った、というのも少しはあるかもしれない。

しかしそれよりも大きな理由は、ジープはもともと軍用車で、用途は1/4トントラック、軽量の多用途車だったという、歴史的背景にあった。
ジープは戦場をちょろちょろと軽やかに駆け抜けながら、兵士を運んだり、物資を運んだり、ときには攻撃をしたり、というクルマだ。いわば「ライトウェイト・スポーツ」的な性質を持っているわけで、軽やかさこそジープの命なのだ。ジープはサイのように武装してはならず、豹のように軽やかでなければならないのだ。シティオフローダー風のごつい鉄パイプ類は、ジープの軽やかさをスポイルしてしまう。

鉄パイプ系アクセサリーのうち、荷台に突っ立つロールバーは転倒時に首が胴体と生き別れになるのを少しでも防止するためには有効な装備で、必要だと思う。現に私も取りつけているが、それ以外の、たとえばカンガルーバーとかブルバーなどと呼ばれる補助パンパー類はどうか。
日本では飛び出してくるカンガルーや牡牛をはね飛ばすためのバンパーなどいらない。
当時から、良識のある四駆乗りは、人間に対してもカンガルーに対すると同じ性能を発揮するカンガルーバーが危険であることを知っており、警告していた。アレはオーストラリアではいざ知らず、日本では人をはねた時に自分の車が凹まないようにするための超利己的な道具にしかならないのである。そんな凶器を自分の車に取り付けて走るリスクを負いたくはなかった。
当時は様々な四駆(ステーションワゴンにまで)にメーカー純正オプションとして(!)カンガルーバーもどきが用意されていたものだが、それが危険であるとして公式に対策が行われたのはずっとずっと後のことだった。

一人山奥で車がハマれば脱出のための道具がいるし、ハマらないためには高い走破力が必要になる。
ハイリフトジャッキは私の敬愛する 大藪春彦大先生が絶賛したミラクルツールだし、ゲタ山タイヤは長く軍用に使われ、その走破性能を証明してきた、いずれも名品だ。

結局私は実用重視、ヘビーデューティーのヒトなのだ。
一見色気もそっけもないともいえるが、高い実用性や突き詰められた機能性を持つものには、独特の機能美が備わるものだ。だからこそ、ジープは美しいのだ。
そして私のジープも、また美しいのだ。


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