ゲタ山タイヤとは、図のようなラグパターンと呼ばれる横溝のトレッドパターンを持つタイヤのうち、特に溝幅の広くて深い、アグレッシブなタイヤの総称だ。
トレッド面にはまさにゲタの歯のような高い山が交互に並んでいて、だれが言い出したかは知らないが、ゲタ山とはよく言ったものだ。
ゲタ山タイヤの性質は極端に不整地向きで、逆に舗装路の高速走行などには甚だ不向きだ。ノイズがすごいのだ。規則的に続く深い横溝が笛のような作用をし、背の高いトレッドパターンの振動とあいまって、、ヒャアアアアンというようなうなりをたてる。それに、バイアスタイヤであるゲタ山とジープの極端なアンダーステアの組み合わせでは、直進時でもカウンターを当てていなければならなかったりする。
しかしゲタ山は、一歩不整地に入ると、キャタピラ並みの走破力をもつミラクルタイヤに変身する。特に滑りやすい草地や泥濘地では絶大な威力を発揮するのだ。
図の右側で、タイヤの肩が角張っているのがマッドアンドスノー(MS)、肩の丸いのがクロスカントリー(CC)。
MSは泥の底の土にタイヤの角で食いつくように効くが、轍などでふらつきやすく、CCは逆に泥に浮くような性質がある。どちらがいいかは一長一短だが、私のジープは7.60-15のMSを履き、スペアに6.50-16のCCを吊っていた。両者の外径はほぼ同じだ。
もともとジープの標準タイヤは、6.00-16 6PRのゲタ山だった。今時の四駆のタイヤに比べればずいぶん細いようだが、ジープが登場した当時は、おそらくとてつもないワイドタイヤで、たくましいトレッドパターンとあいまって、ジープのイメージアップにも一役買ったろう。
私のJ54は、標準が6.00-16、オプションに6.50-16と7.60-15のリブラグタイヤが設定されていた。リブラグとは、タクシーのタイヤみたいな縦溝のリブパターンを中央に配し、サイド側にゲタ山のミニチュア版のようなラグパターンを組み合わせたものである。このタイヤは、よく言えば舗装路でも悪路でもまあまあ、といういいタイヤだったが、はっきり言ってどっちつかずの性能であり、なによりジープのイメージにはマッチしていなかった。
私の履いていたMSは、スピードさえ出さなければ、奥日光の凍結路やザラメ状の積雪にもよく効いた。しかし、いくら名前が「マッドアンドスノー」とはいえ、冬の北海道の凍結路面では、ある程度の速度での走行が要求されるため、リスク覚悟の特攻捨て身走行でもかますならともかく、危なくて実用にはならない。ゴムの性質が夏タイヤと同じなのだ。したがって冬場は、私のジープもやわらかいゴムのスタッドレスタイヤを履いていた。
ゲタ山はちょっと前まではどのタイヤメーカーもカタログに入れていたものだが、今年(2001年)のカタログでは既にほとんど消えているし、わずかに残っているものもサイズが限られていたりする。まあゲタ山タイヤはいまどき廃れゆくバイアス構造だし、ゲタ山をメーカー純正装備にしている新車もないし、時代の流れで消えてゆく運命にあるタイヤなのかもしれないが、その性能を知るものにとっては、さびしい限りだ。
とはいえ、かくいう私もそのノイズのすさまじさに疲れて、タイヤを普通のタクシーのタイヤみたいな縦溝のリブタイヤに替えていたことがある。これは通勤には快適そのものだった(まあバイアスだったので直進カウンターが必要なのは変わりなかったが)。さすがに不整地ではゲタ山に遠く及ばないが、それでもジープの基本性能が高いので、濡れた草の土手を駆け上がるくらいは、滑りながらも可能だった。
ジープはすごい。しかしそのすごさは、ゲタ山タイヤを履いたときに初めて本領を発揮するのだ。
絶滅寸前のゲタ山、今のうちに買っとかないとまずいかな。