アンダーステアって?

ジープのステアリング特性は、強いアンダーステアだ。といわれても、なにそれ?というあなたに、簡単な説明を。

よくクルマ雑誌のインプレッションなどで言われるアンダーステアとかオーバーステアとかいうのは、走行中のクルマに横方向の力がかかったときにクルマが示す挙動を表している。

走行中のクルマにかかるに横方向の力というと、たとえばコーナリング中の遠心力もそうだし、路面が横に傾いている時の重力などもそうだ。ここでは話を単純にするために、傾いた路面をまっすぐ走ることを考えよう。

あなたがクルマで直進走行中、たとえばわだちに片側の車輪が落ち込んで、車が少し左に傾いたとしよう。北海道の道路などでは、舗装路面にわだちがうねりを作っていることがよくある。
そのとき、左に傾いたクルマにとっては、重力は少し左に傾いてかかるため、見かけ上、右からの力を受けていることになる。
そこでクルマがどんどん左にそれていけば、あなたのクルマはアンダーステアであり、クルマをまっすぐ走らせるためには、力の方向と反対の右側にハンドルを切って修正しなければならない。このとき、修正量がほんの少し、指先か手首をちょべっと動かす程度なら、あなたの車は弱いアンダーステアであり、ジープのように肘も使ってかなりハンドルを切らなければ修正できなければ、強いアンダーステアということになる。
同様に、左に傾いた時にまったく修正をしなくてもまっすぐ走ることができれば、あなたのクルマはニュートラルステアだ。また、左に傾いたクルマが右にそれていき、修正するのに力の方向である左にハンドルを切らなければならないなら、あなたのクルマはオーバーステアということになる。

整理すると、走行中のクルマに横からの力が作用した時、力に負けるような形で力の方向にクルマの方向を変えるのがアンダーステア、力に逆らうように力の方向と反対に車の方向を変えるのがオーバーステア、力に車の方向が影響されないのがニュートラルステア、ということになる。


直進走行中のクルマに右から横方向の力が加わった時・・・

このような特性は、クルマが曲がる時の遠心力や慣性力による横方向の力、いわゆる「横G」によっても現れる。上の例で「直進走行中のクルマが左に傾く」を「クルマが右に曲がる」と読みかえればよい。
ニュートラルステアのクルマはコーナリング中にハンドルをまったく修正する必要がないが、アンダーステアではクルマがどんどんカーブの外に膨らもうとするため、ハンドルをさらに右に切り込んでやらなければならない。そして、オーバーステアのクルマではカーブの内側に切れ込んでいく感じになるため、曲がる方向と反対にハンドルを切らなければ(というか実際には、ほとんどの場合、切ったハンドルを少し戻す感じにしなければ)ならず、この操作を一般に「逆ハン(ドル)」とか、「カウンター(ステア)」などと呼んでいるのだ。

こういったステアリング特性は、クルマの重心位置や、駆動方式、サスペンションの設定、タイヤの性質などによってほぼ基本は決定する。
例えば重心位置では、一般には、フロントが重いほどアンダーステアが強くなるし、駆動方式では、後輪駆動よりも前輪駆動、前輪駆動よりも四輪駆動のほうがアンダーステアになりやすい。しかしそれは絶対的なものではなく、走行中は横からの力の大きさの変化で、特性が急変することもある。たとえば、カーブを曲がる時の速度によって、あるところまでアンダーステアだったものが、急速にオーバーステアに変わったりする。また、アクセルから足を離していたりブレーキをかけていたりして前輪側に荷重がかかっているときと、逆にアクセルを踏み込んで後輪側に荷重のかかっているときでは同じクルマでも挙動が異なり、一般には前輪に荷重がかかるとアンダーステアが強くなり、後輪荷重ではオーバーステア気味になる。
濡れたり凍っていたり、あるいは舗装されていないなどで滑りやすい路面では、これらの特性がより低い速度で、より強く出る傾向にある。ときにはこれらの要因が複合して、コーナリング中に突然スピンしてしまうことさえあるのだ。そうなると、レーサーででもなければ、立て直すのはほぼ不可能で、そのあとどうなるかはクルマに聞いてくれ、という状態になってしまう。
滑りやすい路面やカーブではスピードを控えめに、という常識は、それを知っている人々の教訓でもある。

J54は相当強いアンダーステアだが、これは、もともと重量バランスが良くてもアンダーステアだったジープの頭に、でかくて重いディーゼルエンジンを積んだために頭が極端に重くなった結果であるといえる。
CJ3Aあたりの重量バランスは前後輪ともほぼ同じだが、J54の重量バランスは、前6後4でフロントヘビーだ。これにバイアスタイヤのゲタ山でも履いていれば、まあ、曲がらない。四駆に入れてたりすると、もうだめだ。
だから、冬道では、私のジープは普通は後輪駆動で走っている。冬場に四駆に入れるのは、坂道発進などで滑って進めない時だけである。私の知り合いには、凍結路を四駆で走っていて、ゆるいカーブを曲がれずに突っ切ってしまった奴が何人もいる。四駆は強力な走破力を持つシステムだが、デメリットもある。万能ではないのだ。

J54よりも頭の重くなったJ53(J3シリーズ後の三菱ジープの型番のつけ方には、たとえばショートボディの幌車がJ50系列であるということ以外は、きちんとした法則性はないようで、右ハンドルのディーゼルジープでは、古いほうからJ54-J53-J55となっている)では、標準装備のタイヤがラジアルになった。供給の問題や時代の要求もあっただろうが、はっきり言って、J53以降はバイアスタイヤでは辛いレベルのアンダーステアになってしまったのではないか、などと思ったりする。私はJ53はラジアルタイヤのしか乗ったことがないし、J55にいたっては乗ったことすらないので真相はわからないが、J53,J55オーナーの方、どうだろう。

ちなみに普通の市販車は、運転のしやすさから、ほとんどが弱いアンダーステアに設定されている。
今の車はタイヤもいいしサスペンションもいいので、ファミリーカーでもコーナリング限界は昔のスポーツカーよりも高くなっているだろう。しかし、運転する人間は全然よくなっていないので、相対的にクルマは危険な乗り物になってしまっていて、限界の高さを自分の技術が優れているのだと思い込み、無茶と思わずに無茶をやって、限界を超えてしまう奴も多くなっているのではないか。
スピンしながらガードレールが迫ってくるのをなす術もなく見つめて、「こんなはずじゃ」などと思っても、だれも助けてはくれない。「ハンドル操作を誤って」という新聞記事になるだけなのが落ちだ。
当然ながら、自動車メーカーは決してそのような危険を積極的にユーザーに知らせはしない。行政も、教習所でオーバースピードコーナリングの体験はさせるが、回復方法を教えるわけではなく、ね、こんなことしたら危ないでしょ、というだけだ。

過激な例えだが、機関銃は、引き金を引いただけでは発砲できず、引き金を引く前に安全装置を外してからでなければならない。しかし、ここを触れば安全装置が外れるよ、ということを教えられずに、発砲すると危ないよ、とだけ言われて、機関銃の引き金に指をかけて歩いている状態なのが今の普通のドライバーだ。うっかりでもわざとでも、安全装置を外せば引き金に触るだけで弾が出るかもしれない。弾が出れば、時には、無関係な周囲の人々をも撃ってしまうだろう。

殺傷力の高い危険な道具であるという面から評価すれば、クルマは機関銃に劣らない。
事故の結果などは、しばしば機関銃のそれよりも悲惨でさえある。
私たちは、運転中、自分の命も他人の命も、常に危険にさらしているのだ。
その認識が、絶対に必要だ。


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