ウマヅラでもいいべや

三菱ジープの外見上の特徴は、ウマヅラである。

最初の量産ジープのMBやM38、日本製ノックダウン1号のCJ3Aなどは、後の三菱ジープよりも約10センチもエンジンフードが低く、フロントグリルもその分低かった。ラジエターのスペース自体はほとんど変わりないので、クルマの「顔」であるフロントグリルは、三菱ジープよりもかなりすっきりとして、M38以降はオメメぱっちりのなかなかの美形だったのだ。そればかりでなく、フード上面のラインと荷台(リアフェンダ)のラインが同じ高さで、クルマ全体がすっきりとスマートな、シャープなシルエットになっていた。このシルエットを持つジープを、ジープ好きたちは「ローフード」と呼んで珍重している。

三菱ジープの「顔」は、ラジエターグリルのスリットの上にさらに10センチも「眉間」があって、デザイナーもそれはさびしいと思ったのか、そこにスリーダイヤモンドがプレスされている。三菱ジープは、三菱以前のジープに比べると、ヌボーとしたウマヅラになっているのだ。


小顔のCJ3A(左)と、ウマヅラのJ54(右)

ただ、このウマヅラは三菱のオリジナルではない。
もともとは、CJ3Aの後継モデルであるCJ3Bが、搭載エンジンをそれまでのサイドバルブ(SV)の「ゴーデビル」エンジンから、背の高いFヘッドの「ハリケーン」エンジンに変更した為に、やむを得ず行われたデザイン変更だったのだ。Fヘッドというのは、吸気バルブがOHVで排気バルブがSVという変則的なバルブ配置のシリンダヘッドだ。ゴーデビルとハリケーンは同じシリンダブロックで、シリンダヘッドが変更されてバルブが上に突っ立つことになったため、エンジンの背が高くなったのだ。
先ほどの「眉間」と、10センチ高くなったために延長されたエンジンフードの側面には、当時ジープのメーカーだったウィリスのロゴがプレスされていた。
そして、以後、はるかにコンパクトなエンジンを積んだJ58などが出現しても、三菱ジープのフードラインが下げられることは二度と無かったのだ。もっとも、J54は背の高い4DR5エンジンを積んでいて、エアクリーナーがエンジンの上にあり、フロントフェンダにはでかいバッテリーが2つも載っているので、ハイフードでなければならない、という必然性はある。

本家アメリカのジープはCJ3Bの後継型であるCJ4までウマヅラで、のちにAMCのCJ5で丸顔になりV8などのっけて太ったが、クライスラーのYJで角目の小顔になった後、TJで再び丸目の小顔に回帰した。CJ3B以来のウマヅラだけでなく、三菱ジープはそれまでの平らで小さな「ストレートフェンダ」と呼ばれるフロントフェンダから「招き猫」と呼ばれる、前端の垂れ下がった独自のフロントフェンダに進化し、ウマヅラと招き猫は、三菱ジープの顔になったのだった。

そんなわけで私もご多聞に漏れず、以前はオリジナルジープの「ローフード」がカッコいいと信じていた。というか、三菱ジープの「ハイフード」もしくは「ウマヅラ」や「招き猫」がカッコ悪いと思っていたのだ。

しかし最近は、日本独自の進化を遂げた顔として、三菱ジープのウマヅラ招き猫も、なかなか味があってイイではないか、と思っているのだ。とくに昭和52年以降のワイドトレッドの三菱ジープには、ローフードやストレートフェンダは絶対似合わない。大きなアームチェアに肘を乗せて眉だけを吊り上げてにらみ返しているような、間抜けなような不敵なような三菱ジープの顔は、本家のアメリカンジープとは違う、寡黙な日本のオトコの顔ではないか。

だいいち、他人とは思えないのだ、このウマヅラ。かくいう私も、立派にウマヅラの部類に入る。いんだ。ウマヅラでもいんだ。ウマヅラでもいいべや!なんか文句あっか(椎名誠風)!という感じなのだ。


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