<ま・や・ら・わ 行>
 ※赤文字の見出しは新たに追加した演題



松曳き
<おもな演者>5小さん/談志/市馬
粗忽な殿様と家臣の噺。5小さんから主に柳家の門弟に伝わる。
タイトルの『松曳き』は本編冒頭に出てくる会話の一部で、後半からは全く無関係になる。
CD「柳亭市馬 名演集」5巻(2008、ポニーキャニオン)などが市販されている。

松山鏡
<おもな演者>8文楽/五郎兵衛(五郎)/他多数
鏡がない村を舞台に起きる、さながら民話の世界のようなひと騒動。
8文楽の持ちネタで、CD「NHK落語名人選 八代目桂文楽」(1999、ポリドール)所収。
他に、志ん生の晩年の口演を収録したCDも出ている。

豆 屋(豆 や)
<おもな演者>1馬の助/10文治
物売りの出てくる噺の中では短めの、寄席向きサイズ。
本来は与太郎噺ではないが、談志は『かぼちゃ屋』『孝行糖』とつなげて
『与太郎噺三本立て』のタイトルでやっていた。
セット売りから2008年単品発売されたCD「立川談志プレミアム・ベスト」(コロムビア)所収。
上方では2および3春団治の口演音源がCD化されている。

まわり猫
<おもな演者>多数
「猫より強いものは虎」から始まり、結局鼠から最後は猫に戻ってしまう、おなじみの小咄。
古今亭円菊や桂文生の『蒟蒻問答』のマクラにある。

万金丹(鳥屋坊主)
<おもな演者>5小さん/7松喬/他多数
二人の遊び人が坊主になり、その後の俗っぽさが抜けない言動が笑いを誘う。
上方落語『鳥屋坊主』を東京に移したネタ。
CD集「柳家小さん落語全集」(2000、小学館)に収録されている若き日の5小さんの音源は、
威勢の良いアウトローぶりがまるで談志のようで、実にカッコいい。

まんじゅうこわい(饅頭怖い)
<おもな演者>志ん生/談志/6松鶴
東西ともに超スタンダードな、一般的にもおなじみの落語。
東京では15分以内で収まる寄席向けのネタだが、
上方では狐に化かされるくだりや怪談風のくだりが加わり、40分を超える長編になる。
「増補落語事典」では、狐のくだりを『九郎蔵狐』という別項で紹介している。
9文治は『好きと恐い』の題で、まんじゅうが登場しない上方演出の短縮版を演じた。

万病円
<おもな演者>3金馬
商売人泣かせシリーズの侍バージョンだが、これは上方でなく東京の噺。
3金馬が侍を憎たらしく演じていたのが印象的。
さんざん商売人をからかった挙句、最後でひっくり返され、溜飲が下がる。



木乃伊取り(ミイラ取り)
<おもな演者>円生/談志
若旦那から権助まで、お店の一党が次々と吉原にのめり込んでゆく様を描いた噺。
円生の十八番で、CD「円生百席」40巻(1997、ソニー)他に収録がある。
談志のCD集「立川談志ひとり会 第三期」30巻(2012年にコロムビアから単品発売)の高座では、
後半に下座の三味線を入れ、高揚する心理描写を見事に表現していた。

水屋の富
<おもな演者>志ん生/志ん朝/さん喬
富くじの出てくる落語としては比較的演者が少ない。
皮肉なサゲは現代人の心理にも相通じる部分がある。
志ん生のCDが数種類出ている他、志ん朝とさん喬のものがある。

味噌倉(味噌蔵)
<おもな演者>8可楽/小三治/他多数
ケチ噺の代表格。お店の奉公人たちによるレジスタンスが共感を呼ぶネタ。
落語芸術協会に所属していた昭和の名人落語家のCDが多数発売されており、
その影響からか近年も芸協に演者が多いイメージ。

味噌豆
<おもな演者>6小勝/竜楽
小咄程度の短い前座噺。そのため市販音源はごく少ない。
CDは6小勝の「ビクター落語 六代目三升家小勝」(2008、ビクター伝統文化振興財団)があるくらい。
珍しいところでは、三遊亭竜楽が世界7ヵ国語で演じた『味噌豆』を収録した企画物CDが
2012年にSlowBallという会社からリリースされている。

三井の大黒(左甚五郎)
<おもな演者>円生/3三木助/歌丸
名工・左甚五郎の逸話の一つ。3三木助やその門弟だった扇橋が得意とした。
円生のCDでは『左甚五郎』のタイトルと列記、または『左甚五郎』のみの表記になっている。

身投げ屋
<おもな演者>金語楼
「増補落語事典」には上方落語を元にしたと紹介されている、柳家金語楼の自作落語。
1999年にコロムビアから発売されたCD集「席亭立川談志のゆめの寄席」に、
晩年の金語楼のライブ高座が収録されている。

宮戸川(お花半七)(上・下)
<おもな演者>3柳好/5円楽/他多数
若手から大御所まで幅広い層に演じられる、お花と半七の恋愛噺。
寄席などでも頻繁に高座にかかるし、CDもよりどりみどり。
ただしいずれも「上」だけで、「下」はガラリと変わって因果物仕立てになる。
「下」は1馬の助の口演がCD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)に収録されている。
また近年、雲助・喬太郎らが「上・下」を通しで演じる試みをしている。

深山隠れ
<おもな演者>百生/吉朝/2小南
上方の旅噺。主人公の落語家が、旅の御難からとんでもない事件に巻き込まれる。
CDブック「落語 昭和の名人 極めつき72席」24巻(2019、小学館)に三遊亭百生の音源が収録された。
書籍「吉朝庵 桂吉朝夢ばなし」(2011、淡交社)では吉朝の口演CDが付録として添えられている。

茗荷屋(茗荷宿)
<おもな演者>10馬生/小満ん
茗荷を食べると物忘れをする、という言い伝えが噺のベース。
「増補落語事典」には『茗荷屋』の題で掲載されているが、現在は『茗荷宿』が主流。
かつて10馬生の高座音源が市販されていたが、現在はセット販売のみになってしまった。

みょうばん(明礬丁稚)
<おもな演者>2春団治
「増補落語事典」には「前座がよくやる」とあるが、現在では滅多に聴かない。
CD「春団治三代 二代目桂春団治」5巻(1999、クラウン)に収録がある。

未練の夫婦
<おもな演者>3小円朝/6小勝
夫婦喧嘩の後の微妙なやりとりが面白い、小咄程度の夫婦噺。
CD「昭和の名人 古典落語名演集 三代目三遊亭小円朝」2巻(2011、キング)所収。



無言の行
<おもな演者>米朝
禅宗の僧侶三人が無言の行をやりあう小咄。
CD集「桂米朝上方落語大全集 第四期」39巻(2006、東芝EMI)の『くやみ』のマクラに出る。

無筆の医者
<おもな演者>5小さん
『藪医者』の前半に出てくるクスグリ。昔の薬の名前が絵解きダジャレになっている。

村芝居(1)
<おもな演者>彦六(8正蔵)
「忠臣蔵五段目」を素人芝居でやるドタバタ劇。
(1)とあるのは、補遺に同題の小咄(2)があるため(別項・補遺小咄参照)。
CD「落語仮名手本忠臣蔵」(1997、クラウン)に収録されているが、
同シリーズには五郎兵衛(五郎)の同題別話(別題『田舎芝居』の項参照)もあるので要注意。



妾 馬(八五郎出世)
<おもな演者>志ん生/円生/3金馬/他多数
兄妹の絆や身分差の悲哀など、複数のドラマチックな要素を含む名作落語。
『妾馬』のタイトルは本来のサゲまで聴かないと意味が伝わらないので、近年は途中で切る。
市販音源は『妾馬』『八五郎出世』のどちらのタイトルも多数存在する。

めがね泥(眼鏡屋盗人/眼鏡屋泥棒)
<おもな演者>米朝/2春団治
舞台が明治期の古風な泥棒噺。現在春風亭一之輔が持ちネタにしている。
CD『米朝珍品集』8巻(1999、東芝EMI)所収。

めくらの提灯
<おもな演者>5小さん
5小さんが『按摩の炬燵』の中でクスグリに使っている小咄。

目 薬
<おもな演者>五郎兵衛(五郎)/小朝/5柳朝
艶笑落語の中では比較的寄席などでも聴ける、短い噺。
CD「露の五郎 とっておきの艶噺」(1998、クラウン)所収。艶笑小咄集にも時々入っている。
1994年のNHK「小朝が参りました」では小朝が普通に口演していたが、師匠の5柳朝は
CD「スーパー落語1500 傑作小ばなし55話」(1994、ビクター)の中で小咄として口演している。

目黒のさんま
<おもな演者>10馬生/3金馬/5円楽/他多数
おなじみ秋の落語の代表。落語に興味が無い人にもタイトルは知られている演目。
江戸時代の目黒は今と違って風光明媚な土地だったことがわかる。
さんまを丸ごと七輪にかける焼き方を昔は「陰亡焼き」と呼んだが、近年はこの表現をしない。
彦六(8正蔵)の演出は独特で、徳川家が江戸城でさんまを焼く。聴き比べを是非。



毛せん芝居(毛氈芝居)
<おもな演者>5今輔/歌丸/志ん生
『目黒のさんま』(別項参照)と同じく、物知らずな殿様が周囲を困らせる噺の一つ。
途中出てくるお芝居は「蔦紅葉宇都谷峠(つたもみじうつのやとうげ)」。
CD「歌丸名席集」7巻(2018、ポニーキャニオン)所収。

もう半分
<おもな演者>志ん生/5今輔/小三治/他多数
騙された老人の金の恨みが、騙した夫婦の間に生まれた子供に祟る、江戸時代のサイコスリラー。
怪談仕立てながら、季節は夏以外でも関係なく高座にかけられる。
東京では志ん生・5今輔・10馬生らの高座が数多く市販され、
上方でも4春団治(前名・春之輔時代)のCDが出ている。

もぎどり
<おもな演者>多数
上方の『東の旅』シリーズの一つで、さまざまなイカサマ見世物が登場する。
『軽業』の前半で演じられ、『もぎどり』だけが独立して演じられることは無い。

もぐら泥(おごろもち盗人)
<おもな演者>6松喬/吉朝
泥棒噺の中でも仕草の面白さが特徴の「見る落語」。
上方では『おごろもち盗人』のタイトル。「おごろもち」とはもぐらのこと
動きを見せるネタなのでなかなか市販されず、吉朝と6および7松喬師弟のCDがあるくらい。

元 犬
<おもな演者>志ん生/8柳枝
人間になった白犬が奉公先を探す噺。
前座噺だが、志ん生・8柳枝ら大御所の口演も楽しい。
近年は若手落語家の間で、大幅に改作されている。

ものいう赤子(老 子)
<おもな演者>多数
演じ手の多いバレ小咄。大抵は老子の逸話として演じられる。
小咄としてはCD「スーパー落語1500 傑作小ばなし55話」(1994、ビクター)等、
さまざまな艶笑小咄集にかなりの確率で収録されている。

百 川
<おもな演者>円生/志ん生/小三治/他多数
「日本橋の浮世小路で実際にあった出来事」と必ず前置きして語られる、東京の落語。
人は好いけどあまり使えない、田舎出の百兵衛さんのキャラクターが大いに笑いを呼ぶ。
CD「円生百席」41巻(1997、ソニー)他、市販音源はよりどりみどり。

桃太郎
<おもな演者>5米団治(小米朝)/4痴楽/他多数
寄席でよく聴ける、こまっしゃくれた子供とその父親の噺。
3春団治は『いかけ屋』のマクラとしてやることもあった。
短いため市販音源は少なく、単品では4痴楽と5米団治(前名・小米朝)がある程度。

紋三郎稲荷
<おもな演者>円生/2円歌/扇橋
狐のふりをして人々を騙す侍の噺。
上方の『稲荷車』(別項参照)は最後に失敗するが、こちらはまんまと計画遂行する。
CD「円生百席」42巻(1997、ソニー)他に収録されている。
上記以外の演者としては、現役の扇辰・5小せんらが持ちネタにしている。






やかん(無学者/魚根問)
<おもな演者>円生/10文治/3金馬/他多数
ご隠居と八五郎の言葉の応酬は、まさしく落語の本領。
10文治は講釈のくだり、円生は知ったかぶりの心理描写、談志はほぼアドリブで演じるなど、
演出にそれぞれの個性が発揮される演目でもある。
魚の名前のくだりで切る時は『魚根問』で、談志もそうしたが、タイトルは『やかん』だった。

やかん泥
<おもな演者>8文楽
8文楽の持ちネタの中では比較的軽めの泥棒噺。
CD「スーパー落語1500 八代目桂文楽」3巻(1994、ビクター)所収。現在は単品発売ナシ。
この他、春風亭百栄が2013年に出したDVD「百栄の落語」(竹書房)にも収録がある。

やかんなめ(癪の合薬)
<おもな演者>小三治/1小文治
ツルツル頭の武士が現代風に微笑ましく描かれている。
上方で『癪の合薬』の題で演じられ、しばらく演じ手が途絶えていたのを
小三治がNHK「古典落語選集」という番組企画で復活させた。
CDは『やかんなめ』の題で喜多八、『癪の合薬』の題で4文我のものがある。

厄払い
<おもな演者>8文楽/小三治/米朝
与太郎がかつて日本の風習であった節分の厄払いの仕事をして回る噺。
上方版ではサゲ間際にもうひとくだり、地口の応酬をする場面が加わる。
上記演者の他、夢楽のCDもあるが、これは例の販売会社を転々とする無許可収録の音源。

薬 研
<おもな演者>3金馬
『大根舟』(別項参照)と似た艶笑小咄。
1999年発売の通販CD集「艶笑落語傑作選」(ビクター)で、
3金馬が『艶笑江戸小咄』の中で演じている。

弥次郎(彌次郎)
<おもな演者>3金馬/円生/小遊三
うそつきの落語には『弥次郎』と『うそつき村』があって混同しやすいが、
噺の後半でうそつき村に出かけるのが『うそつき村』で、それ以外は『弥次郎』。
上方の『鉄砲勇助』は本来『うそつき村』の別題である。詳しくは『うそつき村』の項参照。
CD「円生百席」42巻(1997、ソニー)に収録されている。

宿屋の仇討(宿屋仇/庚申待)
<おもな演者>志ん生/米朝/5柳朝
旅の宿で三人組と侍がひと騒動起こす大ネタ。
上方版は前半にお囃子が入って賑やかに始まり、緊張感が走る後半との落差が一層大きい。
前半に別趣向が加わる『庚申待』は東京独自の型で、志ん生・歌丸らがやった。
志ん生の『庚申待』はCD「五代目古今亭志ん生 名演大全集」(2005、ポニーキャニオン)所収。

宿屋の富(高津の富)
<おもな演者>5小さん/6松鶴/志ん朝
これも東西で演じられるダブルスタンダード。
上方の笑福亭系の演出は、富くじに当たった後の長い長い妄想が特徴的。
また東西だけでなく、柳家系と古今亭系でも、富突きの会場など細かい演出に違いがかなりある。
クライマックスの富くじを確認するシーンでは、演者それぞれの工夫が楽しい。

柳田格之進
<おもな演者>志ん生/10馬生/志ん朝
主に古今亭系の噺家か演じる、人情噺の大ネタ。
これも『文七元結』(別項参照)同様、現代では矛盾を感じるストーリー展開で、
それをどう解釈して最後までたどり着けるか?が注目点となる。
ちなみに、「増補落語事典」の表記は『格之進』だが、CD表記が『角之進』の場合もある。
中には一つの会社で同じ演者なのに『格之進』と『角之進』があったりする所もあるので、
市販音源を検索する際はあらかじめ注意のこと。

柳の馬場
<おもな演者>2円歌/彦六(8正蔵)
武芸百般とうそぶいた按摩が、カンの強い馬に乗せられる噺。
2円歌と彦六の口演音源が、共に「ビクター落語」(日本伝統文化振興財団)から出たが、
二人の後は後継者がおらず、途絶えてしまった。

薮医者
<おもな演者>5小さん/市馬
柳家系に伝わる医者噺だが、なぜか市販音源がレコードの時代からほとんど無く、
過去にディスコメイトとアモン(東京レコード)から5小さんのLPが出て以降、世に出ていない。
その意味で、2020年1月放送のNHK「演芸図鑑」で市馬が演じた高座は貴重。
ただし放送時間の関係で、前半の薬の名前のくだりが省略された。

薮入り
<おもな演者>3金馬/小三治/5円楽/他多数
明治の頃の親子愛を描く落語。一睡もせずに子供の帰宅を待つ父親に共感する。
ただ現代とはあまりに労働に対する考え方が違うので、共感も世代によるかもしれない。
冬に演じられることが多いが、昔の藪入りは冬と夏の年2回だったので、一応夏のネタでもある。

山岡角兵衛
<おもな演者>2円歌/3小円朝
「忠臣蔵」十一段目の落語版。これも近年は演じ手がほぼ途絶えた。
CD「落語仮名手本忠臣蔵」(1997、クラウン)に2円歌の高座が収録されている。

山崎屋
<おもな演者>円生/3金馬/談志
放蕩息子がお店の番頭にゆすりをかけ、番頭が一案を提供する噺。
『よかちょろ』(別項参照)は元々この噺の前半だった。
CD「立川談志ひとり会」35巻(1999、竹書房→2013年コロムビアから単品発売)では、
談志が『よかちょろ』~『山崎屋』を続けて演じている。

大和閑所(国訛り)
<おもな演者>2春団治
上方落語。読みは「やまとかんじょ」。
大和言葉の説明書きを持った田舎者が、旅宿で間違いを起こす。
サゲ前までの展開が東京の『勘定板』(別項参照)と同じだが、こちらはその後もうひと展開ある。
『勘定板』の題は上方でも使われるので、ここでは別話の扱い。
CD「春団治三代 二代目桂春団治」5巻(1999、クラウン)に『国訛り』の題で収録された。

やれやれ豆腐
<おもな演者>3福松
現在は演じられていない上方の音曲噺。
CD-ROM「ご存じ東西噺家紳士録」(2005、エーピーピー)に
三代目笑福亭福松(前名・文の家かしく)の貴重なSP音源が収録された。



幽女買い
<おもな演者>談志
あの世での女郎買い風景をダジャレで綴った一席。
談志がNHKの「古典落語選集」という番組企画で発掘したもの。
DVD「立川談志ひとり会 落語ライブ '92~'93」4巻(2007、竹書房)に収録されたのち、
2012年には同社からDVDブック「立川談志メモリアル・セレクション」として発売された。

幽霊の鑑札
<おもな演者>多数
「増補落語事典」のこの項目で掲載される噺の内容が、
「不細工な女性は幽霊ではなく化物」とダイジェスト化されて
幽霊噺のマクラのクスグリに使われている。

雪てん(雑 俳)
<おもな演者>3金馬/談志/5柳昇
俳句による言葉遊びの応酬。笑いが多い寄席向きのネタ。
途中で切ると『雑俳』で、評価を付けるサゲまでやると『雪てん』のタイトルになる。
新作派の5春風亭柳昇も持ちネタにした。

雪とん
<おもな演者>志ん生
お祭佐七と呼ばれる男が、ひょんなことからさる御大尽の代わりに女性と結ばれる話。
これと別に『お祭佐七』という落語もあり(別項参照)、そのスピンオフのようでもある。
CD「古今亭志ん生 名演大全集」35巻(2005、ポニーキャニオン)所収。

遊山舟(遊山船)
<おもな演者>6松鶴/ざこば/雀三郎
夏の舟遊び風景を、橋の上から庶民の視線でヤジり倒す、いかにも上方っぽい落語。
最後に主人公が自宅に戻って真似をする、庶民っぽい反復が笑いにつながる。
6松鶴のCD集「六代目笑福亭松鶴 上方はなし」(2004、ビクター伝統文化振興財団)等に収録。

指仙人
<おもな演者>小満ん
花魁が山に籠って仙人になる不思議な噺。
2010年にエコーという会社で小満んの記録用CDが製作された。

夢 金
<おもな演者>円生/談志/3金馬
欲の強い船頭が冬の船宿の二階で眠っている場面から始まる落語。
講談なみの武張った情景描写が、美文調を思わせる。
その中で展開するストーリーは一種ドラマのようでもあるが…。
タイトルに「夢」とつくとネタバレになる噺とならない噺があって、これはなる方。

夢の酒
<おもな演者>8文楽/市馬/さん喬
こちらもタイトルに「夢」とつくが、本編でバラしているのでネタバレにはならない。
夢ネタというより、酒呑みの心理を巧みに表した酒噺である。8文楽の得意ネタ。

夢 八(夢見八兵衛)
<おもな演者>五郎兵衛(五郎)/6松喬/2小南
こちらも冒頭から「夢」とバラしているが、夢というより夢遊病に近い。
この噺を聴くと、扇子で高座の床を叩いて取るリズムがしばらく耳から離れなくなる。
CD「ビクター落語 上方篇 二代目露の五郎」1巻(2002、ビクター)所収。
上方落語だが、東京で柳家一琴らが持ちネタにしている。

湯屋番
<おもな演者>円生/5小さん/他多数
女好きな若旦那が銭湯に勤めに行く、おなじみ妄想落語の代表作。
「なごやか寄席」からは、5小さん・10文治・8円蔵の3種類のCDが出ている。
古典落語を滅多にやらなかった1三平が珍しく演じるCDもある。



よいよい蕎麦
<おもな演者>1円右/里う馬
田舎者が江戸見物する噺の一つ。
「よいよい」という罵倒語が公共の場では不適切なので放送向けではない。
1990年代に出たSP復刻テープ集「演芸玉手箱」(エーアールシー)に、1三遊亭円右の音源があった。
土橋亭里う馬の放送音源もある(詳細不詳)。

よかちょろ
<おもな演者>8文楽/談志
吉原通いが過ぎた若旦那が、親から勘当される直前のひとコマ。
「よかちょろ」というのは明治期に流行した「よかちょろ節」という唄のこと。
ストーリー的にはこのあと『山崎屋』(別項参照)につながるが、
噺の中で使用される金単位が『よかちょろ』は円、『山崎屋』は分と違う矛盾があり、
そのため近年は続けて演じられることが無くなった。
しかし談志だけは、あえて「そのままやる」と断った上で、続けて演じることがあった。

吉住万蔵
<おもな演者>円生
人情噺を掲載しない「増補落語事典」が項目を設けている。
円生は講談の邑井貞吉から教わったとのこと。円生以外に演者がいない。
CD「円生百席」44巻(1997、ソニー)に「上・下」2枚組で収録されている。

由 辰
<おもな演者>米朝
神道講釈が庶民の間で芸能に近い存在だった頃のお噂。
上方落語『三年酒(神道又)』(別項参照)のマクラとして米朝が演じた。
CD集「桂米朝上方落語大全集 第二期」17巻(2006、東芝EMI)に収録がある。
また2020年1月には「桂米朝 昭和の名演 百噺」(ユニバーサル)として単品発売された。

吉 野(口合根問)
<おもな演者>3染語楼
上方落語。3林家染語楼がオリジナルの口合(ダジャレ)を加えて演じた。
1973年発売のレコード「島の内寄席ライヴ」2巻(キング)に収録されたのち、
NHKラジオ「ラジオ名人寄席」でもオンエアされた。

吉野狐
<おもな演者>6松鶴/4染丸
『天神山(墓見)』と似た、狐と人間の悲恋を描いた上方落語。
関西地方独特のうどんの名称がサゲと関連するため、東京では演じられない。
CD集「六代目笑福亭松鶴 上方はなし」(2004、ビクター伝統文化振興財団)所収。
また1995年11月にはTBS「落語特選会」で4染丸の高座が放送された。

四段目(蔵丁稚)
<おもな演者>米朝/枝雀/志ん朝
主に上方で演じられる芝居噺。
芝居の見過ぎの罰で蔵に閉じ込められた丁稚が、空腹を紛らわせるため、
「忠臣蔵」四段目の判官切腹の場を本息で真似て演じるシーンが見所。
東京でも『四段目』の題で演じられるが、上方ほど演者が多くない。

淀五郎
<おもな演者>円生/談志/他多数
こちらにも『四段目(蔵丁稚)』同様、「忠臣蔵」四段目の切腹場が出てくる。
意地悪団蔵の描き方に個性が出るのが興味深い。
芝居噺をやらなかった談志が『淀五郎』だけは珍しく音源を残していて、
CD集「立川談志ひとり会 第一期」9巻(1996、竹書房→2004にコロムビアから単品発売)に収録がある。

四人癖
<おもな演者>春雨
東西で演じられる、寄席向けの短い落語。
仕草がメインな上に短い噺のため、長らく音源も映像も市販されていなかったが、
2011年に初めて米朝のDVD集「蔵出し!米朝全集」(ユニバーサル)に収録された。

夜店風景(秘伝書/地上げ)
<おもな演者>円生/9馬風/談志
かつて寄席ではよく演じられた日常生活スケッチネタの一つ。
近年はさまざまな状況が変わり、聴く機会が減った。
噺の後半に登場する怪しい本売りのくだりには、『秘伝書』または『地上げ』の別題がある。
昭和中期に人気を博した9鈴々舎馬風のCDが、ビクター伝統文化振興財団から出ている。

寄合酒(田楽食い/ん廻し)
<おもな演者>米朝/3春団治/円生/他多数
仲間が集まって酒を呑む準備をする噺。東西ともにスタンダードネタ。
準備の段階で失敗を重ねるのが『寄合酒』、田楽を賭けて言葉遊びをするのが『ん廻し』と、
それぞれ独立しており、続けて演じられる機会はあまり無いようだ。






らくだ
<おもな演者>志ん生/円生/6松鶴/他多数
東西ともに演者が多い、大ネタ中の大ネタ。
古典落語の市販音源の点数としては、恐らく最多なのではないだろうか?(筆者主観)
人物描写の違いや、どこにスポットを当てるかなどの演出差など、聴き比べのポイントは多い。
サゲまで演じられることは少ないが、それでも演者によっては1時間近い長演になることもある。



両国八景
<おもな演者>8助六
江戸の町スケッチ落語だが、あまり演じられない。
1993年にキングから発売されたCD「落語教養講座・江戸大百科」所収の
8雷門助六の口演が、おそらく唯一の市販音源。
現在、その孫弟子の3小助六が継承して高座にかけている。

悋気の独楽(りんきの独楽/喜撰小僧)
<おもな演者>2小南/3染丸/8柳枝/他多数
元は上方落語だが、東京でも寄席などで演者多数。
三つの独楽を回すクライマックスは、定吉の実況が笑える。
8柳枝の『喜撰小僧』はこれを改作したもので、
CD「昭和の名人 古典落語名演集 八代目春風亭柳枝」1巻(2009、キング)他に収録

悋気の火の玉
<おもな演者>8文楽/5円楽
火の玉同士がぶつかり合う、凄みの中にマンガチックな愛嬌のある落語。
同じ悋気ネタでも、リアリティのある『悋気の独楽』(別項参照)よりは演者は少なめ。
5円楽のCDが「なごやか寄席」(2010、ユニバーサル)他から出ている。

りん廻し
<おもな演者>談志
談志が『雪てん(雑俳)』(別項参照)のクスグリとして使っていた。
CD集「立川談志ひとり会 第二期」11巻(1997、竹書房→2006年コロムビアから単品発売)収録。



六尺棒
<おもな演者>談志/9文治/志ん生
息子に手を焼く親父の喧嘩のひとコマ。談志が演じる道楽息子は傑作。
上に挙げた演者以外に、3円馬の貴重なSP復刻音源が
CD「落語蔵出しシリーズ」10巻(1998、コロムビア)として世に出ている。

六段目
<おもな演者>1馬の助
「忠臣蔵」六段目のアラ探しをする、『芝居の穴』的漫談の一つ。
CD「落語仮名手本忠臣蔵」(1997、クラウン)に1馬の助の口演が収められている。

ろくろ首(ろくろっ首)
<おもな演者>5小さん/5文枝/他多数
寄席でよく聴ける幽霊噺の一つ。東西で演者多数。
与太郎が主人公である人とそうでない人、サゲの違いなど、演出はいろいろ。
噺の中盤に出てくる、おじさんの合図の仕組みが必要以上に煩雑なのはなぜだろう。






和歌三神
<おもな演者>志ん生
俳人の旦那が出会う、歌詠みの乞食三人の噺。
1990年代頃まで、たまに廉価CD売り場などに並んでいた志ん生の廉価盤CDに
収録されていたが、その後ラインナップから外れてしまった。

わしがかか(姫はじめ)
<おもな演者>2円歌
ほとんど演じ手の少ない艶笑落語。
同じ艶笑落語『宿屋陰門(宿屋かか)』(別項・補遺参照)と展開が似ている。
CD「ビクター落語 二代目三遊亭円歌」1巻(2001、ビクター伝統文化振興財団)に
『姫はじめ』のタイトルで収録されている。

笑い茸
<おもな演者>談志
仏頂という名の笑わない男が主人公の落語。
談志はこの噺と、正反対の笑い過ぎる男が主人公の『胡椒のくやみ』を続けて演じた。
2002年発売のCD集「立川談志プレミアムベスト」2巻(コロムビア)に収録されている。

藁人形
<おもな演者>志ん生/彦六(8正蔵)/歌丸/他多数
藁人形を鍋で煮て呪いをかける方法が独特の、怪談めいた噺。
歌丸の高座は、騙した女に恨みを募らせる様が迫真の演技だった。
この他、5今輔や11文治らのCDもリリースされている。



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