<な・は 行>
※赤文字の見出しは新たに追加した演題
ないもの買い(無いもん買い)
<おもな演者>1春団治/仁鶴/1福郎
上方落語の一ジャンル、商売人泣かせシリーズの中でとりわけ笑いが多いネタ。
仁鶴のCD「日本の伝統芸能シリーズ 落語10 三代笑福亭仁鶴」(1995、テイチク)他に収録。
長崎の赤飯
<おもな演者>円生
円生の独壇場だった、スケールが大きい世話物。
市販音源によっては、サゲまでやらず途中で切っている高座もあるので、
完全版を聴きたい人はCD「円生百席」30巻(1997、ソニー)がオススメ。
中沢道二
<おもな演者>彦六(8正蔵)
彦六が心学ネタのマクラに使った短い噺。
1971年にNHK「お笑い招待席」で、彦六が一席物として演じた音源がマニア間で出回っている。
菜刀息子(弱法師)
<おもな演者>2小南/吉朝
上方の人情噺の大ネタ。菜刀は「ながたん」、弱法師は「よろぼし」と読む。
季節の変化を物売りの声だけで表現する、独特の演出があることで知られる。
2005年に亡くなった桂吉朝の最期の高座がCD化され、追悼式で参列者に配られたのち、
翌2006年に東芝EMIから「製造:東芝EMI(発売ではなく)」のクレジットで市販された。
中村仲蔵
<おもな演者>彦六(8正蔵)/志ん生/円生/他多数
名優・初代中村仲蔵の「忠臣蔵」五段目にまつわる逸話。
彦六が得意にした演目で、歌舞伎の囃子方を務める孫弟子・春風亭一朝のCDも出ている。
長 持(長持ち)
<おもな演者>1小文治
東西で演じられる艶笑落語。
前半は『喧嘩の仲裁』の題で独立した噺になっている(別項・補遺参照)。
1小文治の口演がCD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)に収録されている。
長屋の花見(貧乏花見)
<おもな演者>5小さん/6松鶴/他多数
知名度的にポピュラーで笑い所も多い、長屋の落語の代名詞的存在。
暦が春に入ると、寄席では競って高座にかけられる。
上方の『貧乏花見』では、後半、他の花見客から酒や食べ物を強奪する少々乱暴な展開があり、
東京では談志がその演出を取り入れて演じていた。
クスグリで使われる一句「長屋中 歯をくいしばる 花見かな」は、3蝶花楼馬楽の作。
泣き塩(焼き塩)
<おもな演者>米朝/志ん生
昔の行商の塩売りが登場する珍しい掌編。志ん生と米朝の市販音源がある。
志ん生のCDは「NHK落語名人選54 五代目古今亭志ん生」(1994、ポリドール)。
米朝のCDは「特選!!米朝落語全集」6巻と「米朝珍品集」4巻(ともに東芝EMI)の2種類。
茄子娘
<おもな演者>扇橋/扇辰
夏の寺で起こる不思議な艶噺。扇橋が得意ネタにして、現在は門弟の扇辰らもやる。
扇橋のCDは「NHK落語名人選100」66巻(2015、ユニバーサル)がある。
夏どろ(夏 泥/置き泥/打飼盗人)
<おもな演者>3金馬/2春団治/他多数
数ある泥棒噺の中でも、キャラクターの存在感がとりわけ強烈。
「増補落語事典」に掲載されている『夏どろ』の題だと季節感が限定される一方、
別題の『置き泥』だと、若干演出が変わるものの季節は限定されないので、一年中演じられる。
上方のタイトル『打飼盗人』の打飼(うちがえ)とは財布のこと。
夏の医者
<おもな演者>米朝/枝雀/円生
田舎の農業兼務の医者が登場する上方落語。
上方落語にはうわばみがよく登場するが、この噺でも重要なキーを握っている。
米朝と円生では医者たちの移動行程に違いがあるので、聴き比べると面白い。
枝雀のマンガチックなうわばみの演技が懐かしい。
七 草
<おもな演者>2円歌/4金馬
正月初席の7日、七草の日に寄席で風物詩的に演じられる、短いネタ。
2円歌のCD「二代目三遊亭円歌 名演集」2巻(1990、ポニーキャニオン)所収。
鍋草履
<おもな演者>歌丸
芝居小屋の客席で起こった出来事を描く掌編。
かつて歌丸が得意にして、門弟の歌春らが受け継いだ。
CD「桂歌丸 名席集」4巻(2018、ポニーキャニオン)他に収録がある。
波平行安(項目のみ追加)
読みは「なみのひらのゆきやす」。
『刀屋丁稚』と同じ。(別項・補遺参照)
なめる
<おもな演者>円生/2円歌
タイトルからして艶笑落語。CD「円生百席」31巻(1997、ソニー)他に収録されている。
以前はVHSビデオ市販もあったが、現在単品での映像発売はナシ。
2円歌も演じ、門弟の3円歌の市販音源もかつては存在した。
奈良名所(大仏の眼)
<おもな演者>多数
奈良の大仏の眼を、老人と子供が修繕する小咄。
上方の『東の旅』シリーズの一部でもある。
『大仏餅』(別項参照)はこの小咄とサゲが通じるため、8文楽は仕込みとしてマクラに使った。
成田小僧
<おもな演者>1円遊
1984年に発売されたSP復刻CD「伝説高座シリーズ 名人落語編Ⅰ」(コロムビア)に
1三遊亭円遊の貴重な音源が収録されているのみ。
ただしSP音源なので当然収録時間も短く、内容もほんのサワリ程度である。
二階ぞめき
<おもな演者>志ん生/談志
妄想系落語の中では、吉原の美観を描き方が秀逸で、東京落語の名作とされる。
志ん生と談志が十八番にしていた。
柳家花緑のCD「朝日名人会ライヴシリーズ97 柳家花緑」3巻(2014、ソニー)が出ている。
二階の間男(二階借り)
<おもな演者>円生/米朝
描写はモロではないが、行動が大胆な間男の噺。
円生の『二階の間男』はCD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)、
米朝の『二階借り』は「特選!!米朝落語全集」36巻(1993、東芝EMI)に収録されている。
にかわ泥(仏師屋盗人)
<おもな演者>6松鶴
時代設定が古風な泥棒噺。
東京では演者が途絶えた一方、上方の『仏師屋盗人』は現在でも笑福亭一門が演じる。
ちなみに仏師屋とは、仏像の修繕をしたり製作したりする職人(家業)のこと。
CD集「六代目笑福亭松鶴 上方はなし」(2004、ビクター伝統文化振興財団)所収。
握り屁
<おもな演者>談志
尾籠な方の下ネタ小咄。「増補落語事典」には東京版と上方版で違う内容が載っている。
市販音源としては、CD集「立川談志プレミアム・ベスト」(2002、コロムビア)の特典盤
『初席の思い出』で、談志がさまざまな小咄を披露するうちの一つとして、
「7橘家円太郎はこんな小咄を正月の寄席でやった」と上方版を演じている。
錦の袈裟
<おもな演者>円生/5柳朝/3金馬/他多数
与太郎が女房に送られて、仲間と吉原で遊ぶ噺。上方のタイトルは『袈裟茶屋』。
この落語に出てくる与太郎には女房もいるし、ほぼ普通に生活しているっぽい。
そのためか、5柳朝は与太郎でなく熊公にしてやっていた。
二十四孝(廿四孝)
<おもな演者>5小さん/10文治/3金馬/他多数
『天災』と並ぶ長屋の訓話噺。昭和の名人が数多く音源を残す。
CD「なごやか寄席」(ユニバーサル)からは5小さんと10文治の口演が出ている。
にせきん(にせ金)
<おもな演者>喜多八
かつて円生、現役では雲助もやる艶笑落語。
1996年に浅草木馬亭で柳家喜多八が口演した音源が、マニア間で出回っている。
上方には似た展開の艶笑落語『綿屋火事』があり、CDにもなっているが、
「増補落語事典」の解説には「上方の『綿屋の火事(原文ママ)』は別話」とある。
ただし同書に『綿屋(の)火事』の項目は無い。
二丁ろうそく
<おもな演者>7馬楽/今松
演じ手の少ないケチ噺。市販音源は無いようだ。
1998年9月のNHKラジオ「真打ち競演」で、7蝶花楼馬楽が口演した。
またむかし家今松も持ちネタにしており、2012年に「ラジオ深夜便」で放送された。
二人旅(煮売屋)
<おもな演者>5小さん/談志/枝雀/他多数
柳家系のお家芸の一つ。道行きののんびりした掛け合いに独特の面白さがある。
上方では『東の旅』シリーズの序盤で、『煮売屋』のタイトル。ここから『七度狐』に続く。
二八義太夫(二八浄瑠璃)
<おもな演者>五郎兵衛(五郎)
義太夫(浄瑠璃)の「忠臣蔵」六段目を語りそこねる噺。
CD「落語 仮名手本忠臣蔵」(1997、クラウン)では五郎兵衛が『二八浄瑠璃』の題で演じる。
二番煎じ
<おもな演者>10馬生/1春団治/他多数
夜回りのシーンに江戸時代の冬の夜をリアルに感じさせる大ネタ。
過去に多くの名人が音源を残し、現在も多数の演者が高座にかける。
元は上方落語で、1および2春団治、また桂南光らのCDが出ている。
にゅう
<おもな演者>4円馬/喬太郎
かつては三遊亭円朝も演じたという、骨董鑑定家の噺。
2002年7月にNHKラジオ「ラジオ名人寄席」で4円馬の高座が放送(途中臨時ニュースが入る)。
その後、喬太郎が2017年8月の落語研究会で高座にかけた映像が、
現在「Gyao」等のネット動画で配信されている。
睨み返し
<おもな演者>5小さん/小三治
暮れの借金取り撃退ネタの一つ。睨み顔の表情で笑わせる「見る落語」。
5小さん・小三治の師弟がそれぞれに見せる「睨み」の演技が抜群。
2人の高座を同時収録した映像ソフトが出ないかなぁ。
庭 蟹
<おもな演者>志ん生
ダジャレが得意な番頭が出てくるお店ネタ。
ネット情報によると、最近は改題して『洒落番頭』の題で演じられることがあるそうだ。
志ん生のCD「志ん生落語集ベストセレクション」1巻(2013、コロムビア)の
『化物使い』のマクラに小咄として出てくる。
人形買い
<おもな演者>円生/仁鶴
節句人形が出てくる季節の落語。東西で演じられる。
易者・講談師・神道講釈が次々に現れ、それぞれに長講釈をぶつ場面があるが、
東京では簡略化され、前半の小僧とのやりとりで切る演出が主流。
円生も演じたがCD「円生百席」(ソニー)には収録が無く、1992年にテイチクからリリースされた。
抜け裏
<おもな演者>6馬楽
長屋を舞台とした5柳亭燕路の新作。
1998年発売のCD集「古典落語の巨匠たち 第二期」(ゲオ販売)に6馬楽の口演が収録。
同じ音源が2018年10月の文化放送「志の輔ラジオ 落語DEデート」でもオンエアされた。
抜け雀
<おもな演者>志ん生/10馬生/志ん朝/他多数
小田原の旅籠にやって来た、不思議な技を持つ絵師の噺。
志ん生親子ら古今亭系が音源を残す一方、他系統でも広く演じられている。
元来は上方落語だそうで、米朝のCD「米朝珍品集」3巻(1989、東芝EMI)もある。
ぬの字鼠
<おもな演者>米朝
お寺を題材にした珍しい掌編。米朝以外にやり手が無い。
CD「米朝珍品集」1巻(1989、東芝EMI)所収。
ねぎまの殿様
<おもな演者>5今輔
殿様が居酒屋でねぎま鍋に感動する、いわば『目黒のさんま』(別項参照)の冬版。
新作中心だった5今輔が持ちネタにしていて、CDが数種類出ている。
猫怪談
<おもな演者>円生
与太郎が主役の落語の中では異例の怪談。
タイトルに猫と付くが、本編に猫はほとんど登場しない。
CD「円生百席」32巻(1997、ソニー)他、数社からリリースされている。
猫 久
<おもな演者>5小さん
人が好くて「猫久さん」と呼ばれる男の噂話。
こちらは猫どころか「猫久さん」本人も噺の中に出てこない。
噺全体にゆったりした空気が流れる、柳家系の風味が横溢した長屋噺。
猫 定
<おもな演者>円生
こちらは博打打ちの定吉と猫が主役の因果物仕立て。
CD「円生百席」33巻(1997、ソニー)所収。
他では柳家さん喬・五街道雲助ら、人情噺を演じる落語家が持ちネタにしている。
猫芝居
<おもな演者>4文我
芝居好きな若旦那が飼い猫と芝居の真似事をする、珍しい噺。
2002年発売のCD「四代目桂文我 定番+珍品 たっぷり二席」(エーピーピー)に収録。
猫 忠(猫の忠信)
<おもな演者>円生/米朝/枝雀
上方では『猫の忠信』のタイトルだが、東京では縮めて『猫忠』と呼ばれることが多い。
お芝居の「狐忠信」を猫に置き換えた、派手なクライマックスが聴きもの。
猫の災難(犬の災難)
<おもな演者>5小さん/6松鶴/他多数
酒呑みの心理を余す所無く描いた落語。東西で演じられる。
5小さんや6松鶴が演じる酔っ払いは、思わず笑ってしまって憎めない。
また志ん生は、犬が鶏肉を盗む設定に変えた『犬の災難』として高座にかけており、
志ん生および志ん朝、さらに曾孫弟子の桃月庵白酒のCDが出ている。
猫の茶碗(猫の皿)
<おもな演者>志ん生/志の輔/米朝/他多数
果師(はたし)と呼ばれる骨董買取人が、田舎の茶屋で偶然、価値ある皿に出会う噺。
「増補落語事典」には『猫の茶碗』の題で掲載されているが、
近年は『猫の皿』の題で高座にかかることが圧倒的に多い。
『猫の茶碗』としては、上方の米朝のCDがある。
ねずみ
<おもな演者>扇橋/3三木助/歌丸/他多数
伝説の名工・左甚五郎シリーズの一つ。東北(仙台)が舞台というのが珍しい。
ねずみ屋の主人が一人語りでストーリーを説明する前半で、いかに引き込むかが聴かせ所。
昭和の名人で持ちネタにしたのは3三木助くらいだったが、近年は幅広く演じられている。
鼠 穴(ねずみ穴/鼠の穴)
<おもな演者>談志/円生
単なる夢ネタから、談志が「兄弟間の憎悪」を掘り下げる演出に改めた。
「夢は五臓の疲れ」という慣用句が現在一般的でないため、事前に仕込む必要がある。
1977年にポリドールが発売したテープ「NHK落語名人選30 立川談志」の収録タイトルは『鼠の穴』。
鼠の耳
<おもな演者>五郎兵衛(五郎)
数あるバレ噺の中で、公の場での口演に適さない最右翼ともいえそうな落語。
CD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)に五郎兵衛の高座が収録されている。
寝 床(素人浄瑠璃/素人義太夫)
<おもな演者>8文楽/円生/枝雀/他多数
名人と呼ばれた落語家の市販音源がズラリと揃った大ネタ。
東西や年代による演出の違い、ポイントの置き所など、いろいろ聴き比べてみたい。
サゲまで演じない場合は『素人浄瑠璃(義太夫)』のタイトルになることもある。
志ん生も途中で切ったクチだが、初めて聴く人ならひっくり返るであろうエンディングであった。
軒付け
<おもな演者>米朝/枝雀
素人の浄瑠璃好きが集まって、門付けで互いに語り合う噺。
全編コント調で、笑いが最初から最後まで続くのがいかにも上方落語らしい。
このタイプのネタは東京には移植されない。
野崎詣り
<おもな演者>1春団治/3春団治/2小南
5月初旬、大阪の野崎観音をお詣りする行事でのひとコマを描いた上方落語。
観光客が土手と舟から怒鳴り合うやりとりが笑いを誘う。
この噺のサゲは東京の『小粒』(別項参照)にクスグリとして流用されている。
野ざらし(骨釣り)
<おもな演者>3柳好/談志/米朝/他多数
演者の多い粋な幽霊噺。3柳好の代名詞にもなった演目として有名。
上記演者の他にも、8柳枝や5円楽らが得意ネタにした。
上方の『骨釣り』は設定が大幅に異なる内容で、米朝・南光のCDがある。
野 辺
<おもな演者>多数
上方落語『東の旅』シリーズの前半の一部。『発端』と『煮売屋』の間。
道行の会話が延々続く部分で、この部分のみ独立して市販されることは無い。
のめる(二人癖/二人ぐせ)
<おもな演者>3金馬/円生/米朝
寄席などで聴く機会が多い前座噺。
『のめる』の題では、2000年発売の「古典落語の巨匠たち」(テイチク)の円生ぐらいだが、
『二人癖(二人ぐせ)』の題では、3金馬・8柳枝・米朝・6松喬ら東西の落語家の音源が出回っている。
ただし一番出回っているのは、例の10馬生の各社転々としている無許可高座音源。
羽団扇
<おもな演者>2円歌/談志/小遊三
夢に天狗や七福神が現れる、『天狗裁き』(別項参照)をもうひと押ししたような噺。
演者も市販音源も少なく、2円歌と談志のCD、小遊三のDVDが世に出たくらい。
羽織の遊び
<おもな演者>円生/志ん朝
連中が若旦那をくどいて遊びに連れて行ってもらう算段をたてるが、
ストーリーは結局遊びの場面が無く、起承転結の承で終わる。
ただし「増補落語事典」の解説では、これに続く遊びの場面も紹介されている。
志ん朝のCD「落語名人会10 古今亭志ん朝」10巻(1995、ソニー)所収。
羽織の幇間(旦那の羽織)
<おもな演者>彦六(8正蔵)
演じ手の途絶えた幇間ネタ。東西で演じられる。
1993年にテイチクから出たテープ「花形落語特撰 八代目林家正蔵」では
『旦那の羽織』のタイトルで収録されていて、これが唯一の市販音源。
しかも彦六(8正蔵)が主役の幇間の一人称で全編語りとおすという、特別な演出のものだった。
墓 見(天神山/葛の葉/安兵衛狐)
<おもな演者>志ん生/枝雀/5文枝
上方では『天神山』、東京では現在は主に『安兵衛狐』のタイトルで演じられる。
前半は女の幽霊、後半は人間に化けたメス狐が、それぞれ人間の嫁に来る噺。
1979年に5文枝(当時小文枝)が読売テレビ「お笑いネットワーク」で演じた際は、
クライマックスに立ち高座になって、
「恋しくば たづねきてみよ南なる 天神山の森の中まで」
の一首を障子に筆で曲書きするという、芝居掛かりの演出だった。
この貴重な映像は、2008年によしもとアールアンドシーから出たCD&DVD集に収録されている。
白銅の女郎買い(五銭の遊び)
<おもな演者>志ん生
金の無い若者がエピソードトークをしゃべり合う、明治期の吉原の噂。サゲは無い。
志ん生が『五銭の遊び』のタイトルで口演したCD音源のみ市販されている。
化物使い
<おもな演者>志ん朝/5小さん/3三木助/他多数
人使いの荒いご隠居が化物屋敷に引っ越したことで起こるひと騒動。
ご隠居の一人喋りで、何種類もの化物の動きや表情を描写するのが聴き所。
演者によってあちこち演出が違っているので、聴き比べを乞う。
羽 衣(羽衣の松)
<おもな演者>志ん生
志ん生の口演音源だけが残る、おとぎ話のような短い噺。
市販CDは「五代目古今亭志ん生 名演大全集」12巻(2005、ポニーキャニオン)他、数種類ある。
八五郎坊主
<おもな演者>枝雀/2小南
秋の寺方が舞台となる上方落語。
枝雀の口演音源がたびたび市販されたが、新盤が出るにつれて噺のディテールが省略された。
CD「枝雀落語大全」32巻(2001、東芝EMI)に収録された高座は、1987年「桂枝雀独演会」収録のもの。
八問答
<おもな演者>1春団治
八尽くしの問答をやりあう上方落語。1春団治が他の短い落語と合わせて一席にした。
CD「春団治三代 初代桂春団治」1巻(1999、クラウン)に収録がある。
東京では春雨や雷蔵らが高座にかけている。
八 足(貴 様)
<おもな演者>1春団治
無筆の男が間違った文字の講釈をされてからかわれる噺。
CD「春団治三代 初代桂春団治」2巻(1999、クラウン)所収。
『八足』のタイトルでは、この1春団治の復刻音源以外市販されていないが、
6松鶴がサゲ前で切って、『貴様』のタイトルで演じる音源が水面下で出回っている。
初天神
<おもな演者>小三治/仁鶴/他多数
東西ともに演者が多数いる、親子ネタの定番。
東京では、子供が父親にダンゴをせびる場面がハイライトだが、
上方では、子供が近所の住人にむけて、両親の夜の様子を聞かせるくだりがあり、
さらに古い演出になると、子供が母親に過去の父親の登楼話を暴露する箇所がある。
ちなみに子供の名前は、東京では金坊、上方では虎コ(虎公?)。
初音の鼓(ポンコン/ぽんこん)
<おもな演者>円生/彦六(8正蔵)
古道具屋が殿様を騙して鼓を高価で売りつけようとする噺。
『継信』(別項参照)の別タイトルも『初音の鼓』だが、違う話である。
円生と彦六の口演音源は、現在いずれもセット販売のものしかない。
1998年発売のCD集「立川談志ひとり会 第三期」22巻(竹書房)から
単品売りになった同題CD(2012、コロムビア)が入手しやすい。
派手彦
<おもな演者>円生
男勝りの舞踊の師匠と女嫌いの番頭による、不思議な恋の噺。
クライマックスからサゲまでが現代では通じにくいため、円生以降やり手がほとんどいない。
CD「円生百席」35巻(1997、ソニー)他が市販されている。
花 筏
<おもな演者>円生/8柳枝/枝雀
東西ともに演じられる、比較的笑いの多い相撲噺。
放送も写真も無かった昔、地方興行に別人の代役を送ることは普通だったのだろう。
ラストで対決することになる提灯屋と千鳥ヶ浜の、土俵上の心理描写が笑わせる。
相撲好きの円生の口演は、マクラの相撲蘊蓄も楽しかった。
鼻利き源兵衛(出世の鼻)
<おもな演者>5円楽
1981年7月にNHKで放送された「NHK古典落語選集」という番組企画で
5円楽が発掘し、『出世の鼻』のタイトルで口演した。
2007年にNHKサービスセンターから発売されたCD&DVD集
「至芸 五代目三遊亭円楽 特選落語名演集」4巻に、この時の高座が収録されている。
鼻ねじ(隣りの桜)
<おもな演者>2小南/3染丸/松葉(7松鶴)
桜を巡る近隣トラブルを題材にしていて、その意味では現代にも通じる上方落語。
襲名前に他界して7松鶴の名跡を追贈された笑福亭松葉の口演CDが、
CD「ビクター落語 上方篇」(2004、ビクター伝統文化振興財団)としてリリースされている。
花の都
<おもな演者>2小南
かつて東京の2小南だけが演じていた、荒唐無稽な上方落語。
1975年にレコード「桂小南集」8巻(CBSソニー)に収められ、
1998年にはCD集「古典落語の巨匠たち 第二期」(ゲオ販売)に収録された。
鼻ほしい(口惜しい)
<おもな演者>談志/円生/10文治
主人公の男が鼻を無くした理由が演者によって異なる。
CD集「談志百席」(2005、コロムビア→2011に単品発売)に談志の、
同じくCD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)に円生の高座が収録されている他、
CS伝統文化放送(現・歌舞伎チャンネル)の「特選落語・桂文治の会」(放送日不詳)では
10文治が『口惜しい』の題でやっていた。
花見酒
<おもな演者>彦六(8正蔵)/6柳橋
時折経済学の例えにも使われる、花見シーズンの落語。
6柳橋と彦六の音源は、発売時期は違うがいずれも「NHK落語名人選」(ポリドール)。
三遊亭小円馬の複数のCDはすべて、マイナーレーベルを転々としている例の無許可音源。
花見の仇討(桜の宮)
<おもな演者>3金馬/5小さん/円生/他多数
花見の場で茶番を企てる長屋連中と酔った侍がひと悶着起こす噺。
「パフォーマンス」という表現が一般化して以降、茶番の説明がしやすくなった。
ただし逆に、六十六部(六部)の説明が現在では難しいかもしれない。
上方では『桜の宮』の題で、南光のCD「南光落語ライブ」7巻(2000、東芝EMI)が出ている。
はなむけ
<おもな演者>談志
気性の違う兄弟が出てくる稀少ネタ。
2006年に談志が3小円朝の口演を思い出しつつ演じた音源が
CD集「談志百席 第五期」41巻(竹書房)に収録され、2013年コロムビアから単品発売された。
浜野矩随(名工矩随)
<おもな演者>志ん生/志ん朝
主人公の二代目職人・浜野矩随(のりゆき)は江戸中期の実在の人物。
志ん生は人情噺として『名工矩随』のタイトルを用いたが、
2011年にキングが発売したCD「昭和の名人 古典落語名演集」14巻では
『浜野矩随(名工矩随)』と2つの題を併記している。
志ん生・志ん朝親子の他、5および6円楽師弟がそれぞれCDリリースしている。
囃子長屋
<おもな演者>5今輔
全編クチ囃子という斬新なリズムネタ落語。5今輔以降、やり手が途絶えたのが惜しい。
今輔の見事な口演音源が、数社から出ている。
反魂香(高 尾)
<おもな演者>志ん朝/8可楽/3春団治
浪人者と亡き妻の幽霊との愛情を描いた、夏の怪談ネタ。
3春団治の十八番で、上方ではもっぱら『高尾』のタイトルが使われる。
ただし「増補落語事典」に載っている『高尾』は『仙台高尾』の別題(別項参照)。
播州巡り(播州めぐり/西の旅/明石名所)
<おもな演者>松之助/円都
上方の『東の旅』シリーズと相対する『西の旅』シリーズの一部。
口慣らしの前座ネタで、特にストーリーは無く、面白おかしく旅ガイドを進めるといった内容。
2松之助が1999年6月のNHK教育(現・Eテレ)「日本の話芸」で口演し、
CD&DVD集「楽悟家 笑福亭松之助」(2009、よしもとアールアンドシー)に映像が収められた。
また、橘ノ円都のCD「ビクター落語上方篇」(2004、ビクター伝統文化振興財団)には
『西の旅(明石・舞子・須磨)』のタイトルで3編に分けて収録されている。
反対車(反対俥/いらち車)
<おもな演者>10文治/談志/彦いち/他多数
明治から大正にかけて活躍した人力車夫の滑稽噺。
派手なアクションのクスグリがふんだんに入れられるネタでもある。
寄席などでは頻繁に聴けるが、動きのネタのため市販音源は少ない。
ちなみにCD・DVDのタイトル表記は、10文治が「車」、談志・彦いち・喬太郎は「俥」。
半分垢
<おもな演者>志ん生/2小南
寄席向きの短い相撲噺。近年は他の相撲ネタに負けて、聴ける回数が減ったようだ。
音源市販は、上記演者以外では談志と1福郎のCDがある。
東の旅/伊勢参宮神の賑い (発端)
<おもな演者>米朝/2小南
上方落語の旅噺の代表、『東の旅』シリーズの冒頭。
寄席の開口一番で、張り扇と小拍子を「ガチャチャパン!」と賑やかに鳴らして進行する。
参考までに、4文我の著書『伊勢参宮神賑』(2014、青蛙房)によれば、
『東の旅』シリーズを通しで口演すると、順番は以下の通り(カッコ内は別題)。
<往路>
『発端』→『奈良名所』→『野辺』→『煮売屋(二人旅)』→『七度狐』→『もぎどり』→『軽業』
→『軽業講釈』→『運つく酒(長者番付)』→『常太夫儀太夫』→『鯉津栄之助(こび茶)』
→『三人旅』→『浮かれの尼買い(おしくら)』→『宮巡り』
<復路>
『桑名舟(兵庫舟/鮫講釈)』→『軽石屁』→『天狗山(高宮川天狗酒盛)』→『これこれ博打』
→『矢橋舟』→『宿屋町』→『瘤弁慶』→『走り餅』→『京名所』→『三十石』
(最後に番外として『宿屋仇(宿屋の仇討ち)』を掲載)
なお、この4文我の説明には、米朝が『東の旅』の一部に挙げる『お杉お玉』が入っていない。
米朝の説(「増補落語事典」の解説も同様)では、『常太夫儀太夫』の次に『お杉お玉』が入る。
これは双方解釈が異なるためで、見解の統一はされていないことだけ付記しておく。
備前徳利
<おもな演者>小三治
備前池田藩に勤める酒好きの武士とその息子の噺。
小三治が放送で2度かけたのち、2007年にソニーからCD化された。
日高川
<おもな演者>円生/扇橋
旅先の紀州で起こる、不思議な展開の恋話。
『弥次郎』(別項参照)を長演する際、サゲ間際で使われることがある。
CD「円生百席」42巻(1997、ソニー)の『弥次郎』に出てくる。
引越の夢(口入屋)
<おもな演者>9文治/米朝/小円遊
東京ではお店の夜這いのシーンに焦点が当てられるため艶笑落語扱い。
上方は『口入屋』の題で、口入屋の店内の描写から噺が始まる。
昔の大店の台所の構造は、現代ではかなり分かりにくい。
秀吉の猿(太閤の猿/太閤の白猿)
<おもな演者>1福郎
かつて1森乃福郎が『太閤の猿』の題で演じた、珍しい歴史ネタ。
2002年発売のCD「ビクター落語 上方篇 初代森乃福郎」2巻(ビクター伝統文化振興財団)に収録。
2015年のNHK新人落語大賞では、笑福亭べ瓶が『太閤の白猿』の題でエントリーしていた。
一つ穴
<おもな演者>円生
妾宅に通う主人とその妻に挟まれる使用人・権助の噺。
同様の人物設定で笑いの多い噺が他にいくつもあるため、最近は演者も市販音源も少ない。
CD「円生百席」36巻(1997、ソニー)所収。
人まね
<おもな演者>志ん生
マクラの小咄。志ん生が『金明竹』のマクラで使っている。
1998年にアークという廉価盤CDの会社から出た「古今亭志ん生名演集」37巻に収録。
現在入手できるかどうか、同じ音源が別のCDにあるかどうか等は不明。
近年は同じ「人まね」のマクラでも、ペットの猿やオウムなどの小咄をやる人が多い。
一目上り(一目上がり)
<おもな演者>5小さん/3金馬/3小円朝
一目上がりは縁起がいいということで、正月初席など、おめでたい場でかけられる。
「増補落語事典」の送り仮名表記は「上り」で、市販音源は「上り」「上がり」の両方あるので
CDを探す際は両方で検索すること推奨。
一人酒盛(一人酒盛り)
<おもな演者>5小さん/円生/米朝/他多数
東西で演じられる酒呑みの噺。
上方は6松鶴の型(東京と同じ)と米朝の型(引っ越し作業の片手間に呑む)の二通りがある。
これも送り仮名表記が「酒盛」と「酒盛り」の2種類あるので、双方検索することをオススメ。
雛 鍔
<おもな演者>3金馬/市馬/他多数
お武家様のご子息と長屋の大工の小倅の対比を、ドラマ風に描く。
子供が「こーんなもーのひーろった」とはしゃぐフレーズは3金馬がパイオニア。
故人・現役とも市販音源多数。
姫かたり
<おもな演者>志ん生/談志
暮れの噺の一つ。艶笑味のある展開で医者が騙されるストーリー。
志ん生が持ちネタにして、談志がさらに分かりやすく演じた。
CD集「立川談志ひとり会 第四期」33巻(竹書房)所収。のち2013年にコロムビアから単品発売。
干物箱(吹替息子)
<おもな演者>8文楽/志ん朝/他多数
放蕩息子の逃げ出し作戦。タイトルの『干物箱』は作中のギャグの一つ。
昭和の名人の高座音源が数多く残っていて、ファンは聴き比べが楽しめそう。
上方では『吹替息子』という初見でも伝わりやすいタイトルで演じられる。
百年目
<おもな演者>米朝/5文枝/円生
米朝をして「一番難しい」と言わしめた、上方落語の春の大ネタ。
お店の説教~舟遊び~番頭の悪事発覚~煩悶と、息もつかせぬ展開を経て、
最後に旦那のゆっくりとした説諭からサゲまで、演者によっては総計1時間近くかけて演じられる。
東京では円生が十八番にした。CD「円生百席」37巻(1997、ソニー)でじっくり聴ける。
一方ではぐっと簡略化した志ん生・志ん朝親子の音源もある。
日和違い(日和ちがい)
<おもな演者>枝雀/円都/3文我
枝雀が「天気予報は何故当たらないか」とやったマクラが有名。
CD「枝雀落語大全」9巻(2000、東芝EMI)には『日和ちがい』の表記で収録されている。
東京では4円遊が演じていた。
平 林
<おもな演者>2小南/他多数
東西で広く演じられる前座噺だったが、近年はやる人が減ったようだ。
従来のサゲ周辺の用語が現在自粛対象のため、演者各自で工夫を施している。
CD「ビクター落語 上方篇 三代目桂春団治」5巻(ビクター伝統文化振興財団)他に収録されている。
貧乏神(2)
<おもな演者>円生
「増補落語事典」には同題の(1)が掲載されているが、未聴。
この(2)は円生が『開帳の雪隠』(別項参照)のマクラに使っていた短い噺。
2008年にコロムビアから発売された「六代目三遊亭円生 落語名演集」6巻に収録がある。
なお、枝雀が演じる『貧乏神』は小佐田定雄脚本による新作落語。
河豚汁(河豚鍋/ふぐ鍋)
<おもな演者>2小南/吉朝/他多数
ふぐ鍋を食べる仕草をたっぷり見せる上方落語。
「増補落語事典」の項目は『河豚汁』だが、近年はもっぱら『河豚鍋』または『ふぐ鍋』の題がつく。
東京ではかつて2円歌や2小南が持ちネタにし、近年さらに演者がひと回り増えている。
不孝者(茶屋迎い)
<おもな演者>円生/三三
それぞれに花柳界道楽をする親子の噺。上方のタイトルは『茶屋迎い』。
CD「円生百席」38巻(1997、ソニー)他、円生の市販音源はなぜかすべてスタジオ収録である。
最近では柳家三三が得意ネタにしている。
富士詣り
<おもな演者>3小円朝/権太楼
東京の旅噺(山登り)の中では高座にかかる頻度が少ない。
市販音源も少なく、現役でCDリリースしている権太楼もセット売りのみ。
よく出回っている橘ノ円の高座は、例の会社を転々としている無許可販売の音源。
無精床(不精床)
<おもな演者>志ん生/円生/他多数
およそ現代ではない設定ながら、キャラクターが落語的で、今も演じられる機会が多い。
昔の床屋の仕草などは、若い落語ファンにとって逆に新鮮かもしれない。
市販音源も意外と多く、上記演者以外にも5小さん・談志や志らくのCDもある。
無精の代参(不精の代参)
<おもな演者>米朝/枝雀(小米)/雀三郎
これまたいかにも落語チックな、デフォルメの効いた人物描写が笑える上方落語。
CD「枝雀落語大全」36巻(2001、東芝EMI)に収められた、1968年当時の枝雀(小米時代)の高座が貴重。
武助馬
<おもな演者>円窓/談志/鯉昇
旅役者の失敗ネタ。上方では『武助芝居』のタイトル。
落語の始祖の一人、鹿野武左衛門が遠島の刑にあったキッカケの落語といわれている。
円窓のCD「古典落語名演集 六代目三遊亭円窓」5巻(2009、キング)所収。
双蝶々(上)(中)
双蝶々(下)
<おもな演者>円生/彦六(8正蔵)
人情噺は掲載対象外の「増補落語事典」で、「上・中・下」に項目分けして紹介されている。
ただし大抵は「上・中」がまとめて演じられる場合が多く、実質「上・下」2編。
彦六は「下」を道具立て芝居噺で演じることがあった。
ふたなり
<おもな演者>米朝/志ん生
怪談系の噺だが、両性具有を題材にするため、艶笑落語に分類される場合もある。
1989年発売のCD「米朝珍品集」5巻(東芝EMI)に収録がある。
東京では志ん生や4円遊がやり、また幽霊噺が得意な柳家蝠丸が持ちネタにしている。
ふだんの袴(普段の袴)
<おもな演者>5小さん/彦六(8正蔵)/円窓
お武家様の真似をして失敗する八五郎の、落語の基本・オウム返しネタ。
5小さん系や彦六系を中心に受け継がれ、最近では春風亭一之輔らがやる。
不動坊(不動坊火焔)
<おもな演者>枝雀/仁鶴/5小さん
仲間の結婚を妬んだ連中が、幽霊の悪戯を仕掛ける噺。
東西で演じられるが、東京では夏、上方は冬と、真逆の季節設定になっている。
他にも悪戯に加担する芸人が、東京は噺家で上方は講釈師など、構成も一部異なる。
「遊芸稼ぎ人」というのは明治期に芸人に対して発布された鑑札だが、今は分かりづらい。
船 徳
<おもな演者>8文楽/志ん朝/他多数
勘当された若旦那が出入りの船宿で船頭として働く、東京落語の人気演目。
東京落語の若旦那物の大ネタ。8文楽から志ん朝へ、華麗な高座が継承された。
他にも若手からベテランまで、多くの落語家がさまざまな工夫を凝らして演じている。
元は人情噺『お初徳兵衛』(別項・補遺参照)の前半部分だったという。
船弁慶
<おもな演者>枝雀/5文枝/百生
夏の季節感をいっぱい詰め込んだ上方落語。
亭主をビビらせるガチャガチャのお松は上方落語の名物キャラクターの一人でもある。
クライマックスで唐突に芝居掛かりになるのも、これまた上方の大ネタ独特の演出。
文違い
<おもな演者>志ん生/円生/8可楽
新宿の女郎屋で繰り広げられる、色と金の騙し合い。
複数の男女関係が巧みに絡み合い、皮肉なほどにドラマチック。
演者によって重点を置く登場人物が違ってくるので、聴き比べると楽しい。
古着屋(古手買い/古手買)
<おもな演者>米朝/9文治/4円遊
買い物ネタの一つだが、大抵は前半までで切って演じられるようだ。
「増補落語事典」には『古着屋』と掲載されているが、市販音源は『古手買い』か『古手買』。
CD「昭和の名人 古典落語名演集 九代目桂文治」3巻(2010、キング)所収。
風呂敷
<おもな演者>志ん生/志ん朝/他多数
『紙入』(別項参照)と並んで演じ手の多い、間男の噺。
クライマックスシーン同様、前半で鳶頭が女房に説教するフレーズも有名。
談志はサゲをひと捻りして演じ、意外性のあるどんでん返しにしていた。
数少ない「志ん生の高座映像」の一つで、2019年にNHKから3枚組DVD集が出た。
文七元結
<おもな演者>談志/志ん生/志ん朝/他多数
暮れに演じられる屈指の大ネタの一つ。歌舞伎芝居としても知られる。
多くの名人落語家が高座音源を残しているので、聴き比べ推奨。
「娘を吉原に売った金をなぜ見ず知らずの他人にやるのか?」
というストーリー最大の矛盾点を、それぞれの演者が演技をもって解説してくれる。
べかこ
<おもな演者>米朝
上方落語で、芸人が旅の御難に遭う噺。タイトルのべかこは「あかんべえ」のこと。
後半~クライマックスは鳴り物が入って芝居調になる。
CD「特選!!米朝落語全集」38巻(1993、東芝EMI)所収。
へっつい盗人
<おもな演者>仁鶴/1春団治
間抜けな泥棒二人組が古道具屋にへっついを盗みに入る噺。
上方落語だが、1993年6月放送の「落語のピン」(フジテレビ)で東京の春風亭昇太がやっていた。
へっつい幽霊
<おもな演者>3三木助/志ん生/談志/他多数
東西で演じられる幽霊噺の大ネタ。
志ん生系と3三木助系ではストーリー運びか大幅に異なる。
博打打ちと勘当された若旦那が出てくるのが3三木助系で、談志や上方の6松鶴も同様。
一方の志ん生系は前半をショートカットして、長屋の男がいきなりへっついを買う。
「増補落語事典」ではあまり演じられなくなった上方版の本来のサゲも紹介している。
逸見十郎太
<おもな演者>8文治
明治時代の芝居噺「西南軍記」の一部で、ほぼ全編芝居調。現在は演者がいない。
レコード「落語名人大全集」特典盤(1974、キャニオン)に8文治の音源の収録があるのみ。
箒屋娘
<おもな演者>2小南
上方の稀少な人情噺。2小南のレコード「桂小南集」6巻(1975、CBSソニー)所収。
CDとして市販されているのは通販会社のセット物のみ。
6松喬は生前、6文枝と共同で『箒屋娘』を改作して『住吉詣り』という噺を創作したという。
法事の茶(ほうじの茶/焙じの茶)
<おもな演者>円窓/菊之丞/1円右/他多数
ネタの中で演者が得意の声色を披露するという趣向入りの珍しい落語。
三遊亭円窓が近年復活させ、その後、演者が増えた。
それ以前の1三遊亭円右や8金原亭馬生らのSP復刻音源では、歌舞伎役者の声色を演じていた。
上方の4文我はバイオリンなど楽器の演奏を取り入れている。
一方で、ラジオで聴いた三笑亭夢楽の高座では、何も入れ込まず普通の演出でやっていた。
坊主の遊び(坊主茶屋)
<おもな演者>3円歌/志ん生/米朝
坊主頭の隠居が、ふられた腹いせに吉原の女郎の頭を剃っちゃう噺。
上方版の『坊主茶屋』になると内容がひと回りエグくなる。
3円歌のCD「NHK新落語名人選 三代目三遊亭円歌」(2005、ユニバーサル)が出ている。
棒 鱈
<おもな演者>5小さん/さん喬
江戸っ子が料理屋で無粋な田舎侍に見せる反骨心が痛快な落語。
侍が「イチガチ~は、まつか~ざり…」と唄う「十二ヶ月」というバカバカしい唄が好き。
柳家系のお家芸で、5小さんからさん喬らに伝わっている。
庖 丁(包 丁/包丁間男)
<おもな演者>円生/文珍
男女の濃密な感情のもつれと心の機微を演じる、心理ドラマのような難しい噺。
円生の十八番で、円生だけで数種類のCDが出ている。
上方では『包丁間男』のタイトルで、文珍が持ちネタにしている。
豊年医者(箱根山)
<おもな演者>円生
『豊竹屋』のマクラに使う小咄。
「こちゃえ節」という明治の流行歌の替え歌が出てくる。
棒 屋(無筆の棒屋/無筆の片棒)
<おもな演者>1春団治/4円馬
上方落語ではおなじみ商売人泣かせシリーズ。
サゲ付近に自粛対象の言葉が入るため、4円馬以降演者が途絶えた。
1春団治のCD「春団治三代 初代桂春団治」4巻(1999、クラウン)では『無筆の片棒』のタイトル。
星野屋
<おもな演者>8文楽/6柳橋/志ん生
お囲い者の女と旦那、さらにその周囲の人間たちによる嘘合戦。
後半の逆転に次ぐ逆転のストーリー展開を、談志はかつて映画『スティング』に喩えていた。
市販音源は少なく、上に挙げた以外では、上方の文珍のCDが出ている。
1984年にビクターから春風亭小朝のレコードが出たが、CD化はされていない。
仏 馬
<おもな演者>喬太郎
演じ手の途絶えていたが、喬太郎がいろいろ脚色して再び高座にかけた稀少ネタ。
2003年1月、BS-i (現・BS-TBS)の「BS落語研究会」でオンエアされた。
骨違い
<おもな演者>円生
死体遺棄の陰惨なネタだが、マクラの犬が喋る小咄『いつ受ける』(別項・補遺小咄参照)は妙に面白い。
CD「円生百席」38巻(1997、ソニー)所収。
堀 川(むちゃ息子)
<おもな演者>5文枝/4染丸/2ざこば
上方落語。前半で切ることが多いが、フルサイズなら後半の猿回しの場面が見所。
『むちゃ息子』はざこばが即興でつけたタイトルで、2001年に東芝EMIからCD発売された。
堀の内(いらちの愛宕詣り/あわてもの)
<おもな演者>志ん朝/10文治/枝雀
東西で演じられる粗忽者の噺。上方では、いらち(せっかち)の設定。
お詣り先は、東京は杉並区堀ノ内の妙法寺、上方は京都の愛宕山。
10文治は『あわてもの』の題で、お詣り先を浅草寺に変えてやっていた。
枝雀の口演音源もあるが、晩年高座にかけなくなっていたのは残念。
本 膳
<おもな演者>5小さん/4金馬/1馬の助
田舎を礼式をテーマにした、寄席向けの短いネタ。
5小さんの高座はセット売りCDの他、2006年にコロムビアからDVDも出ている。
本堂建立
<おもな演者>小満ん
『浮世床』の前段のような設定から展開する噺。
2010年にエコーが柳家小満んの記録用CDを製作頒布した。
ぼんぼんうた(ぼんぼん唄/盆唄)
<おもな演者>志ん生
子供の無い夫婦が浅草の観音様で子供を拾う、やり手の少ない人情噺。
志ん生の口演音源がCDで過去にビクター・クラウンなどから市販された。
ビクターは「スーパー落語1500 五代目古今亭志ん生」12巻(1994)。
クラウンは「人情噺集成」のうちの1枚で、『業平文治漂流奇談』とのカップリング(1998)。
ちなみに、現役では立川談四楼が持ちネタにしているとのこと。