<さ 行>
 ※赤文字の見出しは新たに追加した演題



西 行
<おもな演者>3円歌/4痴楽
西行法師のエピソードを語った地噺。TPOに応じてバレオチがついたりする。
3円歌の口演が2010年発売のCD「なごやか寄席」(ユニバーサル)に収録。

賽投げ
<おもな演者>2甚語楼
かつて2古今亭甚語楼が艶笑度たっぷりの演出を加えて口演した。
小島貞二の著書「定本艶笑落語」(立風書房)での取材用録音テープが、マニア間で出回っている。

材木丁稚
<おもな演者>円天坊
CD-ROM「ご存じ東西噺家紳士録」(2005、エーピーピー)に橘ノ円天坊のSP音源が収録。

逆さの葬礼(持参金/金は廻る/不思議の五円)
<おもな演者>米朝/枝雀/小遊三
前半は『持参金』として独立して演じられ、『金は廻る』『不思議の五円』など別題が使われることもある。
「増補落語事典」によると、元々「上・中・下」の三部作で、『逆さの葬礼』は「中」にあたるが、
「中・下」とも人が死ぬなど内容が暗いためか、近年では滅多に高座にかかることは無い。

盃の殿様
<おもな演者>円生
さる大名が江戸勤めの折に吉原遊びを覚える噺。
登場人物それぞれのキャラクターが際立った大ネタで、スケールの大きな展開が聴きもの。
円生の十八番で、円生没後は途絶えかかっていたが、最近は再び演者が増えつつある。
CDも市馬や小満んの高座がリリースされた。

さくら鯛
<おもな演者>多数
殿様噺のマクラの小咄。円生の最期の口演演目となったことで有名。

酒の粕
<おもな演者>米朝/他多数
東京では酒噺または与太郎噺のマクラ小咄だが、上方では一席物として演じられることもある。
1992年発売のCD「特選!!米朝落語全集」27巻(東芝EMI)所収。

ざこ八(雑穀八)
<おもな演者>6松鶴/3三木助
上方の人情喜劇を彷彿とさせる夫婦物の落語。
東京では3三木助と彦六(8正蔵)、また三木助の門弟だった扇橋が持ちネタにした。

佐々木政談(佐々木裁き/池田大助)
<おもな演者>円生/米朝/志ん朝
桶屋のせがれ・四郎吉が主役のお裁き物。東西で演じられる。
3金馬は『池田大助』のタイトルで持ちネタにした。
CD集「桂米朝上方落語大全集 第一期」(2006、東芝EMI)の解説書によると、
東京に移植されたのち、「大岡越前守の部下・池田大助」と結び付ける演出が定着したとのこと。
1966年には『池田大助捕物帳』というテレビドラマにもなったという。

悟り坊主
<おもな演者>米朝
お彼岸の大阪・天王寺を舞台にした上方の小咄。
CD「米朝珍品集」2巻(1989、東芝EMI)に『戒名書き』『しゃらりぶらり』とともに
『小咄 天王寺三題』のタイトルで収録されている。

真田小僧
<おもな演者>円生/他多数
こまっしゃくれた子供に父親が翻弄される、寄席でおなじみの落語。
寄席ではだいたい前半で切るが、CD「円生百席」20巻(1997、ソニー)では後半まで演じられている。

真田山(虎の子)(新追加)
<おもな演者>文雀
欲深い男が登場する噺。元は上方ネタ。
2017年8月のNHK「演芸図鑑」で、桂文雀が『虎の子』の題で口演した。

皿屋敷(お菊の皿)
<おもな演者>3春団治/小朝/他多数
おそらく寄席で最も頻繁に演じられる幽霊ネタ。
東京では『お菊の皿』のタイトルの方がなじみ深い。
お菊の人気が高まる後半部分は、演者ごとにさまざまなギャグを工夫して笑わせる。
中短編の持ちネタが多かった3春団治の、珍しくフルで演じて30分以上あった噺。
ちなみに東京で「番町皿屋敷」とやる部分は、上方では「播州皿屋敷」となる。

猿後家
<おもな演者>5文枝/小三治/雀々
猿に似た後家さんになんとかハマろうとする男の噺。
上方の地名や言葉がストーリーに密接に絡むため、東京の演出は内容・サゲとも異なる。

ざるや(米揚げ笊)
<おもな演者>1春団治/米朝/10馬生
そそっかしい男が笊(いかき=ざる)売りをする上方落語。
掛け合いの前半、トントン運ぶ筋立ての後半と、テンポのある展開で聴かせる。
東京では『ざるや』の題で、サゲまでやらない10馬生の型がスタンダード。

三軒長屋(1)
<おもな演者>円生/志ん生/3金馬/他多数
三軒長屋に住む鳶頭・お囲い者・剣術の先生がひと騒動巻き起こす大ネタ。
登場人物が多岐に渡り、場面転換と演じ分けの切り替えが続いて難しい。
フルで演じると長いため「上・下」に分けて演じられることもあり、
1994年には志ん生と3金馬がリレーで演じるCD「NHK落語名人選」79巻(ポリドール)も出た。
ちなみに(2)は、これとは無関係のバレ小咄(別項・補遺参照)。

山号寺号
<おもな演者>8柳枝/談志
演者のオリジナルのクスグリが入れやすい軽い噺。
談志のCDが1996年に「談志ひとり会」(竹書房)、2004年に単品(コロムビア)と二度リリース。

三十石(三十石夢の通い路)
<おもな演者>米朝/6松鶴/5文枝/他多数
『東の旅』シリーズの大トリにあたる、上方屈指の大ネタ。
旅の蘊蓄・宿のワチャワチャ感・舟唄の旅情など、聴き所多数。
演者ごとに演出もガラリと異なるので、聴き比べ推奨。
東京では円生の他、歌自慢の市馬らが持ちネタにしている。

三助の遊び
<おもな演者>志ん生/小満ん
「三助」という呼称が一時期放送自粛対象だったこともあって、演じ手が途絶えたが、
2010年頃、エコーが小満んの高座を記録用にCD化した(現在は取り扱い終了)。
それより前、マニア間で志ん生の放送音源(詳細不詳)が出回っていたが、
2019年10月発売のCDブック「落語 昭和の名人 極めつき72席」19巻(小学館)で初めて市販された。

算段の平兵衛
<おもな演者>米朝/枝雀
米朝が発掘して再構成し、現在は一門を中心に継承されているサスペンス風上方落語。
月亭可朝も生前持ちネタにし、かつてNHKラジオ「上方演芸会」でやっていた。
上記演者以外では、文珍・八方・南光らも演じる。

三人旅(発端)
三人旅(鶴屋善兵衛)
三人旅(おしくら)

<おもな演者>(発端)談志 (鶴屋善兵衛)5小さん/談志 (おしくら)円生/五郎兵衛(五郎)
東京の旅噺の代表格。『発端』『朝這い』『鶴屋善兵衛』『おしくら』の4編ある。
演じ手が少なかった『発端』は、2004年にCD集「談志百席 第一期」(竹書房)にて初市販後、
2010年にコロムビアから単品発売された。
三人が馬に乗って宿に着くくだりは『鶴屋善兵衛』に含まれる。
また『おしくら』のくだりは上方では『浮かれの尼買い』の題で演じられる。

三人息子(三人兄弟)
<おもな演者>6松鶴
上方落語。遊び好きな三人の息子たちと、それに悩む大店の父親の噺。
もっぱら『三人兄弟』のタイトルで口演されるが、「増補落語事典」には同題の別話が載っている。
CD「ビクター落語 上方篇 初代橘ノ円都」8巻(2004、ビクター伝統文化振興財団)などに所収。

三人無筆(向う付け)
<おもな演者>5小さん/仁鶴/円窓
無筆の男が葬礼でしくじる噺。近年演じられる頻度が減った。
円窓の高座がCD「昭和の名人 古典落語名演集」8巻(2009、キング)に収録。
上方では『向う付け』の題で、仁鶴・円都らのCDが出ている。

三年目(茶漬幽霊)
<おもな演者>円生/志ん生/3染丸
女性が亡くなると頭を剃った時代の幽霊ネタ。長くはないので寄席でもよくかかる。
上方のタイトルは『茶漬幽霊』で、サゲがちょっと違う。

三百植木(新追加)
<おもな演者>彦六(8正蔵)
構成が『道具屋』に似た珍しい噺。彦六だけがやった。
2019年12月29日のTBSラジオ「ラジオ寄席」でオンエアがあった。

三方一両損
<おもな演者>談志/8可楽/他多数
江戸っ子の登場人物の気風が昔のままで、現代には置き換えられない江戸落語の典型。
8可楽の十八番で、門弟の夢楽のCDも「なごやか寄席」(2011、ユニバーサル)他から出ている。

三枚起請
<おもな演者>志ん生/米朝/5文枝/他多数
東西で口演される廓噺の大ネタ。
前半の友達3人が起請文を見せあうシーンで、上方では身の上話に三味線を入れる演出もある。
志ん生演じる狡猾な女郎と、5文枝演じる色気ある女郎など、
演者それぞれにアピールポイントが異なるので、ぜひ聴き比べを。

さんま火事
<おもな演者>3三木助
マンガチックな長屋の騒動を、3三木助が軽妙に演じている。
CD「NHK落語名人会59 三代目桂三木助」(1994、ポリドール)所収。

さんま芝居
<おもな演者>2円歌/笑三
2円歌がよく演じたというお芝居ネタ。市販音源もある。
門弟だった三笑亭笑三の高座が、1999年7月のNHK教育(現・Eテレ)「日本の話芸」でオンエア。



鹿政談
<おもな演者>円生/米朝/他多数
奈良が舞台の上方落語だが、東京でもよく演じられる。
マクラの江戸・大阪・京都・奈良名物の歌は演者によって多少異なる。
円生の音源がCD「円生百席」22巻(1997、ソニー)他、各社からリリースされている。

地獄めぐり
<おもな演者>4円遊/寿輔
上方の大長編落語『地獄八景亡者戯』(別項・補遺参照)と別に、
東京で演じられる寄席サイズの地獄旅噺。
古今亭寿輔のCD「新潮落語倶楽部」9巻(2012、ポニーキャニオン)所収。
また2019年11月発売のCDブック「落語 昭和の名人 極めつき72席」22巻(小学館)には
4円遊の口演音源が収録された。

猪買い(池田の猪買い)
<おもな演者>枝雀/米朝/談志
上方落語のエッセンスをまとめたようなネタで、東京ではやり手がいなかったが、
談志が2000年発売のCD集「立川談志ひとり会 第五期」42巻(竹書房)に
三遊宗家・藤浦敦の脚色による『猪買い』を収録している。
その後2013年にコロムビアから単品として発売された。

しじみ売り(しじみや)
<おもな演者>2小南/福団治/志ん生
ペーソスたっぷりに聴かせる、真冬が舞台の上方落語。
演者それぞれに演出やサゲが異なる。
東京ではかつて志ん生が、最近は志の輔らが持ちネタにしている。

四宿の屁
<おもな演者>円生
東京の四宿(品川・新宿・板橋・千住)の女郎宿を舞台にした、屁の小咄集。
品川の小咄は『肥舟』の題で、「増補落語事典」に独立して掲載がある(別項参照)。
円生のCD「六代目三遊亭円生名演集」15巻(2006、ポニーキャニオン)に収録。

仕立ておろし
<おもな演者>1福助/8助六
雷門助六一門以外で聴いたことの無い短い噺。
名古屋で長く活動した1福助のCDが「なごやか寄席」(2011、ユニバーサル)から発売。
門弟に受け継がれ、孫弟子の獅篭も高座にかけている。

紫檀楼古木
<おもな演者>円生/彦六(8正蔵)
江戸期の狂歌の達人・紫檀楼古木の逸話。
かつて円生と彦六が持ちネタにしたが、現在はあまり演じられない。

七段目
<おもな演者>5米団治(小米朝)/8助六/他多数
「忠臣蔵」七段目の一節を、お店の若旦那と丁稚がそのまま演じてみせる芝居噺。
時間的には寄席の中盤でも演じられるし、お囃子が入って華やかなのでトリネタにもなる。
東西ともに演者多数。

七度狐
<おもな演者>米朝/仁鶴/他多数
上方落語の入門編ともいえる旅噺。大阪弁の本来の読み方は「ひちどぎつね」。
『東の旅』シリーズの中では序盤のエピソードで、若手から大御所まで高座にかける。
CD「朝日名人会ライブシリーズ 桂文珍」(2006、ソニー)では、
小佐田定雄の脚色を加え、実際に旅人が狐に七度騙される内容になっている。

七兵衛(八兵衛)
<おもな演者>雲助
2005年にコロムビアから出た「ミュージックサプリ 小咄編」というCDに収録。
五街道雲助と春風亭一朝が互いに小咄を披露しあう中で、雲助が口演している。
ここでは登場人物の名前が七兵衛→八兵衛に変更されている。

質屋庫(質屋蔵)
<おもな演者>枝雀/米朝/歌丸
「笑い+怪談」の重層的な構成で、聴く者を惹きつける上方落語の大ネタ。
サゲ近くに登場する力士、竜門と小柳はいずれも江戸時代に実在した名前。
東京では円生がやり、その後歌丸らも持ちネタにした。

質屋芝居
<おもな演者>6松鶴/1小文治
こちらは同じ質屋ネタでも、笑福亭一門ならではのお芝居織り込み。
CD「ビクター落語 上方篇 六代目笑福亭松鶴」3巻(2002、ビクター)所収。

十 徳
<おもな演者>談志/8柳枝
東西で演じられる前座ネタ。タイトルは「じっとく」。
十徳とは昔の医者や絵師などが着た上着の一種のこと。
竹書房から出たCD集「談志ひとり会 第一期」7巻(1996、竹書房)に収録後、
2004年にコロムビアから単品発売された。

品川心中
<おもな演者>志ん生/円生/談志/他多数
東京では廓噺の大ネタの一つ。たびたびドラマや映画のモチーフとしても登場する。
騙すのが商売の宿場女郎と、騙される貸本屋のやりとりが、ストーリーに深みを増す。
「上・下」に分かれているが、寄席などでは「下」がかかることはあまり無い。
市販音源では「上・下」通し口演が数種類リリースされている。

品川の豆(品川の馬)
<おもな演者>円生/4志ん好
バレ小咄。CD「三遊亭円生落語集」3巻(2008、コロムビア)に他の艶笑小咄とまとめて収録。
4古今亭志ん好の高座は『品川の馬』の題で、CD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)所収。

指南書
<おもな演者>1福郎
2桂文之助の作による上方落語。『秘伝書(夜店風景)』とごっちゃにされがちだが別の噺。
CD「ビクター落語 上方篇 初代森乃福郎」3巻(2002、ビクター伝統文化振興財団)所収。

死 神(幇間医者)
<おもな演者>円生/小三治/志の輔/他多数
漫画『昭和元禄落語心中』など、他分野を介して注目されることが増えた大ネタ。
クライマックスの圧巻の光景は、時々テレビで映像化される。
上記以外にも多くの落語家が演じ、それぞれにサゲが工夫されている。
上方では『幇間医者』の題で、SP復刻CD「春団治三代 初代桂春団治」8巻(1999、クラウン)等に所収。

死ぬなら今
<おもな演者>彦六(8正蔵)/3文我
地獄がテーマということでは『お血脈』と共通するが、不思議な余韻を残す地噺。
単品発売では、3文我のCD「ビクター落語 上方篇 三代目桂文我」(2002、ビクター伝統文化振興財団)、
セット売りでは彦六のCD集「古典落語の巨匠たち 第四期」(2000、テイチク)の特典盤に収録がある。

しの字嫌い
<おもな演者>円生/1馬の助
言葉の応酬による隠居と権助の攻防は、何度聴いても手に汗握る。
1金原亭馬の助の音源が数種類リリースされている。

芝居の穴
<おもな演者>彦六(8正蔵)
歌舞伎にまつわるツッコミをまとめた内容。
『廓の穴』(別項参照)と並び、「増補落語事典」で紹介される伝承漫談落語の一つ。
彦六の市販映像があったが、現在DVDがセット売りのみなのが残念。

芝居風呂
<おもな演者>円生/彦六/4文我
一昔前の銭湯を舞台に、さまざまな芝居の真似をしてみせる「見る落語」。
立ち回りのシーンが見所だが、これまで映像ソフトの販売が無い。
1997年発売のCD「円生百席」(ソニー)など、音源発売は数種類ある。

芝 浜(夢の革財布)
<おもな演者>談志/3三木助/志ん生/他多数
暮れの落語の代表格の一つ。演者もCDも多数存在する。
演者それぞれの解釈でストーリー展開が変わるため、聴き比べてみると一層楽しい。
『夢の革財布』は上方の桂雀三郎のCD『雀三郎の落語』(1998、東芝EMI)の収録タイトル。

しびん(花 瓶/しびんの花活け)
<おもな演者>8文楽/10馬生
8文楽が持ちネタにした「文楽の28演目」の一つ。
以前は単品で発売されていたが、現在文楽の音源はセット売り限定のようだ。
10馬生は『花瓶』の題で演じ、門弟の11馬生も『しびん』の題でCDリリースしている。
上方の笑福亭生喬が『しびんの花活け』の題で演じたのを聴いたことがある。

渋 酒
<おもな演者>小金治
かつて元タレントの桂小金治だけしか演者がいなかった落語。
小金治は2011年9月にこの『渋酒』を口演後、高座引退を宣言し、
その後2014年に他界してしまったため、現在は完全に途絶えたと思われる。
CDは「朝日名人会ライヴシリーズ103 桂小金治」2巻(2015、ソニー)がある。

始末の極意
<おもな演者>米朝/枝雀
ケチ噺の上方版。東京では『しわいや』に該当するが、「増補落語事典」では別話扱い。
仕草でサゲるので、映像で見るのがおすすめ。
DVD「特選!!米朝落語全集」29巻(2002、東芝EMI)などがある。

島巡り(万国島巡り)
<おもな演者>文紅/仁鶴
間の抜けた男がさまざまな国を旅行する、上方の艶笑噺。
CD「ライヴ上方艶笑落語集」6巻(1996、コロムビア)に桂文紅の口演が収録されている。
仁鶴も1974年にレコード集「笑福亭仁鶴 傑作上方落語撰」3集(ビクター)に収録しているが、
三田純市の脚色によって『唐茶屋』(別項・補遺参照)などがミックスされた内容である。

締め込み
<おもな演者>8文楽/8柳枝/円窓
泥棒が長屋の夫婦の喧嘩に巻き込まれる、古風な泥棒噺。
上記演者以外には、古今亭右朝のCD「なごやか寄席」(2010、ユニバーサル)が出ている。

蛇含草
<おもな演者>米朝/枝雀/3三木助
上方落語。餅の曲食いの場面は派手なアクションで盛り上がる。
東京では同趣の『そば清(蕎麦の羽織)』の方が比較的多く演じられるが、
ラストシーンに向けた演出(なぜ着物を着ていないか、等)の理詰めさでは『蛇含草』の方が勝る。

写真の仇討(指切り)
<おもな演者>2円歌/彦六(8正蔵)
中国の故事がベース。彦六のみ『指切り』の題で演じた。
CD「二代目三遊亭円歌名演集」3巻(1990、ポニーキャニオン)所収。

しゃっくり政談(次の御用日)
<おもな演者>米朝/仁鶴/2小南
上方のお裁き物。近年は主に『次の御用日』の題で演じられる。
御用日というのは、裁判を開くにあたり関係者を呼び立てる日のこと。
クライマックスの奇声の応酬は速記で文字に起こせない。

三味線栗毛(錦木検校)
<おもな演者>3小円朝/志ん生/喬太郎
大名の末子・角三郎と按摩の錦木の絆を描いた噺。
喬太郎は『錦木検校』の題で構成をガラリと変えて演じ、2008年にはポニーキャニオンからCDも出した。

三味線鳥
<おもな演者>円生
殿様の飼う小鳥の鳴き声がサゲになる、短い噺。
円生がCD「円生百席」2巻(1997、ソニー)の『鶉衣』(宇野信夫・作)のマクラで使っている。

洒落小町(口合小町)
<おもな演者>円生/米朝/談志
上方のタイトルは『口合小町』。口合とはシャレのこと。
シャレが並ぶ山場よりも、サゲに至るまでの仕込みの説明が今日では難しい。
CD「円生百席」24巻(1997、ソニー)などに収録がある。

十七蔵
<おもな演者>3米紫
米朝の弟子だった3桂米紫が持ちネタにしていた上方落語。
CD-ROM「古今東西噺家紳士録」(2000、エーピーピー)に収録。

十八檀林
<おもな演者>小満ん
根問のような進行でお寺の話が延々続いたのち、ストンとサゲになる。
柳家小満んの記録用CDが、2010年にエコーによって製作頒布された。

宗 論
<おもな演者>8柳枝/小三治
寄席で聴く機会の多い、信仰をめぐる親子の噺。
8柳枝の口演が「昭和の名人 古典落語名演集 八代目春風亭柳枝」1巻(2009、キング)に収録。
春風亭小朝が若い頃、よく放送でかけていたのを思い出す。

寿限無
<おもな演者>談志/3春団治/花緑
子供から大人まで誰もが知っている前座噺。
NHK-Eテレ「にほんごであそぼ」では2003年の番組開始当初からフィーチャーされ、
同番組にレギュラー出演していた柳家花緑のCD『じゅげむ』が、2003年にソニーから出た。
3春団治は『子ほめ』など子供が登場する演目のマクラでやったが、
CD「春団治三代 三代目桂春団治」7巻(1999、クラウン)には『寿限無』単独で収録されている。

正月丁稚
<おもな演者>1春団治/1小文治/米朝
正月の商家が舞台の上方落語。東京の『かつぎや』にサゲをひと展開プラスした内容。
CD集「桂米朝上方落語大全集 第三期」28巻(2006、東芝EMI)に収録されたのち、
2020年1月にCD「桂米朝 昭和の名演 百噺」28巻(ユニバーサル)として単品発売された。

将棋の殿様(大名将棋)
<おもな演者>5小さん/仁鶴
殿様が家来を困らせる大名噺の一つ。上方の題は『大名将棋』。
5小さん・市馬・喜多八ら柳家一門の落語家のCDが出ている。

将軍の屁
<おもな演者>6馬楽
さらりと短く演じる殿様噺。円生は他の大名噺のマクラとしてやった。
6蝶花楼馬楽の高座が、CD集「古典落語の巨匠たち 第二期」(1998、ゲオ販売)に収録されている。

松竹梅
<おもな演者>4円遊/喬太郎
めでたい席の余興をしくじる、おなじみ前座噺。
上記演者の他、林家木久扇(1木久蔵)のCD「NHK新落語名人選」(2005、ユニバーサル)がある。

樟脳玉(源兵衛玉)
<おもな演者>円生/3三木助
男友達が幽霊を使って仲間を騙すストーリーは『不動坊』と似ている。
円生と3三木助の音源が市販されているが、単品発売は円生のみ(複数あり)。
上方では『源兵衛玉』の題で、3染丸が持ちネタにした。
CD「ビクター落語 上方篇 三代目林家染丸」3巻(2002、ビクター伝統文化振興財団)所収。

蜀山人
<おもな演者>談志
江戸期の狂歌師・太田蜀山人のエピソードをまとめた地噺。
談志の高座がCD集「立川談志ひとり会 第三期」29巻(1998、竹書房)に収録されたのち、
2012年にコロムビアから単品発売された。

虱茶屋
<おもな演者>8助六
8雷門助六のお家芸。ポーカーフェイスで演じる華麗な高座が懐かしい。
仕草で見せる噺だが、映像ソフトの市販はこれまで無く、
2011年発売のCD集「ラジオ深夜便寄席」(ソニー)に9助六の口演の収録があるのみ。
放送オンエアでは、1988年8月のNHK「演芸指定席」の8助六の他、
2019年11月にBS-TBS「BS落語研究会」で柳亭こみちの高座があった。

尻 餅(餅つき)
<おもな演者>8可楽/6松鶴/他多数
笑いの中に哀感が溢れる、暮れの貧乏長屋の噺。
クライマックスの尻を叩くシーンばかりフィーチャーされがちだが、
上方演出における賃つき屋(亭主)の唄の節回しには捨て難い良さがある。

素人鰻(1)(士族のうなぎ)
<おもな演者>8文楽/8可楽
明治期の士族の商法をモチーフにした落語。
二作あるうちの(1)は8文楽の独壇場。8可楽は『士族のうなぎ』の題でやった。
現在、古今亭菊之丞らがこちらの型を踏襲している。

素人鰻(2) (鰻 屋)
<おもな演者>円生/枝雀/鯉昇
鰻屋が舞台の2作のうち、(1)が店側の噺とすれば、(2)はお客の噺。
(1)と区別するため、大抵は『鰻屋』のタイトルがつく。
静岡出身の瀧川鯉昇が得意ネタにしている。

城木屋
<おもな演者>円生/歌丸
前半の因果物めいた雰囲気から、後半は一転して東海道五十三宿言い立てになる。
CD「円生百席」24巻(1997、ソニー)の他、歌丸のCDもある。

しわいや(吝競べ/吝問答)
<おもな演者>彦六(8正蔵)/円生
伸縮自在で寄席向きの、かつて彦六がよく演じたケチ噺。
円生は同じケチ噺『位牌屋』のマクラに使うこともあった(別項参照)。
上方では『始末の極意』の題で、こちらはケチのエピソードが少し長くなる(別項参照)。

心 眼
<おもな演者>8文楽/さん喬/権太楼
盲人を扱った落語で、近年放送にかかる機会は滅多に無い。
さん喬・権太楼の柳家勢が揃ってCDをリリースしている。

甚五郎の作(甚五郎作)
<おもな演者>志ん生/彦六(8正蔵)
志ん生が『鈴振り』(別項参照)のマクラでやったバレ小咄。
他にもCD「廓噺・艶噺集成」(1997、クラウン)の彦六始め、
艶笑小咄集などにはよく収録されている。



菅原息子
<おもな演者>4円馬/1円遊
芝居好きの息子と父親の喧嘩という定番の筋立てながら、演者は少ない。
かつて無許可販売された4円馬の音源が、マイナーレーベルを転々としながら今も発売され続けている。
SP復刻CD「明治大正 夢の名人寄席」(1987、コロムビア)に1円遊の貴重な音源の収録がある。

鈴振り
<おもな演者>志ん生/10馬生
志ん生の高座でよく知られる艶笑ネタ。10馬生のCDもある。

ずっこけ(二日酔い)
<おもな演者>8柳枝/1春団治/談志
酒噺というより、酔っ払いの酔態を見せる噺。
1春団治のCD「春団治三代 初代桂春団治」9巻(1999、クラウン)では『二日酔い』のタイトル。
3金馬が『居酒屋』からつなげる時は、速記のタイトルを『居酒屋からずっこけ』とした。

酢豆腐(ちりとてちん)
<おもな演者>(酢豆腐)8文楽/志ん朝 (ちりとてちん)5小さん/3文我/他多数
『酢豆腐』は東京限定で演じられるのに対し、『ちりとてちん』は東西ともに演者多数。
NHKの朝ドラのタイトルにもなったことで、現在では『ちりとてちん』の題の方が知名度がある。
腐った豆腐を食べる以外、二つの噺に共通点は無いが、「増補落語事典」では同じ話として括られている。

崇徳院
<おもな演者>枝雀/志ん朝/他多数
東西で演じられる、若者のラブロマンス落語の代表噺。
出逢いの場である桜の名所は、東京では上野の清水寺、上方では高津宮。
その他、医者から告げられるタイムリミットなど、演者によって若干の演出差がある。

脛かじり(腕喰い)
<おもな演者>4染丸/扇辰
上方では『腕喰い(かいなぐい)』の題で演じられる怪異譚。
CD&DVD集「四代目林家小染」(2009、よしもとアールアンドシー)所収。
東京では扇橋が『団子坂奇談』の題で演じ、弟子の扇辰が受け継いでいる。

須磨の浦風
<おもな演者>4円馬
上方落語。須磨(今の神戸市須磨区)の浜から涼風を運ぶ計画を立てる噺。
1999年7月のNHKラジオ「ラジオ名人寄席」で、4円馬の口演が放送された。
現役では笑福亭生喬が持ちネタにしている。

相撲風景(相撲場風景/相撲放送/凝り角力)
<おもな演者>6松鶴/8助六/1三平
明治~昭和初期あたりの相撲場スケッチネタ。
8助六だけが『凝り角力(こりずもう)』の題でやり、握り飯を握りつぶすくだりなどが入る。



清正公酒屋
<おもな演者>談志/4つばめ
加藤清正の故事を仕込まないとサゲが伝わらず、笑いも少ないため演じ手が途絶えたネタ。
1999年発売のCD集「談志ひとり会 第4集」31巻(竹書房)に収録ののち、
2013年にはコロムビアから単品発売された。
CD-ROM「ご存じ東西噺家紳士録」(2005、エーピーピー)には4柳家つばめの高座がある。

清書無筆(無筆の親/勉 強)
<おもな演者>5小勝/3金馬/1三平
無筆の父親が知ったかぶりで息子の勉強の相手をする噺。
3金馬は現代風に『勉強』と改作した音源がCDにあるが、『清書無筆』の題でのCDは無いようだ。
CD-ROM「東西噺家紳士録」(2000、エーピーピー)には桂米若の『無筆の親』の収録がある。
ちなみに筆者が所持している『清書無筆』の音源は、5三升家小勝が口演したSPレコードのもの。

関 所(箱根関所)
<おもな演者>勝次郎
2000年発売のCD-ROM「東西噺家紳士録」(エーピーピー)に
三升家勝次郎の貴重なSP音源が収録されている。
落語というか、一芸を見せて関所を通るという大喜利芸のような珍しい内容。

せむし茶屋(卯の日詣り)
<おもな演者>米朝
かつて桂米朝が演じた幻の演目。
LP「桂米朝上方落語大全集」(1978、東芝EMI)に『卯の日詣り』の題で収録され、2006年CD化。

疝気の虫
<おもな演者>志ん生/福団治
SFショートショート風味の導入から、後半に進むにつれて艶笑味を帯びてくる。
東京では志ん生・談志・権太楼、上方では福団治・雀々らの市販音源がある。

千両みかん
<おもな演者>米朝/志の輔/小三治
上方の大ネタだが、東京でも演者多数。
真夏の炎天下、ノイローゼ気味の番頭が常軌を逸した行動に出るまでの、行程の演出が見せ場。
果物問屋がある場所は、大阪は天満、東京は神田多町。



宗 漢(新追加)
<おもな演者>喬太郎
昔の中国を舞台にした医者夫婦の噺。
「増補落語事典」の説明にバレ噺とあるが、さほど艶笑味は強くない。
2017年6月のBS-TBS「BS落語研究会」で、喬太郎の高座がオンエアされた。

崇禅寺馬場(返り討ち/鈴ヶ森)
<おもな演者>1春団治/歌丸/他多数
元は『崇禅寺馬場』の題で上方落語だが、東京でも『鈴ヶ森』の題でよく高座にかかる。
1春団治はCD「春団治三代」10巻(1999、クラウン)に『返り討ち』の題で収録。
歌丸のCDはセット販売。単品売りでは11文治や三遊亭兼好らのCDがある。

象の足跡
<おもな演者>1福郎
1森乃福郎が持ちネタにしていた珍しいネタ。
2003年1月のABCラジオ「なみはや亭」でオンエアされた。
弟子の2福郎も継承しており、2007年7月の大銀座落語祭で聴いたことがある。

そうめん(そうめん喰い)(新追加)
<おもな演者>4文我
そうめんの蘊蓄を盛り込んだ、演じ手のいない噺。4文我が復活させた。
2018年のCD「上方落語 桂文我ベスト」1巻(パンローリング)に収録。

粗忽長屋
<おもな演者>5小さん/談志/志ん生/他多数
長屋の二人の粗忽者が巻き起こす、滑稽噺の代名詞的演目。
よく似た展開の、実話を元にした落語『永代橋』(別項参照)は円生・彦六が演じた。
談志は主人公の男をより強引な性格にして、時に『主観長屋』の題でやったりもした。

粗忽の釘(宿替え)
<おもな演者>5小さん/6柳橋/枝雀/他多数
東西で広く演じられる粗忽者の落語。
わかりやすいドタバタで笑いも多く、演者それぞれの工夫が入れやすい。
上方では『宿替え』の題で演じられ、枝雀が十八番にした。

粗忽の使者
<おもな演者>5小さん/志ん生
こちらは大名屋敷の設定が加わり、他の粗忽噺よりは演者が少ない。
市井の植木職人が侍の尻をやっとこで捻るという諧謔性も含む。

蕎麦の殿様
<おもな演者>円生
「もしも殿様が蕎麦を打ったら?」というコントのような落語。
円生以降、あまり演者が多くない。CD「円生百席」26巻(1997.ソニー)所収。

蕎麦の羽織(そば清)
<おもな演者>志ん生/10馬生/3小円朝
近年は『そば清』のタイトルの方が一般的。『蛇含草』(別項参照)の蕎麦バージョン。
寄席などで聴く機会が多いという面では『蛇含草』に勝る。
清さんを「どぉもぉ~」と飄々と演じる10馬生の高座ぶりが印象に深い。

染 色
<おもな演者>2円歌
2円歌以降演じ手がない上方種。後半に色の名前の織り込みがある。
CD「ビクター落語 二代目三遊亭円歌」9巻(2001、ビクター伝統文化振興財団)所収。

ぞろぞろ
<おもな演者>彦六(8正蔵)/談志
元々地味だった噺を、談志が構成し直したという。
顔中ヒゲだった頃の談志が口演すると、ビジュアル的にもハマっていた。
現在は演者が増え、昇太・たい平らのCDも出ている。



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