映画の誘惑

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メルマガ「365日間映画日誌」

ゴダールから青山真治まで。映画の話はまだまだ続く。

新作映画のレヴューを中心に、TVで見た映画の感想、映画本の書評、映画界の注目すべき動きなど、日本映画、アメリカ映画、アジア映画、ヨーロッパ映画、古今東西、映画にかかわるすべてを語りつくす、シネマ・エッセイ。

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                             2002年7月24日発行
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365日間映画日誌 No.21
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                   http://www7.plala.or.jp./cine_journal
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■index■
 01: What's New
 02: 『アメリ』『りんご』『MI・TA・RI!』
 03: Pickup on Cinema Street 
 04: Television Days:『我らの歪んだ英雄』『八百万石に挑む男』
 05: 編集後記



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┃01┃What's New
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▼ ロメール新作続報

以前に紹介した、ロメールの新作『TRIPLE AGENT』についての続報。内容は、主役の
ロシア人カップルが、第二次世界大戦中のパリを中心にスパイ活動する、というもの
らしい。 製作費が400万ユーロ(約5億円)というのは、これまでのかれの映画の低
予算ぶりからすると驚きである。この予算の大部分は、30年代末のパリを忠実に再現
するために費やされるそうだ。

たしかに、最近のハリウッドの超大作がだいたい100億円前後(湾岸戦争で使われた
ステルス戦闘機一機分の値段)で撮られていることを考えれば、5億円などはした金
である。けれども、ロメールが使う5億円と、ハリウッドで浪費される5億円とは全然
別のはずだ。ロメールは金の使い方を知っている男である。

わたしは、ハリウッドの超大作が巨額の製作費を映画につぎ込むことに、ことさら異
を唱えるものではない。たしかに、100億かけて作ったゴミのような映画を見せられ
た日には、これだけの金があったら何人救われたかわからないのにと思わないでもな
い。が、そういう映画を見ていて腹が立つのは、金をかけすぎていることではなく、
むしろ逆に、その企画に見合った金が十分にかけられていないことだ(たとえば、超
大作であるはずの『インデペンス・デイ』のあの唖然とするほどのチャチさ)。

とはいえ、本当に贅沢な映画というのは、金よりも時間をかけるものだ。たとえば、
エイゼンシュタインは、空の雲が自分が思ったとおりのかたちになるまで一日撮影を
待ったという。こういう贅沢に比べれば、今のハリウッドの超大作はどれも貧乏くさ
い。


▼ イーストウッドの新作サスペンス進行中

クリント・イーストウッドが監督・主演をこなす新作サスペンス映画「Mystic
River」は、すでにショーン・ペン、ケヴィン・ベーコンというキャストがほぼ決まっ
ているのに加え、このたび「マトリックス」のローレンス・フィッシュバーンの参加
も濃厚になってきたようだ。イーストウッドのサスペンスものは久々なので待ち遠し
い。


▼ ベルトルッチの新作はガレルの息子を主演に68年5月を描く作品

一部では評判の悪い『ラストエンペラー』以後のベルトルッチ作品もひたすら擁護し
てきたのだが、それもだんだん厳しくなってきた。『シャンドライの恋』はたしかに
悪くはなかったが、「でもベルトルッチでなくても良かったんじゃない?」というの
が正直な気持ちだ。だが、今度の新作はなにか違うぞという予感がする。

その新作『THE DREAMERS』の撮影は予定ではすでに7月18日より開始され9月25日ま
でパリとイギリス、そしてイタリアで行われることになっている。68年の5月革命を
主題として扱い、主役に映画監督フィリップ・ガレルの息子ルイ・ガレルと若手女優
エヴァ・グリーンを使うという話を聞くと、なにやらちょっと胸騒ぎがしてくる。見
たところエキゾチスムとは無縁の場所で、ベルトルッチの原点ともいえる革命(前夜?
)が描かれる・・・。ひさびさに今度は本気かも。


▼オリヴェイラの新作『家宝』、公開決定

オリヴェイラの新作『家宝』(ポルトガル・フランス合作)が公開されることが決まっ
た模様。最初、『家路』の間違いではないかと思ったが、出演がレオノール・バルダッ
ク、レオノール・シルヴェイラ、リカルド・トレパとなっているので、どうやらこれ
は前にこのメルマガで『Le Principe d'incertitude』[不安の原理]という原題で
紹介した作品のことらしい。あまりよいタイトルとも思えないが、これが正式邦題に
なるのだろうか。詳しい情報は追って報告する。


▼ その他諸々のニュース&噂

・ ショーン・ペンがバグダッドを訪れ、イラク攻撃に反対する声明を発表。
・ ソクーロフ『エルミタージュ幻想』公開決定
・ カウリスマキ『過去のない男』公開決定
・ オスカー受賞のカメラマン、コンラッド・L・ホール死去。
・ チェン・カイコーの中国映画『北京ヴァイオリン』公開決定。
・ 『画面の誕生』刊行記念 鈴木一誌×金井美恵子 トークショー行われる。
・ 山田風太郎『戦中派不戦日記』講談社より文庫化。
・ ギー・ドゥボールの『スペクタクルの社会』、ちくま文庫から再版。初期のゴダー
ルにも少なからぬ影響を与えたと思われる有名な本である。

 

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┃02┃ 『アメリ』『りんご』『MI・TA・RI!』
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▼7月13日 『アメリ』──無菌培養された世界でのボーイ・ミーツ・ガール 

話題の『アメリ』を今ごろになって見にゆく。理由はチケットが手に入ったから。感
想? うーん、困った。ふだんこういう映画は、見たあとで誉めもけなしもせず、た
んに忘れることにしているので、感想を聞かれても困るのだ。ただ今回はチケットを
もらう交換条件として感想をメルマガに書けと脅されてのことだったので、なにか書
かないわけにいかない。困った。

この映画べつに面白くないわけじゃない。とりあえず最後まで見れるし、よくできて
いるとさえ言えるかもしれない。ただ、「こういうものを見るために俺は今まで映画
を見てきたわけじゃネェーよな」、というのが正直な感想だ。

ファースト・カットからファイナル・カットに至るまでこの映画にはリアルなものは
なに一つ描かれていない。全編にわたってフィルターのかかったような特殊な色彩処
理がなされており、なにか古い絵はがきを見ているような、コマーシャルを2時間見
させられているような、そういう居心地の悪さがずっと最後まで続く。登場人物たち
も人間と言うより3Dのアニメのようだ。ハイテクを駆使したレトロといったところ
だろうか(この映画、なにげにたくさん金を使っていそうだ)。噂によれば、パリの
町の壁に書かれた落書きなどもCG処理によって消してしまったという。汚いものは見
たくないということらしい。そういう落書きのようなものが偶然画面に映り込んでい
るのを見るのを映画における無上の楽しみのひとつにしているわたしのようなものに
は、こういう作品は映画の持つ魅力の大部分を失っているように思える。

映画は誰ともわからない男性の声のナレーションで進んでゆくのだが、冒頭と最後の
部分で、「*月*日、*時*分、一匹のハエがモンパルナス通りに舞い降りて止まった」
とか「それと同じ瞬間、誰某は自分の脳細胞の数が宇宙の星の数よりも多いことを知っ
て驚愕した」とかいったナレーションとともに本筋とは関係のない人々のエピソード
が矢継ぎ早に挿入され、いわば物語を宇宙論的な次元にまで高め、アメリもその他大
勢のなかの一人にすぎないことを暗示してみせる。もっとも、こんなリアリティのな
い画面づくりでそんなことをやられてもあざとく見えるだけだ。ただこの映画の場合、
そうした現実感の希薄さが作品の主題と合っていないわけではない(それがよけいに
困るのだが)。

主人公アメリは、他人と関係を築くことがうまくできず、ともすると夢想の中に逃げ
込んで自閉的な世界に閉じこもってしまう少女だ。この映画は、彼女がどうやってそ
こから抜け出してゆくかを一種の冒険譚として描いてゆく。他人と直接向かい合うこ
とができない彼女は、自分なりに考え出したゲームを通じてしか相手とコミュニケー
トできない。彼女が次々と発明してゆくゲームはなかなか面白く、この映画の最大の
魅力のひとつといってもいいだろう。ただ、アメリと彼女が一目惚れする青年との暗
号を介しての「パリのかくれんぼ」も、たとえばリヴェットの『北の橋』の双六遊び
などと比べるならずいぶんと魅力に乏しいといわざるを得ない。理由は先ほどと同じ
だ。

この映画のなかでは誰もがなにかをコレクションしている。アメリが家の壁のなかか
ら見つける思い出の詰まった小箱をはじめとして、捨てられたインスタント写真を集
めている男、庭にオブジェを集めている父親、亡き夫からの手紙を集めている女。ア
メリもまた水切り用の石をいつも拾い集めている。誰も彼もがモノマニアックだ。そ
れどころか、この映画自体がモノマニアックだといってもいいだろう。CGを駆使して
現実を排除し、お気に入りのものばかりを集めた人工の映像。その意味で、映画の冒
頭、ナレーションがそれぞれの人物の一番好きな瞬間を列挙していく場面は象徴的だ。
要は、好きなものばかり集めてみました、おしゃれでしょ、という映画なのだ。

この映画の観客は圧倒的に女性が多いそうだ。女の子は誰でもこういう体験をしたり、
願望を持ったりしたことがあるんだろう。そんな体験や願望の追体験をさせるだけの
映画を見せられても困るし、そういう映画がヒットするのも正直言って困る。それま
で見たこともなかったし、考えたこともなかったなにか、そんななにかを発見するた
めにわれわれは(すくなくともわたしは)映画館に行くわけで、なにかを確認するた
めに行くわけじゃない。残念ながら、この映画にはそんな発見はひとつもなかった。

まあ、発見といえるのは、サン・マルタン運河での水切り遊びは案外面白いかもと思っ
たのと、東駅の横の階段を上ったことがないのに気づいたことぐらいか。そういえば、
『パリところどころ』のジャン・ルーシュ編「北駅」で、あの恐るべき移動撮影の最
後に主人公が上から飛び降りる高架橋も歩いたことがなかった。というかあの階段が
あの橋に通じていたのか、などと考えていると、またまたパリに行きたくなってくる。



▼7月17日 『りんご』――鉄格子と鏡

京都みなみ会館にサミラ・マフマルバフの『りんご』を見に行く。ずいぶん前に公開
された映画だが、何度も見逃していたもので、今回やっと見ることができた。監督2
作目の『ブラックボード 背負う人』を見てわかっていたが、やはり相当な才能であ
る。

イランのとある家庭でふたりの少女たちが両親によって十数年間家に監禁されている、
かわいそうなので助けてやってほしいという、近所の住人たちの署名入りの嘆願書が
福祉事務所に送られてくるところから、『りんご』は始まる。その家はたちまちマス
コミの餌食となり、少女たちはいったんは両親から引き離されて役所に引き取られる。
二度と少女たちを閉じこめないと約束して、父親はやっと娘たちを返してもらうのだ
が、家に帰ると彼はそ知らぬ顔で玄関に鍵をかけ少女たちを家に閉じこめて出かけて
ゆく。

やって来た福祉事務所の女がそれを知って少女たちを家の外に出し、逆に両親たちを
鉄格子に鍵をかけて家のなかに閉じこめてしまう。少女たちが初めて見る外の世界。
彼女たちは最初は言葉さえ満足に話せないが、やがて鏡で自分自身を発見し、お金の
使い方を覚え、近所の子供たちと友だちになって一緒に遊びながら、短時間のうちに
成長していく・・・。

これは実際にあった事件であり、でてくる人物たちも当の本人たちである。サミラは
これをドキュメントとして撮りながら、それをベースにして映画を一種のメルヘンへ
と高めることに成功している。女性の視点から見たイラン社会の旧弊への批判は随所
に感じられるが、そこには批判者特有の性急さや押しつけがましさはまるでない。そ
の眼差しは他者を理解しようとする優しさに満ちている。

鉄格子、鍵、鏡、りんごといった小道具のシンボリックな使い方は、いささか紋切り
型で分かりやすぎるぐらいであるが、少女たちが世界を発見するのを描くとともに、
監督が映画を発見しつつある様が、どのショットにもあふれていてみずみずしく、こ
のままいつまでも見続けていたくなる。わずか18歳でこんな処女作を撮ってしまうと
は、恐ろしい。

サミラの父親のモフセンはいわずとしれたイラン映画の巨匠であるが、『りんご』、
『ブラックボード』を見ると、娘の方がこれからなにをしでかすかわからないすごい
可能性を秘めているように思える。ところで、マフマルバフ・ファミリーに対抗して、
コッポラ・ファミリーもなにやらたくらんでいるようだが、やはり父親がそこそこの
才能なら娘もそこそこの才能ということなのか、ソフィア・コッポラの『ヴァージン・
スーサイズ』は良くできた映画だったが、わたしには平凡な印象しか与えなかった。

撮る前に頭のなかで描いていたイメージを完璧に映像化したという意味ではソフィア
はなかなかの才能の持ち主であり、『ヴァージン・スーサイズ』は処女作としてけっ
して悪い出来ではない。いや、出来すぎかもしれない。けれども、キャメラを回すま
さにその瞬間にかける本能的ななにかが彼女には欠けている。サミラにはそれがある
のだ。

といいつつ、ソフィアの第2作はぜひみたいと思っているのだが、2作目を撮ったと
いう話はついぞ聞かない。どうしてるんだろう?



▼7月20日 『MI・TA・RI!』――極私的旅の記録を通して日本の根っこをさぐる

滋賀の碧水ホールに、原将人の最新作『MI・TA・RI!』を見に行く。この作品は前号
で紹介するのを忘れていた。というかわたしも直前になって気づいた。関西ではすで
に京都で上映が行われているが、そのときもまったく忘れていた。

この碧水ホールはわたしの地元滋賀の僻地にあり、一時間に一本しかないようなロー
カル線に乗ってしかも途中で乗り換えなければならず、乗換に失敗すると砂漠の真ん
中のような場所で次の電車まで一時間ぐらい待たされるという恐ろしい場所なのだ。
幸いわたしには車があったので、RADIOHEAD の 「KID A」をカーステレオで大音量で
聞きながら会場に向かう。道はすいていたがそれでも30分近くかかった。

サミラと同じく原将人もまた、17歳の高校生のときに撮った作品で衝撃的なデビュー
を飾り、21歳で大島渚監督作品のシナリオを担当するという、恐るべき早熟な映画作
家として現れた人物である。その彼ももう50をすぎてしまったのだが、新作を見る限
りむかしとなにも変わっていない。

『MI・TA・RI!』のちらしは奈良美智の印象的な絵が使われている。なぜ奈良美智な
のかとも思ったが、奈良はアメリカに住んでるとき『20世紀ノスタルジア』を100回
ぐらい見てシナリオをぜんぶ覚えているぐらいの原将人ファンなのだそうだ。

さて、この映画はちらしにライブ映画と銘打って紹介されている。実際に見てみるま
では「ライブ映画って、なに?」と思っていたのだが、見てなるほどこれはライブだ
わと思った。シネスコサイズの横長画面の中央部分にプロジェクターを使ってデジタ
ルビデオの映像を映写し、その左右のあいた部分に2台の映写機を使って8ミリの映
像を映写するという、3つの映像の同時進行の形でこの上映は行われた。

場面に応じてそれぞれの映像の大きさを拡大したり縮小したり、あるいはいったんひ
とつを消して2画面だけにしたり、二つを消して中央の画面だけを残したりといった
具合に、自ら映写機を操作してスクリーンを今まで見たことのないような大胆さで活
用すると同時に、生声で画面にナレーションを加え、ときには自分で作詞した歌を歌
いさえする原将人のパフォーマンス。さらにはスクリーンのかたわらに立つMAORI
(原将人の若い奥さんであり、この映画の共同監督でもある)が鈴を鳴らしながら、
ちょっとジェーン・バーキンを思わせるような素晴らしい歌声で、原の歌に唱和する。
見ているうちにこれは本当に映画なのかという、なにか既成概念が崩れていくような
感じと同時に、なつかしいものを見ているような、それでいてまったく新しいなにか
を見ているような、そんな不思議な感じを味わった。

この映画は、原将人と MAORI が京都、広島、沖縄と旅を続けるなかで、「ふたり」
のあいだに子供が生まれて「みたり」となる、それだけのことを極私的に撮ったまさ
にプライヴェート・ムーヴィーである。そんな映画が赤の他人であるわれわれが見て
も感動的なのは、「日本」とはなんなのかという批評意識が全編を貫いているからだ。
ふたりのあいだに子供が生まれる場面で、原は子供の誕生を自ら歌にし、やがてそれ
は日本の歌のルーツをさぐる思索の始まりとなり、そして偶然(なのか?)広島のと
ある学校で君が代を歌いたくない生徒に歌わせるかどうかで思い悩んだ校長が自殺す
るというニュースをきっかけに、原たちは広島へと赴く。

画面にはときおり日の丸がはためく風景がさりげなく挿入され、やがて彼らは沖縄へ
と向かうのだが、旅の最後に「こうして沖縄に来たけど、いったいなにをしに来たん
だろうね」とつぶやく原。彼らの乗った車の前を米軍機がまさに「暴力」そのものの
轟音をたてながら横切る。旅の意味は明らかなのだ。

MAORI がときおりナレーションをとちったり、歌の出だしを間違えたりする場面もあっ
たが、これもまさに「ライブ」である。こんな映画だから上映ごとに異なるヴァージョ
ンがあり、フランクフルト国際映画祭で絶賛されたときのものを含め、ぜんぶで12ヴ
ァージョンが存在するという。そのすべてはビデオ化されて販売される予定だそうだ。

今後のライブ上映の予定 >> http://y7.net/mitari

 

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┃03┃Television Days:『我らの歪んだ英雄』『八百万石に挑む男』
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▼ 『我らの歪んだ英雄』(パク・ジョンウォン監督、92年、韓国)

最近、集中力がなくなって、ビデオ録画した映画は、たいてい30分ほど見てからいっ
たん休憩して別の仕事をし、そのあとまた30分ほど見る、という風にぶつぶつに切っ
てみることが多く、おかげで忘れるのもすごく早かったりするのだが、この映画は思
わず姿勢を正して最後まで見てしまった。

脱サラして予備校で歴史を教えている男が、少年時代の担任教師の葬儀に列車で向か
うところから映画は始まるのだが、列車がトンネルの闇に入ったところで黒バックに
クレジットが現れ、列車がトンネルを抜けると、さっきとはまったく違うひなびた風
景が窓の外に広がっていて、男が座っていた席には少年時代の彼が座っているという
出だしからして、なかなか洒落たことをやるじゃないかと思わせる。

映画の大部分を占める回想場面では、主人公が少年時代に通っていた地方の国民学校
が舞台になる。クラスのなかで圧倒的な権力を握っている級長と、転向してきたばか
りの主人公との対立を中心に、学校内の権力の構図が繊細なタッチで描き出されてゆ
く。谷崎の初期短編の少年ものを見る思いである。権力におもねるもの、権力に刃向
かう過程で権力に魅せられてゆくもの、それと知らずに権力に荷担しているもの・・・

それだけではない。主人公がこの学校で過ごす50年代末から60年代初頭とは、韓国で
李承晩から朴正煕へと政権が移行する時期であり、学校内の権力争いは実はこの歴史
の縮図でもあるのだ。そのアナロジーには、よほど鈍感な観客でないかぎり気づくは
ずだが、監督のパク・ジョンウォンは、それをあからさまに見せることなく、さりげ
なく暗示するにとどめている。

学校内の権力闘争は、権力者である級長が失墜することで終わりを告げるのだが、映
画の終わりで話がふたたび現在に戻って、葬式の場面になると、そこでいろいろなこ
とが明らかとなってゆく。級長の腰巾着をしていた少年は今や大金持ちの俗物になっ
ており、級長の失墜のきっかけを作った自由主義者の熱血教師は、どうやら体制側の
政治家に収まっているらしい。そして、そこに現れることをみなが期待していたあの
級長は、結局最後まで姿を見せないことで、逆に、今も権力が社会に偏在することを
暗示して映画は終わる。単純な構成ながら、非常によくできた映画だった。


▼『八百万石に挑む男』(中川信夫監督、61年)

無声映画時代からマキノ省三・衣笠貞之助・伊藤大輔らによって何度も映画化された
講談噺を、怪談もので有名な中川信夫が映画化したもの。自分が本物であることを知
らずに、本物を演じ続ける偽物という設定は、いろんなことを考えさせる。しかも、
その演技がたんなる遊戯ではなく命がけの賭けであることが、映画を最後の瞬間にい
たるまで緊迫感に満ちたものにしている。時代劇でありながら、チャンバラを一切見
せないところもいい。斬り合いになりそうになる瞬間もあるにはあるのだが、今にも
刃先が交わらんとするところで次の場面に変わるのだ(もっとも、かなりCMでカット
されていたので、ひょっとしたら少しはあったのかもしれないが)。怪談もの以外の
中川信夫作品では、屈指の傑作ではないだろうか。

(このコーナーではテレビやビデオで見た旧作を取り上げます。基本的に、ここの文
章は、ウェッブサイトのDiaryに書いたものからいくつかピックアップしたものです。)

 

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┃04┃Pickup on Cinema Street
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▼ ドキュメンタリー映画の世界

「ドキュメンタリー映画の世界」と題して、佐藤真の作品を中心に、山形国際ドキュ
メンタリー映画祭からセレクトされた数作品と、諏訪敦彦が独自のスタイルで広島を
描く最新作などが、8月1日から4日まで京都造形芸術大学・映像ホールで連続上映さ
れる。佐藤真、諏訪敦彦、森達也によるトーク・対談もあり。


▼サミュエル・フラー回顧上映

サミュエル・フラー回顧上映は、7月28日まで大阪プラネットで上映中。残念ながら
ロッド・スタイガー主演の『赤い矢』は入っていない。

詳しくはここ>> http://go.to/planet1


▼日活ロマンポルノ傑作選

東梅田日活では定期的にロマンポルノの傑作を3本立てで上映している。ほとんど前
に見ている作品ばかりなので、わたしはつい敬遠してしまっているのだが、毎回なか
なかのラインナップだ。今回は8月9日から16日まで、小沼勝の『縄と乳房』、神代辰
巳の『少女娼婦 けものみち』などが上映される。どちらも傑作だ。ただし16日の午
後からは別プログラムとなるので注意を。


▼ 『春の日は過ぎゆく』

まだ見てないけど、どうなんだろう。ちょっと気にはなってるんだけど。


▼ 『海辺の家』

『真実の瞬間』のアーウィン・ウィンクラー久々の新作『海辺の家』はすでに20日よ
り上映中。これもまだ見ていないが、近いうちに必ず見に行くはず。

           ・ ・ ・  ・ ・ ・  ・ ・ ・

あとは、『青い春』とかが気になる程度。猫好きとしては実は『猫の恩返し』も気に
なってるんだが、わざわざ映画館に見に行くのもちょっと・・・。

考えてみれば、スター・ウォーズ・シリーズって映画館で見たことがなかったかもし
れない。『エピソード1』も最近初めてテレビで見て、やっとキャラクターのつなが
りがぼんやりわかってきたところだ。このシリーズでは個人的には『帝国の逆襲』が
一番面白かったのだが、あれはハワード・ホークス作品で数々のシナリオを担当し
たSF作家のリー・ブラケットが脚本を書いていたからだろうか。まあ、あんまり知ら
ないのに書いてると、スター・ウォーズ・ファンに鼻で笑われるので止めておこう。

正直いうとあまり興味はないのだが、デジタル技術によって全編が撮影された『エピ
ソード2/クローンの攻撃』は見に行こうかと思っている。クローン化した映画とい
うのがどんなものになっているか、確認してみたい。

 

┏━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃05┃編集後記
┗━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前号で遅くとも2週間以内に発行すると書いておきながら、さっそく締め切りが守れ
なかった。ほとんど映画館で映画を見ていなかったせいもあるし、熱いので毎日ビー
ルを飲んでたら胃の調子がおかしくなってしばらく寝込んでいたせいもある。
「Unreal」というモンスターを撃って撃って殺しまくるくだらないシューティング・
ゲームを毎日やっていたので書く時間がなかったという事情もある。夏の猫が暑苦し
かったという理由もある。まあいろいろあるんだが言い訳はいっさいしないことにし
よう。

前号のあとがきで、これからは日記形式にするといったけど、やっぱりそれも止めて
毎回題材にあわせて適当に書き方を選ぶことにした。場合によっては手紙形式にする、
とか(適当ですいません。適当な奴なんです)。ただ今回、日記形式は書くネタがあ
まりないときは便利なことがよくわかった。

           ・ ・ ・  ・ ・ ・  ・ ・ ・

国旗・国歌法、通信傍受法、そして住基ネット。何でも通りますね、この国は。その
うち政府が「うちも核ミサイルもちます」と言い出してもだれも反対しないかもしれ
ない。マスコミが怠慢なのか、それとも国民の意識が低いのか・・・。

政府のだれかが、セキュリティは問題ないといっていたが、本気でいってるとしたら
よほどのバカに違いない。情報は100パーセント漏洩するに決まってる。ハッカーに
いわせれば侵入できないシステムなんかないわけだし、それ以前に日本のお役所の危
機管理はお話にならないわけだから、情報化した時点でその情報はもれると考えてお
いた方が正解だ(と、書いているあいだにすでに、他人の番号の記入された書類が誤っ
て配送されたという、おいおいマジかよといいたくなるミスが起きている)。

そもそも住基ネットなんてのは、メリットとデメリットを天秤にかけて考えるような
ことじゃなく、とにかく不愉快だから反対すべきものじゃないの? 非国民扱いにさ
れていいから、おれを番号で呼ばないでくれ、といいたい。表面的にはいろんな説明
がついているが、国旗・国歌法も盗聴法も住基ネットも、要するに失われた共同体を
なんとか再生しようとする悪あがきにすぎない。とはいえ、そんな法律があることさ
えいまだに知らない人たちがたくさんいるようなんだが・・・。

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【編集】 井上正昭
【WEB】 http://www7.plala.or.jp/cine_jounal
【MAIL】 cinefils@vmail.plala.or.jp
【発行システム】
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   Macky http://macky.nifty.com/cgi-bin/bndisp.cgi?M-ID=cinejournal


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