Movie Review 2000
◇Movie Index

サン・ピエールの未亡人('99フランス)-Oct 5.2000
[STORY]
1849年フランス領サン・ピエール島。漁師ニール(エミール・クストリッツァ)は酔った勢いで人を殺してしまい、死刑を宣告される。フランス本国からギロチンがやってくるまでの間、軍隊長のジャン(ダニエル・オートゥイユ)とその妻ポリーヌ(ジュリエット・ビノシュ)はニールに身の回りの手伝いをさせることにする。
監督パトリス・ルコント(『橋の上の娘』
−◇−◇−◇−
今年のフランス映画祭in横浜クロージング作品。チケットを買っていたのに時間が押して見られなかったんだけど、試写会を当ててもらったので見ることができました。またお金払って見るの悔しいもんね。

『橋の上』でも主演したオートゥイユと、ルコント作品初出演にして私のキライな(笑)ビノシュ、そして『アンダーグラウンド』の監督クストリッツァが死刑囚を演じている。

死刑が宣告されて本国からギロチンが運ばれてくるまでの1年以上もの間、ニールはポリーヌや島の人々のために働く。最初はニールに石を投げていた島民たちも、彼の死刑を反対するようになる。ジャンもポリーヌもニールが処刑されないよう働きかけるが受け入れてもらえない。ニール自身はというと、すでに自分の死をしっかりと受け止めており、とても穏やかに毎日を過ごしている。そんな彼に惹かれていくポリーヌ。ここで恋愛に発展するのかと思いきや、次第にそれはニールを見守る愛に変わっていく。そして彼女をさらに大きな愛情で包み込むジャン。こういう微妙な関係を描くのはさすがに上手いです、ルコント監督。見つめる愛、見守る愛・・・なのだなぁ。

しかし、ダメ男だったニールがいきなり坊様のように達観してしまったのがアレ?と思った。じゃあ、あの時くだらない理由で人殺しをしてしまったのは何で?ってことになる。また、ポリーヌはなぜ最初から彼のために一生懸命になったんだろう?というのも、はっきり言ってよく分からない。ニールがどんな人間なのか知らないのに。
いい話なんだけど、そういう細かいところが気になってしまって、感動する気持ちを削いでしまったようだ。

そんでもって1番は、やっぱポリーヌがワタシ的にヤな女だったことかな(笑)(ここからネタバレなので色変えます)ジャンを銃殺刑にまで導き、死刑執行人を責めまくり彼まで失踪させてしまう。悪女だ。しかもビノシュだから余計に腹立つ(笑)「私のせいね」というセリフに対して上記のようなツッコミを入れたのは私だけではないはず。(ここまで)これがビノシュでなく、本当に心から純粋な女性だと思える女優さん(そんなの役者の世界にいないかもだけど)なら許せたかもしれない。演技は上手いけど、ピュアな皮を被るのは下手なようです。
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キッド('00アメリカ)-Sep 27.2000
[STORY]
イメージコンサルタントとして成功しているラス(ブルース・ウィリス)は、40歳を目前にしながら、その性格の悪さで友人も恋人もいない。そんなある時、彼の前に8歳の頃の自分が現れる。憧れのパイロットにもなっておらず、犬も飼っていないラスに対して、8歳の彼はがっかりする。
監督ジョン・タートルトーブ(『クール・ランニング』)
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この監督の作品はかなり好きなものが多い。上記の『クール〜』もだし『あなたが寝てる間に・・・』や『フェノミナン』など、あったかくなるようないい話を見せてくれる。だからこの映画も見た。やっぱり途中でついホロッときてしまったが、でもはっきり言って全体のまとまりがない。

まず、ディズニー映画だからしょうがないのかもしんないけど音楽がうるさい。冒頭からそこまで盛り上げなくてもいいじゃん、というくらい音もデカくて閉口した。
そして設定は面白いのにストーリー展開がうまくない。なんなんだろうねえ、これは。今まで見たこの監督の作品では感じなかったチグハグさ。シーンとシーンの繋ぎがヘタな上に強引で、何か変だぞ?って思うところが幾度もあって、それが積み重なってフラストレーションが溜まっちゃったって感じ。どこか釈然としないまま映画が終わり、最終的には私にとってダメ作品になりつつある。あのとき流した涙はどうすりゃいいんだー。

やっぱり1番ダメだったのはストーリーかなぁ。8歳の自分に会うというアイデアは良くても、そこから話を膨らませるに当たって試行錯誤したっぽい。途中まではけっこう良かったのに、中盤から終盤にかけてはかなりムリムリの展開だったから、それが映像にも表れちゃったのかな。ファンタジーって何でもアリって思えるけど、実際すごく難しいと思う。

ウィリスは何だかんだ言って子供との絡みがうまい。ヘタに年長者ぶったところがなくて、いつのまにか子供と対等になっているというか、子供のほうが大人びて見えるようになるんだよね。そしてこの8歳の子がブサかわいい(笑)太ってて生意気で愛想がなくて舌足らずだけど、どこか憎めない。顔だけならもっとかわいい子いるだろうに、わざわざこういう子をキャスティングしたところが良かったな。
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マルコビッチの穴('99アメリカ)-Sep 23.2000
[STORY]
売れない人形師のクレイグ(ジョン・キューザック)は、妻ロッテ(キャメロン・ディアス)の勧めもあり生活のために出版社で働くことになる。オフィスは7と1/2階にあり、そこで偶然にも奇妙なドアを見つける。中に入るとそこは俳優ジョン・マルコビッチ(本人)の頭の中に通じていた!同じビルで働くマキシン(キャスリーン・キーナー)とともに、この穴を使って商売を始めるが・・・。
監督スパイク・ジョーンズ(初監督作)
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予告もCMもポスターも何もかもマルコビッチマルコビッチマルコビッチマルコビッチマルコビッチのこの映画を初日に見ることになった。何と初日プレゼントはマルコビッチのお面(笑)正直言って持ち歩くにはちょっと邪魔だったが、嬉しいプレゼントだった。というわけで私もマルコビッチになってみた!(笑)

7と1/2階という奇妙なフロアは高さ160センチくらいだろうか、閉所恐怖症の人なら逃げ出すくらい天井の低い造りで、さらにマルコビッチの頭の中に通じる穴があいている。マルコビッチの中に入っていられるのは15分。しかし慣れてくるにつれて15分以上入っていられるし、彼本人を操れるようになる。また、彼を利用して延命しようと企む人々まで登場する。

アイデアはこれ以上ないくらいに奇抜だし、7と1/2階のセットもいいし、笑えるシーンもたくさんあるんだけど、ちょっと理屈っぽいかなあと思った。最後までずっと笑えるコメディだと予想してたのに、そうじゃなかったからかもしれないが。マルコビッチの頭の中に入ったことで芽生えた変身願望やトランスジェンダーによって引き起こされるクレイグ、ロッテ、マキシンの三角関係は面白かった。でもそれを先の先までずっと追いかけ続け過ぎかな。しつこくて見てるだけでかなり疲れた。2時間ないのに長く感じたもの。もう少しタイトにして欲しかった。

にしてもマルコビッチ本人、よくやったよね(笑)あと捨て身な感じのチャーリー・シーンも非常に良い。たいした出番もなかったので忘れていたら、まさかあんな風に登場するとは。ある意味必見(笑)そして1番はディアスでしょう。ボサボサの髪にノーメークでしっかり“ブス”してたし、最初は誰だか全然分からなかった。
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うちへ帰ろう('98アメリカ)-Sep 22.2000
[STORY]
トーマス夫妻はそれぞれ夫が息子を、妻が3人の娘を引き取って離婚した。それから20年後、ハーバードの大学院生になったダニエル(デヴィッド・リー・ウィルソン)は恋人との結婚式を間近に控えて幸せな日々を過ごしていた。しかし彼の元に、別れた3人の姉たちが訪ねてきた。なんと母親が倒れてしまい息子に会いたがっているという。監督スティーヴン・メイラー(初監督作)
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脚本はダニエルを演じたデヴィッド・リー・ウィルソンが担当しており、99年のサンダンス映画祭に出品された作品。日本で公開されたサンダンス作品をすべて見てるわけじゃないんで偉そうなことは言えないけど、テーマやストーリー展開がサンダンスらしいといえばらしいな、と思った。上手いわけじゃないけど、素直で好感の持てる作りになっているというか。ちょっと意地悪く言えば優等生的。こうすれば好印象を持ってくれるだろうって思ってそう(笑)ま、キャラクターも泣かせどころもありがちで新鮮味はないけれど、私は素直に泣かせてもらった。

ダニエルの結婚式という大事な時に降って沸いたような家族との再会。母親に引き取られた3人姉妹は貧しく粗野ながらも懸命に生きてきた。片や父親に引き取られた息子は、父が事業に成功したために大金持ちで秀才ときてる。血の繋がりがありながら育った環境の違いから、最初は全く噛み合わない。しかしお互いの存在を認め、自分にこんな肉親がいたんだ、と思うようになって次第に打ち解けていく。けれども両親の離婚についてはわだかまりが残っている。姉妹は父が母を捨てて家を出たと思っており、なぜそうなってしまったのか知りたいのだ。でも夫婦間のことは、いくら子供たちが大人になったとしても口出しできないこと。それが分かっているから、聞きたくても聞けずにイライラを募らせる。特に長女は自分も経験者だから。夫への恨みと父への恨みを重ね合わせている。

結局、別れた理由については最後まで分からないが、あるきっかけでわだかまりが消えて和解しエンディングを迎える。原題は『THE AUTUMN HEART』と邦題とは全然違うんだけど(普段タイトルに関しては難癖つけることが多い私ですが)このタイトルはいい。映画が終わったあと、ちょっと暖かい気持ちになり「さぁ“うちへ帰ろう”」って思うから。
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オルフェ('99ブラジル)-Sep 15.2000
[STORY]
治安の悪いカリオカの丘に生まれ育った天才ミュージシャンのオルフェ(トニ・ガヒート)は、今年もカーニバルでの優勝を目指して練習に励んでいた。そんなある時、オルフェは父親を亡くして叔母を頼ってきたユリディス(パトリシア・フランサ)と出会い、恋に落ちるが・・・。
監督カルロス・ヂエギス(?)
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ギリシャ神話のオルフェとユリディスの物語を元にブラジルの詩人が書き下ろした戯曲を、現代的にアレンジしたのがこの作品。1959年に公開されカンヌやアカデミー賞を受賞したという『黒いオルフェ』も、この戯曲を元に作られた作品らしいが『オルフェ』は『黒いオルフェ』のリメイクというわけではないようだ。『黒い〜』のほうは見てないので何とも言えないんだけど。

ブラジル映画は昨年見た『セントラル・ステーション』以来2本目(『ブエノスアイレス』もブラジルが舞台だけどあれは香港映画だから)。でも『セントラル』はそれほどブラジル色は見えなかった。今回この作品でイメージしていたブラジルを堪能した感じ。カーニバルシーンは綺麗で迫力があって感動する。これは一見の価値あり。欲を言えばもっと見たかった!

予告を見た時、カーニバルがメインのもっと楽しい話だと思ってたんだけど、実際は強烈なまでに悲劇でびっくりした。まぁそれはそれでいいんだけど、恋愛のシーンがまるで伝説のような描き方をしているのに対して、スラム街の描かれ方がリアル過ぎ。スラムに横行するマフィアと警察はしょっちゅう撃ち合いをしており、そのマフィアの下っ端には少年達が数多く混じっていてクスリを売ったり銃をぶっ放している。これがブラジルのスラムの現実だ、と見せ付けられる。でも訴えたいことは分かるけど、そこに力を入れすぎてて肝心のオルフェとユリディスの恋が霞んでしまうほど。ていうかウソっぽく見えるじゃん。

でもブラジルで大ヒットしたというのは分かった気がする。私は最後までいまいちブラジル人の感情とか行動が掴みきれず、正直言ってそんなにハマれなかったけど、ここがブラジル人のツボなんだろうなぁというところはいくつもあった。カリスマミュージシャンと可憐なヒロインの恋にウットリしたり、2人を邪魔する者に怒り泣き、宗教絡みのシーンで敬虔な気持ちになり、リオのカーニバルシーンでは一緒になって踊ることはないだろうが足踏みくらいはするだろう。劇場内は毎回大騒ぎに違いない。そして何度も何度も劇場に足を運ぶ――それが容易に想像できた。
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