Movie Review 2013
◇Movie Index

終戦のエンペラー('12アメリカ)-Aug 10.2013
[STORY]
1945年8月30日、GHQ最高司令官ダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)が日本に降り立った。マッカーサーは戦争犯罪人の検挙と、天皇(片岡孝太郎)を戦犯として処刑された際の影響を調べるためやってきたのだった。部下のフェラーズ准将(マシュー・フォックス)はかつて大学で知り合った日本人留学生アヤ(初音映莉子)と付き合い、日本に滞在したこともある知日家で、マッカーサーは彼に調査を命じる。
監督ピーター・ウェーバー(『ハンニバル・ライジング』)
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第二次大戦後のGQHによる戦後処理の史実を元に、知日家だったボナー・フェラーズに日本人の恋人がいたというフィクションを交えて描かれている。この映画の企画を立ち上げた奈良橋陽子の母方の祖父が、本作で昭和天皇の側近として登場する関屋貞三郎(演じたのは夏八木勲)であり、奈良橋の息子で俳優の野村祐人も製作に名を連ねている。

数年前に、偶然ネットでマッカーサーと昭和天皇のあの写真とそれにまつわるエピソードを読んだ。そこで昭和天皇が覚悟されていたことを知り涙した。それが映画化されるということは、この話が広く伝わるということだから嬉しいなと思っていた。

けれど映画では、マッカーサーと昭和天皇の会談が実現してあの写真を撮られるあたりで終わってしまう。私が見たかった会談の内容は少しだけ。フェラーズの視点で描かれている話だから、そこから先は描かれなくても当然といえば当然なんだけど、せめて会談後にマッカーサーが態度を変え、昭和天皇を玄関まで出て見送ったという(予定外の行動だったという)エピソードは描いてほしかったな。

でも日本人についてはトンデモなところがなく丁寧に描かれていたし、ラブストーリー部分も悪くはなかった。何より夏八木さんを見ることができてよかった。いきなり立ちあがって短歌を詠むシーンには圧倒された。ご冥福をお祈りします。
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最後のマイ・ウェイ('12フランス)-Aug 3.2013
[STORY]
1939年、クロード・フランソワ(ジェレミー・レニエ)はエジプトで生まれた。父のエメ(マルク・バルベ)はスエズ運河を管理する会社で働いていたがエジプト国有化によって職を追われ、一家はモナコへ移住する。エメはクロードに銀行勤めを望んでいたがクロードは反発し、ミュージシャンへの道を選ぶ。だがエメは息子を認めずそのまま亡くなってしまう。やがてクロードはパリに移り歌手デビューし、1作目では失敗したが2作目で大ヒットを飛ばす。
監督&脚本フローラン・エミリオ・シリ(『ホステージ』)
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フランスの実在した歌手クロード・フランソワの生涯を描いた作品。

クロード・フランソワという人を全く知りませんでした。『マイ・ウェイ』ってシナトラがオリジナルだと思ってたし、クロードが付き合ってたフランス・ギャルのほうが日本では有名なんじゃないだろうか。『夢見るシャンソン人形』は今でもCMで使われてるしね。劇中でクロードの曲が何曲も流れるんだけど、やはりどれも聞いたことがなかったわ。

見てみようと思ったのは、主演のジェレミー・レニエが大熱演しているらしいということと、ブノワ・マジメルも出てるからということだったんだけど、レニエは凄かった。なんか演じてるというより本人が降りてきちゃったんじゃないかと思うほどだったんだけど、本人を知ってる人から見るとどうだったのかな。それですっかりマジメルのことを忘れてたんだけど、ふと「そういえば今まで出てきたっけ?・・・お前かーーー!」レニエもそうだけど、あんたも役作りしすぎ(笑)別にこれマジメルがやらなくても、最初から似た人がやっても良かったんじゃないの。ここまで別人になれるんだ。髪形や体型が不自然な感じはしたんだが。いやビックリした。

音楽の道へ進もうとするクロードを父は無視し、死ぬまで口をきくことはなかった。母は優しいがギャンブル依存症。だからか嫉妬深くて、浮気はするくせに妻や恋人が離れていこうとすると全力ですがりつく。自分の容姿や声へのコンプレックスも強かったようだ。でもこれらは逆にものすごい努力に繋がってるんだなと思ったよ。作詞作曲をしてダンスして、ファンサービスも欠かさない。今まで誰もやったことがないことで注目を集めたりして、彼が初めてやったことが今のスタンダードになったりしてるんだとか。
でも努力でもどうにもならないこともある。クロードが歌う『いつものように(Comme d'habitude)』を聞いて、やっぱりシナトラの『My Way』のほうがいいなと思ってしまったもの。シナトラのあの声を聞いたらねやっぱりね。

各エピソードは駆け足気味なのだが、クロードが亡くなる日だけは、それまでのテンポとま全く違って、ゆったりとしている。まるで彼が亡くなるのを惜しんでいるかのように感じた。彼が亡くなる時の映像も見せ方が上手く、思わず周りから「ひっ!」という悲鳴が漏れたほどだった。長い映画だったので途中で疲れてしまったところもあったけど、フランス史上最も製作費を掛けたこともあってか見応えのある映画だった。
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風立ちぬ('13日本)-Aug 1.2013イイ★
[STORY]
子どもの頃から飛行機に憧れていた堀越二郎(声:庵野秀明)は、大学で航空工学を学んでいた。ある日列車に乗っている時に大地震が起き、乗り合わせていた少女(声:瀧本美織)を助ける。
数年後、卒業した二郎は三菱重工業に就職し、戦闘機の開発に尽力するが七試艦上戦闘機の開発で失敗。休暇を取って1人軽井沢へやってくる。そこでかつて助けた少女、里見菜穂子と再会する。
監督&脚本・宮崎駿(『崖の上のポニョ』
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零戦を開発した航空技術者の堀越二郎をモデルにした物語。二郎の同僚や、イタリアの飛行機設計家ジャンニ・カプローニも実名で登場するが、二郎が恋する菜穂子は堀辰雄の小説『菜穂子』から取られた架空の人物。宮崎はこの映画で“堀越二郎と堀辰雄に敬意を表して”と記している。

ここ2作、『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』がいまいちで、もう宮崎はストーリーを作るのがイヤなのかなぁなんて思ってた。なので本作も全く期待しないで見たんだけど、1つの点を除いてとても良かった。完全に大人向けだよね。可愛いキャラクターが出てくるわけではないし、急に時代が飛ぶのでその間に起きたことは自分の知識や想像で補わないといけない。だから子どもが見ても何も面白くないと思う。だから連れてくるのはやめてよね(わざわざ夜の回を見たのにそれでも子どもがいた!)PG-12設定にでもしてくれないかなと思ったわ。

二郎は子どもの頃からずっと飛行機に憧れていて、寝ても覚めても飛行機のことばかり。宮崎映画といえば空を飛ぶシーンが印象的で特にその疾走感が素晴らしいのだが、本作では疾走感より浮遊感のほうが強く印象に残った。二郎の夢の中で出てくる飛行機はいつもふわりと軽く優雅に飛ぶ。だが、現実の二郎はスピードを追求する実用的な戦闘機だけ。その狭間でふらりひらりと生きていく二郎もまた、他の人より浮いた存在なのだ。

その二郎を演じた庵野が問題で、上に書いた1つの点というのがまさにこのキャスティングだった。浮世離れした今で言うオタクっぽい男ということで選んだ意図は分かる。でもまず顔と声が合ってない。二郎の顔も目をもう少し小さ目にして無機質な顔つきにすればまだ合っていただろう。それと子どもの頃の声ではちゃんと抑揚があったのに(この子は上手かった)大人になっていきなりあの喋り方はないよね。それなら子役も棒読みの子にすべき。悪くない箇所もあったから、もう少し練習させれば何とかなったかもしれないのに、二郎が喋り始めるたびに「このセリフはちゃんと言えるのか?」なんて身構えちゃうなんて相当だよね(苦笑)

主役の声がヒドイってそれだけで本来なら致命的なことなんだけど、それでもやっぱりいい映画だったと思う。これで声まで合ってたらあと3回くらい見たかも(笑)声はアレだったけど話す言葉は兄妹でもきちんと丁寧な言葉遣いでみな美しく、ピンとした姿勢が綺麗だった。そう、この映画は綺麗なものしか見せない。菜穂子が二郎に綺麗なところしか見せたくなかったように、震災も戦争も悲惨なところは省略されている。

戦闘機を描いて戦争を描いてないという批評もあるが、この映画で宮崎は自分が描きたいもの、見せたいものしか作りたくないという意思を感じた。『ポニョ』なんかは話を作る気が見えなくて、私はあの映画に対しては批判的になってしまったけど、本作はすべて「あえて」そうしてるというのが分かったから素直に納得できた。今までずーっとアニメ界を引っ張ってきた人だし、老い先も短そうだし(失礼)もう好きにやってください、みたいな(笑)『ハウル』や『ポニョ』が最後の作品って言われたら「いや、まだまだ!」って思っただろうけど、本作が最後の作品ですって言われても、惜しい感じはしない。あ、でも声優だけはチェンジになりませんかね。もしくはリテイクとか(←諦め悪いぞ)
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クロワッサンで朝食を('12フランス=エストニア=ベルギー)-Jul 27.2013
[STORY]
エストニアで暮らしていたアンヌ(ライネ・マギ)は母親を看取った後、フランスで家政婦として働くことになった。世話をするのはエストニア出身の老女フリーダ(ジャンヌ・モロー)で、パリの高級アパルトマンで1人暮らしをしていた。仕事の依頼人でカフェ経営者のステファン(パトリック・ピノー)からは気難しい女性だと聞かされていたものの、想像以上に酷く、アンヌは早くもくじけてしまう。監督&脚本イルマル・ラーグ(『Klass』)
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監督のラーグはエストニア生まれで、本作は劇場長編映画初監督作となる。

予告では頑固ババアと異国から来たメイドが徐々に心を通わせていくイイ話という感じで『最強のふたり』の女版のようで、あそこまでざっくばらんではなく上品に仕上がってるだろうと。でも実際はなんか違った。悪くはないけど良くもないというか、一応スッキリ終わるんだけど、私の中では納得いってないっつーか。ジャンヌ・モロー主演だからか、予告の出来がいいからなのか邦題がよかったのか分からないが、各回ほぼすべて満席(客層はシニアのオバさま)という人気ぶりだったが、他の観客はちゃんと満足したのかなぁと気になった。

フリーダは予告の通りの頑固ババアだった(笑)しかし家から出ないのにちゃんとメイクして着飾って(シャネルですよ)あの年齢でも面倒がらないって凄いわ。私なんて家から出ないならノーメイクに部屋着だというのに。しかもアンヌに仕事を依頼してきたステファンはフリーダの息子ではなく、昔の恋人っていうのにビックリ。30歳以上違うよね、たぶん。この設定のおかげで話が複雑になり、面白いなと思うところもあったし逆に上に書いたようにモヤッとしてしまうところもあった。息子だったらスッキリしたかもしれない。

一番モヤッとしたのは家政婦アンヌのキャラクターだ。いまいち何を考えてるのか分からず好きになれなかった。フリーダに言われた通りのクロワッサンを用意して褒められるところは可愛らしかったし、フリーダの昔の仲間を家に招くところはおせっかいだけどフリーダのためを思っての行動だから理解できた。でもそれ以外での行動が何だか不気味で。特に家政婦を辞めてからステファンに会いに行くところなんて腹いせか?!なんて思っちゃったりしたよ。その前に好意を持つようなシーンでもあればまだ理解できたんだが。フリーダと和解するところも唐突で、さんざんゴタゴタを見せつけられていたこっちにしたら消化不良。もっとぶつかり合って話し合ったほうが良かったんじゃないのかな。まぁ勝手にすればいいさって、そんな投げ遣りな気分しか残らなかった。あ、長編初の監督なのに多くを求め過ぎちゃったかも。それを忘れるくらいのクオリティだったということで(とフォローしてみる)
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25年目の弦楽四重奏('12アメリカ)-Jul 15.2013
[STORY]
弦楽四重奏団“フーガ”の25周年を記念してコンサートが行われることになったが、最年長のチェリスト、ピーター(クリストファー・ウォーケン)のパーキンソン病が発覚する。ピーターは今回のコンサートで引退を決意し、新しいチェリストの加入で続けていくようメンバーに伝える。すると、第2ヴァイオリンのロバート(フィリップ・シーモア・ホフマン)が、メンバー交代なら自分は第1ヴァイオリンを弾きたいと主張し始める。だが、第1ヴァイオリンを務めるダニエル(マーク・イヴァニール)にも、ロバートの妻でヴィオラ担当のジュリエット(キャサリン・キーナー)にも反対されてしまう。
監督&脚本ヤーロン・ジルバーマン(『Watermarks』)
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ヤーロン・ジルバーマンの監督2作目で、前作はドキュメンタリーだった。

私は音楽に疎いので、出演者や演目を聞いてもピンとこないところがあった。例えばピーターの亡くなった妻役がソプラノ歌手のアンネ=ゾフィー・フォン・オッターという有名な人だったり、チェロ奏者のニナ・リーが本人役で出演。日本人ヴァイオリニストの徳永慶子も少しだけ出演しているとか。それから彼らがコンサートで演奏するベートーベンの『弦楽四重奏曲第14番』という曲は休みなく弾き続けなければならない曲なんだとか。でも、詳しくない私でも見ていくうちに明らかになっていく4人の関係については面白く見ることができた。

ピーターは他のメンバーより20歳くらい上で、早くに両親を亡くしていたジュリエットを引き取り娘のように育てたようだ。ジュリエットはおそらく昔ダニエルと付き合っていたのだろう。けれど上手くいかなかったのか、以前からジュリエットに惚れていたらしいロバートと結婚する。ロバートはダニエルに対してかなりコンプレックスがあるようだ。ヴァイオリンに対しても男としても。確かにダニエルは色気のある人だなと思った。ヴァイオリンに対してストイックで完璧主義者で他人にも厳しいが、こういう人は女にモテるわけよ(笑)案の定、ロバートたちの娘アレクサンドラ(イモージェン・プーツ)に惚れられる。男の嫉妬は見苦しいってよく言うけど、さすがにロバートがちょっと気の毒になった。ジュリエットにした仕打ちは許せないけど。

そんなこんなで3人の関係はぐちゃぐちゃ。一方で病気の進行を遅らせようと必死にリハビリに励んでいたピーターが、3人のドロドロ状態を知った時の呆れた表情が最高だった。「俺が頑張ってる間にお前ら何やってんだよ」って顔にしっかり書いてあって、悪いけどこのシーンは吹き出しそうになった。ここだけ何度か見返したい(笑)それでも最後にしっかり結束させるところはさすが。技術的に劣っていたとしても絶対必要な人っているからね。彼は演奏者としては退いてしまったが、楽団にとってはこれからも必要な人だと思う。今後どうなってしまうのか、映画の中の話とはいえ、行方が気になってしまった。
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