Movie Review 2009
◇Movie Index
風が強く吹いている('09日本)-Nov 1.2009
[STORY]
寛政大学4年のハイジ(小出恵介)は、高校時代に天才ランナーと言われたカケル(林遣都)を強引に寮に入れ、陸上部に入部させる。そして寮生10人で箱根駅伝を目指すと宣言する。だが、部には喫煙者やマンガオタクなど到底駅伝は無理なメンバーばかり。だがハイジはきちんとスケジュールを組み、食事にも気を配り、全員にやる気を起こさせていくのだった。
監督&脚本・大森寿美男(初監督作)
−◇−◇−◇−
原作は三浦しをんの同名小説で、2007年に漫画家とラジオドラマ化、2009年に舞台化もされている。監督の大森寿美男は大河ドラマ『風林火山』や映画『黒い家』の脚本家で、本作が初監督作となる。

神奈川県民で会社が東京にあってJRの東海道線で通勤してて買い物は横浜で年に1回箱根温泉に行く私は、もちろん箱根駅伝の大ファンだ。花の2区でアフリカンが何人ゴボウ抜きするか、区間賞を塗り替えるのは誰か、途中棄権はあるか、えっ新・山の神ですかー!(笑)と毎回面白くて仕方がない。そんなわけで、原作は読んでないけど箱根駅伝の映画なら見ないわけにはいかない。

選手がたった10名で補欠もいない弱小大学が箱根駅伝を目指すというのは、非現実的でありながらこの手のスポーツ映画では手垢ギトギトの設定で正直うんざりしたし、ヘンにふざけたシーンにはイラッときたが、ランナー役がみんなちゃんと長距離走者の体型になっていて、走るシーンにうそ臭さがなかったので最後は納得して見れたって感じかな。特に林とユキ役の森廉は、肩から腕にかけての筋張ったところがまさに走り込んだ証拠で興奮しちゃったし、小出の足の太さと筋肉のつき方も駅伝選手のそれだった。いやぁ、よく頑張ったねー。

駅伝本番のシーンでは、毎年放映している日本テレビや箱根駅伝主催の関東学生陸上競技連盟、中継所の鈴廣なども協力しているので、実況やカメラアングルが本物の箱根駅伝みたいで臨場感があった。途中で襷がちゃんと繋げられるのか、繰上げスタートにならないか、なんて映画なのにハラハラしながら見てしまった。ただ逆に、映画じゃなくてTVの中継を見てるような気分になってしまい、今の順位がどうなってるのか、画面下にテロップが出たらいいのに、なんて思ってしまった。モノローグも使っているのだから、それとなく順位が分かるようにしてもよかったのでは。
それから駅伝が終わってみんなが再会するシーンがあるのだが、これが一体いつの話なのかも謎。それと翌年の大会は一体どうしたんだろう彼ら。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

マイケル・ジャクソン THIS IS IT('09アメリカ)-Nov 1.2009スバラシイ★
[EXPLANATION]
2009年6月25日に亡くなったマイケル・ジャクソン。彼はこの夏、ロンドンでのコンサートを計画していた。映画は2009年4月から6月までのコンサートのリハーサルと舞台裏の映像を編集し、彼の歌、ダンス、パフォーマンスをコンサートさながらに見せていく。
監督ケニー・オルテガ(『ハイスクール・ミュージカル』)
−◇−◇−◇−
マイケルについては、2枚組のベストアルバムを持っている程度に好きだったが、整形しすぎなところや、スキャンダルや裁判やらの私生活については「ちょっとなぁ」と思っていた。体調が思わしくないのも知っていたので、今年コンサートをやるという発表を聞いた時は「大丈夫なの?ちゃんと歌ったり踊ったりできるの?」と訝しんでいた。亡くなったと知った時には「やっぱり無理だったのかな」と。それでも亡くなったのはショックだったので、CDかけたり追悼番組があれば録画して見た。

でもこの映画が公開になった時は見るのを迷っていた。だってコンサートのリハーサルでしょ?熱狂的なファン以外は楽しめないんじゃない?なんて思っていて、でも映画の日で1000円なら見てもいいかと思って見た。

ごめんマイケル。あなた最高です!(号泣)

何て惜しい人を亡くしてしまったんだろう。ちゃんと歌ってて声は変わらないし、50歳とは思えないダンス。自分の中では完璧に今回のコンサートが出来上がっていたようで、演出家やバックミュージシャンへの指示も事細かく的確だ。体調の悪さなんて微塵も見せない。生きていたらきっと最高のコンサートになっていただろうに。家に帰ってからはCD聞きまくり(別のアルバムも注文した)PVの動画見まくりで、本当に今更だけどファンになってしまった。

映画はマイケル以外ではダンサーの人たちが印象に残った。オーディションを勝ち抜いた彼らを1人1人インタビューするシーンがあるんだけど、みんなもうすっごい嬉しそうで、感極まって涙ぐみながら応える人も。ダンスもめちゃくちゃ上手くて、リハとは思えないほどピッタリ揃った動きに感動(そんなトップダンサーよりさらにすごかったのがマイケルだが)マイケルが1人で歌う時にはじっと見つめていて、曲が終わるともう大拍手。ダンサーであることを忘れて完全にファンになってるよ君たち!(笑)彼らのためにもコンサートやってほしかったなぁ。

リハーサルを流してるだけのこれに『THIS IS IT』なんてつけるな!というファンもいるだろう。むしろ大ファンのほうが不満が残る映画かもしれないが、ちょっとでもマイケルが気になる人は絶対に見るべきだ。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

沈まぬ太陽('09日本)-Oct 25.2009
[STORY]
昭和40年代。国民航空社員の恩地元(渡辺謙)は労働組合委員長としてストライキを決行するほど熱く職場環境の改善に取り組んでいた。だがその結果、懲罰人事ともいえる海外赴任命令を言い渡され、カラチ、テヘラン、ケニアと異動させられる。10年以上苦しみ、ようやく本社へ復帰するが、今度はジャンボ機墜落事故の現地対策本部に配属される。
監督・若松節朗 (『ホワイトアウト』
−◇−◇−◇−
原作は山崎豊子の同名小説。日本航空の社員をモデルにし、日航機墜落事故などを扱っているがすべて事実というわけではなく、あくまでもフィクションである。だが『週刊新潮』に小説が連載されていた当時はJALは機内搭載を取りやめており、映画公開時には社内報で映画の批判をし、今後訴えることもあるとか。映画製作にあたっても国内の空港は使えず海外の空港で撮影したり、飛行機をCGで描いたりしている(これは悪いけどショボかった)このような紆余曲折を経て完成した映画ということで並々ならぬ苦労があったのだろう、主演の渡辺謙が公開初日に涙を流していたのが印象的だった。

原作未読で、映画を見る前は「批判なんかしてJALも大げさな・・・」と思っていたのだが、実際見てこれは怒ってもしょうがないと納得した。国民航空の経営陣、すっげーヒドイんだもん(笑)ただ、映画の公開と合わせるかのように浮上したJALの再建問題があったおかげで、恩地が尽力していた労働組合に対しても疑問を持つようになっていたため、恩地に肩入れしすぎることなく冷静に見ることができた。

が、冷静に見れたのが良かったのかどうか。なんか渡辺謙1人がスクリーンの中で熱くなっていて他のキャストとの温度差があるのが気になったし、演出がドラマっぽいのでせっかくの熱演も活かされてないと感じた。監督がドラマの演出を多く手がけている人なので、やっぱりドラマっぽさが抜けないんだよね。海外ロケのシーンであっても。悪いけどちゃんと映画を専門に撮ってる監督にやってもらいたかったというのが正直な感想だ。上映時間が長かったのでそれなりに見ごたえはあったが。

キャストの中では利根川総理を演じた加藤剛がツボだった。モデルは中曽根元総理で見た目は全然似てないんだけどだんだん似てるように感じてくる不思議。彼と密談する龍崎(モデルは瀬島龍三)を演じた品川徹もまた特徴のある棒読みで、2人のシーンは独特の雰囲気を醸し出していて、こみあげてくる笑いをこらえるのに必死だった。今思えば、何であんなに面白かったんだろうか。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

パイレーツ・ロック('09イギリス=ドイツ)-Oct 24.2009オモシロイ★
[STORY]
1966年イギリス。ドラッグと喫煙で高校を退学になったカール(トム・スターリッジ)は、母の旧友であるクエンティン(ビル・ナイ)の船に預けられる。クエンティンは海賊ラジオ局“ラジオ・ロック”の経営者で、24時間ロックを流し続けてイギリス中を夢中にさせていた。各番組を担当するDJもみな大人気で、一番人気はアメリカ人のザ・カウント(フィリップ・シーモア・ホフマン)だった。だが、政府はこのことを快く思ってはおらず、大臣ドルマンディ(ケネス・ブラナー)は海賊ラジオ局を潰そうと画策していた。
監督&脚本リチャード・カーティス(『ラブ・アクチュアリー』
−◇−◇−◇−
この当時、イギリスではBBCラジオは1日に45分間しかポップ・ミュージックを流すことができなかった。カーティスはそんな幼少期の思い出から本作の着想を得たそうで、この船は実在していないそうだ。私は『ラブ・アクチュアリー』がすごく良かったので本作も見ようと、ろくに情報を得ないまま見てしまったので、ずっと船の話は半分くらい本当だと思っていた(笑)ウソでもすっごい面白かったからいいけどね。

『ラブ〜』はそれぞれ独立したストーリーのオムニバス形式の作品で、本作は一艘の船の上で繰り広げられる群像劇と、基本は違うんだけど似たところはたくさんあった。イギリス人らしい気質とユーモア、エッチだけどお下劣ではないギリギリのエピソード、若いキャストが多い中でひときわカッコイイおじさまのビル・ナイ。『ラブ〜』ではちょっとうざかった音楽も、今回はラジオ局が舞台のせいか逆に曲がかかるたびに嬉しくなってしまった。実はこの作品は3時間くらいあったのを削って135分にしたらしいが、もっと長くても全然飽きずに見れたと思う。やたら目立つ登場人物もいたがそうではない人もいたので(シック・ケヴィンなんてただの変人で、彼が何で船に乗ってるのか最後まで分からなかった)彼らのエピソードをもっと見たかった。

思うにこの監督は、役者の個性や演技を尊重し、一緒にキャラクターを作り上げながら演出しているんじゃないかなと、2作見て思った。自分で脚本を書いてるから、役者とセリフが合ってないと思えば変えてしまえばいいんだし。『フォー・ウェディング』も彼自身が監督したほうがもっと面白くなったんじゃないだろうか、と今更ながら思ったりして。今後も監督と脚本、どちらも担当してもらいたい。

船の中でのシーンもよかったけど、私の中では彼らのラジオを毎日楽しく聞いているリスナーたちを映すシーンがとても印象に残っている。今みたいな娯楽もなく、ラジオも携帯できないでっかいもの。それをみんなで囲むようにして聞き入り、DJたちの決めゼリフに狂喜乱舞し、曲がかかればみんなで一緒に踊る。ラジオが生活の一部で欠かせないものになっている。監督はそういう昔の楽しみ方を観客に見せたかったんじゃないだろうか。自分はこんな風にラジオを聴いたことがないけど、とても懐かしい風景に感じた。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

メアリーとマックス('08オーストラリア)-Oct 22.2009イイ★
[STORY]
オーストラリアのメルボルンに住む8歳の少女メアリー・ディンクルは、電話帳で見つけたニューヨーク在住の44歳の中年男性マックス・ホロウィッツ(声:フィリップ・シーモア・ホフマン)と文通を始める。2人は途中ケンカしたり行き違いがあったりするが、20年にわたって手紙をやりとりしていく。
監督アダム・エリオット(『ハーベイ・クランペット』)
−◇−◇−◇−
『ハーヴィー・クランペット』で第76回アカデミー賞の短編アニメ賞を受賞したアダム・エリオットの長編クレイアニメ。アヌシー国際アニメーションフェスティバル2009グランプリなどを受賞し、第82回アカデミー賞にもノミネートが有力視されている作品だ。
第22回東京国際映画祭ワールドシネマ部門選出作品。

短編は未見で、本作も面白そうだなぁと軽い気持ちで見たんだけど、いやこれ、アニメだからよかったけど実写で見たらかなり重くてキツイ話じゃないですか。

アル中で盗人でネグレクトな母と、優しいが基本的に空気な父の間に生まれたメアリーは、不細工だといじめられ友達もいない孤独な少女。そして文通相手のマックスは44歳独身のユダヤ人で、肥満なのに甘いものがやめられず、トラウマ持ちでついにはアスペルガー症候群と診断されてしまう男。メアリーはマックスと文通することで徐々に自信をつけ世界を広げていくが、マックスは時に彼女の手紙に傷つき、病んでしまう。

そんな2人と、彼らの周りの人々(障害者とかゲイとかこちらもさまざま)をデフォルメしたキャラクターに作り上げ動かしている。実写で障害者をこんな風に描いたら大変だし、クレイアニメだからこそ思わず笑ってしまうが、実写だったら笑うのに躊躇しただろう。でも決して差別的ではなくて、それもその人の個性というか愛らしいところなのだという考えが見えるので、嫌な感じはしないんだな。ファレリー兄弟の映画に登場する障害者と通じるものがあるかもしれない。

とはいっても、マックスが病んだ姿は見てていたたまれなくなった。普段の彼も神経質だったり恐怖に怯えて震えたりしているんだけど、本当に病んでしまった時の彼は何と言うか、逆に表情がなくなり別の世界に行ってしまったかのようになる。そのシーンの表現力といったら、これ以外にはない、というくらい、クレイアニメなのにものすごくリアルに伝わった。マックスはエリオットのペンパルがモデルだそうで、だからここまでしっかり見せることができたのだろう。

メアリーとマックスは最後に初めて会うのだけれど、ここでもう涙がパタパタと落ちていった。『ウォレスとグルミット』みたいな映画だと想像していたが、いい意味で裏切られた。
home